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1:祖母・昭子
投稿者:
雄一
女の人の、男子として妙に気持ちをそそられそうな甘い化粧のような匂いを、
僕は鼻孔に感じ、同時に薄くすべすべとした布地の感触を通して、人肌の温み を頬肉の表皮に感じさせられて、茫漠とした気持ちで薄目を開けた。 すぐ間近に人のような気配を感じ、顔を少し動かせて目を大きく開けると、 畳に寝転んでいる僕の身体に、誰かが覆い被さってきているようだった。 開けた目の真ん前に、薄い水色のすべすべとした布地が揺れていて、その布 地の中の人肌の温みが、感じのいい化粧の匂いを含ませて、僕の顔のあたりの 空気をほんのりと包み込んできているのだ。 少し慌て気味に顔を上げた時、僕の鼻先と頬に水色の薄い布地の中の柔らか い肉が触れてきたのがわかった。 居間の畳の上に僕は身体を横たえて、うたた寝よりももう少し深い眠りの中 に落ちていたのだ。 そこへ風呂から上がってパジャマ着替えた祖母が来て、寝入っている僕にタ オルケットを掛けてくれていたのだ。 寝がえりか何かでタオルケットがずれたのを、祖母がまた掛け直してくれる のに身体を僕に寄せてきた時に、僕が目を覚ましたのだった。 「風邪ひくわよ、こんなとこで寝ちゃ」 身体を少し離して、祖母がかたちのいい唇から白い歯を覗かせて微笑んでき た。 「あっ、ごめん。婆ちゃんにおやすみの挨拶しようと思っ てたら、つい寝込 んじゃった」 「そんな気を使わなくていいのに」 「あ、それとね、婆ちゃんにいい忘れてたことあって」 「何、いい忘れててことって?」 「あのね、僕の発見なんだけど…演歌の歌手でね、三味線抱えて歌う人で、 その人の顔が婆ちゃんにそっくりなんだよ。名前はたしか…長山、何とかってい う人。スタイルも婆ちゃんと一緒で小さくて奇麗な人。何日か前にテレビに出て たんで母さんにもいったら、驚いてた。」 「そうなの。婆ちゃん喜ばなくちゃいけないわね」 「ああ、そういえば、婆ちゃんの娘の母さんもチョイ似てるね。でも婆ちゃん はほんとに瓜二つだよ」 「はいはい、もういいから早く寝なさい」 「うん、おやすみ」 他愛のない話を祖母とし終えて、寝室の布団に身体を横たえると、現実の状況 がすぐに僕の頭にもたがってきた。 竹野という男のことだった。 当然に、僕はまだ竹野本人には会ってはいなくて、知っていることといったら、 年齢が祖母よりも二十二も年下の四十二歳で、例の高明寺のお守り役として働い ていて、坊主頭であることと、性格的には自分の書いた下品で下劣としか思えな いような拙文をわざわざ祖母にメールに書き写させて、それを読ませたりとか、 相当な偏執狂のような面があったりという変人的な人物のようである。 祖母のスマホのメール情報では、過去に離婚歴があり、この村へは四年ほど前 に流れ着いたとのことだが、それまでの住まいとか仕事歴はわかっていないよう だ。 祖母との性の関係もそうだが、推測するまでもなく、所謂SM嗜好者であるのは 間違いないようだ。 性の問題は、たかだか十六歳でしかない、著しく若輩の僕が偉そうにいうべき ことでないことはわかっているので、どうこうと意見はいわないが、SM嗜好その ものについては、僕自身は侮蔑や軽蔑の対象外だと胸の奥では密かに思っている。 恥ずかしいことだが、思春期真っ盛りの一年ほど前のある時期、僕は女性の生 理について、唐突に歪んだ好奇心を持つようになり、自宅の便所の汚物入れにあ った自分の母親が捨てた汚物を手に取り、テッシュに包まれたものを開いて、赤 い血や黄色い沁みを見て、訳もなく興奮したことがある。 人はさまざまなのだと僕は思う。 つつましく穏やかで清廉な僕の祖母を、恥ずかしく凌辱し虐げる竹野という人 物には、憎悪や嫌悪や憤怒といった感情が、何故かあまり湧いてきていないこと に内心で少し驚いているというのが、僕の正直な気持ちで、肉親である祖母には 申し訳ないのだが、性行為に伴うSM嗜好への興味の思いのほうが強いのかも知れ ないと恥ずかしながら思っているのだ。 「明日の夜ね、婆ちゃん、また寄り合いがあるの。雄ちゃん、留守番お願いね」 祖母の口から待望(?)の言葉が出たのは、それから三日後のことだった…。
2023/01/27 22:12:19(7WqPo0xO)
投稿者:
(無名)
う~ん
ソフトSMでいいんじゃないですか? 言葉責め・調教でって事で^^ おいらは結構好きですので応援してます。^^
23/04/21 19:04
(rZpI4Zvu)
投稿者:
(無名)
熱すぎです!!
