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プロローグ
彼女の身体に、冷たい指先が触れる。 誰のものかもわからない。 視界をマスクに遮られ、両手を拘束され、口には沈黙のギャグ。 (痛い……怖い……でも、違う) それは恐怖ではない。彼女が選んだものだ。 誰に見られているか、誰に抱かれているかさえわからない状況で、ただ一人にだけ見せる淫靡な乱れを演じる。 愛しているから、壊れていく。壊れてみせる。 (あの人、見てる……? 見てるよね?) 背後から、無言で拡げられる太股。乳房を這う舌、割れ目に滴る唾液。ねじられ肥大する乳頭。根元を縛られ充血した陰核。 何人いるのかも、もう数えられない。 (どうして……あなた、なにも言ってくれないの) 彼女は激しく泣いた。 一、夜の吐息 子どもが巣立ち、久しぶりに訪れたふたりきりの夜。 長い時間、夫婦という役割に埋もれていた彼女が、少しずつ「女」に戻っていくのが、はっきりとわかった。 「ねえ、どう? ちょっと痩せたのわかる?」 そう言って、鏡の前でポーズをとる彼女は、かつてよりも艶やかだった。髪を軽く染め、肌の手入れも怠らない。下着のラインが浮かぶ競泳水着に身を包み、こちらを見つめる目には、確かに何かが宿っていた。 あの頃よりも、互いをよく知っているからこそ、生まれる緊張感。触れるたびに、鼓動が早まる。 ローションをひとすくい、肌と肌のすれ違う音が部屋に満ちる。彼女は目を閉じ、わずかに腰を揺らす。 「まだ……終わらないの?」 その声に、もう何も言えなくなる。 夜は、ふたりだけの時間を静かに照らしていた。 月が鈍く笑うように浮かぶ、深夜の公園。 冷えた空気の中、彼女は白いロングコートの下に、 私が選んだハイレグのレオタードを着ていた。 足元には黒いパンストと、14センチのピンヒール。 少し歩いただけで、かかとからの震えが伝わる。 「こんな格好……バカみたい」 そう呟く唇は微かに笑っていた。 人の気配のない自販機の前で、彼女は足を開き、手を腰に当ててポーズをとる。 暗がりの中で、フラッシュが彼女の瞳に反射し、まるで獣のような光を宿す。 「撮って……ちゃんと綺麗に撮ってね」 その声には、羞恥と悦びがないまぜになっている。 私は何枚もシャッターを切りながら、彼女の横顔を見つめていた。 ——あぁ、ほんとうに美しい。 夜にしか咲かない花のように、秘めた何かがこの人の奥からこぼれてくる。 やがて彼女は、「もう、いいでしょ?」と息を切らして言った。 「もう少し……もう一か所だけ、付き合ってくれないか」 私はそっと言い、彼女の手を引いた。 向かったのは、車で数分のところにある、アダルトグッズ専門店。 「こんなところ……入ったことないわよ」 「大丈夫。俺が一緒だ」 彼女は肩をすくめながらも、私の腕をぎゅっと握った。 上着のボタンはわざと留めず、開いた胸元から押し上げられた乳房が深い谷を刻んでいる。 店の中は、静かすぎて逆に鼓膜に響くようだった。 陳列棚に並ぶ玩具や下着、どこからか、媚薬のような香の強い香りがする。 どれも滑稽なほど露骨で、それがかえって、この非日常の世界を美しく映していた。 「これ……何に使うの?」 彼女は縄の束を手に取り、私を見つめた。 「君を、もっと綺麗に飾るために」 そう答えたとき、彼女の瞳がすっと細くなった。 レジを通るとき、彼女は少しだけ、身体を私に預けてきた。 店を出る頃には、羞恥のヴェールをくぐり抜けた女の顔になっていた。 夜が深まっても、ふたりの静かな鼓動は止まらなかった。 この夜は、ふたりだけの秘密—— そしてその秘密こそが、私たちを繋ぎ直してくれているのだった。 二、羞恥の鏡 店内の照明は、思っていたよりも明るかった。 壁に沿って並ぶ陳列棚には、鮮やかなパッケージが所狭しと積まれ、まるでアートギャラリーのように淫靡な色彩で満ちていた。 彼女は、小さな鞄を抱えたまま、私の一歩後ろを歩いていた。 けれど、ふと立ち止まった私にぶつかると、息を呑むように声をひそめた。 「……誰か、いる」 店の奥に、若い男が二人、こちらを気にしている様子があった。 