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1:ママさんバスケットボール部、開幕。
投稿者:
タケイチ
『ユウ~?お前もちょっと行こっ!』、母からそう声を掛けられたのは、土曜日の朝のこと。僕はすぐに、『いやや、行かんわぁ~!』と答えるのでした。
その兆しは、前日の夜からありました。 『ユウ?明日、一緒に行かん~?』 『なにがぁ~?』 『バスケ。』 『行かんわぁ~!』 『そんなこと言わんとぉ~…。あんた、ちょっとは身体動かしなよぉ~。』 高校でのバスケットも終わり、以降家でゴロゴロをし始め、まるで身体を動かさなくなった僕。それを少し心配してか、母がそう言って来たのです。 それでも、誘われたのは母が監督を勤める『ママさんバスケットボール部』、さすがに抵抗があります。 『明日、もう一回誘うからなぁ~。』、昨日の夜のことです。 母の軽自動車の助手席に乗せられ、嫌々向かっていたのは、近所の小学校の体育館。そこで、週2回バスケットボール部の練習が行われているのだ。 『俺、なんもやらんよ~?見てるだけやからなぁ~。』、口では強く言っているが、そう言わなければならない事情もあった。 僕の高校は、ほぼ男子校。なので、女性との交流もなく、主婦の方とは言え、要は女性との接し方が分からないのだ。 体育館に着き、車を降りると、体育館の中からは『ダムダム…。』とバスケットボールをつく音がしてくる。 聞き慣れた音だが、その音がするということは、中にメンバーの方がいるということ。それだけで、どこか緊張をしてしまうのでした。 体育館の扉が開くと、母と僕を見たママさん達が口々に『お疲れ様ですっ!』、『監督、こんにちわぁ~!』と元気のいい声が掛けられます。 まだ、練習は始まっていないようで、ステージに座ってくつろいでいる方も見えました。 『あれ?誰~?息子さん~?』、ある方が母にそう声を掛けます。『うちのよ。家でゴロゴロしてるから、連れてきたわぁ~。』と母が答えました。 『えぇ~っ!ちょっと、イケメン違うん~?』と冷やかされ、他の方も『ほんとやぁ~!』と騒ぐように言ってくるのです。 もう、それだけで気持ちはブルー。このママさん達の勢いに勝てない、馴染めないのです。 練習が始まりました。僕は2階へと上がり、客席に座って練習を見ます。ふざけていたママさん達でしたが、練習中には真面目な顔を見せています。 基礎練習が終わり、ようやく実践練習が始まりました。まあ、試合です。2つのチームに分かれて、試合形式で行うのです。 やはり、レベルの低いママさんのバスケットと言えども、試合を観るのは面白い。座っていた僕も、身を乗り出すようにして見学をさせて貰います。 その中で、僕は気づかない内にある一人のママさんを目で追っていました。特に美人でもない、少し背は高くて目を引きますが、顔はごく普通のママさんです。 『それはなぜか?』、それはどこか僕に似ている気がしたからでした。 実践練習が終わり、少し休憩に入ります。結局、僕が注目していたママさんはノーゴールで終わっていました。 『ユウ?降りておいで。』と母に言われ、僕もママさん達の輪の中へと入って行くのです。 そこで、『ユウ?見てて、なんか気になったことあったら言って。』と母から突然言われ、慣れてない僕は困ってしまいます。 母の言葉に、メンバー全員が僕に注目をし、何かを言わないといけない雰囲気なのです。 『えぇ~と、あの方…。』、ようやく出た言葉は、ずっと見ていたあのママさんのこと指していました。 母から『石川さん~?』と言われ、彼女が石川と言う名前であることが分かるのです。 『そうそう、あの方。スリーポイント打った方がいいかも…。』、僕のアトバイスでした。それを聞いたみなさんの言葉が一瞬止まりました。 言われた石川さんも、少し目を丸くしています。母から『どうして~?』と聞かれ、僕は見て感じたことを素直に伝えるのです。 『リバウンドに入るのを、意識し過ぎてると思います。