番外編もムスコが熱く反応しておりました。 いつも最高の作品をありがとうございます! 続きを楽しみにしております。
23/04/21 23:10
(nhakm38m)
投稿者:
雄一
(祖母・昭子 番外編 4)
茂夫が六時過ぎに帰宅すると、義母の…いや、今は義母ではない多鶴子が、以前からお 気に入りだといっていた、黄色のワンピース姿で玄関口で迎えてくれた。 妻の由美と結婚して、同居生活を始めて数年来、娘の由美を迎えに出ることはあっても、 婿の茂夫を迎えに出たことは、多鶴子は一度もなかったのにと、茂夫は内心で苦笑しなが ら靴を脱いだ。 リビングのテーブルの上には、いつもとは明らかに違う豪勢な料理が幾つもの皿に盛ら れていて、ワインの瓶とワイングラスまで置かれているのを見て、茂夫の頭にふいと、い つもの自分らしくない思考が浮かんだ。 「多鶴子、折角のお似合いのワンピースに申し訳ないけど、ワイン一口飲んだら、無性 に君の裸が見たくなってきた。着ているもの全部脱いで、僕の前に来てくれないかな?」 テーブルに向かい合って座っている多鶴子の目を正視して、茂夫は逸る気持ちを抑え冷 静な声でいった。 多鶴子は当然、驚いた顔で茂夫を睨むように見つめてきたが、すぐに思い直したように 穏やかな表情になり、いつもより口紅が濃いめな感じの、口元に笑みを浮かべて席から立 った。 茂夫の思うところでは、婿養子の自分からこんな破廉恥な要求を出されたら、すぐに元 の少しばかり気位の高い、義母に戻るかも?と考えていたのだが、少し予想が外れたこと で、この前の暴力団組長宅での、あの思いも寄らない出来事は、義母の多鶴子の人間性に まで相当に大きな影響と衝撃を与えていることを、茂夫は改めて確信し、改めて慨嘆した。 それは自分自身についてもそうで、ジェンダー志向の若い組員に、男でありながら女と して犯され、その屈辱に死にたいほどの思いでいたのが、ある日、その若い組員に抱かれ て唇を重ねられていた時、突然変異的に男への思慕の思いが湧き、覚醒してしまった自分 と、義母の多鶴子は同じ位置にいると、茂夫は理解したのだった。 若い組員に呼び出され屈辱の行為を強いられる時、茂夫は相手への言葉使いや、態度素 振りを完璧に女とし、て通す。 それを若い組員が茂夫に求めるからだった。 同じことを茂夫は今、義母の多鶴子に要求しようとしていた。 そこには、一方で若い男の力に屈し、男としての屈辱を味合わされている、茂夫にしか わからない鬱屈した怨念のような思いがあった。 「こ、こんな明るいところで、恥ずかしいわ…」 リビングのソファの横で、首筋や顔を少し赤らめながら多鶴子はそういいながら、黄色 のワンピースの前ボタンを、ゆっくりと外しにかかっていた。 多鶴子は痩せてもおらず、太ってもいないという、普通の体型をしている。 肌の色の白さが年齢をかなり若く見せていて、目鼻立ちもそれなりに整っている。 「うむ、奇麗な肌だよ。この前もそう思ってた」 ワンピースが多鶴子の肩から床に落ちて、スキャンティとブラジャーだけの上半身にな った時、僕がそういってやると、 「こ、こんなことってほんとに初めてだから、す、すごく恥ずかしい」 多鶴子のその声は茂夫の耳をほとんど素通りしていて、茂夫は別のことを思っていた。 自分より十近くも年下の、屈強な身体つきをした若いジェンダー志向の組員に、男であ りながら、茂夫は女として無残にも尻穴をつらぬかれ犯された。 無論、普通の社会人として生きてきた茂夫には、生まれて初めての屈辱以外にない体験 だった。 男同士や女同士の性の交流の世界があることは、茂夫も当然に知ってはいたが、別の次 元の話だと自分では思っていた。 しかし、その男に二度目に呼び出され、同じように屈辱のつらぬきを受けた時、茂夫の 心のどこかで、自分でも信じられない覚醒が起きた。 男の無慈悲なつらぬきを受けながら、身体と心のどこかに、ほぼ同時に妖しげな色をし た火のようなものが点いた。 男に犯されているという、屈辱と苦痛の思いがどこかへ消え去ろうとしてきていた。 これまでの人生で一度も感じたことのない、背徳的で欲情に満ちた快感が、茂夫の全身 を一気に駆け巡ったのだ。 自分をつらぬいている男への、隷従と屈服の始まりがそこだった。 茂夫は自分のそんな鬱屈した思いの裏返しを、義母の多鶴子にぶつけようとしていた。 あの夜、多鶴子は自分のつらぬきを受けた時、間違いなく義母という立場も忘れ、一匹 の飢えた牝犬になっていた。 「し、茂夫さん…す、好きよ」 と同じ言葉を何度も繰り返していた。 多鶴子のその気持ちを確かめたくて、茂夫は彼女に、服を脱げなどという突飛な命令を 下したのだった。 そして多鶴子は、婿の茂夫の命令を従順に聞き入れた。 スカートまで脱ぎ下ろした多鶴子の羞恥の思いは、パンティストッキングとショーツだ けになった、むっちりとした太腿をこれ以上ないくらいに窄めて、どぎまぎとした表情で 目を俯かせている素振りに明白に現れ出ていた。 椅子から立ち上がって、茂夫は多鶴子の前に、声も出さず近づいた。 「多鶴子、僕ももうこんなだ」 そういって、茂夫は多鶴子の半裸状態の身体のすぐ前で、忙しなげにズボンのベルトを 外し、ブリーフと一緒に足元まで脱ぎ下ろした。 多鶴子の驚きの目は自然に、剥き出されて露わになった茂夫の下腹部に向いた。 茂夫の色白で槌身な身体とは全くそぐわない、異様に巨大な生物のようなものが、上に 向かって跳ね上がるようにして現れ出た。 多鶴子の驚きの目は、もっと上の驚愕状態になっていて、大きく開いた口を両手で塞ぎ 込み、思わず後ずさりしていた。 片手でネクタイを緩めながら、もう一方の手を多鶴子の肩に置いた茂夫は、 「た、多鶴子」 と名前だけ短く呼んで、肩に置いた手に力を入れた。 驚愕の表情のまま、意思を失くしたように多鶴子は足の膝を折り、茂夫の前にひれ伏す ように座り込んでいた。 