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それは その一言から始まった
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:人妻熟女 官能小説   
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1:それは その一言から始まった
投稿者: ケン
『今日 一緒に帰ってもらえない?』
それは、その一言から始まった。

前置きが少々長くなるかもしれません、面倒な方は飛ばして下さい。

その一言の主は 宮本典子52歳。
私、板橋健一51歳と この4月から同じラインで働く事になった同僚。
〔この4月〕と言っても、コロナがいよいよ巷に溢れ始めた年だから2020
だろうか?、その年の9月の ある日の事だった。

それまでは、朝礼や たまに喫煙所で挨拶をかわす程度で、たいして話しをする間柄でもなかった。
が、この4月から同じライン、それも隣りで仕事をする事になった。

そこは某家電メーカーの工場、俺達のラインは 様々な理由で不良品になった物を解体して リサイクルにまわす為の処理をする所だった。

配置換えの初日に
「板橋です」
『宮本典子です』
『喫煙所ではたまに…、でも板橋さん?下のお名前は?』
「健一です」
『じゃぁケンちゃんね、宜しくお願いしますね』
「…こちらこそ…(50過ぎのオヤジにケンちゃんも無ぇだろ?)」
そんな挨拶をしたのを覚えている。

『私、話しはじめると手が止まっちゃうのよ(笑)』
と、自ら言うだけあって 作業中でも まぁ話しの途切れない女性だった。

ラインと言っても〔流れ作業〕ではなく、各自が一台づつ処理をする、さらにはリサイクルにまわす為に材質ごとに分別して なおかつ〔米粒程度の異物〕も残してはならないと言う、結構シビアな内容で、しかもその年から新設されたラインで、ラインリーダー筆頭に皆で四苦八苦していた。

工場全体では、社員が4割、俺達の様な準社員が1割、日本人の派遣さんが1割、あとの4割は外国籍の人達 なかでも 男性なら佐藤ロベルトとか 女性なら伊藤モニカとか言う 南米系スペイン語圏の人達が半数以上をしめていた。

その中の1人 土田パウロからのストーカー行為を相談されたのが〔その一言〕のキッカケだった。

俺達が居る工場には 四隅に喫煙所が有り、昼食後の喫煙は おのずと 自分のラインに近い所となる。
俺と宮本さんも おのずと この4月から同じ喫煙所となり、喫煙所でも作業中でも 身の上話しやら 身の下話し?までする様になっていた。

不思議に思ったのが 土田パウロとラインの近かった宮本さんは以前は同じ喫煙所だったらしい 今とは対角に位置する喫煙所で、が わざわざパウロはこちらの喫煙所に昼食を終えると やってくる、そして しきりに宮本さんに話しかけている。
誰が どう見ても〔それ〕と判る程に、(国民性なのか…?、女房子供も居るって話しだけど…)と俺は思っていた。

宮本典子さん、身長160、スリーサイズは上から (小)(大)(特大)、体重は極秘、と笑いながら自己申告するほど太ってるとは思わないが。
が、この女性 若作りが凄い、髪はほぼ金髪(本人は否定してたが)、作業中にネイルが剥がれて大騒ぎしてた時には逆に〔そんな派手で長いの着けてるからだ!〕と叱られていた。
誰が どぅ見ても確かに〔頑張って〕いる、時には〔味〕がしそうな程のキツイ匂いの香水をつけてくる。
その宮本典子さん、俺と同じ準社員の彼女にはラインリーダーより1つ上のグループリーダーの彼氏がいた。
既に周知の事実だったのだか、昨年度末に〔もぅ同じグループにはしておけない〕と こちらに移されたらしい。

お盆休みが開けた日の事。
わざわざ こちらの喫煙所にやって来たパウロが、宮本さんに何やら紙の手提げ袋を渡している。
国に帰った際のお土産らしい。
『そんな…、悪いわ…』
と宮本さんは拒んでいたが、パウロは強引に手渡し タバコも吸わずに去ってしまった。
宮本さんは 俺の顔を見ながら 苦笑いをしていた。

それから数日した ある日。
『…どうしよう?』
と、相談された。
あの時手渡された紙袋の中には、Diorの香水とTIFFANYのネックレスとGショックが入っていたらしい。
『香水は、以前同じラインで働いていた外国籍の女性にあげてしまった、が ネックレスと時計はもらえない、返した方が良いよね?』
と言うものだった。

「香水はあげちゃったんでしょ?」
「返すんなら その香水も返してもらって、揃えて返さないと…」

『開けちゃったんだって、香水』

「…なら、香水だけ貰う、って事にならない?パウロからしたら」
「同じの買ってでも揃えた方が良くない?」

『…だよね?、どうしよ?』

「・・・・・」

『…言ったんだよ、私には彼氏も居るし 、知ってるでしょ?、貴方の気持ちには応えられないよ、って』

「納得しないだろうね…」

『…だよね?』
『でも返す…、もらえないもの…』
『香水も同じの探して…』

で、返そうとはしたけど、やっぱり受け取らなかった。
なので、今度は逆に強引に手渡して、逃げる様に帰って来たらしい。

そんなこんなで、9月に入った ある日の作業中。
『あれから ずっと待ってるのよ…』
『ほら、あそこの帰り道の喫煙所でタバコすいながら…』
『私のあとを歩いてきてみたり』
『前を歩いて何度も振り返ってみたり…、で、私が止まると また歩きだしたり…』

「それ、ストーカーじゃん?」
「毎日待ってんの?」

『…うん』

その喫煙所とは、たまたま 俺も宮本さんもパウロも駐車場の関係で 同じ入退場門を使っている。
パウロの待ってる喫煙所は 違う建屋専用の 帰り道にある喫煙所だった。

『もう怖くて…』
『・・・・・』
『ケンちゃん?、今日 用事とか有る?』

「ん?、…特に無いけど」

『一緒に帰って貰えない?』

「佐山さん(宮本さんの彼氏)は?」
「知ってるの?」

『話したけど 一緒は無理だって…』

「了解は?してるの?」

『俺は無理だから 何も言えないって…』

「彼女がストーカーされてんのに?」

『・・・・』
『だめ?』

「俺と帰るの了解してるなら…いいよ」

『…うん』
『一緒に帰ってくれるの?』

「…ドア出た所で待ってるよ」

『ありがとう!』

これが宮本さんとの始まりだった。


 
2023/04/10 00:13:19(9oQMbilg)
7
投稿者: ケン
〔おっ、やけに早ぇな今日は、さては お泊まりしたな?〕
『あっ、セクハラで訴えますよぉ』