それでも彼女は、歩みを止めなかった。 まるで、自分でも気づかないうちに、足が前へと進んでしまっているように。 私は小さなパッケージを手に取る。 ヴァイブレーター。音も静かで、防水。クリトリスに吸い付き、膣内を振動させる。 彼女の耳元で、囁く。 「この色……君の肌に似合うと思う」 「やだ……そんなこと、ここで……」 彼女の声は震えていたが、それは怒りでも嫌悪でもない。 私は知っている。この人が感じているのは、“見られている”かもしれないという、ほの暗い陶酔だ。 彼女の背に回り、そっとコートの内側に手を差し入れる。 温かく、柔らかい背中。 レオタードの生地越しに伝わる、わずかな湿り気。 「ずいぶん、濡れてるよ」 「……嘘。そんな、わけ……」 否定の声は、小さな子供のように頼りなく、熱っぽかった。 棚の奥から誰かが覗いた気配がする。 彼女の頬が染まり、肩が小刻みに揺れた。 ——見られているかもしれない。 ——でも、もう立ち止まれない。 ——むしろ、見られている“かも”しれないことで、感覚が研ぎ澄まされていく。 「もう、帰りましょう」 と彼女は言ったが、その足取りはまっすぐレジに向かっていた。 会計を待つ間も、彼女は決して視線を上げなかった。 だが、私は気づいた。 小さく開いた唇、熱を帯びた頬、かすかに震える指先。 理性の奥で、抑えていた何かが目を覚ましていた。 「……私、ヘンだね」 店を出たあと、彼女は私の手を強く握った。 「ううん」 「君は、綺麗だったよ」 闇の中に、彼女は確かに花のように浮かび上がっていた。 それは、日常のどこにも咲いていない、夜にしか開かない、ひとつの秘密。 三、渇きの在処 アダルトショップを出たあとも、彼女は私の手を握りつづけていた。 その指先は、ずっとかすかに震えている。 寒さではなかった。むしろ、熱を帯びた体内に、夜の風が触れるたび、 全身が敏感に波立っているように思えた。 「……今、変だったよね。あたし」 車に戻る途中、彼女はぽつりとこぼした。 街灯の光が、頬の線を柔らかく照らす。 「何が?」 「見られてるって、わかったのに……怖くなかった。むしろ……」 そこまで言って、彼女は言葉を止めた。 けれど、その続きを言わなくても、私はもう知っていた。 あのときの彼女の息づかい。 頬の火照り。コートの内側で濡れていた、レオタードの下の秘密。 それらは、否応なく彼女自身が欲望に目覚めている証だった。 「ねえ……もう一か所、寄り道していいかな?」 私のその言葉に、彼女は迷わずうなずいた。 向かったのは、誰もいない高台の展望公園。 深夜二時をまわり、街はすっかり眠っている。 街灯がところどころ切れた遊歩道は、まるで舞台の袖のように、 何かが始まる予感だけを孕んでいた。 私は彼女のコートをそっと脱がせ、後部座席に座らせた。 生地の薄いレオタードは、夜の冷気に浮かび上がるように透け、その内側のすべてを、想像させていた。 「……こんなところで……」 「さっきの店より暗いよ。誰も来ない」 私はそう言いながら、バッグから小さなヴァイブレーターを取り出した。 さっき、彼女が棚の前で黙って選んだものだ。 スイッチを入れると、わずかに震える音が、夜の静けさに溶ける。 彼女は小さく身をすくめながら、腿を閉じ、でも逃げようとはしなかった。 「だめ……こんな、外で……」 「嫌じゃないんだろ?」 その言葉に、彼女は瞳をそらし、小さく唇を噛んだ。 ヴァイブレーターをレオタードの股間に押し当てると、彼女はびくりと腰を跳ねさせた。 生地越しに伝わる震えは、まるで彼女の心そのものを撫でているかのようだった。 「見られたら……」 「そのほうが、気持ちいいんだろ?」 ——沈黙。 けれど、すぐに彼女の唇が、震える声で答えた。 「……かもしれない……いや、もう……そうかも……」 夜の空気が、二人の間に濃く降りてくる。 彼女は自ら腿を開き、ヴァイブレーターを呑みこむようにして、レオタードの股間で固定した。 唇を塞ぐことはなかった。 その小さな吐息が、夜に散り、私の中に火をつける。 誰かに見られるかもしれない。 誰かが、車の窓の向こうに現れるかもしれない。 