男のその部分の比較がどういうものなのか、夫一人しか男性を知らずに生きてきた多鶴 子に、無論、わかるはずもなかったが、とにかく並の人間のものではないというのは、朧 げにも多鶴子にもわかった。 ここで今、茂夫が自分に何を求めているのかも、薄々に察知した多鶴子は、本当に恐る 恐るの思いで、手をゆっくりと茂夫のものに添えていった。 太い鉄棒のような感触が最初にあって、その中で太い血管がドクンドクンと波打ってい る感じがあった。 もうそれだけで、多鶴子の頭の中に、暴力団組長宅での、この前の茂夫との背徳の抱擁 の場面が思い起こされてきて、全身の血が熱くなり出していた。 自然な流れのように多鶴子は唇を、茂夫の巨大としかいいようのない、固いものに近づ けていき、口の中に含み入れようとした。 口一杯に開いても、茂夫のものはその長さの半分も入らなかった。 そのものの巨大さで口が忽ち密閉状態になり、息苦しさに何度も多鶴子は噎せ返り、咳 き込んだりしたが、今の今はもう婿ではない、茂夫への思いの深さを届けるために、ひた すら懸命に愛撫を繰り返し続けた。 「多鶴子の寝室へ行こう」 元より茂夫自身も、まるで悪夢のようなこの事態に遭遇するまでは、多少はひ弱な外見 でも実直で勤勉な社会人として過ごしてきて、女性との性の経験も妻の由美ぐらいしか知 らずに生きてきたこともあって、男子として快感を長く持続するという術もわ、まだよく わからずにいたので、多鶴子を寝室に誘ったのだ。 「多鶴子…」 衣服の全部を脱ぎ捨てて、茂夫は多鶴子の寝室のベッドにいた。 多鶴子のほうも全裸になっていて、仰向けになった茂夫の胸に、甘えるような素振りで 顔を載せていた。 室に入ってすぐに、茂夫は多鶴子をベッドに押し倒してきた。 待ち望んでいたように、多鶴子もそれに応え、婿と義母の二人は、お互いがお互いを求 め合うように、激しく抱き合い求め合った。 茂夫の異様に太くて、異常に長いものを、胎内に迎え入れた時、数日前のあの夜、最初 に感じた、肉が圧し潰されそうな痛みがなくなっていて、ひどく心地のいい圧迫が、多鶴 子の全身を忽ちにして包み込んできたのだ。 獣が泣き叫ぶような、多鶴子の咆哮の声が絶え間なく続き、それに呼応するように茂夫 の腰も激しく動いた。 「だ、だめ!…し、茂夫さん…私、ほんとに死んじゃう」 「ぼ、僕もだよ、多鶴子!」 いみじくも、数日前に二人が熱く激しく抱き合って、絶頂を迎えた時に発した言葉と同じ 言葉を、茂夫と多鶴子は申し合わせでもしてあったかのように出し合って、絶頂の極致に 到達したのだった。 そういえば妻の由美と結婚して以来、婿養子の茂夫が多鶴子の寝室に入ったことは一度も なかった。 「この室は、僕にとっては伏魔殿だった」 感慨を込めて茂夫が独り言のようにいうと、 「そんな風に思ってたのだったら、ごめんなさいね」 と多鶴子が申し訳なさそうな声で返してきた。 「気にしなくていいよ。…でも、僕たちってこれからどうなるんだろうね」 「え…?」 「僕も多鶴子も、そして妻の由美も、家族全員が汚れてしまった。元の生活に戻れるだろ うか?」 「……………」 「ん、どうした?」 「も、戻らなければいけないのはわかってる。私はともかく、あなたたちはまだ若いんだ から、きちんと普通の社会生活ができるようにしないと。…でも」 「でも何?」 「私、茂夫さんと…あなたとは元に戻りたくない」 「義理のお義母さんと婿養子の関係でいいじゃないか、と僕もそう思うんだけど、実をい うと、僕自身、自分で自分のことが、今、わからなくなってしまってる」 「ど、どういうこと?」 茂夫は二人の会話が、どうも違う方向に向きかけていることを意識し出していたが、かま わずに、 「多鶴子も薄々は気づいていると思うけど、僕はあそこの組員の一人に、男でありながら 犯されている。初めは恥ずかしくて死にたいくらいだった。…でも、ある頃から、そんな屈 辱的な行為に、信じられないような快感をね、僕は感じてしまったんだ」 と思いきったことを口にしてしまっていた。 「こんな話、嫌だったら止めようか?」 多鶴子の顔を窺見るようにして、茂夫はいった。 「ううん、話せるのだったら聞かせて…」 義理の母ではなく、実の母親のような目で、多鶴子は茂夫に優しい声でいった。 「僕よりもずっと歳の若い男なんだけどね。最初に暴力的に犯された時はね、殺したいほ どそいつが憎かった。…でも、二度目にね、そいつに呼び出されて、駅前のシティホテルの シングルルームに行った時にね、最初の時のような暴力的な面は、一つも見せてこないで、 僕を優しく抱いてきて、キスをしてきた時、僕の身体の中の血が急に逆流し出したようにな って、そのまま、またお尻をね、つらぬかれたんだ。その時にすぐに快感のようなものが湧 き上がってきて、僕はその男の女になった。…男の人を性の対象にするなんて、今までただ の一度もなかった僕がだよ。あっけなく陥落してしまっていたんだ」 そこまでを一気に喋って、茂夫は大きな息を二度ほど吐いた。 さすがに義理の母である、多鶴子の目を見ては茂夫は話せなかった。 多鶴子は黙って茂夫の話を、ただ聞くだけだったが、茂夫の苦しげな告白を聞いた後、 「その男の人と、あなたは離れることができないの?」 と茂夫の胸から顔を起こし、目を彼の目に向けて聞いてきた。 「今の僕の気弱さじゃあ、どうなんだろう。別れたいのに別れられない。何だかメロドラ マみたいないい方だな、ふふ」 茂夫は自嘲的な笑みを浮かべて、力のない視線を天井に向けた。 「私があなたを立ち直らせて見せるわ。恋の鞘当てっていったら変だけど、あなたは私の 傍にいて欲しい。あなたを男なんかに取られたくない」 多鶴子は真顔でそういって、茂夫の顔に顔を寄せていき、自分から唇を塞ぎにいった。 ベッドの上で激しく揉み合うように、二人の身体は重なり、重なり合った唇は長い間離れ なかった。 二人の口から、妻であり娘である由美の話は、遂に一度も出ることはなかった…。 続く 、
23/04/22 17:29
(p6zfNxx.)
