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1:可愛い弟子 40
投稿者:
タカ
◆mqLBnu30U
――第40話――
いつの間にか横になっていたらしい。 何かあったのかしらと、心配しているうちに、シホは、うつらうつらと眠り込んでしまった。 ファミレスで別れたきり、タカは戻ってこない。 驚かせようと思っていたから、部屋の中は真っ暗なままだった。 テレビの電源も切ってある。 暗闇の中にぼんやりと視線を漂わせた。 さっきまで眺めていた白い裸体が、暗い空間に残像のように甦る。 久しぶりに見たミノリは相変わらず細くて白かった。 意外なほど子どもらしい顔つきだったミノリは、ペニスを頬張る仕草にも、まだ初々しさがあった。 当たり前だ。 きっとあれは、ツグミと一緒にいた頃のミノリなのだ。 笑うと口元に八重歯が覗く可愛らしい子だった。 いつもツグミの傍から離れなくて、姿が見えないと泣いてばかりいた。 そのくせツグミを奪われそうになると、豹変したように凶暴になる。 よく揉め事を起こして和磨から折檻されていた。 母親と一緒に脱走したと聞いたときは正直ホッとしたけれど、まさかコトリと同じ施設に収容されていたとは思わなかった。 そのミノリがコトリの首を絞めて殺しかけた。 間違えたのだ。 きっと、ミノリはツグミとコトリを間違えたのに違いない。 似ているけれど、ふたりは違う。 ミノリは、Thrushにいた頃から、少し精神を病んでいた。 とても気の弱い子だった。 哀れには思うけれど同情は覚えない。 理由はなんにせよ、コトリを手に掛けたことだけは絶対に許せない。 あのひとが教えてくれなければ、そんな恐ろしいことがあったことさえ、わたしは知らずにいるところだった。 4年前・・・。 『コトリがっ!?』 父に言われて、五所川原のメモリーカードを重丸に渡す役目を任された。 『ちょっと待って!どうしてあの子がそんな目に!?』 重丸と会っていたのは、彼が指定してきたホテルの地下駐車場。 『詳しい原因はわからん。だが、取りあえずコトリちゃんの命に別状はないから安心しろ。』 安心って・・・。 『安心できるわけないじゃない!あなたを信じて置いてきたのに、こんな事になるならわたしと一緒にいたほうが安心できたわよ!』 そんなことができないことは、わたし自身が一番わかっていた。 あの子をわたしと同じ目に遭わせたくない。 その思いだけで必死に堪えていた時期だった。 『落ち着け。取りあえずコトリちゃんは無事なんだ。首を絞めた子も今は違う養護施設に送致してある。同じ事件が起きる心配は、もうないんだ。』 園を出てから4年が経っていた。 たまにこっそりと物陰から眺めたりしたことはあったけれど、あの子を腕に入れなくなってから久しかった。 胸に抱いていた頃の温もりは、いつまで経っても消えてくれなくて、思いっきりコトリを抱きしめることのできない切なさに枕を濡らす日々が増えていた。 会えば不幸にしかならないとわかっていたけれど、どうしてもあきらめることができなかった。 そんなときにコトリが殺されかけたと聞かされた。 普通でいられるわけがなかった。 『誰なの?・・・。』 コトリに手を掛けた相手の子が許せなかった。 『それを知ってどうする?お前には関係ないことだ。』 『関係ないわけないでしょ!?コトリはわたしの子なのよ!ねえ!誰なの!?いったい誰がコトリにそんなひどいことをしたのよ!?』 相手の子を殺してやりたい。 ううん・・そんなこと、ほんとは思ってなかった。 あの子のそばにいてやれない自分が情けなかった。 そばにいて助けてあげられなかった自分が、呪わしかった・・・。 『お前にそんなことが言えるのか!?お前は、あの子を捨てたんだぞ!あの子を見捨てて、アイツの元に帰ったんだぞ!』 その頃の重丸は、わたしの素性を知っていた。 再会した彼に、ある程度の事情は打ち明けていたからだ。 父と旧知の仲だったことはわたしも驚いたけれど、それは重丸も同じだった。 いいえ、彼のほうが何倍もショックを受けていた。 高校時代のライバルはヤクザになり、まだ幼い自分の娘に売春を強要するようなひとでなしになっていた。 