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1:白昼の死角
夏の終わり、
空の青が少し濃くなってくる。 雲の白が少し冴えてくる。 朝の陽射しはかなり斜めになってはいたが、 それでもまだ猛暑だったこの夏を惜しむような鋭さを残し、 駅前道路のアスファルトをゆっくりと焼き上げるように、 その高さを増していった。 いつもと変わらない朝の始まり。 広場にそびえる大きなシラカシの木からは、 残り少ない夏を惜しむような油蝉の蝉時雨。 その大木から降り注いでくる木洩れ日を、 眩しげに見上げながら、 薫はICカードの定期券をバックから出すと、 郊外の駅の改札をくぐった。 エスカレーターを上がり、快速電車のホームに立つと、 むっとした暑さが襲ってきた。 昨夜の雨の名残で、明け方は涼しかったのに、 それ故に澄み渡った空気は、 太陽の熱エネルギーを余すことなく地上に伝えた。 気温と湿度がぐんぐん上がり、 防音のスレートパネルに囲まれた高架ホームは、 たちまち温室のようになっていく。 薫の利用駅は都心から西へ電車で30分ほど、 まだ都内を出てはいないが、閑静な住宅と、 庶民的な駅前商店街を従えた街だった。 短大を出て上京し、今の会社に就職するとき、 住まい探しで訪れたこの街がなんとなく気に入り、 以来29歳になる今年まで丸々8年、 ずっとこの地を離れずに暮らしている。 仕事も、特別楽しいとは言わないまでもやり甲斐はあり、 それなりに長く勤めるうちに、 いつしか主任の立場を任されるようになって、 薫の生活はすっかり安定していると言ってよかった。 最近は仕事が忙しく、なかなか遊びにもいけないが、 住まいと職場のちょうど真ん中くらいの所に、 大好きなクラブがある歓楽街があるのも気に入っている。 そんなクラブ遊びをする中で知り合った、 優しい彼氏とももう4年の付き合いで、 最近はちょっと、 将来のことも考えさせられる歳になってしまった。 電車の入線を告げるアナウンスがあった。 ホームの薫は、頬に流れる汗を感じて、 顔にハンカチを当てたところだった。 この日は、ごくビジネスライクな紺のブラウスに、 明るいグレーのパンツという、 取り立ててどこが目立つというわけでもない服装。 ただ、下着だけは少し煽情的なお洒落をして、 黒にピンクの縁取りとリボンをあしらった、 ガーターストッキングとの3点セットを、 素っ気ない服装の下に隠していた。 それと薫は、かつてコギャルの教祖と呼ばれ、 ファミリーのダンサーと電撃結婚し、 出産、離婚をした、憧れの芸能人を真似て、 肩下までの明るい茶色に染めたストレートな髪に、 少し派手目のバックやアクセサリー類を身に付けている。 身長160cm以上ある隙のないスタイルと、 そのアクティブな雰囲気の嗜好から、 薫は朝の通勤時間帯でも、 痴漢行為に悩まされたりすることはほとんどなく、 着古したスーツや安っぽい整髪料の匂いさえ我慢すれば、 乗り換えなしで都心の駅へと辿り着くことができた。 屋根上の冷房機の轟音を響かせながら、 オレンジ色の快速電車がホームに滑り込んでくる。 今年から走り始めた新型のステンレスカーはまだ半分ほどで、 今日は冷房の効きも悪く、車内も狭い旧い車両だった。 列の中ほどに並んでいた薫は、 流れに押し込まれるように車内へと入る。 160センチ以上ある身長なので、難なくつり革を確保し、 後は目的の都心駅まで、ひたすら「無」になるだけだった。 薫はバックの中のi-podを探ると、 例の彼女の歌を選曲し、いやホーンを耳に押し込んだ。 この電車は快速電車とはいえ、 本当に快速運転をするのはもう少し先からで、 電車は各駅に停まりながら、 更に通勤・通学客を飲み込んでいく。 程なく車内はすし詰め状態となった。 目を閉じて音楽に集中していた薫が、 生々しい呼吸の匂いに気づいたのは、 3駅ほど過ぎたあたりだった。 