投稿者:
雄一
月が替わって一週目の、祝日を挟んだ連休の初日の朝、遅い朝食を済ませた僕は、
昨夜にちょこっとだけ思った、紀子の叔母の益美に、ショートメールを送信してみ た。 (昨夜、益美を夢に見て、抱きたくなったけどいるか?) 十六という自分の年齢を忘れたかのような、大人びた文面にした。 ダメ元という気持ちも多分にあったので、大してアテにもしていなかったのだが、 (何時に?) という短い文字がすぐに返信されてきた。 (この前のクリームシチュー美味しかったから、昼で) (了解) 田園豆腐までは電車でに十分くらいだから、一時間ほどの猶予があったので、机の抽 斗から何げにふいと思いついた青色のUSBメモリーを取り出し、ノートパソコンに差し込 んだ。 故吉野氏の私小説風の、文字だらけの画面を出し、あちこちにスクロールして探すと、 サブタイトルで「再会」という作文があり、書かれた時期はよくわからなかったが、祖母 の名前がよく出ていたので、僕はそこに目を集中させた。 (再会) 古村の携帯にあの竹野から連絡が入って、この前の埋め合わせをしたいといってきた。 何日か前に、面白い白黒ショー見学があるのでどうか、と竹野からの誘いがあって、私 は古村と二人で、指定された料亭の一室に出かけたのだが、病を抱える私のその時の体調 か気分が悪かったせいもあったのか、ショー自体に面白味がなかったのか、途中で気持ち が失せて、最後まで観ることなく退散したことがあった。 そのことの埋め合わせとのことだったが、古村が私にいった、 「吉野さんが以前に、僕に身元を調べて欲しいといってました、ほら、あの奥多摩の古 い寺で、竹野に抱かれていた女性が来るらしいですよ」 の言葉に、私はうんもすんもなく了解していた。 妻を交通事故で亡くし、仕事も辞め、自堕落な生活を続けていた私の目と心に、強く大 きな衝撃を与えてくれた女性に、また会えるのです。 色白の小ぶりの顔に、目も鼻も唇もすべてが理想的な位置にあり、しかもすべてのかた ちが美しく整っている、とでも表現したらいいのか、まだ名前も知らない彼女だが、私の 人生の中では、亡くなった妻との初対面の時よりも、もしかしたら衝撃は強かったのかも 知れないほど、私は心を揺さぶられていた。 そんな魅力的な人がどうして、見るからに狡猾で品位も品格もなさそうな、あんな竹野 みたいな人間と組しているのかが、私には非常な不満だったが、その竹野から、今回は特 別のサービスとかで、私と彼女の二人きりにしてくれるという、思いがけない条件だった ので、私はある程度、また騙されるのを覚悟して、古村君に事情を話して、一人で奥多摩 の古い寺に出かけた。 竹野は彼独特の嗅覚で私の足元を見たのか、五万円という金額を吹っかけてきたが、私 の彼女に会いたい一心は強く、前払いで金を彼に渡してあった。 玄関チャイムを押したら彼女が出てくる、と竹野がいっていた通り、その女性は楚々と した身のこなしで、静かに私を出迎えてくれ、居間に通してくれた。 玄関を入った時からそうだったが、小柄で華奢な体型の彼女の身体から発酵されてくる、 化粧だけではない芳醇な匂いが、もうすでに私の身体か心の、どこかの神経を微妙に揺さ ぶってきていた。 彼女は薄い黄色のポロシャツにジーンズ姿で、特に着飾った衣装ではなかったが、それ が違和感なく私の目に入り、それが私の気持ちを少し和ませていた。 「吉野です」 これという会話もないまま、座卓の上にお茶を出してくれた彼女に、私は自分から先に 名前を名乗った。 「あの、昭子です」 一呼吸おいてから、彼女は切れ長の目を伏せて応えてくれた。 こういうところでの、根掘り葉掘りの話はがさつになるのは、私も何となく心得ていた ので、口数も少なめで彼女の顔の表情や仕草を見ていたのだが、 「あ、あまり、そういう風に見られると…恥ずかしいです」 と彼女が色白の顔を赤らめながらいってきたので、 「や、こ、これは申し訳ない」 と今度はこちらが、耳朶を赤くするという、まるで見合いの席のような、妙な雰囲気に なっってしまっていた。 「あの、お風呂よかったら沸いてますのでぞうぞ」 そんな妙な雰囲気を掻き消すように、昭子さんはやはり視線を避けたままで、唐突にい ってきた。 ユニットバス風の浴槽は、足を伸ばしては入れない狭さで、洗い場もそれほど広くはな いスペースだった。 私が身体を洗って浴槽に浸かった時、浴室のドアが突然開いて、真っ白な裸身の昭子さ んが何の予告もなしに入ってきた。 こちらからかける言葉が思い浮かばず、私は少年のように目をあちこちにうろつかせて いたのだが、昭子さんからも言葉はなく、湯気の立ち上がる狭い室で、大の大人二人が目 を避け合うようにして狼狽えていた。 「入っていいですか?」 昭子さんが申し訳なさげな顔で、私にいってきた。 「あ、ああ、狭いですけどいいですか?」 昭子さんが小柄な身体のせいもあって、狭い浴槽にどうにか二人の身体は座ることはで きたが、肌と肌の接触は否応なしに避けがたく、手、腕、足のどこかが触れ合うかたちと なり、何よりもお互いの顔と顔が数十センチの近さにあるのが、私の気持ちを大いに動揺 させ、戸惑わせた。 不思議というか、思ってもいなかった事態が、私の身体に生じていた。 