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1:密かな楽しみ24~孝史と香奈~
投稿者:
瀬名
『学校・・・行きたくないな・・・。』
目を覚ました香奈は、天窓から差し込む朝の日差しが布団から飛び出た自分の手の平を照らすのを眺めながら呟いた。 雀の鳴く声。 表の路地を通り過ぎていく車の音。 その音に吠える隣の家の犬の声。 いつもの朝。 何も変わってない。変わるはずはない。 例え自分が痴漢に遭っても、世界は変わらない。 でも、体が重い。頭も痛い。昨日ほどのショックは無いが、鬱な気分。 『・・休もう・・。』 香奈は、もう一度眠ってしまおうと目を閉じた。 携帯の鳴る音がする。 香奈は目を開けて枕元の時計を見た。 7時52分。 恐らく、紗耶香だろう。 昨日メールを返さなかったし、自分が来るのを公園で待っているはずだ。 『・・ごめん・・今日は・・ほっといて・・。』 布団から出たくない。 ここから動きたくない。 誰にも会いたくない。 香奈は布団に潜り込み耳を塞いだ。 「香奈!起きなさい!遅刻するわよ!」 母親が部屋のドアを開けて怒鳴っている。 「・・・具合悪いから・・休む。」 香奈は布団から顔を出さずに答えた。 「どうしたのよ。熱でもあるの?」 そう言いながら、母親がロフトの階段を上がってきた。 「そうみたい・・頭が痛いの。」 「熱、計ってみようか?病院行った方がよくない?」 母親は香奈のベッドの脇に座ると、心配そうな声で聞いてきた。 「いい・・・。」 香奈は布団に潜り込んだまま答えた。 「何かあったの?ご飯も食べてないし。学校で嫌なことあったの?」 「ちがうよ。ほんとに具合が悪いの。」 「だったらいいけど・・。お父さんもお兄ちゃんも仕事に行ったし、お母さんも仕事だから・・1人で大丈夫?」 「うん・・寝てたら治ると思うから・・。」 母親は立ち上がると弁当を台所のテーブルに置いているからと言って、部屋を出て行った。 『何も考えずに、ただ眠ろう、眠ってしまえば嫌なことなど思い出さずに済む。』 香奈はそう思って目を瞑ると、深い沼に沈みこむように眠りについた。 どのくらい眠ったろう。 頭がボーッとする。 香奈は布団から顔を出し時計を見た。 12時48分 『・・お腹・・空いたな。』 昨日の夜から何も食べていない。 流石に空腹感が襲ってきた。 『何があったって世界は変わらないし、お腹は空くものなんだな・・。』 自嘲するように呟くと、ベッドの上で体を起こした。 髪がボサボサになっているのがわかる。 少し汗もかいたようだ。 香奈は立ち上がると、ロフトの階段を降りて部屋を出ようとした。 ふいに携帯の鳴る音がした。 机の上で携帯が光っている。 香奈は手にとって開いてみた。 「メール・・紗耶香からだ・・・やだ・・いっぱい入ってる。」 携帯の待受画面の隅にあるメールアイコンの横には数字の5が表示されていた。 香奈は中身を開いてみた。 7時51分 香奈が来ないのを心配したメールだ。 8時5分 先に行くというメール。9時45分 今日は休みなのかというメール。返事をしてと書いてある。 11時28分 何かあったのかと心配しているメール。どうして返事をくれないのかと書いてある。 12時55分 窓の外を見て・・と書いてある。 「・・窓の外?って・・まさか・・。」 香奈は部屋の窓のカーテンの隙間から外を覗いてみた。家の前の路地をトラックがゆっくりと通っている。トラックが通り過ぎた後、向いの家の塀にもたれかかり胸の前に両手でバッグを抱いて立っている紺色の少女が見えた。 『・・・紗耶香!!』 香奈は慌てて窓を開けた。 紗耶香は、ゆっくりと、まるで電池が切れかかったオモチャのようにゆっくりと顔を上げて香奈を見た。 寂しそうな笑みを浮かべて香奈を見ている。 香奈は部屋を飛び出すと急いで階段を降りて玄関を開けた。 「・・どうして・・学校は?」 「・・抜け出して来ちゃった・・。」 紗耶香は下を向いて苦笑いを浮かべながら答えた。 「はい。お弁当。・・もしかして・・もうお昼食べちゃった?」 そう言いながら紗耶香はバッグから大きめの弁当箱を取り出し香奈に差し出した。 「・・ごめん・・紗耶香・・メール・・返さなくて・・ごめんね。」 香奈の目に涙が溢れてきた。 誰にも会いたくなかったのに、誰とも話したくなかったのに、紗耶香の顔を見たとたんに堰を切ったように心の中が安堵で満たされ、嬉しさで涙が溢れてきた。 「なに泣いてんのよ・・・。泣きたいのはこっちだよ・・。」 紗耶香は優しく微笑みながら言った。 「美味しい!!でも・・たくさん作ったねぇ。食べきれるかなぁ。」 香奈は紗耶香を自分の部屋へ入れるとロフトに上がってテーブルを用意し紗耶香が作ってくれた弁当を広げ一緒に食べ始めた。 「昨日の夜ね、香奈に誤ろうと思って買い物に行って、今朝早起きして作ったんだよ。アタシ結構料理得意なんだ。」 紗耶香は弁当を頬張る香奈を嬉しそうに見ながら言った。 「すごい美味しいよ。お腹空いてたし。」 満足そうに紗耶香の作った弁当を食べていた香奈は、そう言うと急に箸を置き、紗耶香を見た。 