数週間後、昌江に連絡を入れると、辿辿しい感じで電話に出た。
｢そろそろ、回答欲しいんだけど？｣「あっ、はい。｣｢まだ、踏ん切りつかな
い？｣｢う～ん。｣｢ウチも仕事なんだよね。いい加減、ダメならダメで、回答
してくれなきゃ。｣｢は、はい。｣｢どっち？｣「あ、会うだけなら。｣｢会う
の？｣「はい。後は会ってからで、いいんですよね。｣｢うん、いいよ。それじ
ゃあ、スケジュールをファックスするから、宜しく！｣｢は、はい。｣　昌江は
家族に｢二泊二日の社内研修」と伝え、前日の午後から待合せ場所に向かっ
た。待合せ場所に着くと、スタッフから説明を受け、エステ・サロンに案内
された。スタッフの女性に｢全身エステをさせていただきます。下着を全て脱
ぎ、全裸になってください。｣と言われ、昌江は全裸になった。ベッドに仰向
けに寝るよう指示され、首から足の爪先にかけマッサージされながら入念に
洗われ、うつ伏せを指示され、同じ様に洗われた。スタッフに｢全身脱毛をさ
せていただきます。よろしいですか？｣と訊かれ、昌江が「はい。」と頷くと
脱毛処理が始まり、顔，項，腋，臑と進み、うとうとしていると陰毛処理に
なり、陰部にシェイビング・クリームが塗られた。昌江が「あっ。」と声を
出すと、スタッフが｢どうしました？｣と訊いた。｢そこっ、全部剃っちゃう
の？｣「はい。通常ですと、そうですね。｣｢え～っ、困るわ。主人に疑われち
ゃう！｣｢じゃあ、小さくカットするくらいにします？｣｢ええ、お願い。｣｢か
しこまりました。｣と丁寧に全身脱毛を仕上げた。その後、数時間が経過、全
てのエステ・プログラムが完了した。昌江が下着を着けようとすると、プロ
ダクション関係の男が｢奥さん、せっかく、綺麗なっとんのに、そんなん、着
けとったら、あきまへんでぇ。もう、何も着けんで、ええ。｣と関西弁風の口
調で喋って来た。昌江が｢はぁ。でもどうしたら？｣と訊くと、｢身体にライン
付くやろぉ。柔らかい生地の、服着んとなぁ。｣ 男と談話していると、スタ
ッフが寝間着（パジャマ）と洋服（衣装）を数着持って来た。昌江が｢これ着
るの？｣と訊くと、スタッフが「そうです。おウチに帰るまでは、こちらで用
意した衣服を着ていただきます。｣「はい。わかりました。｣｢他に何か？｣
「これからの予定は？」｢はい。お相手の方（タダシ）と御食事をなされると
聞いてます。｣｢えっ、今晩？｣「はい。」｢何時から？｣｢午後７時からです。
あと１時間後ですね。」「わかったわ。有難う。｣ 昌江は髪をアップに結
い、胸元が大きく開き、腰の括れからスリットの入った黒いドレスを纏い、
談笑しながらメイクをして貰い、連絡を待った。スタッフの携帯に連絡が入
った。昌江が指定されたラウンジの個室に入ると、タダシがテーブルの椅子
に座っていた。昌江が向かいの席に座ると、タダシは見つめながら｢魅力的で
綺麗だね。幸せなんだ。｣「うん。幸せだよ。タダシは？｣｢オレはダメだよ。
女房には愛想つかされ、借金で首回らねぇし、おまけに失業中。もう、不幸
のどん底だよ！｣｢そんな状況なのに、何で此処に居るの？｣｢うん。ここのプ
ロダクションの運営サイトを見てたら、急募があってさ、企画を考えて成功
したら、正社員になれて、報酬もタンマリって聞いて応募した訳。そした
ら、今回の企画が偶々通っちゃってさ、こういう状況になった訳。ホント、
会ってくれて有難う。｣｢チョット、待ってよ！ふざけないでよ！どうして、
私がタダシのお金の為に…。｣｢じゃあ、聞くけどさぁ、昌江は此処に何をし
に来たんだよ。｣｢それは…。｣｢お金の為だろ。違うかぁ？｣｢違うわ！お金の
為だけじゃない！｣｢じゃあ、何？｣｢それは…。｣ 二人を見かねたスタッフが
仲裁に入り、企画の開始から現在に至る経緯、お互いの心境変化等を訊きな
がら、話し合いをさせた。時間と共に和やかな雰囲気の二人になった。

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