妻を亡くしてからの数年、何人かの女性にも接し、卑猥な画像を見ても、一度も勃起す ることのなかった私の下腹部のものが、自分でもわかるくらいに脈々と波を打ち出してき ていたのだ。 この信じ難い事態に私は内心で大いに驚いていた。 目の前の、もう六十は過ぎているという昭子さんよりも、歳も若く見るからにセクシー な身体つきをした女性との、こういった交流をしてきて、一度として然したる反応を見せ なかった自分のものが、これほどの躍動状態になったことは、私にとっては奇跡以外の何 ものでもなかったのだ。 その奇跡の興奮は、六十代半ばを過ぎた私の心にまで伝播してきていて、自分から数十 センチ前の昭子さんの、湯気で少し上気してきている色白の顔に、私は顔を近づけていっ た。 彼女と少しの間だけ視線が合った。 私の顔がさらに近づき、唇に唇が触れ合う少し前に、その目は閉じられた。 代わりに私の唇に心地よい感触が伝わってきた。 今までそういうことは一度もしたことのない私だったが、薔薇か百合の花びらに唇をつ けたら、きっとこういう感触なのかと思えるくらいの、気持ちの良さを私は感じていた。 唇の柔らかな皮膚を割って、舌先を歯に当てると、小さな隙間ができた。 私は自分の舌をさらに口の中へ差し込むと、昭子さんの濡れそぼった舌が、まるでそれ を待っていたかのように、優しげに絡みついてきた。 狭い浴槽の中で、二人の顔と顔が、唇を重ね合ったまま右左に揺れ動いた。 私の手が自然に、昭子さの身体の下に下りていき、乳房の膨らみを捉えると、閉じられ た口の中で、彼女が何かを感じたように、ううっと小さく呻いたのがわかった。 「あなたにお会いするの二度目です」 唇を離してすぐにそういうと、 「え、ええ…」 と小さな声で短くいって、すっかり汗の滲み出た顔を、恥ずかしそうに俯けて、 「お、お恥ずかしいところを…」 そういってまた黙ってしまった。 「湯が熱いのか、気持ちが熱くなってきているのか、上せそうになってきました」 私が冗談口調でいうと、 「お背中でもお流ししましょうか?」 私が浴槽から立ち上がった時、彼女は顔を上げてそういってきたのだが、自分の目の前 にいきなり現れ出た、私の下腹部のものに少し驚いたように目を見張り、暫し身体の動き を止めていた。 私の下腹部のものは、自分自身でも驚くほどの硬度を露呈していた。 長く知ることのなかった屹立感に、私は思わず昭子さんの頭に手を置いて、あることを 暗黙に指示していた。 昭子さんの手の細い指が、私の何年振りかの屹立にゆっくりと添えられてきた。 彼女の小さな口の中に、私のものはゆっくりと含み入れられ、忽ち私は立ったままで有 頂天の気持ちになった。 ああ、この人に会ってよかった、と私はしみじみと思った。 妻との結婚当初の時に、彼女の身体を抱いていつも思った、あの恐悦的な感覚と全く同 じだと、私は心密かに思っていた。 もうここで、昭子さんの身体を思いきり抱き締めて、奇跡の回復を成し遂げた自分のも のを刺しつらぬきたいと、私は心底に思ったが、何年振りかのこの心地いい気分に、もう 少し浸りたいとも思った。 だが昭子さんをこのまま、熱い湯の中に座らせておくのもと思い、後顧の憂いを少し残 す思いで洗い場に片足を置いた。 彼女が浴槽から立ち上がって、また恥ずかしそうに顔を俯けて、徐にいってきた。 「あの、お、お願いがあります…」 「はい?」 といって私が彼女のほうに振り返ると、 「わ、私の…し、下のほうの毛を…剃ってもらえません?」 と突飛もないことをいってきた。 「えっ?」 と私は思わず聞き返していたが、男の私の目は自然に彼女の股間の漆黒に向いていた。 これはもしかしたら、あの竹野から命令されていることなのだろうと、頭の中では理解 していたが、そこまでする必要はないという厳とした正義感よりも、その時の私には、男 として再起復活した浮かれた悦びのほうが大きくあり、不埒な邪念のほうに気持ちが傾倒 してしまい、彼女からの申し出を私は受諾していた。 私が洗い場に座り込み、昭子さんが浴槽の縁に腰を下ろして、石鹸を彼女の股間の漆黒 部分に満遍なく塗り込んで、 「いきますよ、動かないでくださいね」 と彼女に念押しして、男性用の簡易剃刀を彼女の肌に当てていった。 ぞりっという音がした時、昭子さんの顔が微妙な歪みを見せたが、私が不始末をして彼 女の肌を傷つけたというのではなかった。 長年、精密機械を弄ってきた私は、手先は器用なほうだった。 剃刀の刃を当てるのに難しい箇所もあったが、無事に作業を終えて湯で石鹸を流すと、 あるべきところにあるべきものがなくなっていて、見えなかった部分が明瞭に見えてきた りして、六十を過ぎた男の目は多分、淫猥色の点になっていたのだと思う。 そんな私の淫猥な視線に気づいたのか、 「ああ…は、恥ずかしいわ」 昭子さんが手で口を抑えてくぐもった声を出してきた。 漆黒に覆われていた、女性の身体で最も隠したい秘所が、白日に晒されるという恥辱感 が、彼女の全身を襲ってきている感じだった。 「ああっ…だ、だめ!」 昭子さんの口から一際高い声が挙がったのは、私の顔がいきなり彼女の晒し出された秘 所に、かぶりつくように埋まっていった時だった。 