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1:ありゃま!<7>
投稿者:
庄司
部屋の中に重い空気を感じ
「帰ります」 と、立ち上がると 「待って、今夜は帰らないでここにいて、お願い」 松原さんがおれを止めようと足にしがみついた。 「わかってくさだい。おれにはあなたを抱く資格なんかないんです」 松原さんを振りほどこうとすると 「あなた、まさか、復讐って何をする気なの?」 「女のあなたにならわかるでしょう」 「まさか・・・・・・レイプする気?そんな馬鹿なことやめて」 おれは、すがる松原さんの手を振り払い 「あの女・・・・・・あの女だけはゆるせません。どんなことがあっても」 と、松原さんに宣言した。 「そんなことしたら、捕まるじゃないの。お願いだからやめて」 松原さんはそういったが、踵を返し松原さんの部屋を出た。 部屋に戻ると、電源を切ったままの携帯が転がっていた。 家を出てから、一度も電話をかけなかったが、覚悟を決めて家に電話をし た。 「もしもし、野田ですが」 すぐにつながった、父の声だ。 「あっ・・・・・・おれ、庄司」 「ばかもんがどうして連絡ぐらいしないだ。電話ぐらいかけられるだろう」 耳が痛くなるような大きい声で、怒鳴っておれにいった。 「ごめん、でも仕事はしてるんだ。派遣会社の警備員だけど」 「そうか、大事な話があるから帰ってこい!今度の休みに」 「大事な話って何だよ」 「いいから、帰って来い。わかったな」 父は、念をおすとガチンと電話を切った。 <大事な話ってなんだ?> そう考えていたが、疲れと酔いでそのまま眠ってしまった。 翌日に会社に行っても、祐美子への復讐の思いと父の帰って来いというあ の言葉が交錯して、どうしていいかわからないまま、仕事をしていた。 松原さんの気持ちを知ってか、池上さんと相原さんもおれの前を素通りし ていった。うわの空で仕事をしたまま時間が過ぎ、休みの前の晩にもう一度 家に電話をかけた。 <祐美子のことより、おやじの言葉の方が気になる> 「はい、野田ですが、どらさんですか?」 「おれ・・・・・・庄司」 「庄司かい、父さんにきいたよ警備員しているんだってね」 「ああ、明日の休み、家に帰るよ」 「そうかい、なら帰ってきな、大事な話もあるしね」 「大事な話って何なんだよ」 「帰ってくればわかるよ、いいね」 母は、冷静にいうと電話を切った。 駅から歩いて家にむかい、玄関前に着くと、自分の家なのに、なぜか緊張 しているのがわかった。 「ただいまー」 と、玄関を開けると 「おかえり、早くあがんな」 母は、少し不機嫌そうにおれにいった。 くつを脱ぐと、なぜか女ものの、赤いハイヒールがあった。 「なんだ、お客さんでもきてるのか?」 「ああ、おまえにね」 「えっ?客?おれにか?」 「そうだよ、だかにそんなとこにつっ立ってないで早くきな」 母は、しびれが切れたのか、おれに怒鳴った。 おれが、家に上がり、奥の部屋に入ると、一瞬自分の目を疑った。 「こんにちわ、野田くん」 なんと客は、松原さんだった。 すると、父が近寄ってきて、思い切り殴ると 「この馬鹿野郎が!自分が何をしようとしてるのかわかってるのか」 と、いって起き上がろうとしたおれをもう一度殴った。 母が、父の横ですすり泣いている。 黙ってみていた松原さんが、ようやく重い口を開いていった。 「野田くん、ごめんね。わたし、どうしても止めたくて、前もってご両親に 伝えていたの」 松原さんは、涙をにじませながらおれにいった。 父は、興奮が治まるとおれに 「松原さんはな、おまえが大きな間違いを犯しそうだといって、連絡をくれ たんだ。おれは、おまえの会社に電話して、無理やりにでも連れて来ようと したけど、覚悟が決まれば、おまえが必ず電話をしてくるはずだから、待っ ていてくださいと頼まれたんだ、それなのにおまえは・・・・・・」 強く握りしめた拳が、わなわなと震えながら、父は、涙を流しながらおれ にそう説明した。 すべて、松原さんの計画通りだったのである。 おれが、酔いつぶれて松原さんの部屋に泊まったとき、松原さんはおれの 秘密を知った。祐美子に復讐を考えていることも・・・・・・・。 何とかそれを止めようと決意した松原さんは、社員名簿で、おれの家の電 話番号を知り、そのことを両親に打ち明けた。 ひどく心配した両親は、おれを連れてくるといったが、今は、自分の気持 ちと葛藤しているようなので、わたしに考えがあるので任せてもらえません かと、うちの両親を説得したという。 そして、池上さんを使って飲みに誘い出し、池上さんと相原さんは、酔っ たふりをして、おれと松原さんを残して帰る。 松原さんが、おれにさぐりを入れるように誘ったが、おれは寄らずにその まま帰った。 あの夜も、おれの真意をさぐるべく誘惑したが、犯罪者になろうとも復讐 を決心したおれの覚悟を確信して、おれが帰った後、家に電話をいれ、必ず 今夜電話してきます。間違いないと両親に報告した。 案の定、おれは家に電話をし、松原さんと両親の計画にまんまと乗っかっ てきたと、こういうことらしい。 父が、改めておれにいった 「いいか、庄司。松原さんはな、おまえがふらふらした状態で怒っても、絶 対にあきらめないはずだ。だからゆるぎない決心が固まらない限り、怒って も目が覚めないだろう・・・・・・そこまでいってくれたんだ。こんなに心 配してくれた、松原さんに感謝するんだな」 その夜、おれは松原さんの部屋にいた。 両親の前だと、照れくさいので、改めてお礼をいうと 「いいの、わたし、本当にあなたが心配で・・・・・・ 愛してるの、あなたを。これだけは信じて!」 松原さんは真剣なまなざしで、おれの顔をみつめるようにいった。 その言葉をきいて、松原さんを強く抱きしめていた。 おれは、松原さんに口づけすると 「こんなおれのために・・・・・・・おれも松原さんが好きです誰よりも」 そういって、そのまま倒れこみ、松原さんを抱いた。 松原さんは、顔を赤らめ喘ぎ、激しく悶えていた。 おれたちは、お互いの愛を確かめ合うと、深い眠りについた。 そして・・・・・・休みが明けた月曜日。 おれは、信じられない事実を、祐美子と松原さんに聞かされるとは このときは、まだ、思ってもみないでいた。
2006/04/22 02:31:08(4rf8w8DX)
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