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1:通勤快速
投稿者:
貴之
新婚とは呼べなくなった頃のある日、ニュース番組で流れた痴漢被害についての街頭インタビューの映像を見ながら、私もされたかもしれないと妻が言った。
当時は妻も働いていて同じような混雑の電車だったのだが、驚きはしてもそこまで現実味を感じられずに「なら、同じ車両に乗って、確かめればいいじゃないか」と笑った。 当然、妻には冷たい目で「バカ」と言われて終わった。 翌年には子供を妊娠し、妻は婚前から勤めていた会社を辞めて子育てに専念したこともあり、それに関する話題が出たことは一度もなかった。 妻が34歳、子供が10歳になる頃、また働いても良いかと提案された。 昔の会社ではないが、同じような職種のパート先まであたりをつけていた用意周到な妻に向かって強く断る理由を見つけられず、100%賛成とゆうわけではなかったが許可した。 パートに出始めた妻は、暫くはだいぶ疲れているように見えた。 職場のストレスか、何か失敗でもしたのか、、、などと考えさせられる雰囲気を醸し出している日が増えた。 こうゆうタイミングで必要以上に声をかけるのは鬼門。 そう考えた俺は、あえて気配を消すよう努めながら過ごしていた。 「私に興味がないのか!」とゆう言葉に類似するケンカを数回繰り返したりはしたが、平和だと思いながらの生活だった。 何度目かのケンカの次の日の朝、出勤前に支度している妻に声をかけた。 「今日はスカートなのか?」 「何か文句あるの?」 トゲのある言葉の妻にまだ機嫌が悪いと判断した俺は、ごまかしながら玄関を出た。 パートタイムの妻の身支度など、見たのは初めてだった。 こんな時間に身支度するなんて、、、その違和感に気づいていれば、以降の出来事は防げたのかもしれない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 心臓が止まるかと思った。 普段は見向きもしない旦那が、よりによってスカートを指摘するなんて。 旦那が出勤して後も、焦って強くなった言葉がわざとらしくなかったか気になって仕方がなかった。 仕事に対するストレスは限界だった。 指示の遅い上司、ミスばっかりする社員、私の仕事に嫉妬してるとしか思えない古参パート。 1つ1つにイライラした。 何ヶ月も前に辞めたいと思ったけど、それを旦那に言うのは気が乗らなかった。 つまらない意地で、せめて何か残してから辞めると言いたかった。 旦那はいつのまにか求めてこなくなった。 その事も腹立たしくて悲しかった。 いつのまにかおかしくなってた。 私は、誰かに求められたいと願うようになった。 そして、おかしくなった私の頭が出した結論は痴漢だった。 自分でもバカげてるとは思った。 でも考えれば考えるほど、私が求めてる事にぴったりだと思えた。 誘ったり、お膳立てなどのない、全くの他人の状態から求められる魅力が私にあるのか? リスクを犯してまで求められる魅力が、私にあるのか? 私はまだ、社会人だった頃に近いのか? 私は短めのスカートをはき、化粧をした。 そうして、あの痴漢の電車、同じ時間の同じ車両、同じ扉に乗り込んだ。 一度、旦那に痴漢されたかもしれないと言った事がある。 ボカして言ったが、あの頃は何度も何度も痴漢されていた。 車両をズラしても数日後には痴漢されていた。 その時、旦那が私に言った一言にドキッとした。 それまで考えていなかった思いが心に湧いた。 もし逃げなかったら、もし同じ車両に乗り続けたら、、、私はどう思われるのだろうか。 はしたないと思った。 何度も、それはあり得ないと思った。 けれど私は、同じ車両に乗り続けてみた。 その日からは毎朝、私は47分間の痴漢を受け入れ続けた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー いつもと同じ電車に乗り、いつもと同じ時間に事務所の机に座った。 メールを確認し、資料を印刷し、会議室のテーブルに並べていると営業部の部長が入ってきた。 朝の挨拶をする俺のほうに振り返った部長は、まるで敵意のような視線を俺に向けた。 そう言えば、今までに何度かあるな。 ただ機嫌が悪かっただけか? 答えもわからず、俺は目を伏せて資料を並べ続けた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 信じられない。 私は公衆トイレの床に座ったまま動けないでいた。 まだ足が震えている。 立ち上がることさえできない。 あの頃と同じ痴漢がいた。 痴漢男は私を見つけ、触れてきた。 あの頃と同じように、少し荒々しく指を私に挿入した。 後悔した。 恐怖を感じた。 でも、求められた悦びも否定できなかった。 動けないまま駅を待った。 怖がりながら濡れていった。 電車の扉が開き、降車する人混みに流されながら腕を掴まれた。 私の左前を足早に歩く男は、私の左腕を掴んだまま人混みに逆らうように歩いていく。 何度か転びそうになりながら着いたのは、駅の改札とは反対側にある公衆トイレだった。 私は何もしなかった。 何もできなかった。 初めてはっきりと見る痴漢男の目が怖かった。 そこが公衆トイレの床と認識すらできずに、ただ震えながら痴漢男がチャックを下ろすのを見ていた。 男がズボンに手を入れたのを見て逃げなくてはと思った。 けれど痴漢男の怒ったような、睨むような目に射られて腰が抜けた。 男の手が私の目の前で、ズボンからオチンチンを引っ張り出すのを見た。 その手はゆっくりと前後していった。 今、私の顔には精液がかかっている。 名も知らぬ痴漢男が出した精液。 前髪にも雫が飛んでいる。 顎から垂れた精液はブラウスに落ちたかもしれない。 私は何分も1ミリも動けず座っていた。 意識がはっきりしていくにつれ、むせ返るような精液の匂いに包まれているのを感じていった。 それはオスの匂いだった。 そして私がメスとして扱われた証明にも思えた。 痴漢男は私の顔の右半分に射精した。 唇の右端に精液の塊がある。 鼻筋にも目蓋のあたりにも。 私はそれが良い事とも悪い事とも考えずに、ただ無意識に舌を伸ばした。 洗脳とはこうするのかもしれない。 味と匂いが、これこそがオスとして私の心の裏側にへばりついていくような気がした。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 家に帰るといつもの妻がいた。 心なしか上機嫌にみえる。 何か良い事があったのかもしれない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 痴漢男には恐怖を感じる。 けれどそれは本能的な強者と弱者の関係がもたらす感情なのかもしれない。 とにかく私の心は満たされていた。 求められた。 役目を果たすほど認められた。 本来ならば屈辱であるはずの出来事は、私に理由の説明できない達成感を与えていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー またうっかり声をかけそうになってやめた。 朝のこの時間は難しい。 昨日は怒られ、一昨日は無視された。 その前、先週はどうだったか、、、とにかく朝は悪手を引く確率が多すぎる、、、。 もう何ヶ月になるかわからないが、俺はまた声をかけずに玄関を出る。
2017/12/11 20:23:19(JppgJ1Vv)
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