人より少し匂いに敏感な薫には、 それが普通の呼気でないことがわかった。 肺の奥から、何かに喘ぐように、 大きく吐き出される生々しい匂い。 皆が息を詰めているような満員電車には、 場違いな匂いだった。 薫は辺りを見回してみる。 横にいる平凡なサラリーマンと大学生風の男の隙間に、 一人の女子高生が見えた。 ずっと開かない側のドアにもたれるように、 ・・・いや、押し付けられるようにか・・・。 身体を預け、俯き、 首筋に汗を光らせて、肩で息をしていた。 更にその横、 サラリーマン越しに少し身体を伸ばして覗くと、 くたびれたグレーのTシャツにカーゴパンツ、 背の低い、フリーター風の若い男が、 向かい合わせに女子高生に張り付いていた。 視線を落としていく。 男の手は、前から、短い制服のスカートの中に入っていた。 肩から下だけが、淫靡な意思を持って蠢いていた。 そのたびにスカートが形を変え、 女子高生が悶えるように太腿を捩るのが見えた。 おそらく、薫からしか見えない角度だった。 薫の視線は、そこから離れることができなくなった。 女子高生は完全に俯き、 周囲に悟られまいと、その息遣いを殺そうとしていたが、 上下する肩、流れ落ち制服を貼りつかせる汗、 時々電気が走ったようにビクリと来る震え、 薫にはすべてが理解された。 女子高生はドアに身体をぴったりと押し付け、 その体熱は、この蒸し暑い車内でも、 息を吐き出すたびに、ドアの窓に白い軌跡を残した。 薫には女子高生が「ある意思」を持って、 この行為に協力しているように思えた。 薫以外の、周囲を直接囲む乗客から死角になるように、 身体の向きをドア寄りに向け、 通学鞄でガードし、 男に腰を押し付けているように見えた。 そして・・・。 ここから快速運転が始まるというその駅から、 薫の推理は正しかったことが証明されていく。 男は女子高生の片手を取り、 彼女自身に、捲り上げたスカートを掴ませた。 今や女子高生の下半身は、 自ら捲り上げたスカートで、 その清純そうな乳白色のショーツまで、 露わにされてしまっていた。 男の手は、そのショーツの両端、 腰骨の辺りのゴムに掛かり、 ゆっくりと下ろしていく。 背が低く、腕が長い男なのか、 男が届くいっぱいまで下ろされたショーツは、 もう膝のすぐ上まできて丸まってしまう。 それから・・・、 男の片手が草むらのあたりを弄びながら、 女子高生の裂け目に進入していく。 もう一方の手がちょうどクリトリスと思われるあたりを、 リズミカルに刺激していく。 女子高生は何度も崩れそうになるのを、 必死でドアに身体を押し付けて支えている。 その、若い発情した匂いも、 薫の鼻腔は捕らえ始めた。 それが合図だったかもしれない。 薫は口が渇ききっていることに気づいた。 薫の水分は、別の場所へと移動していた。 薫の下半身で、場違いな水脈が動き始めていた。 次の停車駅は、歓楽街もある途中のターミナル駅だった。 そこで大きく人の入れ替わりがあったが、 奥のドアでは何の変化も起きなかった。 さすがに恥ずかしいのか、 スカートだけは手を離して下ろしたけれど、 短いスカートの裾よりも下に、 自分のショーツを丸めて引っ掛けたまま、 女子高生は発車を待っていた。 男の両手は、大胆にもスカートの中で動いたままだ。 電車が発車する。 男が再び女子高生の手を取る。 もう一度、スカートを捲くらせ、 自ら持たせるのかと思っていた薫の予想は裏切られた。 男のズボンのファスナーが開いている。 そこに、女子高生の細く、白く、 可憐な指先が吸い込まれていく。 女子高生の指が、その中で動く。 何かを探り、そして・・・握るように。 たちまち男のファスナーから、 怒張したものが飛び出してきた。 繊細な指に包まれて、あまりにも対照的な、 赤黒く、血管を浮き立たせたそれは、 更に危険な匂いを薫に運んできた。 