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椅子のきしむ音が、昼下がりの営業所にこだました。
書類の束の奥、会議室のブラインド越しに伸びてきた細い手が、俺のズボンのジッパーを下ろす。 「……一週間ぶり。限界」 瑞穂が口を尖らせると、俺は苦笑いして肩をすくめた。 田舎のこの営業所に、社員は俺たち二人しかいない。 一年前に無理やり押し切って結婚した新人社員――いや、もうすっかり「俺色」に染まりきった、性欲旺盛な妻。 「……昼休み、まだ15分あるよ?」 瑞穂はそう言うと、舌で先端をなぞり、嬉しそうに目を細めた。 この一年、遠距離で我慢していた彼女は、戻ってきた途端、野獣のようになった。 そして、俺もまた――それを喜んで受け入れている。 「ほんとに入るの?」 瑞穂は苦笑まじりにそう言ったが、すでに口元はほころんでいた。 駅前から車で10分ほど。農道の先にぽつんと建つ、**『大人の秘密基地』**と書かれた看板。 俺が学生時代、先輩に連れられて一度だけ来たことのある、場末のアダルトショップだった。 中に入ると、わずかにゴムの匂いとプラスチックの刺激臭。照明は暗く、薄いカーテンで仕切られた個室が2つほどある。 「いらっしゃ――って、あれ? 高田?」 奥から現れたのは、かつての先輩・吉見だった。驚いたように目を見開き、そしてすぐにニヤリと笑う。 「こんなとこに夫婦で来るとはなぁ。どうだい、地方勤務。ストレス溜まってんだろ?」 瑞穂は軽く頭を下げたあと、店内の展示コーナーへと興味深げに足を向けた。 ガラスケースの中にはローター、バイブ、拘束具。天井近くにはセミプロ用のカメラと三脚。 「これ……使ってみたいな」 瑞穂が指差したのは、透明な拘束フレーム。まるで医療器具のような冷たさを感じさせるそれに、俺の喉が鳴る。 「奥の個室、空いてるよ。試してってもいいぜ?」 吉見の声は冗談めいていたが、目は本気だった。 瑞穂は俺の手を握り、「お願い」と囁いた。 俺たちはもう“普通の夫婦”ではなかった。 いや、初めから、そうじゃなかったのかもしれない――。 「この店、もう来ないんだろ? 好きにしなよ」 そう言ったのは俺だった。 瑞穂は一瞬だけ俺を見たあと、ゆっくりとカーディガンのボタンを外し始めた。 個室でもなく、展示スペースの中央。 周囲には拘束具、ラバー製品、オナホール――ありとあらゆる“大人のおもちゃ”が整然と並ぶ。 「吉見さん、縛ってほしい」 瑞穂の声は、どこか甘えた響きを含んでいた。 「……マジか?」 店主の吉見は驚きながらも、ガラス棚から取り出した麻縄を器用に操り、瑞穂の両手を背中に回して結び上げた。 シャツの前が大きく開き、レースのブラジャーの谷間が露わになる。 だが、俺が見ていたのは彼女の脚だった。 濃い黒のストッキング越しに浮かぶ膝裏のくびれ、スカートからのぞく太ももの起伏。 ハイヒールを履いた足元が、縄の緊張でわずかに震える。 「見てるだけなのに、こんなに濡れてる……」 吉見がつぶやく。 その時だった。 ドアのベルが鳴る。 「……ああ、今日は入っていいってことにしてるんで」 吉見が声をかけると、3人の男が店内に入ってきた。 作業着姿の男、やたら背の高い若者、無言の中年男―― 彼らは無言で展示スペースを囲み、俺たちを見る。 瑞穂は戸惑い、体を震わせた……が、笑った。 「見られてる……ふふっ……」 縄で後ろ手にされたまま、片足を高く上げ、ハイヒールのまま脚を開いてみせる。 脚フェチの俺は、その姿に眩暈を覚えた。 「……なあ、お前、今……感じてるだろ?」 俺が囁くと、瑞穂は小さくうなずいた。 顔は赤く、瞳孔は開き、唇が濡れている。 「私……見せたいの……こんな姿……あなたに、他の人に……」 その告白は、もう引き返せないという証だった。 「瑞穂……これ、本当に、いいんだな?」 確認の意味で問いかけたが、返事の代わりに彼女はうなずき、わずかに腰を突き出してきた。 両手は後ろ手に縛られたまま。 ヒールを履いたまま脚を軽く開き、羞恥と期待の混じった視線で俺を見上げてくる。 「あなたの目の前で、私……堕ちていきたいの」 店主・吉見が、奥の棚からいくつかの道具を持ってきた。 黒光りするスティック型バイブ、銀色の金属ローター、リモコン付きの小型卵型バイブ―― まるで実験器具のように整然と並べられた“快楽装置”。 「ほら、高田、装着は旦那の仕事だ」 吉見が笑いながら差し出したのは、細身のローターと黒のストレッチコード。 ストッキング越しに太もも裏へ、ローターの小さな楕円を当てると、瑞穂がぴくりと身をよじった。 「……あぁっ」 ゴムベルトで太ももに固定し、さらにもう一つ、ショーツの中――秘所に沿わせるようにバイブを仕込む。 「脚が……震える……だめ、これ……もう……」 リモコンのスイッチを入れると、ジジジ……という微振動が彼女の腰を痙攣させた。 客たちは無言で見ていたが、その視線は鋭く、舌なめずりする者すらいた。 「おい、もっと強くしてみろよ」 吉見の声に後押しされ、俺はスイッチを“中”に上げた。 「あ、あっ、あああっ!」 