「ごめんね、紗耶香。メール返さなくて。心配かけたよね・・・。」 「いいよ。アタシこそ謝らなくちゃ。ごめんね。香奈に・・あんなこと・・しちゃって・・アタシどうかしてたんだ。ねえ、それより香奈、どうしたの?急に学校休んじゃって。アタシがあんなコト言ったから?」 紗耶香が不安そうに香奈の顔を覗き込む。 「違うよ!・・・ちょっと・・・具合・・悪くて・・。」 昨日のあの出来事、あの男から痴漢されたことなど言えない。もう忘れたい。 香奈はそう思い、本当の理由は話さなかった。 「ほんとに?・・大丈夫なの?」 「うん。もう平気。さっきまで寝てたから治ったみたい。」 香奈は心配そうな顔をしている紗耶香に笑顔で答えた。 「良かったぁ。アタシ・・香奈に嫌われたかと思って・・。って言うか、髪、ボサボサだよ?」 紗耶香は、まだパジャマのままで寝癖のついた香奈の姿を見て微笑みながら言った。 「あ・・・。」 香奈は両手で頭を押さえ、しきりに手ぐしを入れながら照れ笑いを浮かべた。 二人はお互いの気持ちのすれ違いを少しずつ直すように話をしながら遅い昼食をとった。 「ねぇ、香奈。最近さ・・中村君と仲良いよね・・。」 ふいに紗耶香が聞いてきた。紗耶香は、香奈の隣で背の低いベッドに腰掛け膝を抱えて俯いている。 「うーん。仲良いって言うか、ほら、紗耶香のコトでさ、話しかけられてからだんだん話すようになったくらいで、仲良いってワケじゃ・・。」 香奈は照れ笑いを浮かべながら答えた。 「・・そう。なんかさ、一緒にいるとこ結構見かけたしさ・・その・・好きなのかなぁって・・。」 紗耶香のその言葉に、香奈は心臓が大きく波打ったように感じた。 『あたしが・・中村君を・・好き?』 香奈は昨日の夜、あの忌まわしい出来事の後、あの痴漢の指が、股間に感じた熱く固いモノが中村のものだったら、と考えた事を思い出した。 『あたし・・中村君のこと・・考えてた・・。あたし・・好き・・なんだ・・好きになっちゃったんだ・・。』 ようやく香奈は自分の心に芽生えていた恋心に気付いた。ここ最近の僅かなやりとりではあったが、香奈は中村に心を惹かれていた。 人は、とりまく環境と僅かなキッカケがタイミング良く重なった時、簡単に恋に落ちる。まさに香奈は今、紗耶香の言葉で確信した。 「そう・・みたい・・あたし・・。ははっ、おかしいよね・・紗耶香が振った人好きになるなんてね・・。」 香奈は、両膝を抱えながら紗耶香を見た。 しかし、紗耶香は俯いたまま動かない。肩まで伸びた髪が紗耶香の横顔を隠している。 「どうしたの・・紗耶香?」 香奈は紗耶香の肩に手を伸ばし、そっと触れたが紗耶香は俯き、膝に顔を埋めたまま動かない。 「ねぇ・・どうしたの?紗耶香・・。」 そう言いかけた時、紗耶香は顔を上げ香奈の方を振り向いた。その顔には表情が無く、虚ろな目をしていた。 「・・解ってたよ・・多分香奈は・・中村君の事好きになるんだろうって・・中村君と話してる時の表情が違ったもん・・でもね・・・でもね・・。」 虚ろな眼差しで香奈を見て話していた紗耶香は、突然香奈に覆い被さるように抱きつき、そのままベッドに押し倒した。 香奈は突然の事に驚き、呆然としながら間近に迫る紗耶香の顔を見た。 「でもね・・でもね・・好きなの・・好きなの・・香奈・・。アタシ香奈が好きなの。」 紗耶香の虚ろな目から涙が零れ、香奈の頬を濡らした。 「・・紗耶香!?」 香奈は紗耶香の言葉がうまく理解できず、ただ呆然と紗耶香の顔を見つめながら零れ落ちてくる涙の温度を感じていた。 「・・香奈・・ごめんね・・。」 その言葉と同時に紗耶香の顔が近付いてくる。紗耶香の髪が香奈の耳をかすめた。 そして唇に温かく柔らかい感触を感じた。 紗耶香の唇は香奈の唇に優しく触れ、そして上下の唇を交互に包むように何度も触れる。 香奈は紗耶香の言葉と今起きている事がまだ理解できずにいた。 と、香奈の唇の間を柔らかく温かいものが侵入してきた。それは香奈の舌に届き、その感触を、その反応を確かめるように滑らかに動き出した。 『・・キス?・・紗耶香?・・どうして?・・いや・・へんだよ・・やめて!』 香奈は唇を吸われ、その感触と覆い被さる紗耶香の重みを感じながら、この異常な出来事を拒否しはじめた・・・。
2009/03/03 01:56:53(v9vLINoS)
投稿者:
梨華
もうヤバいですねめっちゃ面白いです次回楽しみで仕方ないです
09/03/03 09:38
(EiWlMug5)
投稿者:
瀬名
こんな駄文を読んでいただいて、ありがたく思っています。
書き始めてから、かなりの回数を投稿して来ましたが、性的な描写が少なく、回りくどい書き方をしていますので不快に思われるかもしれませんし、基本的に携帯で書いていますので見直しが足りず、誤字脱字や変な文章があり、読みにくいかもしれませんが、完結に向けてもう少し続きを投稿させて頂きたいと思いますので、どうぞ暖かく気長に見守ってやって下さい。
09/03/03 10:22
(v9vLINoS)
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