男の手の動きが、女子高生のスカートの中で激しくなる。 耐え切れない・・・とでもいうように、 女子高生も男のそこを扱き続ける。 次駅到着のアナウンスが流れるころ、 男は電車の走行音に紛れてしまうほどの低い唸りを上げた。 女子高生は、いつ用意していたのか、 もう片方の手に持ったハンカチで、男を包む。 匂いで・・・薫には何が起きたかがわかった。 そのままハンカチで扱き抜くように、 女子高生は手を引くと、 初めて俯いていた顔を上げて、 濡れきった瞳で男を見つめ返す。 男は「わかった」というように、 スカートの中の動きをスパートさせる。 女子高生は・・・口に・・・ハンカチを・・・、 ハンカチの「その部分」を咥え込むように口に押し当て、 激しく膝を震わせた。 学校の多い次の停車駅で、 その女子高生は降りていった。 直前に男はショーツを戻してやり、 自分のファスナーも閉めて彼女を解放した。 薫の近くに、「その匂い」を漂わせたままの男が残された。 薫の下半身は決壊したまま・・・。 他の誰も気付いてはいなかったが、 薫は自分のそのいやらしい匂いが、 足元から立ち上ってくるのをしっかり意識していた。 男のほうを見る。 なんでもない顔で、男は内堀の風景を眺めている。 男の指先を見る。 心なしか、白く、ふやけているような気がした。 それよりも、確かに、 若く、健康的な、しかし淫靡な「彼女」の匂いが、 その指先に残って漂ってくるのを感じた。 男がふと、薫の視線に気付いたように、 その指先に目をやり、そして自分の鼻先に持ってくると、 クンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、 舌でペロリと舐めた。 それから・・・確かに薫のほうを見て、 薄っすらと笑みを浮かべた・・・。 電車は終点の都心の駅に到着した。 どっと人が吐き出され、薫はホームへと転がり出る。 足が少しふらついていた。 あの男は・・・、 辺りを見回したが、人ごみに紛れ、 見つけることはできなかった。 歩き始める薫。 足を前に出すたびに、 股間がヌルヌルとぬめりを伝えてくる。 いつものOL、薫に戻るためには、 まだ少し、儀式が必要だった。 エスカレーターでコンコースに下りると、 薫はそのままトイレに駆け込んだ。 幸い空いていた一つの個室に入り、ドアを閉めると、 目を閉じて呼吸を整えようとした。 立ったまま、少し脚を開き、 下着をパンツと共に、 ゆっくりと下ろしていく。 クロッチの中央に、とろみを持った水溜りがあった。 あの、独特の「ヒト」のにおいを発して、 その水溜りは薫の気持ちを代弁している。 薫は便座に腰を下ろすと、 そちらも濡れているであろう、 その水溜りが当っていた身体の部分に、 ふき取るためのペーパーではなく、 自分の指そのものを持っていった。 指先を見つめる・・・。 先程の男の、 ふやけて女子高生の匂いにまみれた指が、 薫の脳裏にフラッシュバックする。 男の指に姿を変えた薫の指が、 なにかを相変わらず滴らせている「そこ」に・・・。 おそらく1分とかからなかったと思う。 ほんの一瞬の自慰で、薫は上り詰めてしまった。 ペーパーを使い、身体と下着を始末し、 まだ溢れるであろう残滓を考えて、 薄いライナーを付けてから、薫は身なりを整えた。 個室を出て、洗面台の鏡を見ると、 顔を火照らせ、目を潤ませた、いやらしい牝が映っていた。 振り切るように冷たい水で顔を洗い、 簡単に化粧を直すと、 薫はいつものOLに戻るように、 勤めて冷静に自分をコントロールしながら、 駅のトイレを後にした。 薫は気付かなかったが、 柱の影でなにかを待つように佇んでいた、 小柄な一人の若い男が、再び歩き始めた・・・。 外の暑さを嫌い、 薫は駅のコンコースを抜け改札を出ると、 そのまま迷路のような地下街に潜り、 自分の会社に一番近い出口から地上に出た。 