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1:密かな楽しみ35~孝史と香奈~
投稿者:
瀬名
中村君は紗耶香を好き。
あたしは中村君を好き。 紗耶香はあたしを好き。 住田君はあたしを好き。 この前、痴漢に遭った。 紗耶香は、あたしを襲った。 あたしは・・・ あたしは・・・ さっき・・犯された・・・ 香奈は、熱いシャワーを頭から浴びながら両腕をだらりと落とし、頬に貼り付く髪や顎の先から滴り落ちる水滴をぼんやりと見つめていた。 制服は、それ程汚れていなかった。 神村が撒き散らした精液は、香奈の両方の太股に付着していた位だった。 携帯が無くなっていた。 あの時に落としたのだろうか。 下着を脱いだ時に血が付いていた。 痛みは残っていない。 『もう・・・どうでもいいや・・・。』 香奈はシャワーを止め、風呂場の床に膝を付いて座り込んだ。 『・・・どう・・でも・・いい・・。』 そう呟き、うなだれた時、薄い恥毛に覆われた自分の股間が目に入った。 その瞬間、香奈は右手で強くタイルの張られた風呂場の壁を叩いた。 いくら由美の元カレだとしても、あんな男の話を聞くなんて事をしなければよかった。 自業自得かもしれない。 ただ・・怖かった。 殴られるのが・・殴られる痛みが・・あの男の目が・・声が・・。 怖くて逆らえなかった。 もう、どうでもいい。 恐怖に負けて従順になってしまった事も、犯されて処女を奪われた事も。 香奈は、これまで学校という閉鎖的で特殊な社会環境の中で、目立たず、おとなしく、口数も少なく、自己主張すること無く過ごしてきた。 しかし、香奈の無意識の底にある根幹的な欲求は正反対だったのかもしれない。 思春期の訪れと共に、いつしか 『自分を見て欲しい。』 『自分を知って欲しい。』 という欲求を心の深層に鬱積していくようになった。 これまで香奈の身に起こった様々な出来事は、その鬱積された欲求を心の表層へと押し上げるキッカケになったのだろう。 香奈は、そのリビドーに従い、見事に変化を遂げる事が出来た。 現れた世界は、香奈が望んだ通りに廻りだした。 しかし、見られる事、知られる事は、香奈に常に緊張感を与え続けた。 そして今、張りつめていた糸は、神村からの陵辱によりぷっつりと切れてしまった。 全てがどうでも良くなった。 痴漢に遭った事も、紗耶香の事も、犯され処女を奪われた事実も。 家族に言うつもりもない。 どうせ警察に行って、その内ウワサが広まり、自分は学校で見世物になるだろう。 中村君は、あたしが犯された事を知ったらどう思うだろうか? 優しくしてくれるだろうか? それとも、軽蔑するだろうか? いや・・・多分、クラスメートに突然起こった不幸な出来事くらいにしか思わないだろう。 どう思われるにせよ、絶対に知られたくない。 知られたくない・・・誰にも。 だから・・・どうだっていいんだ・・どうだって・・・。 ただ、この悔しさは何だろう。 もちろん香奈は、自分を犯した神村を憎んでいた。 でも、それ以上に自分に屈辱を与えるのは、鳥肌が立ち、吐き気がする程にいやな男のペニスを、迎え入れるように、求めるように股間を湿らせ、快感に負けてしまいそうになった事実だった。 頭がおかしくなりそうだ。 何故こんな目に・・・ 何故あんな男に・・・ 何故あたしのカラダは・・・ 中村君・・・ 紗耶香・・・・・・ もう・・いい・・どうだって・・いい。 香奈は考えるのをやめた。 いっさいの事柄から逃避するように思考を停止した。 「おはよう香奈。朝ご飯出来てるわよ。」 ・・・いらない。行って来ます。 「おはよぉ~香奈。今日も寒いよぉ。あぁ、そうそう、昨日ねぇ、紗耶香ん家に行ったんだけどねぇ、いなかったんだよぅ。」 ・・・そう・・。 「なんかね、部屋に閉じこもってるかと思ったらねぇ、いつのまにか出掛けてたりしてんだってぇ。紗耶香のお母さんに聞いたんだぁ。アイツ何やってんだろうねぇ。電話も出ないし、メールも返さないし、家にもいないし。」 ・・・そうだね。 「おはよう香奈。あれ、どうしたの?なんか顔色悪くない?折角の美人が台無しじゃん。」 ・・・何でもないよ、聡美。 「オッス岡本。なあ、今日さ帰りにカラオケ行かね?メグミは行くってさ。中村と住田も誘っとくからさ。」 ・・・今日はやめとく。ありがと、湯浅君。 「なんだよ。元気ないじゃん?」 ・・・大丈夫だよ。 「大丈夫って・・顔色わりーぜ?なぁ、マジ何かあったの?なぁ?」 ・・・・・・・・うるさい・・・。 「え?なに?」 ・・・何でもないよ・・・平気だから。 「・・・そっか、残念だなぁ。」 香奈は、たまに起こる情緒の起伏を押さえ込み、それ以外は周囲の世界から自分を隔絶し、無感覚で過ごした。 香奈の身に起こった数々の出来事から心を守る為の本能的な唯一の方法だった。 終業のチャイムが鳴り、生徒達は一斉に立ち上がると各々の目的の為に動き始めた。 香奈は、気分が悪いから部活を休むと聡美に告げ校門を出た。 自転車を押して坂道を降りる。 ぼんやりとした景色の中心を見据え、とぼとぼと歩く。 背後から自分を呼ぶ声がして後ろを振り返った。 「なんだよ、部活はサボリか?」 屈託のない笑顔を見せながら中村が歩いてきた。 「・・・具合が悪くて・・・。」 香奈は、中村から顔を背け、目を伏せながら答えた。 中村の顔を直視出来なかった。 ・・・この笑顔を見たら、多分あたしは壊れてしまう。 「そっか・・・。今日元気無かったもんな。顔色も悪いし。大丈夫か?」 ・・・見てくれてたんだ。 だめ・・壊れる。 優しくしないで・・。 もう・・あたし・・壊れる・・・。 押さえ込んでいた筈の記憶が、心が、頭の中に満ち始め、香奈は中村の方へ振り向こうとした。 その時、 「香ぁ奈ちゃん。」 聞き覚えのある声で名前を呼ばれた瞬間、香奈の顔は真っ青になり、膝が僅かに震え始めた。 「昨日さぁ、携帯忘れてたよ?」 ニヤニヤと笑みを浮かべながら香奈の携帯を手の平に乗せた神村が近付いて来た・・・。
2009/06/16 23:42:14(X/2ghhc.)
投稿者:
はる
新たな展開…待ち遠しいですね
09/06/17 11:52
(/OLgESKu)
3
削除済
2009/06/17 17:19:54(*****)
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