その恐怖と、もっと深い場所で膨らむ悦びが、 今の彼女を一枚、また一枚と剥がしていく。 「……次は……どこに、連れていくの?」 そう尋ねる声は、微熱を帯びていた。 彼女の中に芽吹いたこの渇きは、きっともう、 止められない。 四、沈黙の灯 帰宅したのは、午前三時過ぎだった。 街はまだ眠っていたが、ふたりの間には目覚めたままの熱が、脈打つように残っていた。 玄関のドアを閉めた瞬間、彼女はゆっくりと振り返った。 レオタードの肩リボンがずり落ち、素肌が露わになる。 私の目を見ながら、わずかに首を傾け、囁いた。 「……このままじゃ、終われない」 それは、はっきりとした意思だった。 羞恥に染まりながらも、自分の中にある新しい欲望を、 彼女はもう否定しようとしていなかった。 リビングの灯りは落とし、スタンドランプだけを灯す。 薄暗い部屋の中で、私は彼女を椅子に座らせ、手首を後ろ手に結んだ。 さっきのヴァイブレーターをそっと太ももに挟ませると、彼女は小さく息を呑んだ。 「……また?」 「再現じゃない。これは“記憶の続き”だよ」 スイッチを入れると、震えが走る。 股間から伝わる刺激に、彼女は身体を揺らしながら、顔を伏せる。 「恥ずかしい……でも、やめないで……」 その言葉に、私は彼女の顎をそっと持ち上げた。 「君のその顔が、一番綺麗だ」 彼女の唇が開き、声にならない喘ぎが漏れた。 私たちは言葉でなく、表情で、吐息で、指の温度で会話していた。 そして彼女が、わずかに震える声で言った。 「……ねえ、もし……誰かが見てたら、今の私を……どう思うと思う?」 私は答えなかった。 代わりに、ポケットからスマホを取り出し、 今夜の公園で撮った一枚の写真を、彼女の目の前に差し出す。 レオタードの股間に浮かぶ濡れ跡、透けて映るサーモンピンクの玩具。 頬を紅潮させ、レンズに気づかぬままの彼女。 彼女は、その写真を見たまま凍りついた。 そして、ほんの少しして——静かに、微笑んだ。 「もし……もし、本当に“見せたくなる”ようになったら……あなた、止められる?」 それが、次の扉を開ける合図だった。
2025/07/22 22:32:46(UCfPMtS8)
五、視線という名の手
数日後、私たちは再び車を走らせていた。 目的地は、自宅から少し離れた、24時間営業のビデオ個室店。 そこは、誰もが顔を隠して、欲望の断片を持ち寄る場所。 匿名性に守られていながら、視線だけは裸だった。 「ここに、私……連れてきたかったの?」 「違う。君が来たがってるの、感じたから」 後部座席でレオタードに着替えた彼女は、息を整えていた。 胸元にはロープの装飾で歪に強調された乳房。 股間には、わずかに膨らんだヴァイブレーター。 個室に入ると、私は事前に用意した小型カメラを起動し、彼女をソファに座らせた。 「ここ、声が外に漏れるかもよ……」 彼女は小さな声で言ったが、目は怯えていなかった。 むしろ、誰かに聞かれているかもしれない状況に、身体が反応しているのがわかった。 ——そして。 予定していた「視線」が、扉の外に立つ。 この店で知り合った、同じような性癖を持つ人物だ。 事前に打ち合わせた通り、軽くノックが響く。 「……誰?」 彼女が問う。だが、止めようとはしない。 私がドアを開けると、彼は帽子を目深にかぶり、静かに一礼するだけだった。 私の合図でカーテンを少しだけ開けると、 そこから「視線」が、ゆっくりと彼女を舐めるように辿った。 息が詰まりそうな沈黙の中で、彼女がかすかに呟いた。 「見てるの……?」 私がうなずくと、彼女の瞳が熱に潤む。 そして—— 自らヴァイブレーターのスイッチを入れて、身体を揺らし始めた。 「ねえ……これ、見せたくてしてるんじゃない……でも、見せたら……もっと感じちゃう……」 羞恥という名のドレスを脱ぎ捨て、彼女は、第三者の視線を“肌で受ける女”へと、静かに変貌していった。 六、鏡の向こうへ その夜から彼女は変わった。 変わってしまった、というより、 元々胸の奥に隠れていたものが、静かに目を覚ましたのだろう。 「ねえ……あの写真、もう1枚見せて」 朝の光の中で、ベッドに横たわったまま、彼女はそう言った。 