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1:背信1
投稿者:
貴一郎
肌の上を慌ただしくまさぐる男の愛撫に身を任せながら、由紀は夫の亮輔
を思った。 (あなたが悪いのよ。由紀のせいじゃない……) 北海道・富良野のホテルの一室。嗅ぎ慣れない男の体臭が、今の状況をい やが上にも認識させる。これから別の男に抱かれようとしている自分を、由 紀はどこか客観的な気持ちで見ていた。それでも豊かな肢体に潜む官能が、 ゆっくりと確実に呼び醒まされていく。 結婚五年目、二十九歳になった由紀は雑誌のフリーランスのライター。出 版社や編集プロダクションからの依頼で取材をし、原稿にまとめるのが基本 だが、その美貌を評価され、モデルを兼任することもある。旅行雑誌『K』も そのひとつで、由紀は訪れた土地の名所でくつろぐ姿や、名物料理に舌鼓を 打つ姿を写真に撮られ、誌面を飾る文章を書く。かれこれ三年続けている仕 事だ。 全行程六泊の予定で訪れた北海道取材旅行の三日目。スタッフ全員で食事 をした後、ホテルまで戻ってきたところで、編集者の川村が他聞をはばかる ようにそっと囁いた。 「これから、ふたりだけで飲みに行こうよ。いいじゃないか、ね?」 川村が毎夜のように、自分を誘う隙をうかがっていることはわかってい た。断られても断られても、めげない男。だが今度は違った。由紀は黙って 首を縦に振ったのである。むしろ、そんな由紀の反応に川村のほうが戸惑っ たように見えた。 「じゃあ、十分後に一階のロビーで」 秘密めいた口調で告げられたときから、今夜は最後の一線を越えてしまう だろうという予感はあった。二軒目のカラオケボックス。横に腰掛けた川村 の手がさりげなさを装って背中に回されるのを、醒めた意識の片隅でぼんや り受け止めていた。拒絶されないとわかると、川村はさらに腰へ、ついには 太股の感触を味わうように撫で回し始めた。 午前一時過ぎ、再びホテルまで戻ってくると、川村は当然のように由紀の 部屋のあるフロアまでついてきた。それほど酔ってはいないつもりなのに、 エレベーターを出る頃には、由紀はいつか肩を抱きかかえられ、川村の肩に 頭を預けていた。
2005/10/30 22:22:55(P.5dDUgM)
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