正義感の強い彼がショックを受けないはずがなかった。 でも、すでに政界に転じようとしていた彼に、打つべき手なんてなにもなかった。 彼の頼みとしていた政治家たちは、みんなうちの顧客だった。 何もできないとわかっていたから、事情を打ち明けることもできた。 それは、父からコトリを守ってもらうためだった。 『仕方がないじゃない!そうしなければコトリだってわたしと同じ目に遭わされるのよ!置いてくるしかないじゃない!助けたいから置いてきたんじゃない!』 半分はほんと、半分は嘘。 コトリを守りたかったのは嘘じゃない。 でも本当のところは父に会いたくて、自分から逃げ出したのだ。 もし、あのときわたしがコトリを連れて一緒に逃げていたら、重丸が運ぶトランクの中に入っていたのはわたしではなく、コトリだったのかもしれない。 『お前が、正直に打ち明けてさえくれていれば・・・あのとき、アイツのことを教えてくれてさえいれば、まだ、救うことはできたんだ・・・。』 確かにそうかもしれなかった。 出会って間もない頃であったなら・・まだ父が政治家たちを後ろ盾としていない、あの時期であったなら・・、彼にだってなんとかすることはできたのかもしれない。 でも、再会した頃の重丸には、もはやそんなことは不可能になっていた。 その頃の彼は、身の丈に合わない大きな力を手に入れようとして、自分の信念を曲げざるを得ない状況に追い込まれていた。 だから、彼だって、わたしを責めることなんてできなかった。 案の定、彼はすぐに口を噤んだ。 わたしがコトリを捨ててしまったことを後悔していたように、重丸もまた、強大な力を得るために自分の信じる正義を捨ててしまったことを後悔していた。 重丸と久しぶりに再会した日のことは、今でもよく覚えている。 県の臨海工業地帯造成工事が決定する2ヶ月前、意外なところで、わたしたちは再び巡り会うことになった。 父が五所川原に食いついてから3度目のプレイをしていた日だった。 ホテルの一室で、わたしはいつものように五所川原のオモチャにされていた。 何をされても逆らうなと、父から言われていたわたしのお尻の穴には大きなバイブ。 後ろに回した両手には手錠をはめられて、胸には幾重もの縄が巻かれていた。 お尻は鞭で打たれて真っ赤になっていた。 ヒリヒリと痛むお尻を強く握られながら、わたしは五所川原のお腹の上で喘いでいた。 お爺ちゃんだから、簡単に大きくはならなかった。 大きくならないくせに、五所川原は自分の身体でわたしを虐めたがった。 五所川原の腰に巻かれていたのはペニスバンド。 大きなディルドで下から串刺しにされ、お尻の穴にバイブまで入れられて、わたしは五所川原のお腹の上で悶絶していた。 子供にあんな非道いことがよくできる。 でも、それが彼らの愉悦。 興奮しきって、わたしを突き上げることをいつまでもやめようとしない五所川原の心臓が、いつ止まってしまうのではないかと、そればかりが気がかりでならなかった。 どんなに非道いことをされたって、慣れていたから苦じゃなかった。 身体は未熟なままだったけれど、セックスはベテランになっていたし、変態的な行為にも慣れていた。 父の愛し方に比べれば、あんなお爺ちゃんがしてくることなんて子供のお遊戯みたいなもの。 だから、全然平気だった。 精一杯、身悶えながら泣いてあげた。 甘い声で、許してくださいと、壊れたテープレコーダーのように何度も繰り返してあげた。 皮膚が乾燥しきった染みだらけの老人は、終始、喜悦に歪んだ笑みを消すことはなかった。 そこは誰にも邪魔されない彼だけの城だった。 ホテルのオーナーから提供されていたプライベートルーム。 そこで五所川原は、父が差し出す子供を気の済むまで嬲り、犯すだけでよかった。 もっと極端なことを言えば、子供を殺してしまうことだってできた。 彼には、それだけの権利が父から与えられていた。 利権絡みの情報と引き替えに与えた権利だった。 もちろん警戒心の強かった五所川原は簡単に情報を漏らさなかった。 だから、わたしが送り込まれた。 彼の性癖を満足させて、なおかつ彼の口走る情報を生きて持って帰ることのできる子供。 そんなことができるのは、わたししかいない。 不思議と身体は幼いままだった。 