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第1楽章 アルマンド
槌 ロードスターの助手席のドアを開き、みほに着席を促すと視線の片隅に自転車に乗った制服姿の男を捉えた。自転車にデッキブラシやビニールホースを搭載し、白いゴムの長靴を履いていることからトイレの清掃員と判断出来た。 「みほ、危なかったな、10時半が掃除のスケジュールだったのかな?」 運転席のドアを開きながらシートに潜り込むと、みほを見つめた。みほは、少しおどけた表情で胸を撫で下ろす仕草を見せた。多機能トイレのスライドドアを隔てた世界から現実の世界に戻った安堵感からだろうと思った。 「ギリギリのタイミングでしたね」 清掃員の男を目で追うと手際良く清掃中のサインボードを立て、多機能トイレのスライドドアを開き、みほにとっての別世界に消えて行った。 「ヒロ様、先程はロックを掛けてましたか?」 「うん、掛けてたよ」 「でも、清掃員さんが10分早く来てたらと思うと。。。」 みほがセンテンスを終える前に肩を抱き寄せながら唇を重ねた。ロードスターのトップを下ろしたままだから歩行者や走行中の車のドライバーからは丸見えだろう。それでもみほは躊躇することなく身を預け唇を差し出した。 ランドマークの車寄せで初めて視線を交わしてから僅か1時間で縄化粧のまま失禁した姿を晒してしまったみほにとっては車内でのキスくらいは恥ずかしさを感じなくなったのかも知れない。M女として計り知れないほどのポテンシャルを感じた。 「そうだね、清掃の人もロックが掛かってるから入っては来ないけど、ふたり揃って出たら変に思うだろうね」 「それなら『調教ですか?』と聞かれたかしら」 「立場上、そう感じても言えないよ。『他の利用者がいるから一般の方の使用は遠慮しろ』と言われるんじゃないかな」 「そうですね、わたしたちいけないことをしてしまったのですね」 「幸い利用者がいなくて良かったな」 「はい、迷惑を掛けずに済みました。でも、あんな状況でドアをノックされたら、どうなってしまったのか考えるとドキドキします」 「直ぐにでも開け渡さないといけないから、あのまま扉を開くしかない、それがお漏らしの真最中でもね」 「いやん、恥ずかし過ぎて気絶しそうです」 何事も無かったことに安堵した表情を一瞬見せたみほだが、直ぐに見られたことを想像したのかM女の表情に変わってしまった。 「さあ出発しようか?下着を買わなきゃいけないな、海沿いを走りたいって言ってたな。相模湾沿いに西に向かうか東京湾に沿って東に行くか」 「下着も買わなければいけませんので、都内の方がいいですよね?」 「そうなんだけど、せっかくのロードスターだから西湘バイパスから箱根ターンパイクを抜けて御殿場のアウトレットも捨てがたいかな? 特にターンパイクが。。。」 「車の運転がお好きなんですね」 「ロードスターは滅多に運転出来る車じゃないし」 「わたしは山道はあまり運転したくないのですが、ヒロ様に運転していただけるなら」 「うぅん迷うな。。。」 「あなたでも迷うことあるんですね?」 「当然だよ、迷うことはたくさんあるよ、決断は早いけど。。。じゃあ、またこれを元の位置に入れようか? 股縄を少しずらして完全に入れてしまえば出て来ないだろうから」 ポケットに隠していたローターをみほに手渡した。 「ああぁん、かおりさんがおっしゃってましたけど、あなたって本当に悪戯っ子がそのまま大人になったみたい」 「そうかも知れないね、でもそれは褒め言葉と受け取っていい?」 「そうですね、と言われたことをやらなきゃいけない気にさせられます」 「じゃあ、いれてごらん」 みほは身体を少し前に屈ませると多少緩んだ股縄の隙間からローターをクレバスに潜めた。 「入りま。。。」 みほが言い終わる前に唇を塞ぎ、同時にリモコンのスイッチをハイのモードにした。唇を塞がれながらもみほは喘ぎ声を発した。ルームミラーに多機能トイレから現れた清掃員の姿を捉えた瞬間に唇を離しスイッチをオフにした。 スイッチを入れたままだと失禁してしまうかも知れないし、もとより甘い蜜を溢れさせてワンピースのヒップの位置に沁みを付けてしまうだろう。そのまま助手席のシートにすら沁みを残すかも知れない。 「みほ、タオルは持ってきてるよな?ワンピースに沁みを付けないように敷いた方がいい。おれのハンカチじゃ役に立たないだろうから」 ペットを飼っているならペット用のシートを持って来るよう伝えていたが、あいにくペットは飼っていなかった。シングルマザーとしてフルタイムで働くみほには、ペットの世話に費やす時間はなかった。 「これでいいですね?」 足元に置いた藤で編んだバスケットから、吸水性が高そうなパイル地のタオルを取り出したみほの表情はM女と言うよりは、ピクニックに出掛けるガールスカウトのように感じられた。ほんの数分前に失禁して神に祈るシスターのような表情とはまるで別人のようだった。 「みほ、なんかこれからピクニックに行く雰囲気になってないか?ついさっきお漏らししたとは思えないな。気を抜いていると突然スイッチを入れられるから覚悟しとけよ」 「はい、覚悟してます、悪戯っ子さん」 「じゃあピクニックに出発しよう。横羽から首都高ルーレット、そしてレインボーブリッジを渡ってお台場に行こう」槌 槌 完全にリラックスモードに突入したかのように、みほは楽しそうに答えた。常時緊張を強いるより『バッハのパルティータ』のように楽章により緩急を織り交ぜてやるのがいいだろう。 槌 バッハに影響を受けたその後の作曲家たちは自由な発想で『アルマンド』をとらえ、さまざまな幅のテンポのものが作曲されたと聞いたことがある。それならみほには、さまざまなテンポでM女として恥ずかしい体験をさせ、そして覚醒させてやるのが使命だと感じた。
2018/12/03 22:32:07(hW5aINEc)
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