いつにも増して 早く出勤してきた事をからかわれた宮本さんが そう切り返していた。
そして そのまま2階の事務所に上がって行った。
『部長に相談する』と言って。

そして朝礼後 俺が部長に呼ばれた。
そこには工場長も一緒だった。
〔話しは 宮本さんから聞いたよ〕
〔悪いけど 取り敢えず動画見せてもらえないかな?〕
俺は黙ってスマホを渡した。
〔うん、パウロだね…〕
〔日付も時間も時間も出てるし、板橋さんの声も…〕
〔あのさ板橋さん、さっき宮本さんには確認したんだけどさ、動画を確認して確かだったらクビにするって言ったらさ、クビにはしないでくれ 厳重注意にしてくれって言うんだよ、どう思う〕
〔逆恨みなんかされたら私こまりますから、私もそうですけど 板橋さんが逆恨みされたらもっと困りますから、って言うんだよ、良いか?それで〕

「ええ」
「って言うか、1度契約を更新してあげて それで終わり、とか?、更新したばかりなので まだ3ヶ月近く有るんでしょうし 辞めてもらうまで半年とか有るんでしょうけど、理由はどうにでも なりますよね?」

〔それが良いな、どぅだ?部長?〕
〔…にしても 何で佐山じゃなくて板橋なんだ?、結婚するんじゃないのか?、あの2人〕

「私も それの方が大事な事だと思いますよ」
「そんな大切な女性なら 何を投げうってでも盾になるでしょ?普通」
「それが出来ない人に 赤の他人である部下を どれ程 思えますかね?」
「まぁ、査定の為には あえて仕事を選ぶ人も居るんでしょうけど…」
「相談とか されなかったんですか?部長、佐山さんに」

〔ン…、ん、特には…〕
〔歯切れが悪いな部長、されたのか?、どうなんだ?〕
〔いえ、特には…〕
〔じゃ板橋、この件は私に預からせてくれ、部長 パウロ呼んで来てくれ〕

『ゴメンね ケンちゃん迷惑かけて』
『どうだった?、何か言われた?』
と、俺が戻ると 宮本さんが心配そうにしていた。
俺は ありのままを 伝えた。
「宮本さんには悪いけど」と付け加えて 佐山さんの事も…。

案の定と言うか …やっぱりと言うか、今日の宮本さんは 口数が異様に少なかった。
『おまたせ』と通用口から出てきた声も どことなく沈んで聞こえた。

が、『さて!。ゴメンねケンちゃん、お願いね 今朝の話し!』
何かを吹っ切る様に 宮本さんが力を込めて言った。
「うん」
「とりあえず帰ろ、あと付いてきて」

アパートに着くと、普段俺が停めてる駐車場の隣に俺が停めて、宮本さんには俺の駐車場を指差した。
そして、車を降りて 宮本さんの窓ガラスを叩いた。スーッと窓が開いた。

「ゴメン、ちょっと待ってて!」
「言ってくるから、下のおばさんに、エロDVDも片付けなきゃなんないし」
「ゴメン、待ってて」

俺は階下のオバサンを訪ねた。
「すみません、・・な事情で駐車場お借りできませんか?」
〔どうぞどうぞ〕
〔今月はもぅ息子も来ませんから〕
〔どうぞぉ、いつでも使って下さって結構ですよ〕
と、了解をもらって
「おまたせ」と、俺は再び窓ガラスを叩いた。

『ありがとう』
車を降りた宮本さんが 後ろの座席から《旅行ですか?》と言われそうなキャリーケースを引っ張り出した。
俺は スッと手を差し伸べた。
『あの人も こんな風に自然に出来る人なら良かったのに…』
『・・・・・』
『ありがとう、重いよ…』
俺は何も言わず ただ持ち上げて 階段を登った。

「どうぞ」と玄関をあけて スリッパを出した。

『おじゃまします』
そう言った宮本さんが 辺りを見渡して続けた
『彼女が掃除とか来てくれるの?』
『すごい綺麗にしてるぅ』

「んな訳ないでしょ?」
「募集中だって言わなかった?」

『言ってたけどさぁ』
『(彼女が居る)そうとしか思えないじゃない、こんなに綺麗にしてんだもの、違うの?』

「コロコロは各部屋1個、トイレにも」
「気づいたら コロコロって、それだけ!」
「それより どうする?、(ご飯)何も無いんだけど」
「食べに出る?、何か買いに行く?」

『…悪いわ、有るもので良いわよぉ』

「…募集中って言ったでしょ?、だから無いんだよコンドームも、だから どのみち出なきゃなんないの、なので どうしますか?」

『出た出た ケンちゃん節!』
『コンドームなんて買う気も無いくせに(笑)』
『お惣菜とかさ、買いに行こうかぁ、スーパーなら安くなる時間でしょ?そろそろ』
『私、包丁 おっ落としちゃうからさ、洗い物くらいは出来るけど、ね』

俺の車でスーパーに行き、《赤札》ばかりを買い込んだ。
おかけで、中華あり コロッケあり ヒジキあり…、そんな事になってしまった。

「テーブル、持って行かれちゃったからさ、今は炬燵で食べてんだけど ちょっと待ってて。お皿とかは 適当に探して、ね?」

『…持って行かれたって 別れた奥さんに?』
「そ!」
『お皿とか どれでも良いの?』
「うん、どれでも…」
(ちょっと早いけど まっ良いか、明け方寒そうだし)
俺は そんなやり取りをしながら 早々と炬燵に布団をかけた。

『やだケンちゃん、もう炬燵だしてんの?、早くない?いくら何でも』

「ん?、今 今」
「明け方 冷えるって言うからさ、今出した」

『それに したってさぁ』

「ベッドも布団もさ 1組しか無いんだ、ウチ」

俺が そう言ったとたん 何かに気が付いた様に 宮本さんが 手のひらで口を押さえた。
『・・・ゴメンね ケンちゃん』
『バカだぁ 私…』

「ウチもビールしか無いけど…」
少しの沈黙のあとに俺が口をひらいた

『あっ、ありがとう』 
『私は何でも…』

「食べますか?」
我が家で 誰かと食事をするのは いつ以来だろうか?   

『ねぇ、ケンちゃん?』
『ホントに居ないの彼女?』

「居ないよ」

『好みは?、どんな人?』

「女性なら!」

『何それ(笑)』
『それ 好みって言うの?』

「でも、若い女性はダメかな?」

『若いって?』
『男の人って みんな若い子が良いんじゃないの?』

「40半ば…、より上、かな?」

『へぇ、そうなんだ?』
『あとは?』

「まずは お尻だね!」
「お尻みて、それから前に廻ってオッパイみて、それから靴みて 少しずつ上にあがってく…」

『顔は?』
『どうでも良いの?』

「1番最後、かな?」

『お尻は巨大だし、胸は極貧だし、デブだし』
『どうしたら良いい?私(笑)』

「そんな事ないよ」
「好きだけどな俺 宮本さんのお尻」
「特にあの…、作業ズボンより、ジーンズのお尻がさ」

『こんなデカイのが?』

「でかくて なんぼ!、お尻はッ」
「ヤバッ!、ゴメン、先にお風呂行って 1発抜いてくる、そんな話しさせるから!、ゴメンね」

『また出た ケンちゃん節』
『ちゃんと流してきてね!、その辺に飛ばしたままに しとかないでよ!』
『洗い物 しとくから』

「ありがと」
「宮本さんも この辺のタオル 適当に使って、じゃッ お先に」

『はい、いってらっしゃい』

頭と身体を洗い 浴槽に浸かり、天井をボーッと見上げた。
かすかだが、カチャカチャと食器の音がした。

「おまたせ」
「ゴメンね、洗い物まで させちゃって」

『いいえぇ、この位』
『ところでケンちゃん、朝は?』
『冷蔵庫にパンが有ったけど…』

「うん、いつもアレ」
「面倒くさいからさ…」
「バターだのマーガリンだの そんなのも面倒だから 今じゃ それも入ってるのに しちゃってる」
「それとコーヒー」
「それだけ」