背も低いままだったし、胸は膨らんでいたけれど、標準的なサイズからいえばずっと小さな方だった。 おかげで娼婦らしく派手なメイクをしてしまえば、年齢なんか簡単に誤魔化せた。 きっと五所川原は、最後までわたしを子供だと信じていのに違いない。 もう16歳になっていた。 でも、わたしはいつまでも子供の姿のままで、そして、いつまでも父の傀儡のままだった。 その日もトリヤマが、トランクに詰めたわたしを部屋まで運んでくれた。 でも、帰りは違う男がわたしを運ぶことになっていた。 本間会と繋がりのあった五所川原は、阿宗会の一員であった父たちとの接触を嫌い、わたしの受け渡しを第3の男にやらせることにした。 五所川原の地盤を引き継ぐかもしれない期待の新人、彼の子飼いの部下。 五所川原には、その新人に足枷をはめる目的もあったのだと思う。 主人の蛮行を知って、なおも口を噤むようならば、これからも信用できる。 でも、そうでないのなら、期待の新人くんは、父たちの手によってすぐにでもこの世から消されていたかもしれない。 ドアがノックされて、期待の新人が現れた。 そこに現れた男の顔を見て驚いた。 銀縁メガネの奥に輝いていた涼しげな瞳。 シホお姉ちゃんと同じ目をした男は、五所川原のお腹の上で無様に悶えるわたしの姿をその瞳に映して、真っ先になにを考えたのだろう。 重丸は、目を見開いて声を失っていた。 予想もしていなかったことだから、わたしだって悲鳴を上げることさえ忘れていた。 結果的には、それが良かった。 顔を背けて俯いてしまったわたしを、五所川原は恥ずかしがっているものと勘違いした。 わたしと重丸が知り合いだなんて気付きもしなかった。 驚いていたのは重丸も同じだったけれど、すぐに平静を装い、表情に出さなかったのはさすがだと思う。 五所川原は、やめるなと、わたしにいった。 拒むことはできなかった。 でも、もう声を出すことはできなかった。 震えるわたしが五所川原には面白くてならなかった。 いつになく乱暴に突き上げて、愉快げに声を出して笑っていた。 重丸は、ひと言も声を出さなかった。 彼は、彼の後ろ盾とする醜悪な老人の蛮行が終わるのを、ひたすら声を殺して待ち続けた。 無表情な重丸の態度が、五所川原にはつまらなくなったらしい。 ようやく飽きてくれて、わたしは解放された。 手錠が外され、重丸の見ている前でアナルからバイブを抜いた。 その太さと大きさは、彼の目にどのように映っていただろう。 胸に巻かれた縄を外すのに苦労していると、重丸が手伝ってくれた。 わたしの背中で黙々と縄を外す重丸の姿を五所川原は満足げに眺めていた。 子飼いの部下は、完全な忠犬となった。 五所川原の為に汚れ仕事もこなす忠実な犬であることを証明した。 重丸は、五所川原のテストに合格したのだ。 重丸の見つめる目の前で着替えた。 床に落ちている縄やバイブを拾って、トランクの中に仕舞い込んだ。 来たときと同じようにその中に隠れると、ふたを閉めてくれたのは重丸だった。 彼は一切、わたしに話しかけなかった。 目を合わせようともしなかった。 ただ一度だけ、トランクのふたを閉めるときに見上げていたわたしと目が合った。 その時の彼は、怒っているような悲しんでいるような不思議な目をしていた。 重丸にトランクを引かれて、わたしは部屋を出た。 『生きていてよかった・・・。』 エレベーターに乗せられて下に運ばれるとき、やっと重丸が口を開いた。 悲しげな声だった。 『コトリちゃんは、元気だ・・・。』 その声を聞いて、わたしは泣いた。 もし、コトリのことがなければ、わたしは重丸とこれほど深い接触を繰り返すことはなかったかもしれない。 それからというもの、重丸からは、ことある毎に父から離れろと忠告されてきた。 青春時代をともに過ごしながらも、その頃はすっかり敵同士だったふたり。 何を言われても、わたしは耳を貸さなかった。 父を欲しがって堪えきれない夜を過ごしたあすなろ園での暮らしが身に染みていた。 あの時の切なさがいつまでもわたしを父から離さなかった。 でも、コトリが大きくなるにつれて会いたい気持ちが大きくなっていくと、いつからかわたしは父とコトリを天秤にかけるようになっていた。 