眩むような太陽、 街路に連なる自動車や、 建ち並ぶビルの室外機から吐き出される熱気、 そして喧騒。 救いを求めるように、 50メートルほど先のオフィスビルに薫は駆け込んだ。 ちょうど開いていたエレベーターに乗り、 自分の会社のあるフロアーのボタンを押す。 あまり得意でない、 血が下がっていくような垂直の加速を受けながら、 薫は身体の中に残っていたものが、 パンティライナーに漏れていくのを感じていた。 「おはようございます。」 何事もなかったように薫はオフィスに入る。 更衣室でタイトな制服のスカートと、 白の事務用ブラウスに着替え、 濃い色の下着を隠すように、制服のベストを羽織る。 ブラウスの白と制服の紺のコントラストが、 少し派手目な薫の容姿をきりりと引き締めた。 「もう、、、平気。」 両手で頬を挟むように、パンパンと2回たたくと、 薫はもう、いつもの薫に戻っていた。 一時間半ほどデスクワークに集中し、 時計の針が11時近くなったころ、 薫の内線電話が鳴った。 出るとすぐ近くの窓際にいる直属の部長だった。 「ちょっと来てくれる?」 部長の席を振り返って見ると、 受話器を持ったまま似合わない顔でウインクをし、 こちらへ、と手招きをしていた。 「なんでしょうか?」 「郵便局へ行って、こいつを内容証明郵便で出してきてもらえないかな?」 少し厚めのA4の茶封筒が手渡された。 「わかりました。区切りのいいところで行ってきます。」 席に戻った薫は15分ほどで、 取り掛かっていた仕事にいったん区切りをつけると、 茶封筒を手に、オフィスを後にした。 階下に降り、玄関を出ようとすると、 出社したときより一層激しい熱気が薫に纏わりついてきた。 薫は一旦取って返し、 エレベーター横の化粧室で手早く髪をアップにすると、 もう一度鏡の前で背筋を伸ばし、 凛とした佇まいのまま、玄関の自動ドアをくぐり抜けた。 呼吸するのが苦しいほどの熱気の中を、 300メートルほど離れた郵便局に向かって歩き出すと、 オフィスの空調で冷え切っていたはずの肌に、 たちまち汗が噴出してくる。 昼近く、東西に走る表通りには殆ど日陰がなくて、 昔走っていた都電の敷石を再利用したという、 淡色の御影石張りの歩道はまるでレフ板のように、 容赦ない照り返しを浴びせてくる。 たまらず薫は路地に折れた。 オフィス街とはいえ、 古い下町の街区を受け継ぐこの付近は、 一歩入れば小さな町屋が並ぶだけでひと気のない、 車が通るのもやっと、といった路地が残っていた。 いつも銀行や郵便局に使いを頼まれる薫にとっては、 歩き慣れた我が街と言っていい界隈。 その路地の一本を薫は抜けていく。 途中、不動産トラブルか何かで空き家になったのであろうか、 シャッターを開け放ったまま、 中に資材が雑然と積まれた倉庫の前に差し掛かる。 そのとき・・・、 薫は匂いを感じた。 背後から急速に近づいてくるその匂いが何の匂いなのか、 一瞬のうちに薫は記憶を再生し、理解した。 理解したその瞬間には、もう後ろから口を塞がれた。 牡の獣の匂いと、女子高校生の分泌物の残臭が、 口をふさがれた男の手から、同時に薫に流れ込んでくる。 胸に手を回され、きつく抱きかかえられるようにして、 その倉庫へと引き摺り込まれていった。 チャッ、という音と共に、 薫の眼前で飛び出しナイフの刃が跳ねる。 「大人しくしろよ。」 「大人しくしてれば、さっきの高校生みたいに、よくしてやるからな。」 記憶が再生され、 男が誰なのかを理解した。 尾行された。 待ち伏せされた。 瞬間は激しく動揺した薫だが、 薫は男の声が冷静なことに何故か安心を覚えた。 この男は激情に流されて、 見境がつかなくなっている訳ではない。 電車の中での、女子高生の未熟な暴走につけ入るような、 意地悪く、征服的な責めが回想される。 