『良かったぁ』
『じゃぁ、ハムエッグとか 作らなくて良いのね?』
『苦手なのよ私も 朝から作るの』

「良いよ そんなの!」
「適当にやるから」
「宮本さんにも 適当にやって貰うけどさ」

『オッケー』

「じゃぁゴメン、先に寝てるよ」
「そっちの部屋 自由に使って良いから。って言ってもベッドしかないけど」
「オヤジ臭いのは我慢して下さい」

『はいはい(笑)』
『泊めて貰えるだけで充分です』
『逆にドライヤーの音がうるさいかも…?、ゴメンね』

「ドライヤーまで持ってきたの?」

『うん』

「シャンプーとかコンディショナーとかも?」

『うんうん』

「メイク道具も一式でしょ?」
「旅行じゃん、それ」

『…だね』

「だね…、って」
「まぁ良いや、ゴメン、先寝てるね」

『うん、ありがとう』

しばらくすると シャワーの音がしだした。
久しぶりに女性が ウチでシャワーを浴びている。
にも かかわらず 不思議な事に 我が息子は 少しも反応しない、ピクリともしない。
たまには エロ動画とか見たりもするから そんなハズはないのに。
宮本さんに対する どんな感情が そうさせてるのか?、何とも不思議な感覚だった。

浴室のドアが閉まる音がした。
かすかな 衣ずれの音のあとに、洗面台の灯りが こぼれてくる。
化粧水か何か つけているのか、しばしの無音のあとに ドライヤーの音が しだした。

寝室のドアをあける音。
扉の隙間から こぼれ来る灯り。
ベッドの きしむ音。
空気が澄みわたったかの様に 聞こえてくる。

『ケンちゃん?』
『寝た?、起こしちゃった?』

「ん?、どうした?」
「オヤジ臭くて寝らんない?」

『そんな事ないよ』
『嫌いじゃないもの私、ケンちゃんの匂い』
『ゴメンね、炬燵で寝かせちゃって』

「…良いよ、気にしないで」

『こっち来る?、って言いたいんだけどさ、今夜は言えないの、昨日なら きっと言えてたんだろうけど…』
『自分でも 良く分かんないの、ゴメンね…』

「気にしないで…」
「寝よ、ね?」

『うん』
『おやすみ』
『ありがとう』

翌朝、オーブントースターの《チン》という音で目が覚めた。

「おはよ」
「…早いね」

『あっ、おはよう』
『ゴメン、起こしちゃった?』

「…んな事ないよ、おはようさん」
既に着替えも終えて、バッチリ メイクもしていた。

『コーヒーは?、これで良いの?』

「うん」
「そのスティックの奴」

『炬燵で食べる?』

「…だね」

『持ってっとくね』

「ありがとう」

朝食を終え、換気扇の下でタバコを吸っていると、『私も混ぜてぇ』
と、宮本さんが やってきた。
『ケンちゃん?、今晩も お願いして良いぃ?』

「それは 構わないけど…」
「俺、これ吸ったら出るけどさ、宮本さんは まだ早いでしょ?」
「あれ使って(鍵)閉めてきて」

『ありがと』
『でも アレは嫌、取り替えて、ケンちゃんのと』
『アレって 奥さんが使ってた奴でしょ?、ゴメン わがままだよね?』

「んな事ないよ」
「ゴメンね、気が付かなくて」
俺は 鍵を取り替えて 渡した。

『そうだ!』
『私 今日 1時間であがる、残業』
『それなら パウロも居ないだろうし、先に帰って 何か作って待ってる』
『ねぇ、何が食べたい?ケンちゃん』

「んー、肉かな?」
「それと 赤まむし!」
「何か 即効性の有るやつ」

『出た出た お得意のケンちゃん節、ンとにもぉ!』
『それじゃ ドラッグストア寄らなきゃじゃん、コンドームも 昨日 買い忘れてますよ?、それは自分で買って来て下さいね、私 必要ないので』

「必要ない?、どっちの意味だろ?」

『そんな事 良いから どうでも!』

「じゃ、自分で買って来ます(笑)」

そんな 馬鹿話しをしながら 一足先に家をでた。










23/04/12 22:59 (E29ZUXEN)
8
投稿者: ケン
アパートの台所の灯りが見えた。
灯りの点いてる家に帰って来るのは いつ以来だろうか?

一応 チャイムを鳴らしてから鍵を開けた。

『おかえり、ケンちゃん』
「ただいま」
これも 随分と久しぶりの やり取りだった。

『ゴメン、先に お風呂済ませちゃった。洗濯機も貸してもらってる、着替え取りにかえるのも面倒いし。ゴメンね』
すでに部屋着に着替えていた、が、やっぱりメイクは まだ落としていない。そんな宮本さんが そう言いながらスリッパを出してくれた。

「ありがとう」
「洗剤とかは?、買ってきたの?」

『まさかぁ、貸してもらった、柔軟剤も、言ったでしょ?ケンちゃんの匂い嫌いじゃないもの』
『物干しも借りて良い?』

「良いけど…」
「バスタオルや何かで隠してね、《おかず》にしちゃうから俺」

『もお、出た出た』
『何か考えて干すわ見えない様に…』
『部屋の(物干し竿)借りて良いんでしょ?』

「どうぞ」

『ゴメンね、そんな訳で ご飯まだなの、先にお風呂入ってきて』

俺は促されるまま 風呂に向かった。
風呂を済ませて出てくると、換気扇の下で宮本さんがタバコを吸っていた。

『ステーキ用のお肉買ってきたんだけどさ、冷蔵庫にステーキソースがあったから…』
『ケンちゃん、焼いてくれる?。加減は任せるから、ね?。フライパン 重そうだし、ゴメンね』

