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1:(無題)
投稿者:
無我
1
美保は、大きく溜息をついた。 今日、社長をはじめ、事務所のみんなが自分の誕生日を祝ってくれた。 楽しかったはずの誕生会。 しかし、美保のこころには どこかやり切れなさがあった。 学生時代にスカウトされ、中堅芸能プロダクションに在籍したものの これといった大きな仕事もなく、いたずらに時だけが過ぎた。 今日の誕生日で23歳・・ 一般社会でいえば、まだまだ十分に若い。 しかし、生存競争の激しいこの世界では、 次々と10代の美女たちが現れる。 さっき祝ってくれた後輩たちも、まばゆいばかりの美貌の持ち主だ。 このままこの仕事を続けてよいものか・・・ 美保は自室のベットの上で、もうひとつ溜息をついた。 2 「美保ちゃん!ちょっといいかな!」 事務所のソファーに腰掛けていた美保に、社長が声をかけた。 マネージャーでなく、社長が直々に呼び出すことは異例の事だ。 社長室に通された美保の眼に、一人の男が映った。 「まあ座って。紹介するよ、こちら○○制作会社の渡辺さん。」 美保と渡辺は、型通りの挨拶を交わした。 「誕生日のプレゼントってわけじゃないんだが、 ナベさん担当の二時間ドラマにね、美保ちゃんを推そうと思うんだ。」 「えっ!本当ですか?」 待ちに待ったドラマの仕事。美保の目が輝いた。 「それでね、細かいことはナベさんから聞いてほしいんだが、 キミの役どころは、主役である刑事の妹。 そして、その刑事に恨みを持つ連中にレイプされる・・・」 レイプ・・・その言葉に美保の表情が曇った。 その表情を見取ってか、渡辺が笑顔でフォローした。 「いやあ、ご心配なく。レイプシーンといっても、 多少服を破く程度です。我々が重点を置いているのは、 その後の兄妹の心の葛藤ですから・・・」 「そういう訳で、今回の仕事については美保ちゃん本人の 確認をとってからと思ってね。」 美保は、暫しうつむいていた。 「返事は今すぐじゃなくていい。一晩考えてからでいいよ・・」 3 夕べは殆ど寝付けなかった。 熟慮の末、今回の大役を引き受けることにした美保は、 移動中のロケバスの中にいた。 今日は撮影二日目。いよいよ「そのシーン」の撮影だ。 撮影現場は、郊外の住宅地。あたりは外灯もまばらだ。 美保は、更衣室として用意された一軒家の一室に入った。 露出を極力抑えるため、美保はパンツの衣装にするよう マネージャーを通して願い出ていた。 しかし、美保のためにそこに用意されていた衣装は タイトスカートのスーツであった。 美保は部屋を出て、マネージャーを探した。 するとそこには、米つきバッタのごとく、スタッフたちに 頭を下げて回るマネージャーの姿があった。 周りの人たちは、殺気だった雰囲気の中で撮影準備に追われている。 とても衣装を代えろなどと言える雰囲気ではない。 美保は部屋に戻ると、覚悟を決め、そのスーツを取った。 瞬く間に清楚なOLが完成した。 スカートは思ったよりも短い。 美保は不安に押しつぶされそうだった。 いよいよ撮影が始まる。 「じゃあ、美保君は向こうから歩いてくる。 そしてこのあたりで突然車内から男二人が出てきて 車内に引きずり込む。いいね!」 監督から最終的な指示があった。 美保は、男優二人の顔を見やった。 決して美男子とは言えぬ者たち・・・ 今チラリと自分の脚を見たような気がした。 美保は、通りの端にスタンバイした。 監督の声がかかり、いよいよカメラが回った。 泣き出したい感情を押し殺し、美保は歩き始めた。 夜風がストッキング越しに下半身に冷たく刺さる。 もうすぐ問題の場所だ。 突然、からだが動かなくなった。 演技などではない。美保は腹の底から叫んだ。 宙に浮いたかと思うと、あっという間にワゴン車の後部に寝かされた。 照明とカメラが後を追う。 美保は、スカートの裾がめくれ上がったのを察知し、 手を伸ばしたが、その手は男に阻まれた。 男は密着し、美保の首筋に口をあてた。 はやく・・はやくカットの声をかけて・・・ 美保が泣き叫びながら、念じた。 そのとき、ブラウスが引き裂かれた。 美保は嗚咽した。 淡色のブラジャーが露出したとき、ようやくカットの声がした。 一人残った車内で、美保はタオルを上半身に纏いながら泣き崩れた。 からだの震えが止まらない。 レイプとは、こんなにもこころとからだを蝕むものなのか? 片方のみ脱げ落ちたヒールを拾おうともせず、 美保はひとり泣き続けた。 4 「いやあ、お疲れ様だったね・・・」 監督が、美保の元にやってきた。 美保は深々と頭を下げ、今回の礼を述べた。 10日に渡る撮影は無事完了し、打ち上げの宴がささやかに催された。 シックなスーツに身を包んだ美保は、スタッフたちに感謝を言って回った。「あのシーン」は本当に怖かった。 そして、オンエアされる際は、どの程度露出されてしまうのか? 不安は尽きないが、まずは夢に向かって第一歩を踏み出せたことは 大きな収穫だった。 5 「すっかり遅くなったね・・・」 マネージャーの運転する車の助手席で、美保はまどろみ始めていた。 無理もない。極度の緊張からようやく解放されたのだ。 車は脇道に入り、郊外へ差し掛かった。 「危ない!」 マネージャーの突然の声と急ブレーキに、美保は飛び起きた。 どうやら、交差点で別の車が飛び出してきたようだ。 なんとか接触は避けられたものの、本当にギリギリだった。 マネージャーは血相を変え、車外に飛び出した。 すると相手の車からも、二人の男が降りてきた。 決してガラの良くないその二人は、マネジャーの胸ぐらを掴んでいる。 美保は、車内から怯えながら成り行きを見守った。 こっちが優先だ、黙れ・・・いわゆる小競り合いが続く。 すると相手の車から、さらに二人の男が出てきた。 マネージャーは、4人に取り囲まれた。 そして、4人の体でマネージャーが見えなくなったかと思うと そこには路上で腹を押さえ、苦悶にあえぐマネージャーがいた。 美保は、驚愕に口を覆った。 男たちは、ニヤニヤしながら、マネージャーを見下ろしている。 すると、一人が自分の方を指差している。 美保は凍りついた。 4人の目が、美保を捕らえた。 一人が、キーが開いている運転席側から車内に乗り込んできた。 「いやあ、きれいなお嬢ちゃんだな! たっぷりかわいがってやるからな・・・」 顔を引きつらせる美保を尻目に、その男は全部のドアのロックを 解除した。 すると助手席側から別の男が侵入し、一気に美保を外へ引きずり出した。 美保の叫びが、夜空に轟く。 恐怖に打ち震えたレイプシーンの撮影・・・ いま現実のものとなって、美保にふりかかった。 3人に担ぎ上げられた美保は、そのまま男たちの車に入れられた。 そして、急発進したその車は夜の闇を疾走した。 決してカットの声がかかることのないレイプ劇が、今幕を開けた。 続
2004/06/25 11:01:02(e6UAaNYJ)
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