そして、次第にコトリへの傾斜が大きくなり始めていた頃に、コトリの事件が起きたのだ。 『2週間ほど前に駅で保護した女の子だ・・・。』 『え?・・・。』 重丸は、興奮していたわたしを落ち着けようとしたのかもしれなかった。 溜め息を吐きながら、コトリを襲った女の子のことを教えてくれた。 『深夜の駅をさ迷っていたんだ。真っ白な服を着て、裸足でホームをうろついていた。今のお前と同じくらいの歳の女の子だ。お母さん、お母さんと言うだけで、他には何もしゃべらない子だった。だから、その子が何者なのか、今もほとんどわかっていない。どうしてコトリちゃんにあんなことをしでかしたのかも同じだ。精神的に不安定そうな子だから、発作的にあんな・・・。』 『ミノリだ。』 真っ白な服と聞いて、すぐにわかった。 『え?』 『それってミノリだ。』 ミノリは、異常に白い服ばかり着たがる子だった。 『お前・・・その子を知ってるのか?』 意外そうな瞳が見つめていた。 その瞳を見つめ返しながら、頷いた。 『2週間前にうちから逃げ出した子。今もみんなで捜してる。』 『逃げ出したって・・・どこから?』 わたしはすぐに口を噤んだ。 重丸には、ほとんどのことは話していたけれど、Thrushのことだけは、ひたすら存在を隠していた。 だから、わたしたちがデリバリーされることは知っていたけれど、その供給元がどこであるかまでは掴んでいなかった。 あそこだけは口が裂けても言えなかった。 Thrushの存在を教えてしまったら、わたしの帰るところがなくなってしまう。 押し黙ってしまったわたしを見て、重丸は大きな溜め息を吐いただけだった。 政治家の傀儡に落ちていた重丸は自分の無力さをわかっていた。 わかっていたから、彼はできもしない大言壮語を吐いたりはしなかった。 それだけでも、彼の誠実な人柄がうかがえる。 本当の悪人とは、できもしないことを平気で口にするひとだ。 騙すことに慣れているから、どんな大きな嘘だって平気で口にできる。 これまで嫌というほど、そんな大人たちを見てきた。 政治家なんて、まさしく嘘つきな大人の代表みたいなものだ。 その政治家に、わたしは命を狙われていた。 『どうして?・・・。』 『お前らは、やり過ぎたんだよ・・。越えてはならない一線を越えてしまったんだ・・。』 重丸は淡々と話してくれた。 五所川原を騙したことでわたしがとても危険な状態にあること。 タイペイマフィアがわたしを捜していること。 そして・・・。 『なあ、ツグミ・・。』 みんなは、わたしをツグミと呼んだ。 父もトリヤマも、Thrushにいたみんなも、そしてわたしの素性を知ってからはこの重丸でさえも、わたしを「ツグミ」と呼ぶようになった。 『お前に話したかったのはコトリちゃんのこともあったが、もうひとつ大事なことがあるんだ。』 あの日、重丸がわたしにだけ、そっと教えてくれたこと。 『和磨は、明日から消える・・・。』 その企みをわたしは父に教えなかった。 父を愛していたけれど、それよりもコトリと一緒に暮らしたい気持ちが強かった。 コトリが殺されかけたと知ってからは、なおさらだった。 それを期待して、重丸は教えたのだろうけれど・・・。 『ずっとコトリと・・・一緒にいられる?』 『ああ・・・。』 向けられていたのは、シホお姉ちゃんと同じ瞳。 わたしは決めた。 『三日後だ。三日後に必ずコトリちゃんと一緒に迎えに来る。』 その言葉を信じた。 ううん、シホお姉ちゃんを信じたんだ。 わたしを守ってくれたやさしいお母さん。 コトリの名前を授けてくれたマリア様。 『今日から僕が、君たちのお父さんだ。命に替えても必ず守ってやる。だから、僕を信じてくれ。』 約束の三日後、大言壮語を言うことのなかった重丸が自信満々に約束してくれた。 罪深さはあったけれど、後悔はなかった。 その日、わたしは長年住んだ街を重丸とともに離れた。 腕に中にしっかりとコトリを抱きしめながら・・・。
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2015/06/08 21:42:26(PGv6IB01)
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