「良いよ…」
「でも、俺も吸ってからで良い?、タバコ」

『うん』
『それとね、さすがに赤まむしは…、ゴメンね。でもレジの前にユンケルがあったからユンケルにして冷してある、1番高いヤツ、良かった?それでも』

「ん?、どうだろ?試した事ないし」
「有るんかな、即効性」

『そんなに効くの? 赤まむしって』

「赤まむしだって飲んだ事ないよ」
「昔 言ってなかった?研ナオコが《赤まむしィィ、生卵ォォ》って、だから効くんかなぁ?って」

『言ってた言ってた!』
『でもケンちゃん、もう そんななの?、そういうのに頼らないと…』

「そんな事もないけど…」

『じゃぁ何ぁに?、私じゃダメって事なのかしら?』

「とんでもない!」
「魅力的なお尻ですよ」
「でも自信がないからさ 満足して貰える程の…、だから ちょっと まむし様に おちから添え頂こうかな?って」

『????、訳分かんない、ンもぉお』

「じゃ そう言う事で 焼こうか?、お肉」

『何が そう言う事よ、はぐらかされてない?私』
『もお、良いから焼いて!』

2人で食べはじめるとすぐに 宮本さんのスマホが鳴った。
「佐山さん?」

『…良いの、ほっとけば』
鳴りやむのを待ってマナーにした様だった。
が、間をおかずにブルブルし始めた。

「…出たら?」

『…ゴメンね』

『何でしょう?』
「何でしょうって、心配だから来てみたら車ないからさ」
スピーカーから佐山さんの声が聞こえてきた。

『そりゃそうよ、居ないもの そこには!』
「そりゃそうよ、って、夕べも無かったじゃん車」
『あらッ、夕べも お越し頂いたのに お電話下さったのは今日なんですか?、お忙しいんですのね?随分と』
「何なんだ?その話し方、普通に話せない?」
『あら、いたって普通ですけど ワタクシ』
「だから やめろって そんな話し方、で?、何処に居るんだよ」
『何処だって 良ぅございません?』
「だから、普通に話せって!、まさか板橋ん所じゃねぇだろうな?」
『あら ご名答、今 お風呂ですの彼、なので出てきたら切りますね』

まかさ正直に答えるとは…。
俺は心臓が止まるかと思った。

「ご名答って お前、よりによって板橋ん所って!、何処だよ?行くから今から」
『あのね!、今更 アンタに お前呼ばわりされたくないわよ!。来たければ来れば?、まだGPS切ってないから検索したら?』
「ああ!、ちよっと待ってろ!」
『どぅお?わかった?』
「出てこねぇよ、切ってねぇか?GPS、なぁ?」
『あんた ホントに お馬鹿なのね、繋げてる訳ないでしょGPSなんて今更、総務にでも教えて貰えば?板橋さんの住所、大好きな部長にも課長にでも頼みこんでさ』
「帰っちゃったよ2人とも、明日んなっちゃうじゃねぇかよ!」
『あら、明日じゃ証拠が掴めなくて残念ね?、証拠が無いんじゃ何も言えないんでしたよね?、あんた そう言ったよね?違う?』
「それと これとは違うよ!」
『何も違わないわよ!』
『だいたい何よ!《俺の事だけ見てくれ、俺の事だけ考えててくれ》とか言っときながら あんたが見てたのは上司の顔色だけでしょ?、私の事なんて ちっとも見てやしない!、ただ ヤりたい時に ヤれれば それで良いだけ!違う?』
「・・・・・」
『だいたいね、どの面さげて板橋さんのトコなんて行けんのよ!、馬ッ鹿じゃないの?、娘のトコよ』
『2人で暮らしはじめたばっかりで まだ荷ほどきも終わってない所に泊めて貰ってるのよ、あんたに分かる?、私がどんな気持ちで そんな2人の所に泊めて貰ってるか?、分かんの?』
「…だから 俺んトコにってさぁ」
『何言ってんのよ今更』
『良かったわね?結婚する前で、慰謝料 2人に払わないで済んで、私も良かったわ 結婚する前に気が付けて』
「慰謝料2人って…、何だよそれ」
『ンとに頭の悪い人ね、請求できるの!桁は違うかも知んないけど 婚約破棄でも 慰謝料は!、そんなの要らないから関わらないでって言ってんの!、そんな事も分かんないの??』
「俺は破棄なんてしてねぇよ、だから今だって こうして…」
『何ヵ月経ってると思ってんの?最初に相談してから今まで、あんた 何かしてくれた?。破綻させたのは あんたなのよ!、まだ分かんないの?』
『塚本くんの事だって あんたがヤキ入れたんだって?、しらばっくれたよね?あんた、何なのホントに!』
『2度と掛けてこないで!』
『会社でも話しかけないで、そんな事したら あんたを訴えるわよ ストーカーで、いいわね!!』
〔ぶちッ〕と音が聞こえそうな勢いで 宮本さんが電話を切った。

『……ゴメンね…』
『こんな話し聞かせちゃってゴメンね、ケンちゃん』

「そんな…」
「俺は良いけど いいの?あそこまで言っちゃって」
「勢いとか 気の迷い とかじゃ済まなくない?」

『いいの』
『いつだったか 話したじゃない?《何でこの人と付き合ってんだろ?》って思う時が有るって、ホントに そう思った事が何度か有るのね』
『で、ケンちゃん 教えてくれた事 有ったでしょ?《・・・メスはオスを匂いで選ぶ》って、でね、ゆうべさ ベッド借してもらったじゃない?、すごく安心出来たの…、ウチで寝てるより ずっと良く眠れたの』
『でもね、…いいの』
『ケンちゃんに ふられても』
『色んな片思いが有るんでしょ?』
『私が勝手に思ってるぶんには 良いんだよね?』
『・・・・・』
『ゴメンね、しんみり しちゃったね?、食べよ、言いたい事 全部吐き出したらお腹すいちゃった』
『チンする?、冷めちゃったね?』

「…そうだね、お願い」

温めなおしたから と言うより、頭の中を色んなモノがグルグルと回り、味も分からないまま、ビールで無理矢理 流しこんだ。

『私 洗っとくね、お化粧も落とさないと…、なので先に寝てて下さい』

「なら、俺が洗うよ」
「その間に お化粧 落とせば?」

『だ・か・ら!、それだと見られちゃうでしょ?スッピン』


「はいはい」
「歯 磨いて 寝ます」

こたつに潜り、電気を消した部屋の天井を見上げて 先刻のやり取りを思い出していた。
見上げては 思い出し。
目を瞑っては宮本さんの気配を感じ。
そして また 見上げて。

扉の隙間から こぼれていた灯りが消え、寝室のドアが開いた。

『ゴメンね ケンちゃん』
『ケンちゃんに聞かせる話しじゃないよね?、ごめんなさい』 
扉ごしに宮本さんが話しはじめた。

「ん?、良いよ、そんな事気にしないで」

『ありがと』 
『おやすみ』

「あのさ、土曜日 何か予定ある?」

『土曜日?、有ったんだけどね…』
『無くなったね、さっきの電話で…』
『でも 何で?』

「ん?、ソファー探しに行こうかと思ってさ」
「俺、膝が悪いからさ 床に座って靴下はくの キツイ時が有んだよ」

『今までは?、どうしてたの?』

「今まで?、ベッドに座って履いてたよ」

『ベッドって?、そっかぁ、私が占領しちゃってるからかぁ』
『ホント ゴメンねケンちゃん、早いとこ戻るから 家に、ゴメンね』
『そしたら余計な出費しなくて済むでしょ?』
『ゴメン、今週だけ、日曜日には戻るから、ごめんなさい お願い』