ナイフは薫をフリーズさせるための小道具に過ぎず、 この男は今まで妄想していたシナリオに沿って、 これから薫を陵辱していくはずだった。 生命に危機を与えるような、 決定的な物理的ダメージを受けることはないだろう・・・。 薫はそう感じた。 しかし、そうであってもこの状況は、 到底受忍されるべきものではなかったわけだが、 眼前にナイフを突き付けられては、なす術もない薫だった。 倉庫は、奥に入ってしまうと外の光もあまり届かない、 薄暗く埃っぽい、そしてこの上なく蒸し暑い場所だった。 入り口から乱雑に積まれた資材のせいで、 自分たちの姿も、よほど目を凝らせば見えるが、 注意しなければ全く見過ごされてしまうようなその場所。 その奥へ奥へと、 薫は抱きかかえられたまま引き摺られていく。 「いい子だ、、、声、出すんじゃないぞ。」 強い力で床に向かって押し倒される。 土嚢袋なのか、砂が入っていると思われる、 麻袋のようなものが散らばる床上に倒れると、 砂煙のような埃が舞い上がって、 紺の制服をたちまち汚した。 激情に我を失ってはいないとはいえ、 男の扱いはもちろん優しいわけではない。 凍るような視線の奥で、 邪悪な欲望の炎が燃えているのがわかった。 その炎の強さは、男の匂いでわかる。 先ほどの電車の中、薫が捉えた微かな淫臭を、 何倍にも増幅させたような匂いが、薫に覆い被さってきた。 劣情の力に誘導されるように、 男は薫のベストを掴み、一気にボタンを引きちぎる。 次は、ブラウス・・・。 男の力の前では何の役にも立たない、 無防備で小さなボタンが弾け飛んでいくのが、 薫の目には、スロー再生を見るように映っていた。 胸の谷間を強調するように深くえぐれたセンターに、 男を誘うようにピンクのリボンが飾られた、 3/4カップの黒いセクシーなブラが露わになる。 「いやらしいの、着てるじゃないか・・・。」 抵抗が無駄なのはわかっていた。 この後どうなっていくのかも、 解らないほど子供ではなかった。 しかし、、、どうしても知られたくないものがある。 スカートの中、今朝の残滓、 自分の淫臭・・・。 引き裂かれた胸元に露わになったブラジャーを、 男はホックも外さず思い切りずりあげる。 乳房に阻まれ窮屈になっても、 強引にずり上げる男の粗暴な指が、 薫の白く柔らかな肌に、赤い軌跡を残した。 ふるふると解放された薫の乳房。 拘束する下着を失って、谷間が左右に開くと、 汗の匂いと「おんな」の混じった甘酸っぱい体臭が、 立ち昇っていくのが自分でもわかった。 「い・・・いや・・・。」 薫は男の前で初めて声を発する。 朝から発情していた痕跡。 その匂いを知られるのが、 物理的に肌を晒されるより恥ずかしいと感じたのだ。 「いい匂いだ・・・。」 薫の最大の羞恥を知ってか知らずか、 男の言葉はそこを攻めてきた。 「いやらしい匂いも・・・するな。」 確かめるように、慎重にその場の空気を探る男・・・。 「この、、、いやらしい匂いが・・・。」 「もっと煮詰まって、濃くなっているところが、、、」 「あるな。」 知られた・・・。 薫は激しく身を捩った。 次の男の行動がわかったからだ。 タイトな制服のスカートは、 すでに半分ほど薫の下肢を晒してはいたが、 男はそれを、さらに捲り上げようとする。 薫が身を捩って抵抗するたび、 埃が舞い上がり、服を一層汚し、 汗まみれの肌には、粉を振ったように纏わり付いていく。 一瞬明るい外の路地に人影がよぎる気配。 薫の動きが止まる。 「そうそう、大人しくしないと・・・。」 「こんな格好のまま、、、見つかっちゃうよ。」 「脚をジタバタする度に、匂いが強まってくるぜ・・・。」 薫の瞳が潤んでくる。 悲しみでもなく、恐怖でさえもない、 羞恥の炎に炙り尽くされる苦しみ・・・、 そんな感覚だった。 空しい抵抗は薫を埃まみれにしただけで、 たちまちスカートは腰骨のあたりまで捲られてしまった。 