「三田村さん！」授業が始まる前の挨拶より先に、教壇に立つ担任教師の伊藤三咲は、裕子を名指しで呼んだ。裕子は席を立ち、三咲の次の言葉を待った。「匿名で投書がありました。」クラスがざわついた。幼児体型の裕子に比べ、身長もあり女優でも通用する程の美貌を持つ三咲は、凛としたオーラを放ち、「クラスでいじめが流行ってるらしいけど！」険しい声で教壇から言い放つ。ほとんどの生徒は目を伏せ、固唾を飲んだ。一人立つ裕子は、一瞬上を向き、落ち着きゆっくりとした口調で柔らかく笑み、逆に質問をした。「誰が誰をいじめているんですか？」三咲は軽くため息をついた。やさしく笑みを浮かべ、「わかったわ」教室内はシーンと静まり、「三田村さん。授業が終わったら職員室に来なさい！」裕子は軽く頷き、席に着いた。三咲は生徒の出席簿を見つめ、一人一人生徒の名前を読みあげる。獲物を漁るハンターのような視線を読みあげた名前の生徒に向けた。冷酷なサディストの視線だった。三咲の美貌が更に冷酷に感じさせた。


授業は淡々と進みチャイムが校内に鳴り響いた。けいごは心配そうに裕子を見た。裕子はけいごに目を合わせず悟の席に向かう。悟は気だるそうに「行って来いよ！」我関せずの返事をした。裕子は職員室に歩いた。いろんな思いや考えが脳裏に浮かび消えた。足取りは重く、職員室のドアの前で躊躇った。曇りガラスに薄く映る影に三咲は気付くと三咲はゆっくりと裕子の立つドアを開けた。他の教師に裕子は頭を下げ挨拶した。三咲は裕子の次の授業の担当教師に、事情を話し、裕子を別校舎の進路相談室に案内した。

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