「そのベッドも布団も 気に入ったんなら 宮本さんにあげるから良いんだけどさ、何だっけ?ソファーベッドって言うの? そんなの探してみっかなぁ?ってさ」

『ケンちゃん?』
『そんな事言って良いの?、分かって言ってる?、自分が何言ってるか』

「分かってますよ」

『本気にするよ』
『社交辞令とか通用しないよ私』

「いいよ、通用しなくても」
「余計な出費で言えばさ、2軒分の家賃も光熱費も余計な出費じねぇのかなぁ?ってさ 思う訳よ」

「本気で言ってんの?」

「国会議員じゃないんだから 取り消して訂正いたします とか言わないから俺」
「もう少し広いトコ?、2LDK位が良くかなぁ?とか 思ったりしてさ」
「だからさ、とりあえず日曜日まで とか 期限決める事もないんじゃないの?」
「そしたら気付くかもしんないよ、俺の匂いがどうとか言ってくれたけど それも《勘違い》だったって事も有るかもよ?」

『・・・・・』

「少し 格好つけて良いかなぁ?」

『…良いよ』

「心の隙間ってさ 肌を重ねたぐらいじゃ そうそう埋まらないんだよ」
「仮に 埋まったとしてもさ 傷痕は残るし 触れば痛いしさ」
「その傷痕をさ 治してあげられる程の器量なんて無いけどさ 俺」
「治してあげらんなくても せめて かばってあげる位なら出来っかなぁ、って思ったりしてる訳ですよ これでも。……なんてな!」
「どぅお?、格好いい?少しは」

『…ケンちゃん?』

「ん?、滑っちゃった?」

『そのソファー、私が選んでも良いの?』

「良いよ」

『・・・ありがとね、ケンちゃん』

「寝ますかぁ」
「明日も仕事だし」

『だね』
『おやすみ』
23/04/14 01:29 (31gf7uZs)
9
投稿者: ケン
いい歳をした 独身の男女が 二晩も一緒に居たと言うのに 指1本触れずに過ごした。

今朝も宮本さんは バッチリとメイクをしている。
そして昨日の様に 俺が先に出た。

そして今日は『頭が痛いから』と、定時で帰った。
実の所は 佐山さんから[…早くあがるから、話しを聞いて欲しい]とLINEが有ったらしい。
[早く]と言っても、立場上 定時きっかりに…とは佐山さんは出来ない。
それを見越しての選択だった。

『確かに 掛けてこないで!ってしか言ってないけどさ、LINEもダメな事くらい分かんないのかしら あの人』
『ブロックし忘れた私もバカだけどさ、あり得ないでしょ!』
相当 ご機嫌斜めの様子で帰って行った。

「ただいま」
今夜も部屋に灯りが点っている。

『おかえりなさい』
『ご飯 出来てるわよ今日は』
『お風呂も汲んである、先に入っちゃったけど私』
『どっちにする?、ご飯とお風呂』
『それとも私(笑)?、なんてね』

「ん?、まずはキレイにしてくる」
「温まりながら考える」

『そぉぉ、考えるんだ?』
『なら、先に飲んどけば ユンケル、試した事ないんでしょ?、即効性が有るとは限らないんじゃない?』

「…だね」
俺は そう言いながら 冷蔵庫に手をかけた。

『もォォ!』
『いいから 入ってきて!』
宮本さんが 俺の手を払った。

ご飯を食べはじめるとすぐに
『何か言われた?、あの人に』
と、聞いてきた。

「うん」
「話しさせてくれ、俺んち教えてくれ、って」

『で?』

「本人が拒否ってるのに 教える訳にはいかない、パウロみたく あとつけるなり、総務に聞くなりしてくれ、って」
「今夜も俺んちに居るとは限らないですけどね、って」

『で?、何て?』

「人の女に手ぇ出しやがって、って言ってきたから、まだ指1本触れてませんよ、信じるか信じないかは貴方次第ですッ!、って」
と、人差し指で差してみせた。

『そしたら?』

「そんなの信じる奴居るかッ!、って」
「だからさ、そういう恋愛しか した事ないんですね?可哀想な人なんですね佐山さん、人の女とか… 婚約者でしょ?仮にも そんな言い方しますか?、って」
「あっ、失礼、婚約者だった人 でしたね今は、って言ってやったら ブツブツ言いながら帰って行って それっきり」

『そう…』
『でも それが事実だからね』
『指1本触られてないし、信じらんないけどさ、私も(笑)』
そんな事を言いながら 宮本さんが食器を片付けはじめた。

「いいよ、洗っとくから」

『いいの?』
『じゃぁ お願いしようかな?』
『メイク 落としてくるね』

「…えッ?」
「宮本さんこそ いいの?」
「見られちゃうよ スッピン、あんなに嫌がってたのに?」

『うるさい!』
『何 つッこんでんのよ!』

洗い物を終え 俺は一足お先に こたつに潜った。

『ケンちゃん?』
『一緒に寝て…』
寝室の扉が閉まると すぐに そう聞こえた。

「一緒にったって、枕も ソレだけなんですけど」

『腕枕してくんないの?』

「しょうがねぇなぁ」
と、俺は扉を開けた

『明るくしないでね』
そう言った宮本さんが壁際に寄って
『…どうぞ』
と、枕をずらした。

何を どう言って良いかも分からず、黙って横になって 腕を伸ばした。

『ありがとう』
そう言いながら 宮本さんが 俺の胸に 額をのせた。

「あのさ…」

『何ぁに?』

「会話だけ聞いてるとさ 高校生か大学生みたくね?」
「独居老人だよ 俺たち」

『独居老人とは失礼ね!、確かに私の方が歳上だけどさ、学年だと2つだっけ?違うの』

「うん、三年の時の一年」

『私もね 読んだのよ あのマンガ』

「黄昏流星群?」

『そ』

「バレちゃった?、受け売りなのが」

『そんな事ないよ』
『ちゃんと ケンちゃんの言葉に聞こえたよ』

「ありがとね、気ぃ使ってくれて」

『そんな事ないって!』
『嬉しかったもん、かばう位ならできるさかも…、って』

「それも《糸》の 受け売り だけどね」

『何で自分から そんな事言うかなぁ?』

宮本さんは そう微笑いながら 俺を見上げている。
俺は 黙って 見つめ返す事しか出来なかった、が
「目 開けたまま(キス)しますか?」
やっと 口をついたのが そんな言葉だった。

『バッカじゃないの?』
そう言って すぐに唇を重ねてきたのは 宮本さんの方からだった。

長いキスだった。
髪を撫で合い。
体を入れ替え。
見つめ会っては また瞳をとじて。
長い長い キスだった。

ビクッと震え。
肩で息をして。
宮本さんは その長いキスだけで 軽く達してしまった様にみえた。

その宮本さんが 俺を抱き起こし パジャマを捲りあげ 俺の乳首をついばんでいる。

俺は パジャマを脱ぎ捨て、宮本さんに応える様に 宮本さんのパジャマの裾を手を掛けた。

一旦離れて 万歳をした宮本さんが むさぼる様に唇を重ねてきた。
俺は 自分で パンツごとパジャマのズボンを脱ぎはじめた。
すると 宮本さんも 自ら 下を脱ぎはじめた。
互いに舌をむさぼり合ったままで。

唇 首筋 胸 乳首 脇腹・・・。
宮本さんの舌と唇が 少しずつ 下に下りてゆく。
宮本さんの唇が 俺の怒張に差し掛かろうとした時、体を入れ替え、今度は お返しとばかりに 俺が舌を這わせた、あの一部分を除いて、背中から腰 腰からくるぶし 唇から首筋 首筋から胸 至るところを 何度 往復させただろう?
釣りあげられた魚の様に 何度 宮本さんは 跳ねただろうか?

