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契約彼女3‐1
本当にいいのか……と、自問自答を繰り返している俺。 夏合宿を1週間後に控えていたある日、俺はお金を下ろすべきかどうか思考を巡らせていた。 と言うのも、今手をつけようとしているのは、元カノの住む地に行くための交通費等を預金している口座なのだ。 単純に考えてもうそこへ行くことはないのだが、しかし友恵との交際費に充ててしまって本当にいいのだろうか……。 一人うんうん悩んでいたのだが、行員の怪訝な眼差しに後押しされ、とうとう俺はお金を下ろすことに決めてしまったのだった。 本当に終わったんだな。 元カノとの関係に終止符が打たれたことを改めて実感しながら、俺は家路についた。 盆の時期が始まったばかりだというのに、友恵は実家に1泊だけして戻ってくると言う。 そして今日の夕方までに俺に会いに来るそうだ。 「早く会いたいんですっ」 と言ってはいたが、真意は知らない。 南中高度から少し西へ傾いた太陽に晒されながら、漸く見えてきた自宅のドア。 鍵を差し込み、捻り、開け放つと、見覚えのある白いミュールが目に飛び込んできた。 「はやっ!」 思わず声を上げていた。 それを聞き付けてか、メインスペースへ続く短い廊下の向こうにあるドアの磨りガラスに、人影が写り込んだ。 「仁さんっ!」 言うが早いか、友恵は思いっきり開け放ったドアもそのままに俺に駆け寄ると、飛び込むという形容がぴったりなほどの勢いで抱きついてくる。 まるで、父親の帰りを待ちわびていた子供のようだ。 しかし胸元から俺を見上げるその表情は無邪気な笑顔ではなく、寧ろ今にも泣き出しそうなくらいに切迫していた。 地元に帰りたがらない俺には、その表情の理由がなんとなくわかってしまう。 「どっか行こっか」 そんな友恵を不覚にも可愛いと思ってしまった俺は、自分の内心を誤魔化すようにそう言っていた。 「……はいっ」 彼女は嬉しそうにそう答える。 無理に笑顔を作って。 でも、ここで悲しみ合っていては何のための関係なのかわからなくなってしまう。 半ば自分にそう言い聞かせていた。
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2010/10/02 08:33:29(0oFZNxJP)
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