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あれから一週間が経った。
幸いなことに腹の傷はとても軽かった為、ものの数日で退院できて、仕事も今日から復帰した。 事務員の女の子がやたら気遣ってくれて申し訳ないくらいだった。 『え?俺なんかのために?』 他のみなさんもとても優しくて、暖かい声をかけてくれる。 『え?俺なんかのために?』 なんか、こういうのって、とても、嬉しい・・・。 ああ、俺なんかでも大切に思ってくれる人がいるんだなぁ、とジーンとしてしまう。 ありがたいなと思う気持ちがエネルギーになって、鈍った体をぐいぐい動かしてくれる。 やっぱ働くってのは気持ちのいいもんなんだ、会社っていいなぁ~としみじみ感じ入って、現場近くの木陰で弁当を頬張る。 やっぱ男は仕事だよな。 外に出て働いて、額に汗して職場の仲間と苦労を分かち合い、知恵を出し合い、励まし合う。 縮こまって卑屈になってしまった心が、優しく揉みほぐされ、血流を回復していくようだ。 嗚呼、最高じゃないか。 できることなら、ずっとこの職場にいたい。 家に帰ることなく、朝から晩までここにいたいものである・・・。 ・・・俺がどんだけ卑屈で会社好きなんだよって展開で語っているけど、こう思ってしまうのには訳がある。 今、我が家の居心地が悪いのだ。 できることなら帰りたくない。 冗談ではなく、本気でそう思っている。 あんなに可愛い天使に囲まれて、俺の人生、今が最高なんじゃね?と思っていたのはもう過去のものだ。 どんなに愛し合って結婚しても、数年のうちに相手のちょっとしたことが鼻について、それが次第に我慢できないレベルに達し、異性としての興味を失ったり、ちょっとしたことで喧嘩になったりするのは世の常である。 それは男女間のことだけではない。 友人関係においても同様のことが言えるのではないか。 幼馴染が中学や高校に上がるにつれ疎遠になってしまうのもよくあることで、兄弟姉妹に至っては、同居という枠がある分、一旦関係が拗れるとそこに発生した憎悪は時間とともに減るのではなく逆に増幅しかねないのではないだろうか。 仲が良ければ仲がいいだけ、その関係を維持することは難しい。 互いの素行や発言について腹を立てたり口論したりというのは日常的なコミュニケーションとして大切なことなので、大いにやればいいのだけど、相手に対する不満や怒りが限度を超え、顔も見たくなければ口も利きたくないというレベルになってしまうと、そこからの修復はとても難しいのではないだろうか。 仲のいい関係がそのようなことになるには、何かしらの第三者的価値観が存在することが多い。 簡単に言えば『個人的に大切なモノ』である。 人形でも本でもペットでも静かな環境でも、人には自分にとってなくてはならない存在というモノを持ちたがる習性があるように思う。 日頃はそれほど気にしていなくても、ある日それが壊れたり無くなったりすると、途端に心に大きな失望感が生まれ、心の平均を失ってしまう。平常心でいられなくなり、隠された本性が露になり、攻撃性が増す。 その攻撃性が内に向かえばメソメソと自虐的な日々を送り、外に向かえばそれまでの人間関係を破壊してしまう。 人間が何かを大切に思う気持ちというのは、自己の確立において、恐ろしいまでに重要なファクターなのである。 さて、何を小難しい小話を並べているのやら。 いや、本題に入るのさえおっくうだ。 俺は、娘を、裕未を大切に思っている。そして、赤の他人でありながら、すっかり家族としてなくてはならない存在になっている亜季のことも大切に思っている。最近殊に近しくなったホーコも旧友という以上に大切な存在である。 それらに囲まれていたからこそ、俺は幸せだったんだ。 そして、それらが明るくにこやかで仲睦まじく楽しげだったからこそ、俺は幸せを噛みしめられたんだ。 その大切な家族が、愛しい裕未と亜季が、あんな関係になるなんて・・・。 俺が救急搬送された翌朝、俺の大切な三人は、病室の隅っこで眠っていた。 自分の体の不具合をいろいろ確かめていると、ホーコが目覚めて、事情を一通り教えてもらった。 次に亜季が目覚めて、俺を探して飛びついて抱きついてきた。この時の亜季は、俺と将来を誓い合った、つまりはいつも通りの亜季だった。 