舌を絡ませ合うのは 何度目だっただろう?
俺のを握った宮本さんが 首を振って自ら離れた。
『お願い…、これ』
そう言って 少し強めに握ってきた。

「まだ何もしてないけど?」
「これからだよ?」

『…ダメ』
『おかしくなりそう…』
そう言って 握ったまま俺を導いた。

亀頭が 微かに《そこ》に触れると、宮本さんは 自らの手の甲を噛んだ。
眉間にシワが出来る程 眼を瞑り《その時》を待っている。
取り込もうとするかの様に 腰まで浮かせて。

俺は ゆっくりと貫いた。
宮本さんは 身体をよじりながら 更に腰を浮かせた。
そして 手の甲を噛んだ口もとから(ぁぁぁ)と小さく息をもらすと ビクンビクンと崩れてしまった。

恥ずかしながら、それから後の事は良く覚えていない。
宮本さんも『そのまま』と言った事すら 覚えていないらしい、本当の所は分からないが。

気付けば 時計の針は随分と進んでいた。どうやら これまででは経験した事がないほどの時間 宮本さんと繋がっていたらしい。

夢中だった。
久しぶりの女性、確かに それも有ったと思う。
ただただ夢中だった。
「肌を重ねても埋らない」って言ったのは俺なのに 何とか埋めてあげようと夢中だった。
いつの間にか そのまま2人は眠ってしまっていた。

「おはよ」
「早いね、相変わらず」

『この 床反社(893)!!』
『何が 赤まむしィッよ!』

俺の「おはよう」に返ってきた第一声が それだった。

「えっ?、受け売り?流星群の?」

『こんな近くにいるとは思わなかったわよ とこ反社 なんて』
『893って言う位だから そっちの世界の人の事だと思ってたわよ』

「…怒ってんの?」

『怒ってるけど 怒ってないわよ!』

「わけワカメ!」

『ぷッ、居るんだ、今どき まだ そんな事言う人』
『そろそろ お湯 沸くわ』
『顔 洗ってきたら?』

換気扇の下でタバコを吸いながら 向こうを向いたままの宮本さんとの会話だった。





23/04/15 00:25 (dFB2Nz/b)
10
投稿者: ケン
土曜日。

「…どうしようか?」
「プレモル 1ケースでも買って 持ってこうか?、下のオバサンに」

『え?、この前 お願いしに行ってくれてたよね?』

「うん、いつでもどうぞ とは言ってくれたけどさ」
「帰れる?、あの部屋に…、てか 住める?、あそこで生活できる?」
「少なくとも 佐山さんは 知ってるんでしょ?、今だって 行ってるかもよ?」

『…無理』
宮本さんは首を振った。

「でしょ?」
「もう 向こうに 車停める事なんて有るの?」

そんな話しをしながら家具屋さんに向かった。
そろそろ着こうかという時に 宮本さんのスマホが鳴った。
最近では スマホが鳴るなたびに〔ビクッ〕っと震えている。

『もしもし、おはよう』
・・・・・
『えっ?、明日?』
・・・・・
『ううん、そんな事ないけど』
『ちょっとゴメン、車停めて掛けなおすわ』
『ちょっと待ってて』
と、一旦電話を切っていた。

『春佳がね…』
『ゴメン、上の娘なんだけど』
『はるか がね、ほのか 見ててくれないか?って、明日』

「お孫さん? ほのかさんて」

『そう』
『どうしよ?』
『行って良いい?』
『パウロの事も 気にかけてくれてるしさ』

「行って良いい?、って俺は行かなくても良いの?」

『そんな いきなり?』
『会った事あるのよ、佐山さんにも』

「確かに 間は悪いかもしんないよ」
「だけど 何の為にソファー見に来たんだっけ?、何の為にプレモル買って帰るんだっけ?」
「帰れないんでしょ?、あの部屋には」

『それは そうだけど…』

「佐山さんの事は?、話してないの?まだ」

『今回の事は まだ…』
『でも、何であの人えらんだの?、とは言われた、同じ事 夏美にも』
『夏美って 下の娘ね、この前話した』

「宮本さんが したい様にして良いけど、俺は構わないよ いつでも ご挨拶に行くよ」
「ま、とりあえず、電話したら?、待ってるんでしょ?、娘さん、春佳さんだっけ?」

『うん』
『ゴメンね』

『もしもし?、春佳?』
『明日 何時に行けば良いの?』
『彼は?、彼も居るの?その時』
・・・・・
『うん?、ちょっとね…、話しときたい事が有ってさ私も』
・・・・・
『そう。色々あってさ』 
・・・・・
『そうそう』
『だから 早めに行くね』
・・・・・
『うん、じゃぁね、はぁい』

『明日、一緒に…、お願いします』
宮本さんは 電話を切ると そう頭を下げた。
『でも ホントに良いの?』

「かばわせて頂きます、精一杯!」
「そのまんま しか言えないけど」

『ありがとう』
『でも、本当?、ホントに良いの?』
『交際0日よ 私たち』

「交際0日で 結婚する人だって居るじゃん」

『それは芸能人の話しでしょ?』
『下手したら またXが増えるのよ』

「またバツって、まだプロポーズも してないですけど、俺」
「それにさ、何であの人?、って俺も言われるかもしんないよ?」

『それは無い』
『無い無い!、絶対』

「大丈夫?」
「メガネ屋さんも寄る?帰りに」

『ンとにもぉ!』
『行くわよ!』

ソファー売り場で、手当たり次第に 宮本さんは 試し座り?をしては、俺にも座れと 右手でソファーを叩いている。
〔ソファーをお探しですか?〕
そんな宮本さんを見ていた女性店員さんが声を掛けてきた。

『はいっ』
〔何か お気に召された物は ございましたか?〕
『もお、目移りしちゃって…』
〔どの様なタイプの物を お探しでしょう?〕
『深く座れて…、(後頭部をなでて)背もたれがこの辺まで有って…、出来ればケ‥ この人が横になれる位』と、両手を広げて見せている、
『それか、こうなるヤツ』と、今度は両足を跳ねあげてみせた。
〔誠に失礼ですが ご予算などは?〕

