『先日は本当にありがとうございました。海さんがいてくださらなかった
ら、真奈はどうなっていたか分かりません。どうお礼をしたらいいのか…』
…俺の心臓はバクバクと鳴っていた。言おうか言うまいか…。何のことかと
いうと…。

入院の期間は短かったものの、２人は病院に毎日のようにお見舞いにきてく
れた。真奈ちゃんは学校の帰りに。美香さんは仕事が終わってから。その度
に美香さんも真奈ちゃんも俺にとびきりの笑顔を向けてくれた。毎日のよう
に美香さんと会えることもあって、美香さんへの想いは以前よりも強くなる
ばかりだった。夜になって目をつぶると美香さんの笑顔が頭に浮かんで離れ
なかった。美香さんをこの手で抱き締めたい、キスをしたい、美香さんの服
を一枚ずつ脱がせて、そして…。病院での俺の頭の中は、美香さんのまだ見
ぬ裸の想像でいっぱいだった…。

『…一度でいいので抱かせてもらえませんか…？』『…えっ！？…どうい
う…意味…ですか…？』あぁ～、俺ついに言っちゃったよ。軽蔑されるだろ
なぁ～。家庭教師に来れるのも今日が最後かなあ。あ～、この部屋の風景だ
けでもよく覚えとこなんて馬鹿なこと考えてた。『え！いやあの俺、訳分か
んないこと言っちゃいましたね！忘れてください！俺もう帰ります！』と席
を立とうとしたら、『…そんなことがお礼になるのでしたら…』えっ！？今
なんて言ったの美香さん？俺の聞き間違い！？なんかＯＫっぽいこと言った
ような気がしたけど…。

『…今日じゃなくてもいいですか…？また日を改めてでも…？』もちろんＯ
Ｋ！ニヤけそうになるのをこらえて『はい！いつだったらいいか、また連絡
をもらえますか…？』と言い、心の中でガッツポーズを決めつつ、その日は
美香さん宅を去った。

数日後、美香さんからメールが入った！『先日のお礼の件なんですけど…。
再来週の夜はいかがですか？美香』というシンプルなメール。もちろんＯ
Ｋ！の返信をする。美香さんとの約束を一週間後に控えた土曜日、家庭教師
に行った。インターホンを押すと出てくる真奈ちゃん。相変わらず俺の顔を
見てくれない。『今日はママ、友達と出かけてて夕方まで帰らないんだ』そ
っか。じゃあ今日は勉強後の美香さんとのコーヒータイムはなしだな。残
念。

いつも通りに勉強を続ける。真奈ちゃんは相変わらずこっちを見ない。ちゃ
んと算数の問題の説明を聞いてるのかな？『なあ、真奈ちゃん』『…何？』
『なんで、真奈ちゃんこないだから俺の方を見てくれないの？俺と勉強する
のが嫌になったのなら、もうここには来ないようにするけど…』多感な年頃
の女の子は難しいなあ。美香さんちに来れなくなるのは残念だけど、真奈ち
ゃんがこの様子では家庭教師を続けるのは難しいかなと思う。

『違うの！そんなんじゃないの！』真奈ちゃんは顔を真っ赤にして俺の方を
見る。久々に真奈ちゃんの目を見た気がする。『じゃあ何で最近は俺の方を
全然見てくれなかったの？』『…学校の友達にからかわれて…』『…どんな
ふうに？』『前から友達に海くんのことはよく話してたんだけど、あの事件
があってから、真奈が友達に話すのはほとんど海くんのことばかりになって
たみたいなの。で、男子にも真奈はおじさん趣味だ！なんて言われたの。そ
んなことがあってから、何だか海くんの顔を見られなくなって…。でも海く
んが嫌いとかそんなんじゃないの！絶対嫌いなんかじゃないの！』と言う真
奈ちゃんの目には涙があふれていた。

なんだ、そういうことだったのか。このくらいの年の女の子が年上の男に憧
れるなんてよくある話だ。泣いてる姿が可愛くて、思わず言った。『真奈ち
ゃんは可愛いね、大好きだよ』真奈ちゃんはまだ子供だ。もちろん女性とし
ての意識なんてするわけないし、大好きってのは年の離れた妹に対して言う
ような感覚だった。でもこの一言が俺と真奈ちゃん、美香さんとの関係を大
きく変えていった…。

『ほんと！？真奈も海くんのこと大好きだよ！じゃあ真奈のこと彼女にして
くれるの？』『え！いや、そ、そういう意味で言ったんでは…！？』と叫ん
だ…ブッ飛びそうになった。真奈ちゃん、俺に顔を近付けて目をつむってい
る。唇をとじて、あごを少し上に向けている…。最近の小学生は何を考えて
んだ！俺が小学校の頃は皆もっと純情で、とか思いながら、ふと真奈ちゃん
の体を見ると…。