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1:サイボーグ男1
投稿者:
ハル
私の頭の中にはいつも白いモヤがかかっているようだった。
私はその日も公園のベンチに座り、流れる景色を目に映しながら平日の日中を過ごす・・・。 11月も半ばになると、日中もずいぶん寒くなってきた。 「・・半袖Tシャツでは少し肌寒くなったな・・・。」 私は足早に通り過ぎるサラリーマンがコートを着込み、よそ行きのメイクをしたオフィスレディが暖かそうなマフラーを首に巻いているのを見ながら自分の格好の季節感のなさに少し可笑しくなった。 『・・・まぁでも、歩いている女子高生達はマフラーやコートを着ていても、あんなに短いスカートで季節感のない格好をしているじゃないか・・・私の格好とそんなに大差ない・・・・。』 私は、正当化している自分が可笑しくなり、含み笑いを浮かべていた。 「・・・みんな・・幸せそうな顔しているな。・・いい事だ。不幸なのは私一人でいい。・・・みんなの不幸を私が一人で背負ってやっているんだ・・・、私のおかげでみんな幸せなんだよ。」 公園のベンチで一人、呟く。周りには私を避けるかのように誰もいない。 《ピーピーピーッ・カチャカチャ、カチャンッ》 私の頭の中で機械音が響く。 『・・・頭の中のサイボーグがまた暴れ始めた・・・。』 私の頭に入り込んだサイボーグが時々、暴れて私を苦しめる。 私は頭を抱えて〝ウウゥゥゥ・・・〟と低く唸り、激しい苛立ちに襲われる。 「くそっ!どいつもこいつも俺に感謝の言葉すらかけややしねぇ、俺一人、みんなの為にこんなに苦しんでいるのに!」 私はみんなにもっと感謝され、尊敬されてもいいはずの人間だった、そんな思いがサイボーグを暴れさせ、私を苛立たせる。 私はポケットから〝魔法の粉〟を取り出し、鼻から一気に吸引する。 この〝魔法の粉〟は、サイボーグを落ち着かせ、私に清々しいほどの爽快感と、大胆な行動力を与えてくれるかけがえのないモノだ。 私はどこを見るともなく、流れる景色を目に映しながら薄笑いを浮かべていた。 『・・・いい日だ・・・やっぱり今日は、みんなの為に苦しんでいる私にご褒美をもらう日にしよう・・・。私の思い続けていた希望をかなえるくらい、・・・・当然の権利だからな・・・。』 心に決めた私は、ふらりと立ち上がり、駅の方に向かって歩いて行った。 私へのご褒美はすでに決まっていた。 『・・・若くて可愛い・・・いや、美人な娘にしようか・・・真面目な子か、それとも今時の子がいいか・・・大人しい子・・いや、元気な子も楽しいかもしれない・・・。』 私は駅前広場に立ち、帰宅途中の賑やかで華やかな女子高生たちを物色する。 『・・あの子、結構可愛いな・・・あっちの子もイイ・・・今日は妥協はしないぞ、せっかくのご褒美だからな・・・どの子にしようかな。』 私は〝この子〟と、思える子を、何分、何時間でもその場で探し続けるつもりだった。 そんな私の目に映った、一人の女子高生。 駅から一人で出て来たその女子高生は、携帯電話の画面を見ながら歩いている。その子は自分を世間から隔離し、携帯電話の世界だけに没頭していた。 大きな瞳が携帯電話の画面を見つめている。 『・・・目が大きく見えるのは化粧のせいか?いや、化粧だけであれほど可愛くはならないだろう・・。』 細く山なりになった眉毛と、スジの通った小さく高い鼻。ピンク色のあどけなさを感じさせる薄い唇と小さなお口、そして美少女と感じさせる、肌の白さと綺麗な栗色に染まった長い髪。 容姿はアイドル顔負けの可愛さで、周囲の女子高生を抜き出ている。 細身の肢体、高校の制服、タータンチェックの短いスカートから伸びる脚は細すぎない程度に細く、脹脛を隠す膝まで伸びる紺色のソックスが、女子高生の若々しい色気をかもし出していた。 『・・・あの子だ・・・間違いない・・・あの子が私のご褒美だ。』 私はヨロヨロと、その子の後に付いて行った。 携帯電話の画面に夢中のその子は、背後に近寄る私に気が付かない。 『・・・綺麗な髪だ・・・細い体もイイ・・・制服がよく似合って可愛い・・・小さなお尻だな・・・』 私はその子の後姿をジッと見つめて、距離をつめて行った。 