外からのシュート、なかなか上手でしたから。』 それは実践練習で感じました。背の高さがあるため、『リバウンドは自分が。』の思いが強いようで、そのくせまるでボールが取れない。 要は相手に押し負けて、リバウンダーに向いてないのです。しかし、彼女が放った3本のシュートは、入りませんでしたが、きれいな放物線を描いていました。 きっと彼女も気付いてませんが、女性としてはかなりの距離があるシュート。あと少し後ろなら、それはスリーポイントエリアの外ということになるのです。 『あんたが言うんなら、間違いないかぁ~?石川さん、やってみるぅ~?』、母は即決をします。母も、僕のバスケット人生をよく知る一人なのです。 『私ですか~?』、言われた石川さんも少し驚いていました。しかし、他のママさん達からも、『やってみなよぉ~!』と声が飛んでいます。 僕は知りませんでした。ママさんバスケットボールですから、スリーポイントシュートを打つ方など、ほぼ皆無なのです。 『なら、ユウ?石川さんに教えてあげてっ!』と母に言われ、『マジか?』と思いながらも、彼女の練習を見さされるはめになるのです。してやられました。 1つのゴールが、僕達に明け渡されました。『石川です。』と挨拶をされ、『ああ、井本です…。』と慌てて返します。 『出来るかどうかわかりませんが、よろしくお願いします。』と言われ、僕達二人の練習が始まってしまうのです。 とりあえず、さっきの試合で彼女が打っていた位置からのシュート練習です。ゴールにこそ当たりますが、入りません。 しかし、『ゴールに当たると言うことは、方向も距離感もほぼあってますっ!』と伝えると、気をよくしたのか、シュートの入る確率が上がって来ました。 それを見て、僕は『これは行けるかもよ。』と自信を持つのです。石川さんの持っていたもの。それはきれいなシュートの放物線の他にもう1つありました。 彼女のシュートのフォームです。ママさん達ほとんどが両手投げなのに、彼女だけはちゃんと片手シュート。 漫画のスラムダンクの中でもあった、『片手は添えるだけ…。』、そのシュートを彼女だけはちゃんと出来ていたのです。 2時間半の練習でしたが、あっという間に終わりました。『行きたくない。』と思っていた朝が嘘のようで、どこか充実を感じていました。 『また来てみたい。』なんて、感じたりもしてしまうのです。 『はいっ!今日は解散っ!お疲れ様でしたぁ~!』と言う母の声が体育館に響き、ママさん全員からも『お疲れ様でしたぁ~!』と元気な声が出ます。 しかしその時、『あの~、監督~?息子さん少し借りていいですか?』と石川さんが言うのです。その言葉に、『なにごと?』と思います。 『もうちょっとだけ、シュート教えて貰いたいんですが…。』と言うのがそのりゆうのようです。母は、『いくらでも使ってぇっ!』と一つ返事でした。 他のママさん達は帰り支度をしながら、『石川さん、無理せんのよ~!』『お兄さんも頑張ってよ。』と声を掛けてくれていました。 皆さんが帰り、一気に静かになった体育館。車で乗せて来てくれた母も、先に帰ってしまいました。 『ごめんなさいねぇ?付き合わせて。』と石川さんから謙虚に言われ、『あーあー、気にしないでください。どうせ暇ですから。』と笑って返すのです。 先程までの練習中には、ちゃんと彼女のシュートを見ていた僕。しかし、誰も居なくなると、一気に邪念が現れ始めるのです。 ジャージ姿の石川さんの胸やお尻、更にはその股間までさりげなく見てしまいます。 しかし、そんな邪念だらけのコーチに見守られながらも、彼女の放ったシュートはゴールへと吸い込まれていきました。 それは、ちゃんとスリーポイントエリアの外から放たれたものでした…。
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2019/04/18 16:49:12(V9uakOWQ)
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