薄暗い廃墟に輪郭を際立たせるように、 鮮やかなピンクで縁取られた、 黒のガーター&ストッキングとショーツ。 「お前・・・いつもこんな格好してんのか?」 小さな布地だけで守られた股間、 そのわずかな防衛線を男は鷲掴みにすると、 ガーターとストッキングは残したまま、 力任せに引き裂いた。 男の力を示すような高い音でショーツは破られ、 左右のリボンのところで千切れて、 薫の身体から引き剥がされる。 男の手の中に、 ちょうど股間の部分の生地が握られたままでいる・・・。 それを鼻に押し当てて、 わざと薫の潤んだ瞳を見つめたまま、 男は大きく匂いを吸い込んだ。 「何かで・・・濡らしたのかよ・・・。」 男がニヤリと笑う。 手を開き小さな布地の裏側を確かめる。 直接当たっていた部分には、 パンティーライナーが拠れたまま張り付いていた。 「その部分」一帯が、薄い黄ばみを帯びて湿っている。 男は下着を指で摘むように鼻先に持っていくと、 その一番匂いの濃いはずの部分で、 クンクンと鼻を鳴らし、 張りつく澱を舌で舐め取った・・・。 次の瞬間、 突然うなるような声を上げながら、 男の顔が、薫の股間に突進してきた。 鼻を鳴らし、薫の陰毛に押し付け、 まるでフランスの豚がトリュフを探すように、 猛々しく薫の匂いを嗅ぎ取っていく。 軟体動物を思わせる男の舌が、 朝、あの時間から滞留し、 たっぷりと「おんな」を発酵させていた残滓を、 残さず味わい尽くす。 カチャカチャと、ベルトのバックルを緩める音。 強まる「あの」匂い。 男の身体が上がってくる。 薫の目の前に、 独特の匂いと、怒張と、体温が突き出される。 再び頬にナイフが当てられ、 薫は自分の仕事を悟った。 震える唇をゆっくりと開いていく。 「それ」が口に到達するより早く、 先端からあふれた透明な雫が、 薫の口に落ちていく。 唇にあてがわれる。 不十分にしか開いていない口に捻じ込まれるように、 先端が入り込んでいく。 薫の口の中では、 奥まらせた舌の先端に、 柔らかなゴム細工のような男の先端が当たってくる。 入り口で捻じ込まれ、さらに残った包皮が反転した瞬間、 激しく発酵した、残尿混じりの「おとこ」の匂いが、 口いっぱいに・・・。 薫の意識が遠くなる。 鼻腔の奥で、本能的な匂いが中枢を刺激する。 本意とか、不本意とか、そんな問題ではなく、 薫はそれにコントロールされるように舌を使い始める。 薫の脳裏に先程の通勤電車が再生される。 女子高生・・・。 男の射精をハンカチに受け取り、 自ら口に運び込んで、男の指で果てた女子高生・・・。 その、あまりにも無鉄砲な拙い性欲が、 今、それを再生した薫の本能をも呼び起こしていく。 汗臭さと男臭さが極限まで濃縮された男の陰毛に、 薫はその端正な鼻を埋めるほどに男根を受け入れる。 鼻から吸い込んだ「そこ」の空気が、、、 薫の何かを痺れさせ、 日常やモラルが切り離された、観念的世界へ誘っていく。 喉の奥深く暴れるそれが薫を酸欠気味にし、 幻覚の世界に漂うような感覚を与えた。 (何かが欲しい・・・何かが欲しい・・・) 薫は欲した。 性的興味や、官能的感情から求めたのではなく、 もっと本能的なものだった。 「ヒト」というケモノの匂いと、 その場の薄暗さや蒸し暑さが重なって、 もっと根源的、原始的な渇望を、薫に喚起させたのだった。 舌を男根に巻きつかせるようにして、 口腔内を負圧にして吸い上げ、扱き上げる。 (何かちょうだい・・・何かちょうだい・・・) 唾液を反射的に、大量に分泌し、 薫は口の中に、滑らかなうねりを連続させる。 (早く・・・ちょうだい・・・奥に・・・) 予兆が来る。 一段と圧を高める海綿体の張り。 脈動が、身体の奥底から湧き上がってくるような気配。 男が、薫の明るく染めた髪を掴む。 アップにしていたピンが外れて、 扇を広げるように弧を描く。 