縛られた両手で身動きも取れず、ハイヒールで不安定な体勢のまま、瑞穂は腰を震わせる。 ストッキングの内側に、濡れた音が小さく響いた。 「お前、こんな……人前で……」 「気持ちいいの……お願い、もっと、もっとして……っ」 俺の中の倫理は、完全に焼き切れていた。 これが妻――いや、淫らな雌としての瑞穂の本性なのだ。 彼女は俺に見られながら、他人に見せつけながら、欲情の底へ堕ちていく。 「お願い……奥まで、突っ込んで……動かして……私、もう……」 手にしたリモコンを“強”に切り替えると、瑞穂の脚が崩れ落ち、ヒールの音がカツンと床を打った。 「あああぁっ……っ、ダメ……ダメなのに……っ」 目を潤ませ、息を乱し、ストッキングのつま先がピンと張っている。 脚フェチの俺にとって、これ以上ない景色だった。 「あ……ダメ……撮っちゃ、ダメぇ……っ」 瑞穂の声はかすれていた。 しかし、その言葉とは裏腹に、脚は開き、背中は反らされ、濡れた太ももが展示台に擦れていた。 「動けないのに……そんなの、見られたら……っ」 店主の吉見が、苦笑まじりに言う。 「だって旦那が“好きにしていい”って言ったじゃねぇか。ほら」 客の一人がスマホを取り出し、構えた。 フラッシュはオフ。だが、レンズは確かに瑞穂の顔と、脚と、股間を捉えていた。 俺は言葉を飲んだ。止めるべきか――いや、違う。 瑞穂の表情を見たとき、それが演技でないと確信した。 「……見せてるの、わかってるよな?」 「うん……っ、見られてるの……ゾクゾクするの……」 彼女はもう、羞恥を楽しみ始めていた。 いや、快楽と羞恥の区別が溶け始めていた。 「自分で、やってみる……道具、貸して……」 瑞穂がそう言ったとき、客の誰かが小さく息を呑んだ。 吉見が渡したのは、やや太めの黒い振動バイブ。コードレス。 瑞穂は両手をほどかれるなり、震える指でそれを手に取り、ひざまずいた。 ストッキング越しに股間へ押し当て、小さなスイッチを押す。 「ん……あ……これ、すご……っ、震える……奥まで……来る……っ」 客たちはスマホを構えたまま、まるで神事を見守るように静まり返っていた。 瑞穂はそれを知りながら、音を立てて喘ぐ。 「あなた、見て……私……自分で、してるの……みんなの前で……っ」 「瑞穂……」 俺はもう、何も言えなかった。 目の前の彼女は、俺が知らない顔をしていた。 純粋で、情熱的で、淫靡で、壊れていくようで―― それでも、美しかった。 「動画、保存していいか?」 客の一人が低い声で訊ねた。 瑞穂は少し迷ったように見えたが、やがて震える唇を開いた。 「……顔は……映さないで。だったら、いい……」 その許可の意味は、もう誰にも止められなかった。 「もっと……奥まで来るやつ、ある?」 瑞穂の声は完全に“快楽の側”にいた。 恥じらいも理性も、ただ快感と倒錯性に溺れ、道具そのものを欲する肉体。 吉見が無言で差し出したのは、重厚なアナルプラグと、金属製の拘束椅子だった。 「乗るか?」 「……うん」 瑞穂は素足になり、ヒールを脱ぎ、ストッキングが濡れて伝うまま椅子に跨った。 股の間に突き出たバイブ軸。 背もたれから伸びた拘束ベルト。 それらが彼女の肉体に次々と装着され、固定されるたび、瑞穂の吐息は艶を帯びた。 「……入れて……ゆっくりでいいから……奥まで……」 客のひとりがそっと手を貸し、アナルプラグを押し込むと、瑞穂は椅子の上でのけぞった。 「んんぅっ……あ、あああ……っ」 金属の中で、瑞穂の身体が波打った。 撮影は続いていた。 スマホが複数台、異なる角度から彼女を捉え、顔を、胸を、脚を、腰を―― まるで女優のように切り取っていく。 俺はもはや、止めなかった。 むしろ、その光景の全てを脳に刻み込んでいた。 ……… 翌週、吉見からメッセージが届いた。 「例の映像、知ってるやつに見られるかもな」 動画は、知る人ぞ知る変態フェチ専門サイトに投稿されていた。 タイトルは【田舎営業所・淫妻調教シリーズ01】 顔は編集されていたが、瑞穂の脚、喘ぎ、声――すべて“本物”だった。 「あれ……やばいかな」 瑞穂は不安そうに訊いた。 俺は腕を組み、言葉を選んだ。 「顔は出てない。……でも、消せるもんでもないな」 そのとき、一本の電話が鳴った。 「高田くん、ちょっと連絡があってね……営業所、やっぱり残ることになったよ」 「……え?」 耳を疑った。 「戻らないでいい、って……」 「いや、上から通達があってね。例の人事も白紙。夫婦で残留、継続勤務ということで」 ガチャ。通話が切れる。 瑞穂が小さく笑った。 「ねえ……ばれたら、どうする?」 「ばれたら……? そうだな」 俺は腰を下ろし、濡れたストッキングを指でなぞった。 「また撮ってもらえばいい。顔も、声も、今度は全部、さらけ出して」 瑞穂はうっとりと目を細めた。 「うん……そうだね。もう戻れないし」 この町で、俺たちは“堕ちてしまった”。 そして、その事実を――消すつもりも、なかった。
2025/07/21 22:44:43(31DkrKYd)
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