私自身が自分のその行動に、少し驚いてもいたのだが、私の男子としての本能までも、 彼女の女としての妖艶な魔力は、引き出してくれていたと思ったのは後になってのことだ った。 風呂を出て、居間の隣室の八畳間に案内されると、布団が敷かれていた。 私も昭子さんも、予め用意されていた和風旅館によくある浴衣姿だった。 布団の中に先に潜り込んでいた私の下腹部は、時間の経過もあり萎えてしまっていた。 寝化粧を終えて昭子さんが布団に入ってきた時、私の胸の中の微かな不安と危惧は、彼 女の全身から妖しく発酵されている、匂いを嗅いだ時に一掃されていた。 びくんという音が聞こえたかのように、私の下腹部に、浴室の時のような躍動と脈動が 復活し始めていたのだ。 「昭子さん、お世辞でも何でもなく、あなたに会えて私は本当に嬉しい」 私の口から自然にそんな言葉が出ていた。 それは単に、何年振りかで自身の男性復活ができたという喜びだけではなく、老齢では あるが一人の男性として、亡くなった妻以外に初めて、ときめきというものを感じさせて くれたことへの感謝の思いのほうが強かった。 今はもう、彼女の遍歴については詳しくは聞くまいと、私は心に念じて、手を静かに昭 子さんの胸に伸ばしていった。 浴衣の布地を通して、彼女の乳房の柔らかみが伝わってきて、それだけで私の気持ちは 少年が少女に恋してときめくような、心地のいいざわめきを覚えていた。 六十半ばという自分の年齢には、およそふさわしくない純な思いの中でも、自分の下腹 部のものが、じわじわと反応してきていることを知って、古い言葉の表現になるが、私は 欣喜雀躍した思いになっていた。 私の顔のすぐ前で、美しい表情で顔を歪める昭子さんを見て、私の男としての興奮はさ らに増幅していた。 この人が自分には、最後の愛する人となる、という茫洋とした思いを抱きながら、私は 彼女の白過ぎる裸身に、老いた全身を沈み込ませていった。 祖母と吉野氏の純愛物語を読み終えた後、僕の頭の中からいつに間にか、紀子の叔母の 益美を訪ねるという思いが消滅してしまっていた。 単純な僕の頭の中を、入れ替わるように占拠してきたのは、当然の如く祖母の儚げな憂 いの顔だった。 益美の作ってくれるクリームシチューに多少の未練はあったが、僕の手は勝手に動きい て、スマホの画面に益美を呼び出し、勝手に文字を打ち出していた。 (学校から文化祭の準備の件で、急な呼び出しがあった。クリームシチューと、益美の 唇はまた今度で。ごめん) 気がコロコロと変わるのが少年の特性だと、自分で自分を納得させながら、益美にませ たメールを送信して、僕は室を出て、狭い庭先で洗濯物を干していた母親に、 「夏休みの宿題で世話になった、奥多摩の寺の住職さんから電話あって、平家伝説で新 しい資料が見つかったので、見て欲しいって連絡もらったんで行ってくるわ」 と考えてもいなかった虚言をすらすらといって、思わぬ気まぐれから出た旅行の準備の ため、また室に戻った。 用意を終えて階下に降りると、母親が玄関に出てきて、 「婆ちゃんとこで泊ってくるんでしょ。これ、私が編んだセーターで宅配で送ろうと思 ってたんだけど、持っていって、宅配屋さん」 といって紙袋を渡してきたので、 「電車に忘れたらごめん」 といい残して家を出た。 祖母への連絡はしていないままだった…。 続く
23/04/22 17:31
(p6zfNxx.)
投稿者:
雄一
母親が編んだセーターを奥多摩の祖母に届けるのに、三千円の運搬費をせしめた僕は、前から
食べたいと思っていて、値段が高く手が出なかったマックのエビフィレオを駅前で買って、山手 線に乗り込んだ。 その間に三度ほど、スマホがメール着信の振動を伝えてきていたが、奥多摩行きの列車に乗り 換えてから見ることにして、相手が誰かも見ずに無視を決め込んだ。 発信者が誰なのかわかっていて、奥多摩行きの列車に乗り換えて、スマホの画面を覗いたら案 の定、今日の約束を急遽キャンセルした益美からだった。 (ほんとに学校なの?) (せっかくシャワー浴 びて奇麗な身体にしたのに) (もう二度と会ってやらない) 普段は絶対に喰えないエビフィレオを、コーラで頬張りながら、僕はスマホのメール画面に二 度ほど頭を下げた。 もう一本僕が気づかなかった着信があったが、あの口煩い紀子からだったので、僕は無視を決 めた。 このローカル列車の、窓外の景色の移り変わりが、意外にも僕は好きだった。 超高層の建物がひしめき合うように建ち並ぶ景色から、緑の濃い山や田園地帯が広がってきて、 最後には数戸単位の家屋が点在するだけの景色が、時代を逆行するような感じで、いつ見ても飽 きることはなかった。 前に紀子と奥多摩からの帰りの列車に乗った時、紀子が窓外の景色を見て、僕とは逆の感想を いってたこと思い出していたら、場内アナウンスののんびりした声が、僕の下車する駅名を告げ てきた。 今日の青天の空のように、雑貨屋の叔父さんは今日も元気そうで、駅の無人改札を出た僕を見 つけると、 「やあ、兄ちゃん、久しぶりだな。連休は婆ちゃんとこかい?」 と明るい声で話かけてきた。 「あ、こんにちは。