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1:双子 Episode 2
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Blue Roses
会員制のテニスクラブ。日を追うごとに強まりつつある日差しが、レンガ色のクレーコートに降り注いでいる。白いラインがまぶしい。黄色いボールが乾いた音を立てて、コート上を行き交っている。
ずらりと並んだコートの一つに、ボールを追う麗子と美子の姿があった。同年代で、共に子供が小学校に通い始めた二人は、最近一緒に行動することが多い。このテニスクラブに二人で入会したのも最近のことだ。 「休憩しましょう」 美子が声をかけた。 二人はベンチに戻って、タオルで額や首筋の汗をぬぐった。二人ともテニスウェアを着て、キャップをかぶっている。麗子は長い髪を後ろに束ね、キャップの後ろから垂らしていた。まだ日に焼けていない両腕と両足が太陽に照らされて白く輝き、うっすらと赤みを帯びている。 「ねえねえ、高岡さん、見て見て」 「なあに?」 「向こうのコート」 「え?」 「あれ双子じゃない?」 麗子は美子が指さす方向に目をこらした。 双子だ。 不思議な光景だった。たがいの分身が、ボールを打ち合っていた。どちらが兄の健一で弟の直樹か、全く見分けがつかない。 「ほんと。あの子達だわ」 「フフ、面白い。どっちがどっちなの?」 美子が愉快そうに笑った。 「ほんとね」 「ねえ、声をかけてみましょうか?」 美子は、わざとらしく声をひそめて言った。 「ええ? いいわよ、そんな」 「何でよ? 面白いじゃない」 ためらう麗子をよそに、美子がフェンスを出て双子のいるテニスコートに向かって行った。声は聞こえないが、二人がプレーを中断し、美子のもとに歩み寄るのが見える。三人はしばらく何かを話していた。 ― もう、佐藤さん・・・連れてくる気かしら? ― 双子を嫌っている訳ではむろんない。ただ、不自然な気がした。 麗子の不安は的中し、美子は双子を引き連れて嬉しそうにコートに戻ってきた。 「こんにちわ」 双子は二人同時に麗子へ挨拶をした。 「こんにちわ。暑いわね。よく来るの?」 「ええ、僕らも最近入会したんですよ。ところで、父にピアノを教えていただけるそうですね」 「ええ、近々ね」 「家に来るんですか?」 「ええ、行くわよ」 「いいなあ、僕らも教えてもらおうかな」 「いいわよ。でも月謝はいただくわよ」 「ねえ、ダブルスしましょうよ」 美子が言った。 四人は男女のペアになってボールを打ち合った。麗子は兄の健一と組んだ。 試合は美子のチームが優勢だった。ショットを決めるたびに、美子と直樹が歩み寄り言葉を交わした。時折、二人の笑い声があがる。美子がさりげなく直樹の腕に触れた。 ― 佐藤さん、あんなに馴れ馴れしくして・・・変に思われないかしら ― 麗子がスマッシュを決めた。 「ナイスショット」 健一が背後から声をかけた。麗子が振り返ると、にっこりと微笑んで手を差し出した。汗で髪が濡れ、つやつやと輝いている。麗子はつられて笑顔を返し、その手にタッチをした。 ― やっぱりこの子、かっこいいわ・・・やだ・・・私まで・・・ ― たっぷりと汗をかいた四人は、ゲームを切り上げた。美子が豊かなバストを弾ませながら、直樹と並んで麗子達の元へ戻ってきた。四人は立ったまま、健一が買ってきた缶ジュースを飲んだ。麗子は額や胸元の汗をリストバンドで拭いながら、よく冷えたジュースを味わった。 その時だった。 麗子は視線を感じた。双子の視線。麗子は見られていた。 不思議な視線だ。レーザーのように強く、鋭い。それでいてギラギラしたものは感じられなかった。クールに物の形を走査するような視線だ。 麗子は、双子の目から発せられたその四本の視線が全身を這い回るのを感じていた。視線が当たった部分に軽い痛みを感じるような錯覚。顔を上げてジュースを飲みながら、ちらりと双子の方に目をやった。 ― やだわ・・・何見てるの・・・ ― 視線が麗子の体の上を移動する。缶のふちに当てられた赤い唇。液体が通過するたびに波打つ白い喉。汗に濡れたシャツが張りつき、うっすらと形が浮き出た乳房。