スマホの画面に浮かぶ自分の姿を、じっと見つめる。 レオタードの下に透ける濡れ跡。 頬を染め、目を伏せた顔。 見せることを知らなかった“あの頃”の自分。 「この写真……すごく、淫らだよね」 「うん。でも、とても綺麗だ」 彼女はその言葉に微笑み、 そっと唇を噛んでから言った。 「もし……これをネットに載せたら、どうなると思う?」 私は答えず、ただ黙ってうなずいた。 そう——それは彼女の中で、もう“決まっている問い”だった。 数日後。 彼女が選んだのは、匿名掲示板のある写真投稿サイト。 ユーザー名も偽名、顔は隠し、肌は照明と影で際立たせた。 投稿タイトルは、「夜にだけ咲く、妻」。 コメント欄にはすぐにいくつもの反応がついた。 「色気がすごい。表情がたまらない」 「本当に人妻?想像だけで抜けた」 「もっと見たい。動画は?他の衣装は?」 まるで蛇のように、甘い言葉が絡みつく。 その夜、私は彼女の横顔を見つめながら、画面を読み上げた。 彼女は一言も返さなかった。 けれど、太ももをピクリと震わせ、 自分の身体にそっと手を這わせた。 次の投稿では、彼女は自ら“演出”を始めていた。 メッセージ欄にこう書いた。 「恥ずかしいのに、やめられない。あなたが見てると思うと、もっと感じてしまう」 カメラの前で、彼女は自分の胸元に残る縄の跡を見せた。 白いハイレグレオタードは、以前よりも薄手。 画面越しでもはっきりわかるほど、勃ちあがった乳首の輪郭。 コメントはさらに増え、称賛と欲望が波のように押し寄せる。 彼女は、静かに、しかし確実に変わっていった。 ある晩、投稿後の余韻の中で、彼女がふいに呟いた。 「……あたし、もう戻れないかも」 その声には、恐れもあった。 けれど、何よりも甘美な“渇望”が込められていた。 「戻る必要なんてない。進めばいい」 そう言って、私はそっと彼女の手を握った。 指先は熱く、心はもう、次の投稿を夢見ていた。 「じゃあ、次は……顔、見せてみようか?」 その言葉に、彼女はためらいながらも、ゆっくりと、笑った。
25/07/23 21:34
(6uFFfYvW)
六、仮面を脱ぐ夜
初めての顔出し投稿。それは、ほんの一瞬の表情。カメラに向けて視線を外し、髪を少し乱し、唇をわずかに開いた。ほんの小さな“素顔”の露出—— けれど、それはネットの海では充分すぎるほどの衝撃だった。 「美しすぎる」 「理想の人妻。表情がエロすぎてつらい」 「君のすべてが見たい」 「次は動画で」 「オフ会しないの?」 彼女は、画面に溢れる声の洪水に、言葉を失っていた。 だが、その目は確かに興奮に濡れていた。 彼女はもう、“見せる女”ではなく、見せることに快楽を覚える女になっていた。 「こんなに……あたしのこと、欲しがる人がいるなんて」 そう呟いた夜、彼女は自ら私のズボンを下ろし、手で触れながら、まるで礼を言うように、私を吸った。 それは、受け身ではない奉仕。 “あなたが私を目覚めさせてくれた”——その証のようだった。 数日後。 ダイレクトメッセージが届いた。 「あなたの投稿を見て、ずっと震えています。 もしも、一度だけ、直接お会いできたら……」 送り主は、写真サイトの常連。 彼のコメントには、他の投稿者たちへの敬意や美意識があり、下品さはなかった。 彼女も、それをよく読んでいた。 「この人……ほんとうに、会いたいって思ってくれてるのかな」 「どう思う?」 「……会ってみたい。会って、私がどう感じるのか、確かめたい」 眠れない予感 指定されたのは、隣の市のラグジュアリーホテルのバーラウンジ。 一階に広がるその空間は、まるで舞台装置のように照明が計算され、 誰もが自分を演出している。 「こんな場所……緊張するね」 彼女はワインレッドのワンピースを選んでいた。 胸元は深く、背中は大きく開いていた。 足元は、黒のストッキングにピンヒール。 レオタードではない——けれど、 この一着が、どれほど“視線を集める”か、彼女はちゃんと知っていた。 現れたのは、スーツを着た端正な男だった。 落ち着いた物腰で、言葉も丁寧。 けれどその目だけが、彼女の首筋、胸元、そして喉の動きに、ひどく貪欲だった。 三人で乾杯を済ませたあと、男は静かに提案した。 