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鮑[アワビ]
それは誰もが知る高級食材であり、なかでも天然の黒アワビともなれば最高級品種として高値で取引される。一方でその独特な色と形から女性器にも喩えられ、それを指す隠語としても使われる。 ----------- 夏の日差しが厳しい八月のある日、フリーライターの和也はとある地方の港町にやってきた。 その町は今でも海女による素潜り漁が盛んで、一時期の海女さんブームの頃には観光客が大挙して押し寄せたと聞いていた。和也はそんな海女さんブームのその後を取材しようと考えていたのだった。 和也は地元のタクシー運転手の案内で本物の海女が見られる場所へと連れて行ってもらうことにした。途中、車窓から見える海には太陽の光がギラギラと反射している。 『お客さん、今どき海女さんば見たいなんて珍しいねぇ。あんときの流行りの頃ならまだしも今はそんなお客さんほとんどいねぇですよ』 初老の運転手が少し寂しそうに言った。 『そうなんですかぁ、、ちなみに私は物書きをやってるんです。ブームの後どんな様子なのか気になりましてね』 『あれま、作家さんでしたかぁ。こりゃ、たいそうなお客さん乗せちまったで 笑』 『いえいえ、そんな大した職業じゃありませんから。自由気ままにやらせてもらってます』 『そういやお客さん、今から行く海女小屋なんだけどもね、そこにえらいべっぴんの海女さんがいるんですわ。なんでも未亡人って噂でね、町の男達はみんなその海女さんに惚れちまってるようなんです』 『へ~、それは楽しみだ』 和也は運転手の話を半信半疑で聞いて、適当に受け流した。経験上、タクシー運転手の話はそれなりに信頼性が高い。しかしガセネタで終わることも少なくなかった。 タクシーが目的地の海女小屋に到着した。案内を終えた運転手が笑顔で会釈してUターンしていった。 海女小屋の前にはすぐ海が広がっている。入江の岩場のほうを見ると、さっそく数人の海女達が黒いウェットスーツ姿で漁をしていた。 それを見た和也は少し裏切られた気持ちになった。海女といえば、白い海女着姿を想像していたからだ。しかしそれは昔の話、今は実用性と安全性の面から皆ウェットスーツで漁をしている。彼のイメージは完全にテレビドラマの影響だった。 和也は海女達のもとへ近寄り声をかけてみることにした。 『どうもはじめまして、東京から来た取材の者です』 「何だ?兄ちゃん、邪魔だよ!あっち行ってな!」 いきなりの洗礼である。 確かに海女達からすれば大事な漁の最中に話しかけられたことになるわけだが、あまりの素っ気無さ愛想の無さに和也は少々気落ちしてしまった。 そんな和也にひとりの海女が声をかけてくれた。 「気を悪くしたらごめんなさいね、みんな仕事熱心なお婆さんばかりだから、、悪気はないんですよ」 和也は声のする方を振り返ると、そこには海女らしからぬ美しい顔の女性が立っていた。髪を抑えるゴムキャップをかぶってはいるものの、見たところ40代前半といった感じだった。どうやらあのタクシー運転手の話は本当だったようだ。 彼女もまたウェットスーツに身を包み、ゴーグルを抱えてこれから漁に出ようとしているところだった。 『あ、いや、こちらこそすみません、仕事の邪魔をしてしまって、、海女さんってみんなウェットスーツなんですね。てっきり白い海女着を着てるのかと思ってましたよ 笑』 「ちょっと前に流行った頃は一応着てたんですよ。それを見に来る観光客の人も多かったですし。今はお客さんもほとんど来なくなっちゃったから、、潜りやすいウェットスーツに戻しちゃったんです」 彼女は突然の来訪者である和也相手に愛想良く話をしてくれた。 一方の彼は、彼女の体にピッタリと張り付くウェットスーツに男の感性を刺激されそうになっていた。 「どうぞ、その辺りに座って見ていってください」 美人の海女はそう言い残して岩場へと向かうと、ゴーグルを装着して他の海女達とともに海中へと消えていった。 つづく
2018/07/04 23:05:01(M9C.W7aQ)
投稿者:
モンスーン
◆LcZFM.jE8Y
突然、岬を吹き抜ける風が青々と背高く伸びた草叢を騒つかせる。 それはまるで亡くなった夫が美咲に逢いに来たかのようだった。 和也は美咲を抱く腕を静かに解いて彼と2人きりにして、そっとその場を離れた。 美咲はじっと海を見つめ、彼と対話をしているように見えた。ときおり空を見上げ、溢れる涙を瞼に湛えている。 どれほどの時間が経っただろうか。 灯台の陰にもたれて海を眺めていた和也のもとに美咲が戻ってきた。 彼女の顔は晴れやかだった。 「天野さん、一緒に帰りましょ」 『ええ、みんな待ってますよ』 . . . . . . . 『はい!民宿 岬です! はい、ご予約ですね。毎度どうもありがとうございます!』 1ヶ月後、そこには威勢よく電話に出る和也の姿があった。 あれからすぐに彼はライターの仕事を辞めた。 今は美咲と2人、この港町で民宿を切り盛りしている。 ライター時代のツテを頼って僅かながら広告も出し、一時期の大ブームには程遠いもののなんとか客足も戻りつつあった。 「和也さん、今日獲れたアワビ、夜のお料理にどうかしら?」 美咲は和也と結婚し、偶然か必然か“天野美咲(海女の美咲)”となった。 彼女もまた町の男達との性接待からは足を洗った。海女の仕事の傍ら、この港町に活気を戻そうという和也を妻として支えている。 「和也は幸せもんじゃのぉ。あんな綺麗な嫁さんと毎晩まぐわっとんのじゃろ? 笑」 「あんただって、昔は絶倫の旦那と毎晩ヤっちょったろうに。うちの方まで喧しい喘ぎ声聞こえてきとったで 笑」 「それにしても良かったのぉ。美咲ちゃん、ほんに幸せそうな顔しちょるわい」 海女の婆さん達は相変わらず口が悪かった。それでも2人の結婚を心から祝福し、和也をこの町の男として迎え入れた。 海女の港町。 これからも海女達の賑やかな笑い声と、さざめく潮騒が鳴り止むことはないだろう。 終 長らくお付き合い頂きありがとうございました。 ※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
18/07/20 12:09
(VlljsOy.)
投稿者:
(無名)
いいですね。
18/07/25 10:13
(IpDXrUdc)
投稿者:
読者親父
自分は、岩手県内陸部ですが、実際に、沿岸の人妻は、旦那は、海の漁に、長い間留守電で、寂しさから、ほとんどの人妻は、現実的らしいですね。この話の海女さん彼女は、結婚して、数年して、彼氏のsexで、満足できるかは?疑問ですけどね(笑)
18/07/26 02:18
(EZfdrPMA)
投稿者:
モンスーン
◆LcZFM.jE8Y
〉無名さん
シンプルながら嬉しいコメントありがとうございます。 〉読者親父さん それほど海の女性は貪欲なのでしょうか。。 なんともリアルなお話にドキっとしてしまいました。 閲覧ありがとうございます。
18/07/26 23:38
(XqXmGuVx)
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