（霞ヶ関ビル内の一室。大きな机に座っているのは警
察庁特殊捜査班の池永次長で、その前で黒のスーツ姿で
立っている特殊捜査班係長の暁里奈警部補）
　「…というわけで、今回の事案は警視庁と厚生省の麻
取りで行うことになった。君が集めた情報も全部警視庁
に引き渡す」
　「次長っ、待ってください！こちらは一年以上もかけ
て奴らの実態をようやく暴き出したのです。二人の犠牲
者も出してます。今更ここで手を引くなんて、死んだ同
僚たちに顔向けできませんっ！」
　「そういう個人的な感情で動かれても困る。我々も組
織の一員であるし、後は大きく動ける部署に任せるしか
ない」
　「…わかりました。私一人でも追い続けます。失礼し
ます」
　（そういって室を出る暁里奈）
　（ビル待の歩道を顔をしかめながら歩く里奈の脳裏に
悔しい追憶がいくつも浮かぶ。麻薬組織の二人を廃屋に
なった倉庫に追い詰めた里奈ともう一人の捜査官の小暮。
敵の一人は暗闇の中から目くら目っぽうにマシンガンを
撃ち続けてきてる。その凶弾に小暮が撃たれ倒れる。二
人の敵を射殺して小暮に寄った里奈。絶命している小暮。
もう一人の仲間は半年の歳月をかけて敵方の組織に入り
込むも、途中でスパイと発覚し、見せしめのように車の
座席に縛り付けられて海に沈められていた。里奈の表情
に強い決意が漲る）
　（数日後、里奈の携帯にメールが入る。お前の母親を
拉致した。そちらの捜査官の顔写真入り履歴を持って埠
頭の第三倉庫の地下に一人で来い。仲間に報せたら母親
の命はない、という文面と里奈の母親が衣服をはだけら
れ男に乳房を揉まれている写メールが一枚添付されてい
た。そして里奈は単身で指定された倉庫の地下に潜り込
む）
　（外にいた二人の見張りを撃破して暗い階段を下りる
里奈。明かりの点いた室のドアに潜む。中から女の妖し
げな嬌声と男たちの笑い声が聞こえる。意を決してドア
を開け中に飛び込む里奈。手に翳した拳銃の銃口を一味
のボスに向けた里奈の目に、壁に接したベッドの上で母
が全裸で仰向けにされて裸の男のつらぬきを受けていた）
　「遅かったじゃねぇか。お前が遅れたせいで、見なよ。
お前の母さん若い男の餌食になっちまってるぜ、ふふ」
　「早く母をこちらに渡してっ！」
　「そちらの資料渡しが先だ。早くしろいっ」
　（しばらくの睨みあいの後、里奈は革ジャンのポケッ
トからＵＳＢメモリーを出し一味のほうに投げつける）
　「早く母を返してっ！」
　「そうはいかねぇやな。このメモリーがモノホンかど
うかチェックしねぇとな。…それに見なよ。あんたの母
さん、あんないい顔して男に抱かれてるじゃねぇか。ち
ょこっとだけ薬打ってやったらあの通りだ。もう少し楽
しませてやったらどうだ？」
　（ベッドの上を見ると両足を高く持ち上げられて若い
男のつらぬきを受けている母の顔には嫌悪の表情という
ものはなく、愉悦に似た今まで里奈が見たこともないよ
うな恍惚な表情だった）


　　　　つづく
　

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