「お嬢ちゃん。」 私はその子の背後から声をかける。 その子は立ち止まり、振り向いて私を上目遣いで見上げた。 『ああ、やっぱり可愛い・・・この子に間違いない。』 私はその子の顔を見つめながら、そう心に決めた。 「・・?・・」 その子の大きな瞳は不思議そうに私を一点凝視で見ている。 「・・・お嬢ちゃん、可愛いねぇ・・・学校でもモテるだろう・・。」 私は頭の中の妄想を隠す事もしない顔で、その見ず知らずの女子高生に話しかけた。 「・・・・・・なんですか?」 女子高生の顔が怪訝な表情になる、可愛い子はどんな表情になっても可愛らしい。 「・・・君に決めたよ、私へのご褒美・・・・気持ちいい事してよ。」 私はその女子高生に、私に選ばれた名誉を伝えた。 私の言葉を一瞬理解できなかったような表情をした後、何か気が付いたように〝ピクッ〟と反応した。 「はあっ!?何、言ってんのっ!キモッ!!!」 怪訝な表情だった女子高生が顔を引き攣らせ、眉をしかめて後ずさりしながら、私に罵声を浴びせてくる。 「おっさん、何考えてんのよっ!!あっち行ってよっ!大声出すよっ!!」 私に対する暴言めいた言葉も、その子の声の可愛さに、ウットリしながら私は二ヤァっと大きく口を開けて笑った。 「・・・何、このおっさんッ!アタマおかしいんじゃないのッ・・・」 私のご褒美の女子高生は、そう言って私から逃げようとした。 私は逃げようとするご褒美の女子高生の手首を掴み、グッと引き寄せる。 「キャアァァッッ!!」 甲高い悲鳴が、人が行きかう駅前広場に響いた。 世間の目など私には関係ない。これはみんなの為に苦しんでやっている私へのご褒美だから。みんな、私に協力するはずである。 「離してッ、離してッ!イヤダッ、誰か――ッ!!!」 ご褒美の女子高生が人前で照れているのか、私の手を振り払おうと、か弱き力で暴れている。 「・・・可愛いねぇ・・・オッパイは小っちゃそうだけど、揉む位はあるのかな?」 私はこれからこのご褒美の女子高生をどんな風に頂くかを想像していると、私の腕を誰かが掴んだ。 「オッサンッ!昼真っからナニ盛ってんだっ!!」 若い男の声に振り向くと、そこには見た事のない男子学生が2人、生意気な形相で立っていた。 「・・・なんだ・・・お前ら・・・向こう行ってろ・・・」 私は鬱陶しく思いながら必要ない男子学生にそう言った。 「おいコラッ、ジジイ!大胆なナンパしてんじゃねぇぞッ!人前で恥さらしてぇのか?ジジイが女子高生ナンパすんのじゃねぇよっ!!年相応のババアに相手してもらえやっ!!!」 頭の悪そうな風貌をした男子学生が、私に対して分不相応な物言いをしてくる。 《ピー、ピー、ピー、ガチャガチャピキーン・・・カチャカチャ》 頭の中のサイボーグが暴れ始めた。 頭の中の機械音がいつもより大きく鳴り響き、鼓膜が破け、頭が弾け飛びそうな激痛に襲われ、私は〝ウオオォォォ―ッ〟と、叫び声をあげてその場に座り込んだ。 男子学生が私を見下ろし何か叫んでいる、どうやら罵声のようだ。 男子学生の蹴りが私の脇腹にめり込む痛みを感じた。 私は男子学生2人に踏みつけ、蹴られながら、「ザマミロッ!この変態ジジイッ!!」という、ご褒美の女子高生の声を聞いた。 『・・・ご褒美の分際で、俺のことを変態ジジイ呼ばわりするとは・・・』 私は怒りを感じながら、頭のサイボーグが静かになるのを待った。 私は地べたで亀のようになり頭の激痛に耐えながら、横目で去っていくご褒美の女子高生と、その私のご褒美の女子高生の後を追いかける男子学生2人を見ていた。 『・・・なんで体中が痛いんだ・・・・そういえば・・・男子学生が私を蹴っていたっけ・・・だからか。』 私はポケットに入っている〝魔法の粉〟を吸引した。 大きな深呼吸をして体中に酸素を染み渡らせる、突き抜けるような爽快感とキーンと冷たく静かになった頭の中のサイボーグ。 私の中に絶対の自信と沸々と沸いてくる怒りに似た感情。 私はゆっくりと立ち上がり、首を回してゴキゴキ鳴らしながら、ご褒美の女子高生の後を追った。
2004/12/28 13:19:53(i8.MmQ9D)
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