俺が死にかけるなんて事態に流石の亜季も動転していたのか、ホーコの目の前だというのに些か恥ずかしい行為をやってしまったのである。 その具体的内容はあえて書かないけど、あの亜季が赤面狼狽し、縮こまってしまったのだから、本当にうっかりミスだったのだろう。 ホーコはそんな俺たちを冷やかしはしても、驚きはしなかった。 初めて亜季を見た瞬間から、こういう関係になるのはわかってたそうだ。ただ、亜季に自分の年齢を自覚するよう釘は刺してくれた。 「貴志を犯罪者にしたくないなら、自重しなさい」 と亜季の頭をコツンと叩いて、コーヒー買ってくると言って出て行ってしまった。 申し訳なさそうに半泣きになっている亜季というのはとても新鮮で、これまでの亜季コレにない表情をいっぱい見せてくれた。 どれも可愛くて、もっと抱きしめて弄って舐めて写真に撮りたかった。 念のために昨晩のスーパー銭湯でのあの行為について確認すると、案の定というか記憶がおぼろげで、途中から覚えていないと言っていた。いきなり突き飛ばされて蹴られて殴られたので、何が起きているのか理解するので精いっぱいだったそうだ。 そして気が付いたら救急車に乗せられていて、俺が死にそうになっていたというのだから、何が何だか訳がわからなかったことだろう。 「ごめんなさい、凄く熱い感情が駆け抜けていくのは分かったんです。何がどうなってるのか、自分がなにをしているのか、そして何をされているのか全然わからなかったけど、たっくんがそうなったのって、私のせいなんでしょ?」 「いいや、お前は過激な事はしてたけど、俺がこうなったのはDQNのせいだ、お前は悪くないよ」 「でも、もしたっくんにもしものことがあったら、私、やっぱり嫌だし、裕未ちゃんにどんな顔すればいいかわか」 !!!!!―――ッ ドゴッ! 優しい表情で俺を見つめ、自責の念で涙を浮かべていた亜季が、か細い声で話している途中でいきなり吹っ飛んでいった。 首が折れたみたいに直角に曲がって、交通安全教室のダミー人形のように関節を歪に曲げて壁まで吹っ飛んでいった。 あまりに急な事で、まさか病院の中で車に撥ねられるなんて全くの想定外もいいところで、状況の把握どころかリアクションさえ取れずに、壁に激突してぐったりとしてしまった亜季を茫然と見つめるだけだった。 「お父さんに触るな」 聞いた事のないような異質な声だった。それが俺のすぐ隣から聞こえた。 恐る恐る目線をやると、そこには乗用車でもトラックでもない髪を逆立てた裕未が、目に涙をいっぱいに浮かべ、わなわなと震えていた。 「お父さんに、触るな」 もう一度同じ台詞を言った後、感情が抑えきれなくなったのか、泣いてしまった。 「裕未・・・」 ベッドから動けない俺は、傍らで泣く娘の腕を撫でるしかできなかった。 「あうう、あううう、おとうさん・・・おとうさーん」 俺にしがみつき、ただ泣くばかりの裕未。 ――あの時から、裕未は徹底的に亜季を避けるようになってしまった。 物理的に攻撃するのではなく、避けているというのがミソで、叩いたり殴ったりしてくれた方が俺としても叱りようがあるのだけど、亜季が発言を含めて何もしなくて済むように、我が家での亜季の活躍の機会を一切なくすのが目的のように、先回りして何でもするようになったのである。 これは家事全般に言えることで、女子としてのスキルを磨いてほしいと思っていた父親としてはこれほど喜ばしいことはないのだけど、亜季が俺に「おかえりなさい」さえ言えない状況というのは、やはりやり過ぎだし、俺としても亜季が可哀相で見てられないのだ。 でも、俺は裕未に何も言えなかった。 これを裕未が意地悪でやってるのであれば簡単なのだ。 叱ればいいのだから。 でも、こうなってしまった原因が原因だけに、俺は叱れなかった。 その原因は、俺が死にそうになってしまったことなのだから。 裕未は、あの時、心の底からの恐怖を味わっていた。 小学1年で母親が事故で死んで、小学6年で今度は父親が目の前で殺害されるという境遇は、どう考えても異常で、これ以上なく不幸であろう。 そんな目に遭いそうになりながら、どうして平気でいられようか。 そうなるところだったのだ。 こんな恐怖はなかろう。 現にあの時、裕未は最初から最後まで壊れたみたいに泣くばかりだった。 