いつもの水ください」 僕も笑顔で返して、ミネラルウォーターを買うため店に足を向けた。 祖母にはまだ連絡してないから、家の冷蔵庫にミネラルウオーターは置いてないだろうと思い、 予算も母親からの宅配代があったので二本買って、家への坂道を登った。 いきなり玄関戸を開けて、驚かせてやろうと思っていた僕の目論見は崩れたが、働き者の祖母 がこんな好天の日の昼間に、家にいるわけもないと僕は得心し、買ってきた水を冷蔵庫に入れ、 担いできたバッグを居間に置いて、もう一度靴を履き直して外に出た。 多分、祖母は椎茸小屋か畑だろうと僕は確信し、そこに向かう道を小走るように駆け出した。 椎茸の収穫は冬から春にかけてが最盛期で、秋の椎茸は加工用で「秋子」とか呼ばれていると いう知識は以前に祖母に聞いた記憶があった。 祖母の昭子という名前と、秋の椎茸が秋子が同じだったので、僕がたたまたま憶えていたとい うだけだ。 古びた椎茸小屋が見えてきた。 小屋の前が野菜畑の横の草地で、幅の広い日除け帽に、紺地の野良着姿の祖母の小さな身体が、 細い背中をこちらに向けて、鍬で畑の畝を掘っているようだった。 五十メートルもない距離まで来て、僕が婆ちゃんと声をかけて呼ぼうとした時、祖母の身体の 動きが急に止まって、こちらを振り返ってきた。 太陽が祖母の向こう側にあったので、振り返った顔の表情は陰になってよくわからなかったが、 白い歯だけはっきり見えたので、僕は手を大きく振って、 「婆ちゃん!」 と声を張り上げてやった。 手に持っていた鍬を放り投げて、祖母が若い小娘のように手を振り返して、こちらに向かって 駆け出してきていた。 信じられないという表情を満面に浮かべて、 「雄ちゃん、どうして?」 と張り上げるような声でいって、僕の両腕を掴み取ってきた。 日除け帽の下の額に汗を滲ませて、僕の腕を掴んでも、まだ信じられないという顔だった。 「朝起きたら、急に婆ちゃんの顔が見たくなって…来ちゃったよ」 僕は小さな嘘をついて、祖母に精一杯の笑顔を返した。 「電話くらいしてくれたらよかったのに」 「婆ちゃんを驚かせたかったから」 「まぁ、そしたらこんなところまでこなくてよかったのに」 女性の人の匂いで一番好きな匂いが、僕の鼻孔と、身体のもう一カ所に懐かしいような刺激を 与えてきて、若い僕は少なからず慌てたが、 「婆ちゃんのこの匂いが嗅ぎたくなって来たんだよ」 とこれは正直な気持ちをいった。 「まぁ、嬉しいこと。あ、あなたお昼はどうしたの?」 「列車でハンバーガー食ってきたけど、ちょっと腹減ってる」 「お弁当でお握り持ってきてるから、一緒に食べましょ」 椎茸小屋の横の、枝が広く茂る木の下で祖母と並んで座って、二個の小さな握り飯を分け合っ て、大根の漬物を摘まんでの昼食は、朝のエビフィレオよりはるかに旨かった。 「これじゃ、足りないわね。家に帰ってご飯用意しましょうか?」 祖母が水筒のお茶を僕に渡しながらいってきた時、 「婆ちゃんの…いや、昭子の身体が今すぐ食べたい」 と僕は自分でも思ってもいなかった台詞を、青い空に目を向けていって、自分がいってしまっ たその言葉の恥ずかしさにすぐに気づき、勝手に顔を赤らめていた。 祖母のほうも僕の口から零れ出た、爽やかな空と自然の緑の風をぶち壊すような、不埒不遜な 発言に大きく目を見開いて反応し、汗の滲み残る顔を赤く染めていた。 まずいことをいってしまったと顔をしょげさせた僕に、 「私も…この頃、雄ちゃんの夢しか見ていない」 とかたちのいい唇に柔和な笑みを浮かべて、優しくいってきた。 それかれ暫くして、椎茸小屋の隅にある、畳二畳ほどの板間の茣蓙の上でで、僕は祖母と向か い合っていた。 誰が誘ったわけでもなく、祖母と僕の二人は肩を寄せ合うようにして、そこに足を進めていた のだ。 祖母が着ていた野良着の襟が、僕の慌てふためいた手で大きくはだけられ、片方の肩の白い肌 が露わになっていた。 抱き合って重なり合っていた唇が離れた時、 「汗臭くてごめんなさい」 と祖母は僕の胸に顔を埋めながら、本当に申し訳なさそうに小さな声でいった。 「昭子の何もかもが好きだからいいんだよ」 むさ苦しい板間のせいもあってか、僕の鼻孔への祖母から発酵されている、女性の香しい匂いは 殊更に強まっていて、若い僕の身体の中心に、どこかで熱く沸騰させられてきた、多量の血液を絶 え間なく送り届けにきていた。 「ああっ…」 祖母の身体の弱点である左側の乳房の膨らみに、手の指の五本を全部使って摘まみ取るように掴 んでやると、祖母は忽ち、切なげな声を挙げて小柄な身体をうち震わせてきた。 若くて鈍感で空気の読めない場違いな一言が、思わぬ事態にまでなったが、これはこれで、椎茸 小屋まで来た時に、僕の頭のどこかに願望としてあったことなので、僕は男子の本能の赴くままに、 祖母の肌理の細かい白い肌にのめり込むことにした。 寒くないかい? 身体、痛くないかい? そんないたわりの言葉を吐きながらも、すでに沸点近くになりかけていた僕は急くようにジーン ズとトランクスを足首から脱ぎ外し、いつの間にか僕が全裸の身にしてしまっていた、祖母の小さな 身体に覆い被さっていた。 