「ゴメンなさい」
俺は 2人の会話に割って入った
「ゴメンね、典ちゃん」
「深くて背もたれが高いのは良いけど、横になれなくても良いし、リクライニングも要らない、ホントごめん」

『…何で?』
『横になれた方が良くない?』

「狭い方が 引っ付いてられんじゃん、ね?◎◎さん?」

〔羨ましいです〕
〔ラブラブなんですね?〕
と、店員さんには 少し引き気味に言われた。

「何か そんなので オススメなのは有りますか?」

〔でしたら、こちらに〕
と、手を差し伸べて案内してくれた。

それは、本革で やや青みがかった深い緑色、何とかカンとかグリーンと書いてあった。

『そうそう、これこれ!』
『一番最初に座ってみたの これ』
『でも、お値段がね…?』

〔そうなんですね?〕
と、店員さんがスマホを取り出した。

今どきは 電卓なんて持たないんだ?
そんな事を思いながら見ていた。
が、また 俺が口をはさんだ。
「すみません」
「ごくごく普通のアパートの2階です」
「玄関も 至って普通のドアです」
「入りますか?、これ」

〔はい〕
〔足は取れますので、こちらは〕
〔お部屋のドアは 玄関よりも少し狭いのが一般的ですが それでも こちらのタイプは入りますので…〕

『私 そんなトコまで考えなかった』

〔申し訳けありません〕
〔私が先に ご説明すれば…〕
〔精一杯 頑張らせて頂いて こちらになります〕
と、店員さんが宮本さんにスマホを見せている。

『……しょうがないかぁ』
『で?、いつ届けて頂けるのかしら?、送料とか掛かるの?』

〔水曜日の正午以降でしたら お客様のご都合に合わせて‥、配送は無料となっております、係りの者に設置まで お申し付け下さい〕

『水曜の午後ね、……?』
『分かりました‥、それで‥』

〔ありがとうございます〕
〔では こちらに〕
店員さんが また 手を差し伸べた。

「良いの?水曜日で」

『うん、午前中に取って来れるし 着替えとか、ヤツが来る事も ないだろうしさ』

「幾らだった?」

『教えない!』
『私が払うんだから良いでしょ?』
宮本さんが 機械にカードを差し込んでいた。

〔ありがとうございました〕
〔領収書と お届け伝票になります〕
と、店員さんが レジから出てきて深々と頭を下げている。

「すみません」
「ベッドを見せて頂けないでしょうか?」

〔かしこまりました〕
〔こちらになります〕
一瞬ハッとした顔をしては居たが、またまた 手を差し伸べて 店員さんが歩きだした。

『ベッドも買うの?』

「いずれは‥、だけどね」
「どの位するんかなぁ?、って」

〔ご希望のタイプなど ございますでしょうか?〕
店員さんが 振り返りながら聞いてきた。

「あの‥」
「CMで見たんですけど、朝になったら こうベッドが起き上がってきて 起こしてくれるってヤツを‥」

〔かしこまりました〕
〔こちらへ〕

そこには 既に起き上がっているベッドが有った。
〔今 戻しますので〕
ベッドが ゆっくりと平らになってゆく。

「寝かせて貰ったら?」

『良いの?』

〔靴のままで どうぞ〕
〔お試し下さい〕

そのベッドは、今 家に有るベッドよりも 0が1つ多かった。
「これって、枕もマットレスも含めての値段なんですか?」

〔はい、一式のお値段でございます〕
〔では、起こしますね〕
〔朝 時間になると この様に〕

『介護ベッドみたいね?』

〔はい、のちのちの事も考えて お求め下さる方も‥〕

「すみませんが、もう一度 戻して下さい」

ベッドが更にゆっくりと戻ってゆく。

「どぅお?、枕の感じは」
「それで いい?」

『ちょっと低いかなぁ?』
『柔らかいから かも?』

「すみません、妻に枕を見つけてあげて下さい」

〔かしこまりました〕
と、店員さんが枕を探しに行った。

『いいの?ケンちゃん?、妻とか言っちゃって』
と、宮本さんが ニコニコしながら口元を押さえている。
『さっきだって‥』
宮本さんが 更に続け様とした時に、
何処かに消えた店員さんが 両手で3つの枕を抱えて戻ってきた。

〔こちらなど如何でしょう?同じメーカー 同じ素材で出来ております〕
〔固さや高さが違いますので、どうぞ お試し下さい〕

取っ替えひっかえ試していた宮本さんが『やっぱり コレかしら?』と、1つの枕を選んだ。

「すみません、私の枕は あとから選ぶとして、コレをツインで頂くと幾らになるんでしょうか?」

〔コレをツインで‥、ですか?〕
店員さんが目を見開いている
〔申し訳けございません、少々お待ち下さい〕

「それと、もう1つお願いがあります」
「今 妻が寝てるベッド、それと娘のベッド。私達は市内ですが、娘は先日まで 隣町に住んでまして、妻のベッドと娘のベッドを引き取って頂けないでしょうか?」
「娘がベッドをくれるって言ってるんですが どうも合わなくて」
「先程のソファーとベッドはウチに運んで頂いて、今有るベッドを引き取ってもらう。それとは別に 娘のベッドを隣町から引き取ってもらう、お願い出来ますか?」

〔お話しは理解出来てございますが、私の一存では なんとも…〕
〔申し訳けございません、少々お待ち頂けますでしょうか?〕

しばらくすると、男性と一緒に店員さんが戻ってきた。
〔この度は ありがとうございます〕
と、名刺を渡された。
〔お買い求め頂けましたら ベッドとソファーは お住まいにお届けして 今お使いのベッドは引き取らせて頂きます、そこは問題ございません〕
〔立ち入った事を申し訳けありませんが、お嬢様はご結婚か何かで?〕

「はい」
「このご時世なので披露宴とかは アレですけど」

〔それでしたら どうでしょう?〕
〔当社にもリサイクル店が ございまして、そちらから出張買い取りという形では‥〕

「ごめんなさい、ハッキリ聞きます」
「それって 要らないもの何でも持ってってくれるって事ですか?」
「極端に言えば ゴミの処分もしてくれるんでしょうか?」

〔はい、ある程度の物は‥〕
〔逆に お客様に ご負担ねがう場合もございますが‥〕

「って事は、売れるものが高ければ残るし、ゴミの方が多ければ こちらがお支払いする」
「今のアパートを からにして貰って、お支払いする事もあれば 頂ける事も有るって事で いいんでしょうか?」

〔はい〕 
〔ざっくりとは その様になります〕

「なら、それでお願いします」

〔ご退去の日にちなどは お決まりでしょうか?〕

「来月末には鍵を返すんだ とか」

〔かしこまりました〕
〔リサイクルの方から お電話させて頂きますので‥、どうぞ宜しくお願いいたします〕

「こちらこそ、宜しくお願いします」

これで 宮本さんのアパートを引き払う メドはついた。
不動産屋かぁ、さすがに狭いよな?今のままじゃ。
どっか 手頃なトコさがすかぁ?
しっかしキツイなあ、勢いで こんな高けぇモン買っちゃって‥。
そんな事を思いながら 支払いを済ませた。

