風俗初体験をしたおれはちょっとだけ自信がついて、翌日はいつもより早
めに出社した。
　受付の横に立ち、出社してくる社員に
　「おはようございます」と、いいながら右に左にあいさつをした。

　祐美子の会社の社屋は、三階建てで派手さはないが、一階の奥には警備員
室もある。　
　勤務時間になり、警備員室ではおれと加藤さんだけしかいないが、今日の
打ち合わせをしていた。
　「じゃあ今日は、野田さんが残業で残るということで・・・」
　「わかりました」と、おれが席を立とうとすると
　「そうだ・・・・社長が、今夜は会議が長引くので、残業の人は社長室の
階を中心に見回りしてくれって」思い出したように、加藤さんがおれに言っ
た。

　派遣されている社員以外は、ここのオフィスにいる約二十人ぐらいで、接
客や派遣の依頼などを全て行っているので、来客が多いほど警備員のおれた
ちもいそがしくなる。
　この日夕方の六時過ぎには、だいたいの社員が帰りあとは三階で会議をし
ている社員だけになり、言いつけどおり三階を中心に見回りをした。

　九月も半分が過ぎると「つるべ落とし」と言って、明るかった空が一気に
暗くなる。季節が、夏から秋に移り変わる頃でもある。
　八時を過ぎたころ、社長室から席を立つ音や
　「おつかれさまでした」という声がいくつも聞こえてきて、会議が終わっ
たようだった。
　「野田くんお先に」と次々と声をかけられ
　「お疲れ様です」と帰る人におれも声をかけた。

　社長の祐美子だけがまだ出てこない。
　仕方なく立っていると、ようやく祐美子が出てきておれに気づいた。
　「あら、あなたが残業なの」祐美子は冷たい態度で言った。
　「はっ」とおれは直立不動で立っている。
　「わたし・・・・・・まだやることがあるから、あなたは帰りなさい」と
どうでもいいような言い回し方だった。
　「お先に失礼します」と言ってエレベーターに乗り、一階で降りて警備員
室で考え事をしながら着替えた。
　<完全におれのこと飼いならしたと思っているな>
　着替え終わって時計を見ると、九時を回っていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

　仕事にも慣れて気持ちが落ち着いてくると、実家のことが気になり電話で
もしようと思ったが、勘当同然で家を出たため今さらと思い電話するのをや
めた。父は大工職人でしかも飲兵衛ときてる、飲みすぎると母といつも夫婦
喧嘩をしていて、耳を塞ぎたくなることもしばしあった。
　とにかく、早いこと祐美子にこの屈辱をはらさないと先に進まない。
　しばらくは辛抱しなくてはいけないが、どうやったら屈服させられるかそ
ればかりが気がかりだった。

　九月の給料を貰った。今度は祐美子ではなく加藤さんが、社長からついで
だからとおれの分も渡されたと、警備員室でおれに渡してくれた。
　<先月はあんなことあったから警戒してるな>
　給料が出たので、また珠美さんの店に行こうと電話をし、日曜の夕方に予
約を入れて日曜日まで待った。
　日曜日はたまっていた洗濯をして、何もないが部屋の掃除をしてから店に
行くことにした。


　店に行くとまた入浴料をただにしてもらい、すぐさま珠美さんのところへ
案内してくれた。
　「指名していただいてありがとうございます」と、言ってから部屋に入れ
てくれた。
　「また来てくれたの・・・・野田さんよね確か・・・・・」
　「そうです。よく覚えてますねえ一回しか来てないのに」
　珠美さんは笑いながら
　「覚えるわよ～女の体のことであれだけ根掘り葉掘り聞かれれば」
　「あっそうでしたね。すいませんでも勉強にはなりましたし、給料貰った
らまた来ようと・・・・それで今日来たんですよ予約して」
　「あらァうれしいこと言ってくれるじゃない。でも今日は飲みすぎないで
ね」
　「あっ・・・・・気をつけます」と言って、今度は自分で服を脱いだ。