「この近くに、レンタルルームがあります。 ホテルのような完全個室で、安心してお話しできる場所です」 彼女は私を一度見てから、視線を逸らした。 そして、ほんの一秒ほど唇を噛んで——うなずいた。 「……わたし、自分がどう変わるのか、見てみたいの」 その夜の行き先に待っているものが、 これまでの“見せるだけ”とは違う次元にあることを、 私たちは、もう知っていた。 けれど、止まる者はいなかった。 むしろ、その不安が、もっと奥深い欲望の火種になると、知ってしまったから——。 彼女一人を車から降ろし、 「連絡をくれ、迎えに来るから。」 連絡は来なかった。彼女は翌朝早く自宅に送り届けられ、あの男から連絡が来るからと、その夜のことは話さなかった。 夫のもとに届いた一通の動画ファイル。 再生すると、画面には乱れた姿の妻。 ただし、その表情はどこか作られたように、艶めかしく、そして……明らかに“見せている”。 「あなた……怒るよね、きっと。こんな女、最低だと思うよね。だって、他の男に抱かれて……こんなに乱れて……泣くどころか、笑ってる……」 そう言って、わざとらしく涙を流す彼女。 だが、画面の端には、“彼女の演技”を知っている合図が映っている―― いつもは左腕にしている赤いリボン状のブレスレットを、今日は右に。 それは、夫だけが知る秘密のサイン。 夫は思わず息を呑む。 怒りより先に、血が熱くなるのを感じていた。 「ねえ、これを見て……興奮してるんでしょう? ほんとは……あなたが、そういう顔をするのが、一番好きなの。だから……私、あえて裏切る“ふり”をしてみたの」 彼女は、男の体をまさぐるそぶりを見せるが、挿入はされていない。 画面の男は仮面をかぶっていて、カメラからの演出用に協力しているだけの「舞台装置」。 「あなたのために、ここまで落ちた“フリ”をしてる私…… どう? ちゃんと、壊れて見えてる……?」夫の独白 「こんなに歪んで、狂ってるのに……愛しいとしか思えない。嘘だと知っていても、悔しくて、ムカついて、なのに欲しくてたまらない。ああ、こいつは今、俺のために狂ったふりをしてる。だったら次は、ほんとうに壊してやる。俺の手で」 深夜のリビング。 冷えたウイスキーグラスの向こうに、ノートパソコンの画面が淡く光っていた。 再生ボタンを押すたびに、彼女の「演技」が始まる。 脚を開き、媚びた声で「犯されている」ように見せかける彼女。 だが――目が笑っていない。 あれは、俺に向けられた芝居だ。 それを理解した瞬間、欲情よりも先に、妙な興奮が沸き上がる。 この女は俺のことを、どこまで理解しているのか? どこまでなら、狂っても許されると、信じているのか? その夜、彼はメッセージを打った。 次は、俺が観客になる番だ。 お前は舞台に立て。俺が台本を書いてやる。 数日後、メールに添付された一通の招待状。 件名は「密室劇:夜の檻」。 彼女だけに送った、夫からの正式な指令だった。 そこには、こう記されていた。 指定された衣装に身を包み、日時通りに来ること。 スマートフォン・財布・身分証の持ち込み禁止。 会場で渡される仮面を装着し、自らの名を口にしてはならない。 彼女は一度だけ迷った。 だが、迷いは快楽の兆候だと、彼女自身が知っていた。 「ここまで来たら、もう戻れない」――笑みの裏に、火が灯る。 【会場】 会場は古びた地下のスタジオ。入口には鍵がかけられ、扉の内側からガチャンという音がした。 彼女は、ハイヒールと漆黒のボンデージドレス、目元を隠すマスクに身を包み、照明の落とされた一角に導かれる。 そこには、椅子に座った“観客”たち。 みな仮面をつけ、声を発さず、ただ静かに彼女を見つめていた。 夫がいるのかどうかすら、わからない。 それなのに、身体の芯が、じんじんと熱くなる。 「あの人が……見てる。きっと、どこかにいる。 私がどこまで壊れるのか、見届けようとしてる……」 舞台中央には、一つの檻。彼女は無言のまま、その中に入ると、自ら足かせを嵌めた。 見られること、演じること――それが、愛の証になるなら。 「私を、壊して。あなたの目の前でしか、私は堕ちられないの」
