病室のドアが開いて美香さんが飛び込んできた。顔を見た瞬間、胸の奥がザ
ワッと鳴る。『海さん！すみません、娘のことでご迷惑をおかけしまして！
体の方は大丈夫ですか！？』『俺は大丈夫です。体は頑丈な方ですから。そ
れより真奈ちゃんが無事で何よりでした』『本当にありがとうございまし
た。真奈の危ないところを救っていただいて。なんてお礼を言ったらいいの
か…』俺にすがりつかんばかりに感謝してくれる美香さん…。あわてて出て
きたんだろう、会社の制服である白いブラウスに紺のスカートのままだ。走
ってきたようで息が弾んでいる。呼吸に合わせて、白いブラウスが美香さん
の胸に押し上げられて膨らむ。いいな～、美香さん！清楚な色気がたまらな
いよ！実際、体は所々まだ痛かったが、美香さんが俺に笑顔を向けてくれる
なら痛みも気にならなかった。美香さんの笑顔が嬉しくて、自然と美香さん
に対して饒舌になっていた。ふと気が付くと、真奈ちゃんが俺の顔をじっと
見ているのが視線の端に入った。

美香さん、３２才。バツイチ。真奈ちゃんと２人暮らし。いわゆるシングル
マザーってやつだ。俺と同じ会社で事務をしている。働き者で笑顔も素敵な
ので皆に人気がある。

会社の日帰り旅行に美香さんは一人娘を連れてきたりしてたので、会社の皆
と真奈ちゃんはすっかり仲良しだ。海くん、海くんと言って俺によくなつい
てくれるので、俺も真奈ちゃんを可愛がっていた。

３ヵ月くらい前、職場で美香さんと会話してた。真奈ちゃんの成績のこと
だ。得意な科目と苦手な科目の差が激しいとのこと。『真奈ちゃんの家庭教
師しましょうか？小学校の勉強くらいなら俺でも教える自信ありますよ！』
『えっ、でもそんな…』という美香さんとのやり取りがあって、週に１回、
家庭教師をすることになった。俺としては、可愛がってる真奈ちゃんの成績
がアップすればという気持ちももちろんあったが、これを機会に美香さんと
の距離がもっと縮まればという下心もしっかりあった。まあ男なんて下心の
塊だ、と自分を正当化する。

これが美香さん真奈ちゃん母子と俺との関係の大まかなところだ。で、真奈
ちゃんに聞かれた初めの質問だが、真奈ちゃんには美香さんのこと好きとか
そんなわけないじゃないか、と否定したけど、実際のところ俺は美香さんが
好きだった。あの体をこの腕で抱き締めたくてたまらなかった。でもそんな
こと小学生の、しかも美香さんの娘である真奈ちゃんに言えるはずもなかっ
た。

さっき男と取っ組み合いをしたこともあって喉がムチャクチャ渇いていた。
自販機に行こうとすると、『私がお水かお茶を買ってきます、海さんは寝て
てください』と部屋を出ていく美香さん。再び真奈ちゃんと部屋に２人だ。
『海くん、真奈ね、さっきあの男の人に腕をつかまれて押し倒されたとき、
頭が真っ白になって体が動かなかったの。もう訳が分からなくって、で、あ
れ…海くんが走ってきたって思ったら、男の人と海くんがケンカになって、
その様子をボーッと見てたの。頭がシャンとしたのは、男の人が警察に連れ
ていかれて、警察の人に大丈夫だった？と聞かれたときだったんだ。それか
ら体がぶるぶる震えて本当に恐かった。でも海くんに助けてもらって真奈は
すごくうれしかったよ。ありがとうね』ってベッドの横に座り、ニコッと笑
いかけてくる。美香さんの娘だけあって、やっぱり真奈ちゃんも可愛い女の
子だなと改めて思った。そんなこと考えてるうちに美香さんがお茶を買って
帰ってくる。ひとしきり話をした後、美香さんが帰ろうとする。『いや！真
奈はまだ帰らないよ！海くんと一緒にいるんだもん。ママだけ先に帰ってて
よ！』『あんなことがあったのに真奈だけ置いて帰れるわけないでしょ！わ
がまま言わないの。海さんを大変な目にあわせてしまったんだし、海さんに
もゆっくり休んでもらわないといけないんだから』いやあ、俺は美香さんが
傍にいてくれる方が怪我の回復も早い気がします…なんて言えるはずもな
く…。『海くん！早く退院して勉強教えに来てね！』『真奈！そんな無理を
言ってはダメよ。海さん、本当に今日はありがとうございました。このお詫
びは必ずさせていただきます』２人は帰っていった。

幸いにも怪我の治りは早く、何日か後には職場にも復帰し、週末の家庭教師
にも行くことができた。

が、真奈ちゃんの様子がどうもおかしい。俺が問題の解き方を説明しても下
を向いて返事をするだけ。以前ならちゃんと俺の顔を見て説明を聞いてくれ
たものだが。ある日、２時間ほどの勉強を終えて、俺は美香さんとリビング
でコーヒーを飲んでいた。