　「水割りでいいんでしょう」
　「そうですね・・・・・・」と答えると、珠美さんはグラスを持ってきて
二つ水割りをつくった。
　「乾杯」と二人で水割りを飲むと何だかほっとした。
　「今日はおいしく感じます」とおれが言うと
　「この前はひどかっものね。続けてガブガブ何杯も飲んだでしょう。わた
しちょっと引いたわ～何だろうこのお客さんって」とこの間の感想を話し出
した。
　「アハハ、頭クラクラしてましたよほんと」と照れ隠ししたが
　「で、今日も聞きたいことあるの？」珠美さんが急に話題を変えた。
　「なぜですか？」おれは珠美さんに聞いた。
　「すぐ来るくらいだから、また聞きたいことがあるんじゃないかなと思っ
て聞いたんだけど」珠美さんもするどかった。

　「あの・・・・気が強い女の人ってプライドとかも高いですよね」とスト
レートに聞くと
　「う～んいちがいにそうとも言えないけど・・・・・」
　「そういう感じの人って簡単に身体ゆるしたりするものですか」と普通のО
Ｌには聞けないことも珠美さんには話せる。
　「あるかもね。ただ・・・決めつけちゃだめよ。意地張ってる場合もある
し、相手をよくみてないとわからないこともあるから」女の人から直接聞く
と説得力があると思った。
　まずいかなとは思ったが、こんな質問もしてみた
　「質問しづらいですけど、思いきって聞きます。そういう人って自分で慰
めたりするもんですか？例えば道具使ったりとか」ずけずけと珠美さんに言
うと
　「・・・・・答えづらいこと平気で聞いてくるわねえ」と珠美さんは間を
おいたが
　「うん・・・してるといえばしてるし、しないっていうのも嘘になるし、
ただ道具は個人の好き好きだと思うけど・・・」と口を濁したが
　「変な質問ですいません。もういいですから」
　「そう、ならいいけど」
　これ以上の質問は意味がない、というか始めから意味がないかも思った。
それにしても、いくら客だからといって、質問に答えてくれた珠美さんの気
持ちがとてもうれしかった。それに質問ばかりでは、ここに来た意味がな
い。
　
　「そろそろ楽しまないと時間なくなるわよ」と珠美さんはベッドに仰向け
になって寝た。
　「もう言うこともないし、好きにしていいのよ」
　ソープはキスはダメということなので、教えてくれたようにやってみた。
　「あん、そんな強く触ったら痛いわよ～ゆっくりでいいんだから」
　といきなりダメ出しをくらい萎縮してしまった。
　「ほら・・・・・優しく・・ねっ・・・そう・・・その感じ、いいわよそ
れで」結局珠美さんにリードしてもらうはめになり、そのテクニックでもろ
くも一回目はすぐにイッた。
　　
　「あなたパワーが有りすぎて・・・・・・そうねえ、お母さんの肩とか揉
んだことある？」
　「はあ・・・・・たまに」
　「あなたの場合ちょっと力を入れて揉んだら、お母さん痛がらなかっ
た？」
　「あっそういえば・・・・・」
　「それと同じことよ、女性の身体って男とは違うんだから」
　珠美さんの説明はとてもうまくて、おれは感心していた。
　「ちょっと～感心なんかしてないで、もう少し優しくしてね」
　二回目になるとさすがに感覚を掴んだのか
　「そう、その調子・・・・うん・・・あん・・・そう・・・優しく・・・
されるとね・・・女って感じやすくなるの・・・そう・・・いいわァ・・・
アン・・・」珠美さんがそう言ってくれると興奮してきた。
　「アン・・・・入れていいわよ」
　そして自分からゆっくりと押し入れた。
　「アア・・・そうよ・・・優しく・・・優しく・・・アア・・アァ」
　でもやっぱりすぐにイってしまい、時間切れとなった。

　「だいぶよくなったね」と着替えてると珠美さんが言ってくれた。
　サービス料も半額まけてもらい、帰ろうとすると
　「野田さん、また来てね」と珠美さんが笑った。
　「給料もらったらまた来ますね」と言って店を出た。

　帰りの電車の中で、ふと考えた。
　祐美子を抱いた夜のことを
　<あの時・・・・・おれは自分のことでいっぱいで、あの女がイクなんてあ
りえないよなァ。あれはたぶんイッたふりしてたんだきっと>

　それに気がつくと一瞬で落ち込んだ。

　あの女を屈服さすには、女心もわかってないし、テクニックすらない。

　もうしばらくは辛抱して、珠美さんに全て教えてもらおうと思った。

　　
　

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