北と東西の三方を山に囲まれ南北に細長く、主要道路や鉄道は南端を掠めていくだけ、観光資源もなく名産品があるわけでもない小さな町。
その町の北端にあり、さらに北東から南西へとたすき掛けの様に流れる川で分断された集落で私は産まれ育った。
同じ町でも南側に住む人々からは「川向こう」と呼ばれ、その集落以外の人が来る事は少なかった。
集落の端には源平の戦いから逃れた平家武者の墓と伝わる石碑があり、毎日必ず誰かがお参りをしていた。
「川向こう」と蔑まれながらも、集落の人々は皆おおらかで争いを好まず寛容的だったが、ただひとつ、集落の風習と言うか掟と言うか…頑なに守っているものがあった。
仏教でも神道でもその他の宗教でもない、土着信仰がそれだ。
「クホウ様」と呼ばれる布で巻かれた手のひら位の大きさの「なにか」を御神体として崇め、独特な信仰が受け継がれていたが、中でも性に関する事は変わっていた。
男子は11歳、女子は初潮を迎えると初体験を済ませる決まり。
ただ男子と女子では大きな違いがあり、毎年10月の新月の日に行われるクホウ様の祭りの時に11歳になった男子は全員、女子は初潮を迎えた次の月にそれぞれにというものだった。