俺が腹から血を流して倒れてしまったときに遠くに聞こえた裕未の叫び声というのは、実のところとんでもなく大きな絶叫で、そこに居た誰もが裕未が発狂したと思ったらしい。 四つんばいになって俺に這い寄りしがみ付いてよく分からない事を口走りながら泣き叫ぶ様は、見るに耐えられないものだったらしく、ケータイやスマホでムービー撮影していた者は、その裕未の姿が『夢に見るレベル』だったことから、こぞってデータを消去してしまったというのだから、相当なものだったのだろう。 幼い娘に『一人ぼっちにされる恐怖』を植え付けてしまった俺の心肺停止&救急搬送だったけど、実のところ刺し傷は大して深くもなく、内臓は無傷で、本来なら命に関わる傷ではなかったのだ。 なのに心肺停止になってしまったのは、小心者の俺が、刺された痛みと腹から出る僅かばかりの血液を見てのショック状態になってしまったことによる。つまり『ヘタレ死』または『チキン死』をするところだった訳である。 この説明は医師の配慮から俺だけにされたのだけど、さすがに恥ずかしかった。 ただ、そういうことは珍しいことではなく、些細な怪我で命を落としてしまうショック死というのは本当に毎年かなりの数があるとかで、侮ってはいけないのである。 それはまあ置いといて、ショック状態だったのは裕未も同様で、俺が蘇生したことの感激は失神レベルだったらしい。事実あの時裕未は大泣きしながらそのまま眠ってしまっていた訳で、あれは泣き疲れて眠ったのではなく失神していたということになる。 翌朝になっても昂ってしまった精神は普段の温厚な性格をどこかに追いやって、ヒステリックになってしまったファザコンの裕未は、『俺が死にそうになったのは専ら亜季のせい』という結論を握り締め、俺と談笑する姿に激昂し、全力で突き飛ばすという蛮行に出たのである。 それからこの重苦しい雰囲気が始まってしまった。 しかし、これだけならまだ対処のしようがあるのだ。時間による解決も勿論期待できるし、裕未が亜季に対して攻撃をしないというのが何より救いがあるし、また何かイベントを持ちこんで強引に楽しい時間を演出してやれば何とかなるかもしれないじゃないか。 そう、これだけなら、まだよかったのだ。 俺が帰りたくない本当の理由は、裕未のもう一つの行動にある。 「お父さんなんか大っ嫌いなんだからね」 今まで一度としてこんな事は言わなかったのに、あれ以来毎日のようにこの台詞を聞くようになった。そして、この台詞はある行動を起こす前に必ず言うので、ある種の口上触れみたいなものでもあった。 大嫌いなら離れればいいのに、 大嫌いなら背中を向ければいいのに、 その真逆に出るのである。 裕未は、この口上の後に、俺の布団に入ってくるのだ。 そして、 「私を置いて勝手に死のうとするお父さんなんて、もう、本当に大っ嫌いなんだからね」 そういって抱きついてくるのである。 5年生に上がる前から自分の部屋で寝起きするようになった裕未が、俺の部屋で、俺の布団で、俺に抱きついて、寝るのである。 これは、オカシイだろ? 「絶対許さないんだから、私が見張るんだから、それでも死ぬようなら、私は私を絶対に許さない」 よく分からない思考のループを作ってしまった裕未を説き伏せるのは、もはや俺には不可能だった。 大嫌いなくせに「痛くない?かゆくない?辛くない?いつも通り?大丈夫?」などなどの俺を気遣う言葉と共に密着してくるのである。 そこには親子仲良く布団を並べて二の字になって、なんてほのぼのした情景などなく、俺が生きていることを常に確認していないと不安でしかたがないという精神障害を負った娘へのケアとして俺は黙って一晩中抱き枕になっているのである。 考えてみて欲しい。 亜季のファインプレーのお陰で過ちを回避できたとはいえ、第二次性徴期真っ盛りの12歳の娘に対して、一時はあらぬ妄想と邪な好奇心を抱いたダメ親父の俺が、そのような仕打ちに全く無感情で対応することなどできるわけがないのだ。 しなきゃいけないのだろうけど、それは無理というものだ。 最初は半袖のパジャマを着ていたのに、暑いからといって次の日にはTシャツと短パン、次の日にはキャミソールと短パン、そしてとうとう昨夜はキャミソールとショーツになってしまった。勿論キャミソールの下はノーブラである。