男が、搾り出すような唸りを発して腰を突き出す。 激しい痙攣と共に、 最初のほとばしりが薫の喉の奥に・・・。 そのまま何度もの脈を打ちながら、 男の放ったものが薫の喉に浴びせられていく。 もの凄く細く、小さな何本もの棘が、 チリチリと喉の粘膜全体を微かに刺していくような感触。 フレッシュで、青臭く、しかし濃厚な風味が、 薫の口の中を満たしていった。 一度果てた男は、冷静さを取り戻していた。 埃まみれで、胸と下半身を曝け出した薫を見下ろす。 男が放った精は、全て薫の中に飲み込まれ、 薫は酸素を求める魚のように、口を断続的に開きながら、 肩で呼吸をしていた。 「美味しかったろ?」 「わかってるよ・・・お前は・・・」 「無理やり飲まされるのが、、、美味しい女なんだよ。」 言い当てられて薫は身を縮める。 そのとおりだった。 どこが屈折しているのか、説明はできなかったが、 恋人との情交でも、 薫は頭を押さえつけられ、 無理やりに喉の奥に、 「飲め」と冷めた言葉を浴びながら放出されると、 震えるような快楽に襲われてしまうのだった。 「それにしても・・・たまらない下着だな。」 乳房の上にずり上がったブラジャー、 ガーターと黒いストッキングとの間の真っ白な領域。 男の目が舐めていく。 視線を受信した薫はそれを増幅し、 震えに変換して身体に伝える。 男の、下ろしたままのカーゴパンツの上に、 半端な硬度を保ったままのものが垂れ下がっている。 それが再び・・・、 少しずつ角度を上げていく。 「待ってろよ。もっと遠いところへ連れて行ってやる。」 薫の全身が発汗する。 解けた髪が額に張り付く。 近づいてくる匂い。 牡の匂い、 汗の匂い、 精液の匂い・・・。 思わず顔を背けると、 何時の間に溜まっていたのか、 薫の両目から涙が零れ落ち、 埃まみれの頬に浮かぶ、一筋の白い跡となった。 抵抗を失った薫の両足が左右に分けられる。 薫の股間、残されたガーターの描くアーチが、 男を迎え入れる城門のように開いていく。 覆いかぶさってくる、むせるような体臭。 入り口に、、、当った。 一気に、、、めり込んで来る。 朝から潤み続けたそこは、 充血し、狭窄していたにもかかわらず、 その猛々しい凶器を難なく飲み込んだ。 薫の激しい仰け反りに、再び埃が舞い上がる。 覆い被さる男の汗が、薫の顔に降り注ぐ。 もはや匂いは、二人混ざり合い、 薄暗い倉庫の奥に、満ちてくる。 男は、その若さに任せて、 猛々しい自身を、腰と一緒に激しく薫に打ちつける。 薫の身体は、男に操られているかのように、 ガクガクと前後し、こぼれたままの乳房が揺れている。 激情をさらに高めるように、 男は舌を出し、薫の口を犯す。 さらにそれでは足りないとばかりに、 薫の顔中を、くまなく這い回り、 汗と、涙と、埃を舐め採っていった。 粘膜が、粘液と共に擦れ合う、 いやらしい音と匂いが高まっていく。 薫の陰唇は、薫自身の分泌でぬらぬらと光る男根に貫かれ、 めくれ上がり、押し込まれ、その度に粘液を泡立たせる。 すでに感情は麻痺し、下半身だけで反応する薫が、 うねり、男を締め上げていく。 男が顎を反らせ、声を上げる。 薫の中に、違う体温の体液が迸る気配。 ドクンドクン・・・と執拗に続く脈動と共に、 男は薫の「中」へ分身を送り込んだ・・・。 ゆっくりと男が離れていく。 手早く自分の身なりを整え、 長居は無用、とばかりに音もなく立ち去っていく。 残され、露わにされ、横たわったままの薫の股間から、 泡だった白濁の雫が零れ落ち、 床の埃に弾かれ玉になり、 やがて崩れて、不定形な溜りとなって広がっていく・・・。 薫は、無意識のまま、唇を動かした。 「郵便局に・・・行かないと・・・。」
2007/08/30 14:43:14(UISPo3LI)
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