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1:それからどうした
投稿者:
ま
人物。
岡崎みづほ。21歳。 青山幸平。21歳。岡崎の恋人。 所。 都内某所。青山の自宅アパート。 時。 12月25日。岡崎が強姦せられたる直後。 青山は一人うつむき、6畳間の真ん中に置かれたこたつに入っている。そ の表情は暗く沈み、陰惨を極めている。そこへ、シャワーを浴びたばかりの 岡崎が来る。岡崎は青山を見て、小さな溜息を漏らし、無言のまま青山の隣 に寄り添って座る。 しばし無言のまま、無造作につけられたテレビなどを見ている。岡崎は、 そのテレビから時々発せられる笑い声に合わせて、自らも笑ってみせるが、 無理に明るく振舞おうとしているのが明白で、青山はにこりともせず、反っ て気まずさが増すばかり。 それからまた沈黙。やがて岡崎が重々しく口を開く。 岡崎「私は、ちっとも、なんとも思ってやしないわよ。誤解しないでね。そ りゃ、ショックだし、悔しいし、むかつくけど、もう、過ぎたことじゃな い。お互い、怪我はしてないんだし、これからの生活に、なんの支障もない じゃない」 青山、うつむいたまま。 青山「俺がもっとしっかりしていれば…」 岡崎「やめて。幸くんが悪いんじゃないじゃない」 青山「俺がもっと力が強ければ…」 岡崎、深く溜息をつく。 岡崎「あのね。私ね、あの間、意外と冷静だったのよ。幸くんのことだけを 考えていたから。あんな奴らに、なにをされても、私なにも感じなかった。 体をね、奪われちゃっても、幸くんのことだけを思っていたのよ。わかる? 私はね、こう考えてたの。体を奪われても、心は奪われやしないって。私の 体は、処女でなくなったかもしれない。けれども、心の処女は、なくなっち ゃいないわ。心の処女が残っていれば、それは、体も処女と同じなのよ」 青山「あんなことされても、平気なのか?」 岡崎「平気なわけないでしょ。でも、平気よ。膜が一枚、あるか、ないかじ ゃない。どうってことないわよ」 青山「でも、せっかく…」 青山の表情は晴れず、岡崎はイラつき、顔をしかめ、語調を強める。 岡崎「悲しいのは、こっちよ!やられちゃったのは、私なのよ。どうして、 私が幸くんを慰めなきゃならないのよ!もっと、私を慰めてよ。いつもみた いに優しくしてよ。私のほうが、私だって、楽しみにしていたのに。もうす ぐで、幸くんと…初めては、幸くんとだって決めていたのに…すごく、楽し みにしてたのに…。私は、処女でなくなってしまった。私の体は、汚れてし まった。………でも、私は、私なのよ。処女って、何?貞操って、何のこ と?私には、わからない。例えそうでなくなっても、私には幸くんがいる。 幸くんへの思いは変わらない。そう、思って、生きていこうって、決めて、 それなのに…」 言っているうちに声は弱弱しくなり、目には涙があふれ、ついには嗚咽に 変わる。青山は、岡崎の言葉に、はっとして、一瞬当惑するが、なにか決意 したような顔をすると、岡崎の肩を掴み、口を開く。 青山「わかった。わかったよ。悪かった。お前の気も知らずに、俺だけが勝 手に悲しんでしまった。もう、悲しむのはやめよう」 それでも嗚咽がやまぬので、青山は岡崎をそっと抱きしめ、しばしそのま ま。やがて落ち着き、体勢は変えずに、岡崎が言う。 岡崎「しよう」 青山「うん?」 岡崎、顔を上げ、青山を見る。笑っている。 岡崎「初エッチ、しよう」 岡崎、目をつぶる。青山、そっと唇を重ねる。 後日談として。岡崎の独白にて。 あの後、私は、ほとんど自力では動けませんでしたので、彼に抱えられる ようにして、彼の家に向かいました。体の震えが止まりませんでした。それ は、強姦されたショックなどからそうなっているのではなく、ただ、彼への 恐怖心。そのために、私の体はがたがた震え、彼から逃げ出したい衝動さえ 湧き起って、それを抑えるのには骨が折れました。 それほどまでに私に恐怖を感じさせるものは、やはり、あの眼光です。死 魚の眼球のようにどよりと濁っているのに、ぎらぎらと不吉な光を放ってい る、あの瞳。どうしても、どうしても嫌な予感をぬぐえなくて、眼を閉じて 忘れようとしても、脳裏に焼き付けられたあの光が、暗闇の中にぽっととも って、私に、窒息しそうになるほどの恐怖を与えるのです。 彼が、それからどうなってしまうのか、それだけが心配でした。 彼の家に着いてから、まず、シャワーを浴びましたが、体の汚れを落とし たいよりも、ひとまず、彼から離れたい気持ちの方が強かった気がします。 暗澹たる気持ちで、シャワーを浴びながら、どうしようどうしようと、けれ ども良い案はちっとも浮かんでこず、沈んだ気持ちのまま部屋に戻り、彼の 顔を恐る恐る見てみますと、もう、険しい顔も、すごい目つきもしていなか ったので、私は心底、本当に、この上なく、かつて味わったことのないくら い、安心しました。 しかし、今度は、落ち込みきっているので、それには困ってしまいまし た。励まそうとしていたら、先のことを思い出し、悲しさが堪えきれなくな って、取り乱してしまって、彼を責めてしまったのは、申し訳なく思ってい ます。けれども、すぐに立ち直って、いつもの彼に戻ってくれたので、私は また安心しました。 ムードが出てきたかな?と思ったので、ついに、念願の、彼との初エッ チ、といきたかったのですが、実は、そのときはできませんでした。さんざ んめちゃめちゃにされたので、あそこが痛くてたまらず、彼はすでに準備万 端の状態になっていたのに、どうしても入れてもらう勇気が出ず、私は、情 けないやら、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで、泣きじゃくって謝りまし た。すると、彼は少しも不満を口にせず、きっと残念でしたでしょうに、私 をいたわってくれましたので、私は幸甚でした。 痛みはなかなかとれませんでしたが、そろそろ大丈夫、というところで、 ついに、ようやく、しました。ロストヴァージンです。誰がなんと言ったっ てそうです。気持ちよかったです。世の中、色々な趣味の人がいると思いま すが、私は、自分が一番好きな人と、ちゃんと愛し合いながらするセックス が、一番気持ち良い者だと思います。 彼のおかげで、私は今、幸せです。けれども、ただ一つ不安なことは、 時々、思い出すのでしょう、彼が、あの眼光をみせることです。ふと見る と、中空をみつめながら、あの顔、あの眼をしていることがあって、それを 見た私は、途端に恐怖に竦んで、ひっと情けない声をあげてしまうことさえ あるくらいで、彼は、その声に驚いて、私を見て、どうしたの?と言うとき にはすでにいつもの彼に戻っていて、私は安堵して、なんでもないわ、しゃ っくりかしらね、なんて馬鹿な誤魔化しかたをして笑う、なんてことが、一 度や二度じゃないのです。 本当に、幸せなのですけれど、あの眼を見せるうちは、不安が尽きないだ ろうと、それだけは閉口です。
レスを見る(1)
2006/01/02 15:11:06(5RWJV5Sc)
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