このペースでいくと今夜にも上下のどちらかが取り払われてしまいそうで、怖い。 ある意味拷問と言ってもいいレベルの仕打ちが、愛すべき娘からされるのだから、これは苦しい。 最初は『眠ってしまえば暑くて自分から離れるだろう』と思ってたのだけど、一晩中一度として俺を放そうとしないのには驚いた。 間違いなく眠ってるんだけど、手が硬直しているかのように俺から離れようとしないのである。 一度トイレに行こうと裕未の手を解こうとしたら、慌ててしがみついてきて、覆いかぶさられたことがある。 その慌て様は病的で、覆いかぶさったついでに、何度も抱きしめられて、顔に頬ずりしてくるものだから、その・・・、事故ではあるけど、数回にわたって、唇と唇が触れてしまって、つまり、キ、キスをしてしまったのだ。 偶々そういう位置関係になっただけだからと意識しないようにしているけど、唇が合わさった事実は忘れようがなく、その印象がかなり深く刻まれてしまった。 本当ならこのキスについて、本人にそれとなく探りを入れたいところなのだけど、それだけでは済まなくなっているので、最早何から突っ込めばいいのか、わけがわからないのである。 代謝が激しくて体温高めのローティーン様に抱き枕にされるというのは凄く暑いので、汗だくになる。 もう安眠は諦めているのだけど、朝から汗でベタベタなのが気持ち悪くて仕方がない。 当然、寝起きでシャワーを浴びるのだけど、脱衣所に入るころには既に裕未は隣にいて、ほぼ同時に服を脱ぎ、一緒にシャワーを浴びるのである。 「は?」 である。 ちょっと前までの『お父さんに見られるのが恥ずかしい』という自意識過剰気味だった初々しい裕未はもう何処かへ行ってしまった。 シャワーも単に浴びるのではなく、俺をせっせと洗ってくれるのだ。 「は?」 再びである。 背中だけなら幼少期に洗ってもらった記憶はあるけど、今回は全身である。 全身ということは、前後左右、東西南北、上中下、内側外側、表裏の全身である。 「はい、次は前ね~」 とニコニコ微笑まれるのだけど、 いやいや、それは無いでしょ、ナシでしょ、アリにしちゃダメでしょ、と抵抗を示したところ、 「恥ずかしがる方が恥ずかしいって言ってたのは、あれは、嘘なの?亜季と結託して私を騙したの?」 と悲しそうな目をするもんだから、自由にさせるしかなかったのだ。 『亜季と結託して騙す』だなんて、なんて嫌な表現だろう。そのフレーズの中に裕未の歪んでしまった心が凝縮されているみたいじゃないか。 でもここで裕未を自由にさせてしまったことで、俺は裕未の性的解放を咎める術を失ってしまったのだ。 裕未が俺のどこをどんなふうに触ってきても『こら、やめなさい』ではなく『くすぐったいからやめて~』と言うしかできないのである。 幸い、今のところ肛門の秘密に気づいていないので凌いでいるが、もう時間の問題だろう。 俺の全身を洗った後にくるのが『じゃ洗って』という要求である。 俺を洗うだけではないのだ。 俺に自分の全身も洗わせるのだ。 幼少期の面影の失せた『女性らしく』なってきている裕未の体を洗うのである。 頭をガシガシ、背中ゴシゴシ、控えめながら女らしいラインになってしまったお尻もゴシゴシ・・・ 意識すまいと思って、わざと強めにスポンジでゴシゴシ洗ってたのだけど、これにはクレームついた。 「痛いよお父さん、汗を流す程度でいいんだから、手で洗って、私もそうするし」 折角の緩衝アイテムであるスポンジを自らの愚行で失ってしまった。 手でと仰いましたか、手でと! 「あー、すべすべー、きもちー」 それほど美しくもない俺の手だけど、裕未はとってもご満悦。首を洗う時などは何も言ってないのに裕未の方から「イーっ」とかいって首裏を洗いやすくしてくれる。 この仕草で合点がいったのだけど、これは裕未の子供返り、甘えなんだとわかった。 だからおっぱいも洗わせるし、陰毛の生えたお股も洗わせるのだけど、特にエロい展開を裕未が期待しているわけではないのである。 ただ、裕未は、本当に可愛いのだ。 そして、俺はロリコンを何も治療していないのだ。 自分を洗ってもらう間は、心頭滅却して真言を唱えながら耐える事はできる。 だが、こちらから洗うというアクションは、心頭滅却のしようがないのだ。 可愛いおっぱい、転がしたくなる乳首、すらっとした腕脚、弾むような弾力、小ぶりで丸いお尻、どれもこれも目の毒なのだ。 