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1:私という女
投稿者:
玲子
あの忌まわしい出来事は私の記憶から消えることはなかった。
何かに集中していたとしても、手が空くとどうしても思い出してしまう。 病院にも通った。 幸いにも体は直ぐに癒えたものの、心は簡単ではない。 恐怖、快感、嫌悪。 私は否応なく相手に応じた。 そして、不覚にも途中からは自分を制御できなかった。 あんな相手に。 幸いにも私の日常生活はある程度の心の新陳代謝を促す役目を果たしてくれた。 私の自虐的な性欲は嫌悪というブレーキをかけた。 いつしか仕事に忙殺される日々が続き、季節も移り変わっていた。 相変わらず汚れた記憶は鈍痛を伴って心の隅に居座っている。 それでも私が重ねた年齢は、独り身の女であるがゆえの図太さを身につけていたようだ。 ある日、束の間の暇を見つけ電車に乗った。 本当は車でと思ったが、道のりを考えると電車のほうが楽だったのだ。 今日はどこに行こうか。 ふらっと降り立った駅、知らない土地の喫茶店、考えただけでも楽しい。 車窓から流れる景色を眺めていると臀部に違和感を感じ、その正体に思い当たると身体が硬直した。 人の手の感触。 その日の服装はパンツスタイルではあるものの、性的接触に恐怖感が直結していることにショックを覚え、身体が震えた。 車内はそんなに混雑していないのに、なんて大胆なのだろうか。 もっと若い女の子のほうがいいに決まっているのに。 間違えてことに及んでいるはずだと勇気を振り絞り、後ろを振り向いた。 まだ思春期を真っ只中であろう男の子がそこに居たことに動揺した。 目が合うと手の動きを止めてうつ向いてしまうような、気弱な子供だったのだ。 ショックだった。 また、始まった。 臀部を触っていたかと思うと、固く閉じた股に指先をこじ入れてくる。 拳を固く握りしめ、身体を悪寒が走り抜ける。 見咎める人が出てきても良さそうなものなのに、気付かないものだろうか。 やがて反応を示す場所がある。 身体をよじり、逃れたくて抵抗を試みようとしたが成功はしない。 こういうときの女の咄嗟の反応は、男に勘違いをさせる。 脇の下が汗ばむ。 脳が理性を薄めていく。 嫌悪感さえも役には立たなくなる。 唯一プライドだけが虚しい抵抗を続けていた。 余りにもの不甲斐なさに泣きたくなる。 けれど、堪らなかった。 そして、憤り、気付いたら相手の手首を掴んで開いたドアから飛び降りていた。
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2016/08/26 18:26:34(tZ.JIRpe)
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