『いったい 幾らしたのよ?』
『ソファーが何個 買えたの?』
『私のベッド 持ってくれば済んだの事なのにさ』

「嫌だよ!そんなの」
「佐山さんも寝たんだろ?、そのベッドで、ゴメンだよ、そんなの」

『・・・・・・・』

「ゴメン、言い過ぎた、ゴメン」

『ううん』
『‥そうだよね』
『奥さんが使ってた鍵なんて嫌だ!って私も言ったもの』
『そうだよね‥‥』

『ね?、でも 幾らしたの?』

「教えない!」

『何回払いにしたの?』
『私も手伝うから‥、幾らしたの?』

「何回払いも何も デビットだもん」

『‥デビットって』
『もう済んでるんじゃない』

「‥だね」
「典ちゃんには アパート引き払う事だけ お願いしようかな?」
「新しいトコは 手頃な所 俺が探すからさ」
「手分けして やらないと、お願いしますね」

『はい』
『こちらこそ お願いします』
『・・・・・』
『でも 嬉しかったなぁ《妻》って言われた時』

「そうしか言えないでしょ?」
「宮本さん なんて呼べる?、あの状況で?」

『それが一言余計だ!って言われんの!、分かってる?』
『でも まぁ 次から次へと、ペラペラ ペラペラ 良く出てくるわね?』
『娘が結婚して 遠くに行っちゃったん ですってね?』
『でもさ、ケンちゃんに のりちゃんて呼ばれんのも何かね?、ずっと宮本さんとしか呼ばれてないし‥』

「俺も 宮本さんの方が呼びやすいんだけどね、良いい?そのまんまで」

『良いよ、ケンちゃんが呼びやすいんなら、オイとか なぁとか、ずっと良い そんなのより』

その帰り道、スーパーに寄って 食材とプレモルを買って帰った。








23/04/16 03:23 (RhepMPZg)
11
投稿者: ケン
『大丈夫なの?ケンちゃん?』
『私のは良いから‥、キャンセル出来ないの?』
宮本さんは 家に着いてからも ずっと そればっかり だった。

「まぁ良いじゃん?、買っちゃったんだから」
「それに俺、クイーンサイズなんて寝た事ないからわかんないけど、ダブルなら ツインには敵わないから絶対」

『だからって 何も‥』

「それよりさ、これなんて どう?」
「昭和感が凄いけど、外観は」
「2LDKで ペット相談可、収納も そこそこ有るよ、どうお?」
と、賃貸検索の画像を見せた。
「7階建ての6階の角部屋、どう?」

『ありがたいけどさ、大丈夫なの?』
『私は良いわよ 此処でも‥』
『でも 手伝えないわよ お金、良いの?それでも?』

「だって その部屋 ベッド置いたら 足の踏み場もないよ?」
「洋服とかドレッサーとか どうすんの?、何処に置く気?」
と、半ば強引にスマホを持たせた。

『でもさ、何処なの?ここ』

「ん?、ちょっと来てみ?」
と、ベランダに連れだした。

「たぶん アレ」
と遠くに見えるマンションを指差した。

田舎街のここら辺には 駅前は別として 7階建ては珍しい。

「駅からは少し離れるけど 会社には近くなるよ、どぅお?」

『だからって こんなに大丈夫なの?、初期費用とか』

「0に成っちゃうけどね、貯金は」

『でしょう?』
『こんな女に そんなにお金掛けて どうすんのよ?』

「ん?、こんな事」
と、不意に抱き寄せて キスをした。
「此処じゃ 誰かに見られちゃうけど、あそこなら もっと色んな事も出来るよ、きっと」

『色んな事って そんな‥』

「ベッドの上でしか した事ありません!、なんて言わないよね?まさか」

『それは まぁ、そうだけど‥』
『だからって 50過ぎてんのよ私達』

「だから何?」
「40し盛り 50ゴザむしり、って言ったんだっけ?昔の人は?、でしょ?」

『随分 古くさい事 知ってんのね?』

「6階ならさ 蚊とかも居なそうじゃん?」

『蚊とかって‥、まさか外でもする気でいるの?』

「そ、変態だもん、俺」

『変態って‥‥』

「出来ればさ 向こうに運んで欲しいよね?ベッド、それまでは こたつで我慢するからさ俺」
「はるかさん だっけ?、明日 そこまで話そうと思ってんたけど、どう思う?宮本さん」

『どう?って‥』
『なら 今晩の内に電話しとくわ はるかには、会わせたい人がいるから 一緒に行くって』
『今日はもう旦那も帰ってるだろうし、話しといて貰うわ』

で、夜の内に 連絡してもらい。
翌朝 はるかさんを訪ねて、挨拶をして、もう一度 家具屋に行って《取り置き》をお願いして、歩き始めたばかりの ほのかちゃんを連れて不動産屋をたずねた。
はるかさんも さすがに 交際0日には驚いていたが…。

そして、不動産屋さんの担当と共に
内見に行った。
外観は昭和感を越えて、俺らが生まれる前の東京オリンピック 高度成長期真っ只中!、そんな感じだった、エレベーターも年代物のが一基だけ。
が、室内は《今時》にリフォームされていて、アイランド型の流し台 シャワー付きの洗面台 風呂は追い焚き技能、そして何より各部屋にクローゼット、なんでも 和室を取り払ってリビングにしたらしい。
が、エアコンはそのリビングに1つだけ、『エアコンは各々があとから付け足した物を持ってくれば何とかなるよね?、私の引っ越し費用は私が払えるから』
と、昨夜の話しが何だったのかと思うほど 宮本さんの方が乗り気だった。

歩き始めたばかりの ほのかちゃん、そのオムツを取り替えながら 宮本さんが はしゃいでいた。

内見から不動産屋に戻る車中
「住所は どうするの?」
「俺は あそこに移すけど 宮本さんは?」
「引っ越しました此処に‥、なんて総務に提出したらバレバレだよ」
「実家とか 置かせて貰う?」

『実家はダメ、福祉とか 止められちゃうかも?、はるかの所も同じく、どうしよ?』

「だけどさ、昨日の今日で さすがに入籍とかはね?」

『うん』
『ゴメン、私も そこは まだ考えてないの‥』

「一枚の紙切れ かもだけど、男は それで覚悟が決まる!とか言うけどさ、覚悟しても 1度失敗しちゃってるしね、俺」

『アはっ 私も‥』
『でも まだまだ事実婚には 障害が有るのも確かみたいだけどね‥』

「追い追い‥、で良いですか?」

『はい』

「住民票だけは 考えてといて」

宮本さんに そう念を押して 不動産屋で説明を受けて 契約書にサインをした。

23/04/19 22:38 (WcHZoPfm)
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