25/07/24 22:11
(Iwq3VR2N)
七、叫ばぬ檻
檻の中、彼女はひとり。それは見世物の檻ではない。愛の牢獄。自ら望み、自ら足を運んだ、夫の書いた舞台。仮面に覆われた観客たち。その中に、あの人はいる。いるはず。 けれど……誰だかわからない。声も、目も、匂いも、何一つ掴めない。繋がっているのは、たったひとつだけ――右手首の赤いリボン。 彼が「これをつけているとき、お前はどんなに乱れても、俺の女だ」と言った。 彼女は、その一本の赤を信じて、檻の中で沈黙の淫らな舞をはじめた。 声を出せないから、涙で訴える。 快楽の波が押し寄せるたび、心が引き裂かれそうになる。 でも、リボンだけがある。 この右手に、きつく結ばれた、あの人との唯一の絆。 (ここにいて、私の壊れていく姿を、ちゃんと見ていて) 仮面の男が、彼女の腰を強く引き寄せる。 アナルにねじ込まれる何か―― 彼女は小さく身を震わせる。 (ああ、お願い……見てて……あなただけに、私、こんなに乱れてるの) 誰に触られても、誰に貫かれても、彼の目の中の自分だけを意識する。 目が合ってない。名前も呼ばれない。抱かれてもいない。 それでも……その不在が、愛しさを極限まで引き上げる。 離れれば離れるほど、 見えなければ見えないほど、 その存在は強烈に焼きついていく。 そして―― ラスト、彼女は全身を震わせながら、絶頂の中でギャグを噛み切り、叫んだ。 「――アナタぁ……ッ……見て、くれた……?」 エピローグ 誰かの手 舞台が終わり、観客が去ったあと、 誰かがそっと彼女の腕からリボンを解く。 一瞬、涙がこぼれそうになる。 だが、その人物は何も言わず、 そっと左腕に同じ赤いリボンを結び直す。 彼女の目から、ぽろりと雫が落ちた。 それだけが、 「終わったよ」と教えてくれる、 夫からの答えだった。 そして「祈りにも似た欲情」 リビングの照明を落とし、男はひとり、再生ボタンに指をかけた。 画面に現れたのは、妻の素顔だった。マスクも、リボンもない。 舞台の終わり、全ての客が去ったあとの映像―― 夫自身はその場を離れていた。カメラだけを残して。 しかし、そこに映るのは、見たことのない“女”だった。 【映像の中の妻】 仄暗い照明の中、ベンチに腰かけ、脚をゆっくり開く。 誰もいないはずの空間で、笑っていた。 「……まさか、あんた、まだ見てるんでしょ」 カメラのレンズを指でなぞるように撫でながら、 甘ったるい声で、続けた。 「そうやって私を“信じてる”顔で、 ひとりで興奮してるの、バレバレだよ」 男の喉が、ゴクリと鳴った。 映像の中の彼女は、すでにレオタードを脱ぎ捨て、あのリボンすら外していた。 そして――どこから現れたのか、別の男の手が、メラの画角に、ゆっくりと忍び込んだ。 妻は抵抗しない。むしろ、迎え入れるように脚を絡ませ、愛撫を求め、唇を差し出す。 (……まさか……) 夫の手が、止まる。 これまでのすべて――彼女が演じてきたものは、“彼のため”だったはずだ。演技であり、約束だったはずだ。 でも今、これは違う。 信じようとすればするほど、疑念が熱くなる。 カメラの奥で喘ぎ、知らない男の名を呼び、 果てながら呟く。 「……見てたら、ちゃんと抜いてよね。あなた……」 現実 誰もいない部屋 再生が終わっても、部屋には彼女はいない。 出張だと言って、昨夜から連絡もない。 信じたい。だが、この映像は…… (これは、“俺のための嘘”なのか? それとも、“彼女のための真実”なのか……?) 男は無言のまま、手を下ろす。脳裏に焼き付いて離れない――他人に抱かれながら、カメラ越しに語りかけてくる妻のまなざし。 嘘でもいい。演技でもいい。 たとえ、裏切られていたとしても―― (それでも、俺は……欲情してる) 男は目を閉じ、溢れそうなものを飲み込むようにして、静かに絶頂へと導かれていった。 最後に漏れた言葉は、 痛みでも怒りでもない、たった一つの祈りだった。 「……お願いだ、ウソであってくれ……」
25/07/25 18:05
(8W1Qurhv)
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