ハルちゃんには申し訳ないけど、発育良好6年生の裕未は、只の未熟な硬い青梅ではなく、甘く爽やかな香りを放つぷっくり膨らんだ青梅なのだ。 もう、どうしようもなくサイコーなのだ。 なのに、間違っても勃起してはいけないのである。 そんな事になった日には、俺は自分の誓いを守って睾丸を潰さなくてはならないのだ。 こんな苦しいことはない。 逆に裕未がエロい展開を望んで、変なモーションを起こしてくれた方が俺的には萎える事が出来たと思う。 幼い子供みたいに天真爛漫な笑顔で、完璧な無防備で美しい娘が体を預けてくるというシチュエーションが、変態ロリコンにはご馳走過ぎた。 そして、言葉には出さなくても、もし俺が何かしらのエロいアクションを起こしたとしても、裕未はお父さんがしたいならいいよって受け入れてくれそうな雰囲気が全身から滲み出ているのだ。 ブラジャーショーや温泉行きで裕未の自意識過剰を取り除くことはできたのかもしれないが、女子として守るべき大切な一線さえも捨て去ってしまったのか、親子愛と恋愛と性行為の境界が今の裕未には欠落してしまっている可能性が非常に高い。 今朝はスポンジを使わず、手で洗ってくれました。 「え?だって昨日言ったじゃない、私も手で洗って欲しいし」 そういえばそんな会話がありましたねぇ・・・。 裕未にタマ裏を撫でられ、竿を握られ、皮をめくられ、ヌルッとしたボディソープに潤滑された感触に包まれた時、俺は『ドイツ語でナポレオンのモノマネをする山本五十六』というネタの構築に必死になることで耐え抜いた。 そう、耐え抜いたのだ。種抜いたのではない、間違えないで欲しい。 結局そのネタは完成しなかったのだけど、このシリーズは現実逃避に有用だというのがわかったのでまた使おう。次は『韓国語でインディアンに謝罪し続けるコロンブス』でもやろうか。 でも、でも、もうヤバい。 うっかりしなくても海綿体への流入バルブが自動制御で開いてしまいそう。 手動による強制全閉がもう限界に達しようとしている。 何でもない時なら亜季が縦横無尽に活躍して、裕未の暴走を見事に制御し抑えるのだろうけど、今はその頼みの亜季が完全に無効化されてしまっている。 亜季しか止められないのに、亜季が効力を失うということは、もう誰も止められないということだ。 仕事中も裕未のことを考えてしまう。どうしたものかと考えるのと同じくらい、眩しい裸体と可愛い笑顔を思い浮かべてしまっている。 あんなに秘めていた胸の膨らみや陰毛を、惜しげもなく見せて触らせてしまう無邪気な豹変は、ロリコン検定2級合格の俺にとっては、スルーできるわけがないのだ。 『思い出して勃起してもアウト』 そう自分に課した以上、この苦境を、ピンチを、逆境を、是が非でも乗り越えなければならないのだ! そして辿りついたのが『自己暗示型自己嫌悪法』である。 自分で自分にありとあらゆる方面からダメだしをして、これ以上ない自己嫌悪に追い込んでいくのだ。 最低だとかクズだとかゴミだとか、およそ自分には使いたくない単語を羅列して、終始蔑み続けるのである。 意識的に忘れていた過去の過ちや恥ずかしい愚行も総動員して、生きる価値を見失うまで追い込むのである。 それによって、裕未の可愛さ美しさが神々しさに変わり、俺ごときが触るどころか見る権利さえないではないかとなり、邪な劣情が沸き起こるのを抑えることができるのだ。 これは実に効果的。 海綿体を鎮静化するだけでなく、裕未に抱かれて暑苦しいのを『勿体ないことです』と感謝できるようになってしまった。 ただ、これはひどく消耗する。食欲が減退し、覇気がなくなる。 会社でのテンションにも影響し、営業先での交渉力にも影響がある。 要は卑屈になってしまうのである。 最悪の後遺症ではないか。 冒頭で俺が卑屈な物言いをしていたのは、このせいなのである。 こんなことを日常化させてはいけない。 なんとか打開しなければならない。 裕未だって相当無理をしている。 誰よりも早く起き、誰よりも遅く寝るようになり、一晩中体を緊張させているものだから体力的にはかなり限界に近づいている筈なのである。 俺を大切に思ってくれるのはあり難いことだけど、それで亜季が悲しんだり、裕未が倒れちゃったりしたのではちっとも嬉しくない。 