スカートを押し上げているヒップ。充実した太もも。引き締まったふくらはぎ。 ― 見られてる・・・見られてるわ・・・何だかすごく恥ずかしい・・・ ― 麗子は激しい羞恥心を感じた。まるで視線によって着ているテニスウェアが透かされ、下着姿を見られているようだ。 時が止まった。缶の中にジュースはもう残っていなかったが、麗子は動けなかった。 ついに視線は、かろうじて肉体の一部を隠していた下着さえも透かし、麗子を全裸にした。思わずバストトップを片手で隠し、二人に背を向けた。 視線が消えた。 振り返ると、二人はもう麗子を見ていなかった。美子と三人で、微笑みながら喋っている。 「お二人とも、お上手ですね」 双子の一人が麗子に話しかけた。 「昔、少しやってたから・・・」 「僕らもサークルに入ってたんですよ」 「あら、そう? だからうまいのね」 しばらく四人は会話を続けたが、やがて双子は、「ピアノの件、本当にお願いするかもしれませんから」というセリフを残して去って行った。 「なんか、素直でいい子達よね。可愛いわ。フフ」 と、美子。 「もお、佐藤さん、誤解されるわよ」 「誤解して。なんてね。高岡さんだって妙にぎこちなくなかった?」 「やだ、変なこと言わないでよ」 麗子と美子もテニスコートを後にした。 ― さっきのは何だったのかしら。私がおかしいのね、きっと ― その夜。 湯気が立ち込める浴室に、美しい女の裸体が揺らめく。シャワーの音。麗子は、目を閉じ、長い髪を後ろに撫で付けながら、顔から乳房にかけてお湯が勢いよく当たるのにまかせていた。お湯の熱さが心地良い。 じっとしていると、昼間の光景が、フラッシュバックしてよみがえってくる。 ― あれは私のかん違い? いえ、そうじゃないわ。確かに見てたわ・・・二人で・・・私の事・・・私の・・・体を・・・ ― 双子の視線がまだ体に張り付いているようだ。やがてそれは、再び麗子の体の上を這い回り始めた。 ― だめよ・・・そんなに見たら・・・失礼でしょ・・・やめなさい・・・ ― 視線は二手に別れた。一つは体の前面を走り、もう一つは背中に回り込む。前方の視線は、乳房の形を確かめるように、その美しい二つの隆起の上を動き回り、後方の視線は、うなじから背骨にそって降って行き、形の良い柔らかなヒップをなめまわした。 麗子は、体をかばうように、右腕で乳首を隠し、左手を尻に当てた。視線はかまわず、麗子の腕や手の上を移動していく。 ― あなた達、この体が見たいの? 私を目の前で裸にしたいの? ― 乳房の上を動き回っていた視線は、次第に下へと下がり、滑らかな腹を下り、お湯が滝となって流れ込んでいる股間へと移動して行った。濡れそぼったヘアーが下に垂れ、先端からお湯が滴っている。麗子は視線に合わせて右手を動かし、そっと股間を覆った。視線が手の甲の上を何度も往復した。 ― ここだけはだめ・・・絶対にだめよ・・・ ― だが今度は、ヒップに張り付いていた視線が、尻の割れ目に沿って麗子の秘部へと侵入を図り始める。麗子は足を閉じ、きゅっと尻をすぼめた。 ― ああ・・・だめって言ってるでしょう・・・やめなさい・・・やめて・・・ - 右手の指が微かに動いた。指の先端が敏感な突起に触れた。 「うっ」 軽く腰を引き、左手を壁についた。 ― み、見てはだめ・・・私、結婚してるのよ・・・ ― 突起は、ずきずきするほど硬くなっている。指で軽く触れるたびに、内腿が震えた。子供を産んでから感じやすくなっていることを、麗子は自覚していた。 「いやだわ、この体・・・むっ・・・くっ・・・」 浴室のドアが開いた。幻想は突然中断した。 「はっ!」 夫の邦夫が立っていた。 「な、何!? 突然入ってきて!」 邦夫が笑った。 「ごめん、ごめん。久しぶりに一緒に入ろうよ」 「い、嫌よ。私、出るわ」 麗子は手で体を隠しながら、あわてて浴室を飛び出した。 「おいおい、今更そんなに恥ずかしがらなくても」 邦夫は戸惑いながら、開けっ放しになったドアを見つめた。 < To Be Continued >
2004/03/16 13:40:58(4ahHaQ6b)
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