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1:文房具屋1
投稿者:
柳腰
◆alyD/fGstU
小学校の頃、学校へ通う道の途中に小さな文房具屋があった。
そこは中年のおばさんが一人でやっていて、他に家族はいないようだった。 おばさんはいつも、縁なしの小さな眼鏡をかけて、頭の後ろで団子みたいに髪を丸めていた。 服は、毎日決まって、地味な色のブラウスとダボダボの長いスカート。足元は、派手な色の靴下にサンダルを履いていた。 冬はそれに、毛のカーディガンが加わる。 母の話だと、若い頃はどこかの金融機関の経理として働いていて、貯めた金で中古の家を買い、そこに店をひらいたのだという。 その話が本当なら、おばさんの歳はまだ40代のはずだが、実際はどう見ても50過ぎぐらいに見えた。 僕は、その店にはあまり寄ったことがなかった。 品揃えが悪く、欲しい物がなかったし、なによりも、感じの悪いあのおばさんが嫌いだった。 中学に上がって数ヶ月が経った頃、友達の家へ遊びにいった帰りに、久しぶりに文房具屋の前を通った。 -その日は定休日で、店にはシャッターが降りていた。 店の角を曲がって、脇の道に入ろうとした時、電信柱の裏に何か白いものが落ちているのが見えた。 拾い上げてみると、それは女物の下着だった。 レースの柄が入った白のショーツで、腰の部分が透けている。 上を見上げてみると、文房具屋の二階のもの干し場には、沢山の洗濯物がひるがえっていた。 それから・・なんであんな行動をとったのか、自分でもわからない。 未知のものへの興味なのか、異性への潜在的な憧れなのか・・ とにかく僕は、きょろきょろと辺りを見廻して、誰も見ていないのを確認すると、手に持った下着を素早くポケットの中に押し込んでいた。 その時ふいに、背後から低い声が聞こえた。 「それ、どうするの?」 ギョッとしてふりかえると、カーテンを引いたままの一階の窓が少し開いていて、そこからおばさんの顔が覗いていた。 僕が驚いて動けずにいると、おばさんは小声で何かこちらに喋りかけながら、手招きをしてくる。 その口の動きは、「こっちに来て。」と言っているように見えた。 仕方なしに店の正面へまわると、すぐにシャッターが半分だけ開いて、そこからおばさんの手が伸びてきた。 おばさんは、僕の手首をきつく掴んで店の中へ引き入れると、そのまま僕を、奥の座敷まで引っ張って行った。 「見たわよ。拾うところ。」 僕が何もできずにその場で立ち竦んでいると、おばさんは低く鋭い声で、そう追求してきた。 僕は諦めて、ポケットから下着を取り出してみせた。 「私のだって知ってたんでしょう?、どうするつもりだったの?」 おばさんは、さらにそう問い詰めてくる。 僕は答えに困った。まさか、本当の事を言うわけにはいかない。 俯いたまま、ただ黙って立っていると、暫くして溜め息が聞こえてきた。 おばさんの方を見ると、呆れたような表情で僕の事を見下ろしている。 「そう・・いいわ。素直に話さないなら、お母さんに報告するしかないわね。」 おばさんは、横目で僕を睨みつけながら冷たくそう告げた。 僕は必死になって謝って、なんとか許してもらおうとした。母に告げ口をされたら、もうおしまいだと思った。 僕が、何度も頭を下げながら「すいません。」「許して下さい。」と繰り返していると、突然頭のすぐ上でおばさんの大声が鳴り響いた。 「そんなこと訊いてないわ!」 びっくりしておばさんの顔を見ると、彼女はこめかみに血管の筋を浮かべながら、怒っている。 「その下着をどうするつもりだったのか、って訊いてるのよ。」 この時は、もう駄目だと思った。おばさんのことが完全に恐くなっていた。 僕は小さな声で、家に持ち帰ってオナニーに使うつもりだったと、答えた。 「変態・・」 吐き捨てるようなおばさんの声。 「信じられない。」 「汚いと思わない?」 おばさんの責めるような言葉に、僕は泣きたい気分になっていた。 だがおばさんは、すぐにはウチの母に連絡しようとはしなかった。 「いつから自慰をしてるの?」 「家族は知ってるの?」 さらにそう質問してくる。 僕は、つい最近布団の中で弄っていて、偶然初めての射精をした事や、それからは、いつもそのことで頭の中が一杯な事などを正直に話した。 それから、こんなことを話すのはおばさんが初めてだという事を、付け加えた。 すると、それを聞いたおばさんの態度が、やや和らいだ様に感じた。 それからは、さらに根掘り葉掘り、いろいろ訊かれた。 「見るだけで興奮するの?」 「どうやって使うつもりだったの?」 僕は、おばさんの機嫌を損ねては大変だと思って、素直に全部話した。 女の下着に触ったことがないので、匂いを嗅いだり、あそこに巻きつけたりして興奮したかった、とか、下着を穿いたまま何度も中へ射精してベトベトに濡らしてみたかった、とか・・ 僕が必死になって説明していると、それまで黙って聞いていたおばさんが、突然僕の話を遮った。 「でも、私みたいなおばさんのものでもよかったの?」 僕には、おばさんの心意がよくわからなかった。 もしあの時、もう少し年齢を重ねていたら、たぶんおばさんの変化に気づいていただろう。 眼鏡の奥で爛々と輝く瞳や、荒くなった息の音に。 僕が意味が解らずに、きょとんとしていると、おばさんはさらに訊ねてくる。 「もっと若くて綺麗な人のものでないと、興奮しないんじゃない?」 僕はつい、とても女らしい下着なので、それだけで興奮すると思う、と答えてしまっていた。 「へぇ~、それなら誰のものでもいいんだ・・男の子って便利なのね。」 そう言ったおばさんの表情が、とても険しくなったように見えた。すぐにでも受話器をとって、母に電話しそうなくらいに。 焦った僕は、誰のものでもいいわけではない、その人が身に付けているところを想像しながら抜くのだから。と、咄嗟に言い訳を言った。 事実ではなかった。 清楚な純白のショーツで、とてもおばさんのものとは思えない、というのが本音だった。 実際に使う時も、きっと誰か他の人の裸を想像しながら、しただろう。 なぜあんな事を言ったのかわからない。ただ、あの時は、そう言えばおばさんが喜ぶと思った。 おばさんはしばらくの間、黙って僕の顔を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。 「ほんと?」 その表情はさっきとは打って変わって、穏やかになっていた。 僕が黙って相槌を打つと、おばさんは、何か考えるようにして僕から視線をずらし、顔を横に向けた。 そして、そのまま黙ってしまった。 僕は、持っていた下着をおばさんに差し出した。 だが、おばさんはそれを受け取ろうとはせずに、思わぬ言葉を口にした。 「いいわよ。それ、あげても。」 (えっ!?)おもわず、声に出しそうになった。 何が起きたのか解らずに、ただ呆然と立ち尽くしていると、おばさんは勝手に話し続ける。 「ただ条件があるんだけど・・」 「次に来る時に、もう一度それを持ってきてくれない?、使い終わった状態で。」 帰る時には、もう一度文房具屋に来ることを約束させられていた。 本当は、もうあそこには行きたくなかったが、他に選択の余地はなかった。
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2013/03/10 17:16:39(/wsM5sMy)
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