どうにかしなきゃと思いつつも、亜季に相談しようとするとレーダー探知機でも持っているかのように裕未が現れて阻止られてしまう。 じゃあホーコにと思っても携帯履歴を調べられて、裕未の知らないところで会うことは禁じられて、自宅で裕未のいる前でのみ面会可能という半ば罪人のような扱いまっただ中なのである。 亜季はというと、連日苦しそうな顔をして、折を見ては 「裕未ちゃん、もう許して」 と話しかけるのだけど、裕未はそこに亜季がいるのが見えないかのような無視をするのである。 これはされる側にとってはかなりキツイ態度で、事実、亜季は日に日に元気を失ってしまい、我が家の太陽はめっきり暗くなってしまっていた。 実際、俺との性活はおろか、すっかり楽しみと化していた亜季とのおしゃべりが封じられてしまい、俺自身も自己暗示型自己嫌悪なんかやってるせいもあって、落ち込んだ気分がどうにも戻らないのである。 娘に愛されるのは幸せなことだけど、行き過ぎた干渉は苦痛でしかないのである。 親が娘を溺愛して過干渉となって娘がグレたり家出したりするという子育て失敗談がよく転がっているが、今の俺はそのグレる娘の気分がよく理解できる。 裕未は可愛い。 でも、もう、辛い。 しかし、仕事で現実逃避しようが帰りたくないとかほざこうが、何も変わらないし、事態は悪化するばかりだろう。 亜季がいつまた壊れてもおかしくない事を思えば何かしら対策を打たねばならないのだ。 俺だってヘタレではあるが、チキンではあるが、考えることぐらいできる。 そして何度考えても同じ結論に到達するので、ホーコに相談すべく、今となっては珍しい緑色の公衆電話に飛びついた。 「あはは、公衆電話ねぇ」 「いやいや、笑い事じゃないんだよ」 「裕未、どんな感じ?もう襲われた?」 「オマエなー、分かっててからかうなよな、洒落にならないんだから」 「あの感じ、由希子にそっくりだね」 「え?」 意外だった。 最近よくしていた由希子の話は亜季に関連したことばかりだったのだけど、今は裕未の話なのだ。 「学生時代、貴志のSPみたいに纏わりついて誰も寄せ付けなかったじゃない、知らないの?」 初耳だった。なんだそのSPって? 「よっぽどアンタの事が好きだったんだろうね。剛蔵が貴志にチョコを贈ったのを切っ掛けに由希子が豹変したんだよ」 だとすれば中二の3学期の出来事だ。登下校はいつも由希子と一緒だった。俺が部活でどんなに遅くなっても、由希子は必ず待っていた。 俺も由希子に夢中だったから特に何も思わなかったけど、今にして思えば、あの由希子の行動はストーカーと大差なかったのだな。 「やっぱ由希子の娘だわ。DNAは確実に受け継いでるね」 喜んでいいのか悪いのか・・・。 今まで由希子の影を亜季を通して追っていたけど、よく考えたら裕未の半分は由希子なんだった。 亜季が教えてくれたじゃないか。 『裕未ちゃんの半分はたっくんなんですよ』 じゃあ残りの半分は由希子じゃないか。 俺は、何か根本的なところで思い違いをしていたようだ。 「あ、ごめんごめん、今はそんな暢気な事言ってられないんだったね」 別の思考に入ろうとした俺をホーコが引っ張ってくれた。 俺の考えた結論を話したら「それしかないだろうね」と同意してくれた。 そして「やるなら今日だろうね」とも言った。 要となる人の連絡先やちょっとしたアドバイスなんかを添えて後押ししてくれるホーコには他にも訊きたいことが山ほどあったのだけど、この件を落ち着かせて自由に会えるようにならないとどうしようもなかった。 ただ一つだけ気になったので訊いてみた。 「なんで今日なんだ?」 「今日、裕未の排卵日なんだよ」 「・・・・誕生日みたいに言いやがって・・・」 それはつまり、急がないと今夜にでも裕未と過ちが起きて、破滅してしまうという『宣告』だった。 先読みが利くホーコの言葉だけに、その重みは大変なものだった。 俺は受話器を握りしめて、ふるふると震えるしかできなかった。 娘の排卵日を聞いて震える日が来るなんて、考えもしなかった。 人間、生きていると何が起きるかわからないものなんだなぁ・・・。 「もう一つアドバイス」 「あ、うん」 「わざわざ公衆電話を使わなくても携帯の履歴を消せばいいだけなんじゃないの?」 あまりに当たり前の事だった。