結婚を機に職場も新たにした。
職場環境も良好で会社のほど近くにアパートを借りて新婚生活を送っていた。バラ色の新婚生活の中で僕の頭を駆け巡る思いがあった


「妻以外とセックスがしたい」


普通ならば婚姻前に考えを巡らせることなのかもしれないが転職、婚約、結婚式と人生のターニングポイントを立て続けに経験し無事全てを完了した安堵感からなのか、元来の真面目さで長年蓋をしてきた思いが突如として、そして巨大に現れたのだった。


したい！したい！妻以外とセックスがしたい！誰でもいい、一度だけでいい、妻以外の女とセックスがしたい！今なら女性と免疫もあるし上手くやれるかもしれない、男として自分を試したい！一度でいいんだ、妻以外と、、


その思いは寝ても覚めて消えなかった。しかし浮気なんぞは映画やTVの世界の話で現実感がなく、どうしようもなかった僕は、思春期を思い出したかのように毎日妻に隠れてパソコンを開いてはぶち撒けていた。

そんな折ある一人の先輩と仕事をすることになった

その日は仕事が早く片付き「みんなには内緒なっ」というイタズラな笑顔とともに車のシートを倒し二人でサボって雑談していた。ひと通り先輩の仕事の愚痴を聞いたあと、先輩はこう切り出してきた。


せ：お前○○やってないの？


僕：あー最近CMスゴイですよね。僕はやってないです。※当時流行った某携帯ゲームサイト


せ：ふーん。こないだそこで知り合った女と飲み行ったんだ。


僕：えっ！？先輩結婚してますよね？
　　

せ：関係ねぇよ。


僕：、、、飲んだ後どうしたんですか？


せ：微妙（見た目）だったけどヤッちった！


僕：へっ、へぇ～




衝撃だった。
今でも「関係ねぇよ。」と言った時の先輩の表情、声のトーン、車内のニオイまで鮮明に覚えている。先輩は当時小学生のお子さんが二人と職場結婚した奥さんもいる。たしかに先輩は元ヤンな雰囲気があり雑談の中でも「オレ昔モテたんだぜ！」エピソードが多々あるような人ではあったが、映画やTVだけの話と思っていた浮気が急にリアリティを帯び出したと同時にまさかの方法論までタバコ臭い車内でご教授いただけるとは思ってもみなかった。


今までは「あー妻以外とセックスしたい！でも浮気なんてそんなこと、、」と終わらない自問自答を脳内で繰り返していたのが、その日を境に僕の頭の中に第三の男が現れ「関係ねぇよ。」と一言つぶやきタバコの煙とともに消えていくようになった。

そうか！
関係ないんだ！


急に正論を突き付けられた先輩が、返す刀で咄嗟に言ったであろう一言が、なぜだか僕の心に刺さった。

正直僕はその先輩に特別な感情を抱いてはいなかった。何かと理由をつけては一服してくる。と言い残しタバコをバカバカ吸うし

連休明けや飛び石連休の出勤日に限って遠方の親戚に不幸があったり、お子さんが体調を崩し病院に連れて行くような義理堅く優しい方だったからだ。

にも関わらず、先輩の言葉が生涯の恩師からの金言のように全身に染み渡った。

自分でも不思議な感覚に陥りながら数日間を過ごした。

その間も僕の願望を叶えてくれるであろう禁断のサイトに訪れては閉じる。訪れては閉じる。を繰り返していた。


ルールを設けた。


なんとも自分本位で勝手なものだが、自分自身にルールを科した。


1　　妻には絶対にバレないこと。

2　　会社、友人、家族にもバレないこと。

3　　一度きりにすること。


この3つだ。
不思議なもので明確なルールと金言を授かったことで視界がクリアになっていった。

それとなく同僚や友人に例のサイトについて話を振ってみた。するとどうだろう、単純にゲームを楽しんでいる者もいれば、先輩のような使い方をしている者もいた。

いよいよ信憑性が帯びてきた。あとはサイトに登録するだけだ。・・・しかし、それが出来ない。

ただのゲームサイトだ登録しただけでは何ら問題ない。しかし僕の頭の中では登録イコール浮気という図式が出来上がっていた。

これだけ条件が揃ったにも関わらず最後の一歩が踏み出せない。実に情けない話だ。


そんな時、上司に呼び出された。


「これから月一で○○営業所に手伝いに行ってくれないか。人が足りなくてねぇ。新婚さんで悪いけど2泊3日の日程で頼むよ！」


渡りに舟だった。


数日後、地方のビジネスホテルのベットに腰掛けた僕は、あれだけ躊躇した登録ボタンを電車の乗換案内を調べるかのように押していた。

サラリーマンの方ならばご理解いただけるかもしれない。地方にて一人宿泊するビジネスホテルでの開放感。

妙な無敵感のようなものさえ身にまとってくるではないか。僕はその力の恩恵を存分に受け野望への一歩を踏み出したのだった。

高揚していた。まだ登録しただけにも関わらず、何かを成し遂げたような達成感すらあった。

あとは最初で最後の一度きりを捧げる相手を探すだけとなった。




だが、、、




難しい。。




先輩のようにいかない。


完全に盲目になっていた。登録さえすれば美女が股を開いて待っていると思っていた。思い上がりも甚だしい。

しかし、ここまで来たなら後には引けぬと2、3ヶ月四苦八苦しながら苦戦していると、ある一人の女性と繋がるようになった。



名前を「のん」という。
もちろんハンドルネームだ。


本名は知らない。それはお互いだ。これはのんに関わらずこれから登場する多くの女性たちにも共通することだ。本名はせいぜい知ってて名前まで。名字は知らない。

だが、それがナゼか心地良かった。名前以外は赤裸々に話した。過去、家族、子供、仕事、お金。そこに嘘偽りはない。

もう会わないかもしれない。これっきりかもしれない。そんな想いが会って数時間、数十分後に激しいセックスをし急速に距離が縮まることにより生まれそうさせるのかもしれない。

のんとは会うまでに3ヶ月程メールをやり取りした。後にも先にも最長だ。

本当はもっと早く会えたのだろうが初めてということもあり相手との距離感を測り兼ねていた。

会おう！と切り出したのも向こうからだった。恐らく痺れを切らしたのだろう。あの頃から何も成長していない自分が恨めしい。

会うとなってからは僕も積極的になりトントン拍子で約束の日が決まった。

しかし「会おう。」としか約束していない。自分に直接会って口説いてホテルまで連れ込める度胸とスキルがあるだろうか、、、。


しかし、会う前日のメールのやり取りで、その不安は一蹴された。




僕：いよいよ明日だね。スゴイ緊張してきた！
　　明日楽しみだね！


のん：うん！私も楽しみっ！


僕：でも、のんは可愛いから2人きりになったら
　　キスしちゃうかも！覚悟しといてね（笑）


のん：覚悟しとく（笑）んじゃオヤスミ！


僕：オヤスミ！


のん：あっ！キスだけじゃなくてハメもね！



ガッツポーズをした。
何度も何度も