世の中には“天然”と呼ばれる種類の女がいる。

本人にその気がなくても･････とういうやつだ。


劇団練習生の女子大生、田島佳代子は間違いなくそういう女だ。


失恋したといえば周りの男、女問わずに相談する。

とくに男性に対してはじっくり相談する。

自分が落ち込めば時間を問わずに電話をするし、
まぁ飯でも･･･と食事に行けば
潤んだ瞳で相手をじっと見つめる。

俺にしたってそうだ。
劇団の事務方をやってる俺にも、ここだけの話・・・と
恋愛のこと、芝居のこと、たわいのない話まで。

よく話すようになって1月、まさに彼女は心に踏み込んできた。

近くに来ました、御礼です。
･･･と手作りのお菓子なんかを差し入れしたりする。

かといって付き合ってくださいというオーラも出してこない。
きけば劇団連中はみな同じような手の相談を受けていたらしい。

そして中には思いを伝えたはいいが
そこはしっかり断られるそうな。

「前の彼が忘れられなくて･･･」

ま・結局のところみんな振り回されているわけだ。


なーんだ、そうなのか･･･と思えばなんてことはなくなるのだろうが
これまで費やした時間と出費は彼女にとっては
いい腰掛だったと思うと複雑な思いでもある。

だがそうもしながら同性の先輩たちにも嫌われたりしないのは
やっぱり天性の“かわいがられるオーラ”を
かもし出しているんだろう。

ただ、その渡り歩きを“いつか痛い目に合うんじゃないの？”
･･･と揶揄し始めたころ、
しばらく連絡のなかった彼女から電話がなった。

いつものようにたわいもない話だったし、
そのときはどうこうしようとも思っていなかった。

あいかわらず“前彼を引きずってます”を標榜しつつ、
新しいいい人いないですかね？･･と聞いても来る。

思わせぶりなしぐさで男を振り回す天然ちゃんトークに割り切れば
なんということはなくなっていた。


さて、世は年末の飲み会シーズン。


金もない劇団員たちは互いに気兼ねなくあちらこちらで飲み食いできるでも
なく、ここ数日は一人暮らしの連中の家を順番に
鍋パーティーに、食事会やお題目はともかく
飲み会を頻繁にしていた。


普段は仲間内をあまり上げない我が家でも
一度いってみたい!と皆が盛り上がり始めたのはいいが

交通の便がよろしくない位置にあると知るや

参加人数はまばらになり３，４人にまで一気に減ってしまった。

俺にとっては都合がよかったし、
望むなら週末は静かに過ごしたかったので中止になればとも思っていた。

案の定、当日に一人が風邪、一人が急なバイト･･･。

残った2人は言いだしっぺの佳代子とバイトの後に伺います!･･と言っていた
若手だけになってしまった。

佳代子は当日、申し訳なさそうにちょっとした手料理と
お酒を持ってきて、バイトで遅れてくる子を一緒に待って遊びましょう!
････とやってきた。

たわいもない話や最近借りていた洋画の新作なんかで
時間は過ぎていった。

2時間もしないころだろうか･･･映画もクライマックスにさしかかったころ、
バイトの後輩から「今日やっぱり中止ですよね?自分バイトで疲れちゃっ
て･･･｣･･･とメールが。

その刹那、よからぬ妄想が駆け巡った。

これまでの駄賃代わりに･･･

「かまわないよ！また今度な!」
そう返信する。

台所に立ち寄り差し入れにもらったワイン･･･。

画面に夢中な佳代子の目を盗み
粉状になった睡眠薬を一包、二包･･･。

実家の親父が数年来の不眠症でもらってるやつを
失敬してきたもの。。。

筋金入りの不眠症の親父を眠らせる薬だ。

睡眠薬という響きによこしまな思いがなかったわけではないが
まさかこんなことに、こんな機会にめぐり合い、
実行してしまうとは思っていなかった。

１６５cm前後の長身。
決して足が細いわけではないが肉付きのよさそうな肢体。
ちょっと厚めの唇。
くびれたウエストに、白い肌。

そして匂いたつ若い女の香り。
すっかり欲望にとらわれた俺に迷う理由はなかった。