そこでがっくりと項垂れてしまったのは、電話越しであっても隠しようがなかった。 残っていた営業と現場の確認を済ませて、馴染みのコンビニに立ち寄り、盆山ちゃんの笑顔に癒されながらドリップコーヒーを買い、駐車場の車の中で、必要な連絡を済ませる。 さて、後は自宅への連絡を残すだけとなって、思わず溜め息をついたタイミングで会社からケータイに電話が入る。 「娘さん、来てますよ」 時間は午後4時半!とうとうSP裕未が『お迎え』という行動に出てしまった! 事務所で何を口走るかわからないので、大急ぎで戻ると、あっけらかんとした笑顔で新人の低橋葉佑君と談笑していた。 「あ、お父さん」 「なにやってんだ、おまえ」 ぴょんと可愛らしく俺の横に飛んできて、すっと腕を組んでくる。 「迎えにきたの」 「お、おう、そうか、すまんな」 なるほど、この堂々としたストーキング行為、あの頃の由希子を彷彿とさせる。 「いや、こんな可愛い娘さんいたなんて知りませんでしたよ、ちょっとお友達になりたいっすね」 「コイツはまだ小学生だぞ」 「何言ってるんっすか、今の時代、年齢なんか関係ないっすよ」 「裕未、葉佑くん、どうだ」 「うふっ、おとといきやがれ、って感じです♪」 めっちゃ笑顔で男を泣かしやがった。こいつ、できるっ! ノースリーブのワンピースを着てる裕未は、一段と可愛く見えた。 定時は17時15分なんだけど、病み上がりということもあって、17時には帰っていいよということになった。 なかなか甘い職場で助かった。 ずっと俺の腕を離さない裕未は、駐車場に向かう時にすっと手をつないできた。 そして指と指を絡ませて、もう片方の手で腕を触って頬を寄せてきた。 これって、単なる仲のいい親子じゃないよね!どう見たってラブラブの関係だよね!?誰が見てもそう思うよね!? 「ねえお父さん」 「ん?」 「今日は夜も一緒にお風呂入ろ?」 「あはは、どうしたんだ?」 「だってー、お父さん、ちんちん洗ってるとき、すっごい可愛い声出すんだもん。あれ、大好きなの」 「へ、へえーーーーーーーーーーーーーー」 山本五十六に集中し過ぎて、俺は無意識のうちに喘ぎ声を出していたというのか! もう、俺、終了でいいんじゃないのか!? 「だからぁ、今夜はもっといっぱい洗ってあげるね」 「あは、あは、あははははは」 すみませんが、どなたか通報してくれませんかね。 一刻も早く逮捕されたい気分なんですけど。 「いいでしょ、お父さん」 「そ、そうだな、2時間ほど入るか」 「やったー!」 俺のピーに興味を持ってしまった裕未が、2時間も一緒に入浴できることを無邪気に喜んでいる。 今日が排卵日の可愛い娘が、俺のピーを触り倒すと宣言して喜んでいる。 それを凌いでも、最後は半裸で抱き合って寝るのが決まっているのだから、もう絶体絶命なのである。 俺の頬を涙が伝う。 悟られないように涙をぬぐい、車に乗り込んだ。 計画を実行する。 走り出してすぐ、裕未には何も言わずに、ちょっと帰り道から逸れてみる。 「あれ?お父さん、帰らないの?」 「ちょっと寄り道。いいだろ?」 「亜季は?」 「家にいるんじゃないか?」 「電話したの?」 「いいや、してない」 「お父さんと私だけ?」 「そう」 「ふーん」 ならいいやって感じで深く座り直す。 今までは後席にしか座らなかったのに、今は助手席にいる。 今まではすぐに眠っていたのに、今は眠らずシフトレバーを握る俺の手に手を重ね、反対の手で俺の腕に手を軽く握っている。 どんだけ俺に執着しちゃっているのかが窺い知れるというものだ。 30分ほどして、裕未の知らない○△小学校に到着した。 事前に連絡をしておいたので、担当の先生がにこやかに対応してくれた。 「すみません、こんな時間に」 「いえいえ、私どももちょうど処分しなきゃと思ってたところなんです」 「じゃあ早速でなんですが、見せてもらえますか」 「ええ、こちらへどうぞ」 通されたのは職員室の隣にある応接室だった。 それほど大きくない紙袋にそれは入っていた。 「えーっと、これが入学当初で、これは遠足の時で、2年生になってからはこれしかありませんけど」 「え?これ、亜季?」 裕未が口に両手をあてて驚いていた。 ここは亜季が昔通っていた小学校である。 亜季が在学していたころの写真や資料があったら引き取りたいとお願いしたら快諾いただいたのである。 