陽の差さない、薄暗くて狭い板間のささくれだった茣蓙の上で、滾った血がそのまま凝固したよう な自分のものの先端を、祖母の剥き出しになった、股間の裂け目に添え当てた時、 「ああっ…ゆ、雄一さんが…あ、あなたが入ってくる!」 祖母が両腕で僕の腕を強く掴み取ってきて、喘ぐようにいってきた。 祖母のその部分への愛撫もしていなかった僕だが、少しだけ彼女の胎内に沈み込んだ僕のものの先 端は、柔らかな滴りと心地のいい圧迫を、充分過ぎるほどにはっきりと感じていた。 「昭子、ほ、ほんとにいい!」 「ああ、こ、こんな…ゆ、夢みたい」 「ここに、ここに間違いなく、俺がいる」 そういって腰の律動に少し力を入れてやると、祖母は感極まったような顔を大きくのけ反らせて、 絶え間ない喘ぎを繰り返していた。 祖母を抱いている時いつも思うことだったが、女性には年齢の衰えとかというものはあまり関係 がなくて、愛情のある人の前なら、自然に理性と本能が優しく融和して、そこには若きも老いもな いのだと、たかだか十六の未熟な頭ながらに考えている。 そう思わせるほどに、祖母の小柄で小鹿のように華奢な身体は、僕にはかけがえのないものにな ってきているのかも知れなかった。 はっきりといえることは、今、こうして奥多摩の山裾の粗末な小屋の中で、祖母を女性としてと して抱き、つらぬいていている自分に、僕は何一つの不浄さも背徳感も感じてはいないということ だ。 「ゆ、雄一さん…わ、私、も、もう…」 僕の顔の真下で何かを訴えるような表情で、祖母が白い歯を震わせてきていた。 「お、俺もだよ、昭子」 普段とは違う状況が興奮の度合いを、増幅させているのかどうかわからなかったが、祖母をつら ぬいている僕にも我慢の限界が近づいてきていた。 そして古びた小屋の中の、椎茸の培養菌が驚きそうなほどの、咆哮の声を二人でほぼ同時に挙げ て、絶頂の深い渦の中に沈み込んでいった。 迸りの心地のいい放出感を、これほどに感じたのは、僕も久しぶりのような気がしていた。 全身に気だるいような、気持ちのいいような疲労感みたいなものを感じながら、僕は祖母と二人 で緩い足取りで歩いていた。 「今さらだけど、雄ちゃん、何か用があってここに来たの?」 収穫した野菜を入れた小さな竹籠を、背中に抱えながら、祖母が僕に笑顔を見せて尋ねてきた。 「あ、う、うん。こ、この夏休みに世話になった、お寺の尼僧さんに、また頼みたいことあって」 とほとんどが嘘の答えをいって、顔を横に向けた。 「そう…あ、そういえば、その尼僧さんって、多分、今いないわよ」 「えっ、そうなの?」 「何日か前に、お寺の本堂の前で蹲ってるのを、誰かお墓参り来た人が見つけてね。隣村の病院に 入院してるって。婆ちゃんも、昨日の夕方雑貨屋の叔父さんに聞いただけで、まだ詳しくは知らない んだけど」 「ああ、そうなんだ」 「大した病気じゃなかったらいいんだけどね。今日の夕方、買い物行くから叔父さんに聞いてみる わ」 「うん、夏休みに僕も世話になったから、長い入院になるんだったら、僕も見舞いに行かないとい けないかな?」 「もし、そうなら明日、二人で行ってこようかしらね」 尼僧の綾子の顔を、僕は久し振りに思い出していた。 平家伝説のレポートの件で世話になったのは勿論だが、祖母には話すことのできない秘密が、綾子 と僕の間には歴然とあった。 「うん、わかった」 神妙そうな顔で祖母には、取り敢えずそう応えておいた。 高校の同学年の紀子から唐突な電話が入ったのは、タイミングがよかったというか、祖母が雑貨屋 へ買い物に出かけている時だった。 「この頃、連絡も何もちっともしてくれないわね」 のっけから小言だった。 「何いってんだよ。そっちこそ学校で会っても無視してたじゃないか」 売り言葉に買い言葉で返すと、次は、 「今朝から電話しても出ないし、そっちこそ無視じゃない。で、今、奥多摩ですって?」 「お前、誰に?」 「あなたのお母様ですよ」 「チェッ、で、洋二は何だよ?」 「明日、私もそっちへ行く。東北行きの話とか一杯あるんだから」 紀子からの突然のいい出しに、 「え?えっ、な、何でだよ?いきなり」 と僕は思わず、驚きと狼狽えの声を挙げていた。 「平家伝説か何かの、お勉強のために行ってるんでしょ?だったら私も行って手伝ってあげるわ。 それとも何かやましいことしてる?」 「い、いいよ、来てもらわなくたって」 「もう、決めたの。明日の十時頃に着くように行くから、駅に迎えに来てて」 それだけいって、相手は一方的に電話を切ってきた。 口でいい合って勝てる相手ではないことを思い知らされて、居間で一人ふてくされていたら、祖 母が買い物袋を提げて帰ってきた。 村の物知りの雑貨屋の叔父さんの話で、尼僧の綾子の様子は急性の腸炎とかで、明日に二度目の 精密検査をするとかのことのようだったが、一度目の検査では癌とか悪性の兆候はないと聞いて、 僕は内心で少し胸を撫で下ろしていた。 僕の突然の来訪を喜んでくれた祖母は、夕食に好物のすき焼きを奮発してくれた。 その夜、いつもの僕の寝室に布団はなく、祖母の寝室に二人分の床が延べられていた…。 続く
23/04/24 15:05
(J6xNlL2N)
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