いつからだろう？

いつからアタシはこうなってしまったんだろう？

想像もしてなかった。

なのに、気付いたときにはもう・・・。




あの日感じた僅かな胸のときめきは、翌日にはもうアタシの全てになってしまっていたんだと思う。

彼女の控え目な笑顔が、消え入りそうな透き通った声が、小さな胸の膨らみが、全てに対して遠慮がちな仕草が、アタシをアタシの深淵へと導いていった。


そして・・恋をしている自分に気がついた。

そんな事なんてあるわけが無いと思った。
でも、結局アタシは彼女に憧れ、尊敬し、愛してしまった。


照れたように笑みを浮かべる彼女の知的な表情が、粗野で浮ついたアタシを責め立て嫉妬させる。

それと同時に、その顔に触れてみたい、その唇に触れたい、その体と触れ合いたい、その心と溶け合いたいと願う激しい欲求が体の奥から沸き上がるのを感じてしまう。


でも、それは叶わない願い。
この気持ちを彼女に伝えた時、彼女とアタシの関係は崩れてしまう。


解ってる。
解ってた。
とても苦しかった。
胸を掻き毟るほどに体の表面にまで湧き出す衝動を自分で慰めてきた。


でも、彼女のあの告白を聞いたとき、もう抑えつけておくことが出来なくなった。

だってそうでしょ？
彼女はアタシを見ないもの。
アタシは彼女を見てるのに。
彼女の想いは決してアタシに向けられる事なんてないのをはっきりと解ってしまったから。



───そしてアタシは彼女を奪おうと思った。

理性なんて働かなかった。

あの時、夜の教室でオレンジ色の光に照らされながら自分を慰めていた彼女の姿を思い出して、アタシは壊れてしまったのかもしれない。

彼女の唇に触れたとき、アタシは幸せだった。
彼女の小さな胸を口に含んだとき、アタシは溢れ出す泉の水が全身にまで広がっていく快感を覚えた。
彼女の性器に触れた時、自分と同じ様に泉を溢れ出させている事を知って、例えようもない喜びが湧き上がってきた。


でも・・彼女は拒否した。

泣いていた。

涙を流し、アタシを激しく拒絶した。




あの日からどれくらい経ったんだろう。
そんなに長い月日は経って無いと思う。
アタシは暗闇の底で膝を抱えていた。


ヒドい話だよね。
結局、アタシは自分の気持ちしか考えて無かった。
自分の気持ちを彼女に押し付けて、彼女を陵辱した。

しかも・・しかもだよ？

アタシは、あの時の彼女のカラダを、指先や唇に感じた感触を、思い出しては自分を慰めてる。
彼女と体を合わせる事を想像しながら一日に何回も・・・。


サイテーだよね？

彼女に謝らなきゃいけないのに。
会うのが怖い。
きっと彼女はアタシを許さない。

でも・・・

逢いたい・・・。

一目でもいいから彼女の姿を見たい・・・。

勇気を出して謝りたい・・・。


だから、アタシは毎晩彼女の家へ向かう。
勿論、電話する勇気なんて無いし、玄関のチャイムを押して陽気に挨拶なんて出来やしない。
彼女の部屋の明かりを暫くボーっと眺めてから帰る毎日。
まるでストーカーだね。
でも、もし偶然にでも彼女とばったり逢うことが出来たなら、今度は逃げ出さずにちゃんと謝ろうと思ってた。
アタシにはそれ位の勇気しかない。



今日も日課になった夜の散歩に出掛けた。
家を出る頃は雪が降ってたけど、彼女の家に着いた頃には止んでた。



彼女の家の前に人影が見えた。
もしかしたら・・・。
そう思って近付いてみた。
ドキドキした。
何度も背を向けて帰ろうと思った。
でも、頑張った。
アタシ頑張ったんだよ？

だけど・・・。


神様、酷いよ。
あんなとこ見たくなかったよ・・・。

香奈はアタシを見てた。
アタシに気付いてた。

なのに・・あんな事・・・。



涙が止まらなかった。
解ってた筈だった。
香奈があたしを憎んでる事。
仕方ない、仕方がないんだって自分に言い聞かせたけど・・・やっぱりダメ。



アタシは弱いんだよ？
アタシはこんなに弱くて情けないんだよ？


ゴメンね


ゴメンナサイ


だから


ねぇ香奈


笑って・・・。

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