今見せてもらっているのは写真で、そこに写っているのは、顔つきから亜季だとわかるものの、その風貌というか雰囲気というか、なんともみすぼらしく汚らしく、写真からでも『汚い子供』というのがひしひしと伝わってくるのだった。 今の亜季しか知らない裕未にとって、その写真は信じられないものだったはずだ。 髪はぼさぼさ、靴下はなくてスカートの折り目もくちゃくちゃ、ブラウスはボタンがずれててネクタイはない。顔も眼ばかり大きくて笑顔は一枚もない。一枚だけ丸くふくよかな顔をした写真があったけど、それは殴られて腫れただけだったみたいで、左右のバランスがおかしかった。 「亜季ちゃんは本当に可哀相な子でした。私どもで洗濯したりお風呂に入れてあげたりもしたんですけど、身なりをきちんとしてあげると亜季ちゃん本人は喜んだんですよ。でも翌朝には目茶目茶になっているんです。もう家庭が異常だったんでしょう。今みたいに強制的に介入できない時代でしたので、何とかして保護できないかと思っていたんですけど・・・」 「お察しします」 「あの、失礼ですが、今はどのようなご様子でしょうか」 「今は至って普通です。家庭でも学校でも明るく元気にやってます」 「そうですか、ならいいのですけど・・・」 写真のほかに作文やプリントや絵が数枚あったけど、登校日数が少なかったということで、普通の子供より極端に痕跡が少なかったようだ。 何気なくパラパラと眺めていたら、絵が数枚出てきた。 物凄い精神崩壊的な絵かと思ってたけど、さにあらず、そこにはとても幸せそうな親子の図が描かれていた。 「パパ、ママ、アキ」の三人が手を繋いでめっちゃ笑顔の絵。とても明るい色彩で可愛い絵だった。 「それが亜季ちゃんの夢だったのかもしれません。絵を描かせたら必ずそれを描いたんです」 これがきつかった。暗い色彩の陰鬱な絵よりハードだった。 育児放棄され、無視され、虐待を受けながら、それでも父親をパパと呼び、母親をママと呼び、自分を真ん中に置いて手を繋いで笑顔でいる自分を夢見る7歳児なんて、俺はとても冷静に受け止められなかった。 どうしようもなく泣けてしまい、嗚咽を抑えきれなくなった。 そんな様子に裕未は驚きつつも、同様に重苦しい表情でうつむいていた。 先生は当時の記憶がいまだにリアルに残っているようで、多くは語ってくれなかったけど、その一言一言をとても吟味され、辛そうに話される言葉にはどうしようもない説得力があった。 当時の亜季が、家庭で虐待され、学校で虐められ、給食以外の食べ物は万引きして生き延びていた浮浪児さながらだったことが、ありありと再現されるかのようだった。 裕未は、とても苦しそうな、そして難しそうな顔をしていた。 クラス写真なのに明らかに仲間はずれにされている一枚をじっと見つめていた。 あまり長居しては失礼になると思い、懇ろにお礼を言って小学校を後にした。 車の中で、俺はあえて黙っていた。 裕未もずっと黙っていた。 でも頂いた紙袋を抱きかかえていて、足元や後席に置こうとはしなかった。
2014/04/11 09:47:40(KAEee7bv)
投稿者:
酒精
◆l1dFHT0XUA
お待ちしておりました。
゙小難しい話゙も、楽しんでます。
14/04/11 13:05
(UwhYr8B8)
投稿者:
(無名)
続きありがとうございます。
毎回楽しみにしています。 早く続きが出来たらUPして下さい。 1ファンより
14/04/11 22:23
(VkH5wNTE)
投稿者:
布水
UPありがとうございます、楽しみに待ってました。
辛く悲しい部分もありますがこれを乗り越えて素晴らしい結末になる事を祈っています。 お忙しい中で大変だとは思いますがこれからもよろしくお願いします。
14/04/12 07:27
(Sbikbh/8)
投稿者:
(無名)
今回は辛く悲しいお話でしたね。
次回も楽しみに待っています
14/04/12 14:45
(J6lci7W9)
投稿者:
(無名)
もう完全に感情移入して読んでいます。
小学校でのくだりは泣いてしまいました。 次回も楽しみにしてます。
14/04/15 22:32
(P/DoJ6G6)
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