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1:天使の物語・・・・・4
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少女好き
桜の花の咲くころ・・・
友美との関係は、まだ続いている。 俺は、友美の心が欲しいのか、それとも身体が忘れられないのか、もう 分からなくなっていた。 銀色の月が空に輝く夜。俺は自分の部屋で友美を抱いていた。 「夜になると、さすがに寒いな・・・」 俺は、ベットの中で一緒に寝ている友美の髪をそっと撫でながらつぶやいた。 「わたしが、温めてあげる・・・」 友美はそう言って俺に身体を、すり寄せて来た。 伝わってくる温かな友美のぬくもり。 いつもなら、俺が満足すると人形のような表情をしながら黙って出て行くのに、今夜の友美はまるでそれが当たり前のように、俺の傍からは離れなかった。 「一緒に・・・・・居てくれるのか・・・・・?」 「お月様がキレイだから、今日だけは特別・・・」 俺の心の内の全てを見透かしているような表情に何も言えず、ただ黙って友美の瞳を見つめていた。 「お兄ちゃん・・・・」 永く続く静寂を途切れさせるように友美が言った。 「わたし達、別々に生まれて来れば良かったのにね・・・・」 その言葉の意味を理解できず困惑していると、友美が静かに言葉を続けた。 「大好きだよ・・・・お兄ちゃん」 一瞬、俺は自分の耳を疑った。しかし、俺を見つめる瞳には疑いようのない深く澄んだ想いが込められている。 「俺っ・・・お前に酷いことしてるのに・・・何で、そんなこと・・・?」 俺は、懇親の勇気をふりしぼり、震える声で言葉を紡いだ。 「ホントに酷いよねっ・・・・・それに、妹の部屋から下着、持ってちゃうなんて、普通はしないよっ」 少し、口を尖らせて俺を責める友美。しかし、その表情には深い慈愛に満ちた優しさがあった。 「ゴメン、友美・・・・・本当にゴメンなっ・・・」 母親に叱られた子供のように、俺は何度も繰り返した。 「ウンッ・・・・もう許してあげる」 友美は、そう言うと少し困ったような顔をして小さく笑った。 蒼く、月灯りに浮かびあがる。その笑顔が、みるみるうちに滲んで行く。 「あっ・・・・お兄ちゃん、泣いてる。」 からかう様に言った声も少しふるえている。友美も泣いてくれたのだろうか? 『今なら戻れる。あの頃のように、また笑い合える・・・・・だから、もうこんなことは終わりにしよう』 俺は、やっと取り戻した、かけがえの無い妹の笑顔に誓った。 青い空、舞い踊る桜色の花びら。 全てが暖かい風に包まれて輝きだそうとしている季節。 友美が死んだ・・・・ 妹が死んだ・・・・ 今日、友美が小さな木の箱に入って家に帰ってきた。 俺は、そこから取り出した白く小さな友美の欠片を、そっと握りしめると 小さく話しかけた。 「ずっと、一緒に居ような・・・・」 遠くから、すすり泣く母親の声が聞こえてくる。 「あの娘に限って、そんなことは・・・きっと誰かに乱暴されてっ・・・」 その言葉が重く俺の心に圧し掛かってくる。 友美は、妊娠していた・・・・・・俺の子供だ。 アイツは、俺の犯した罪を全部胸の奥にしまいこんで、たった一人で逝ってしまったのか・・・・。 どうしてなんだ・・・ 何で俺のこと、もっと憎んでくれなかったんだ。 俺、泣いて嫌がる、オマエのこと拳で殴って無理やりしたんだぞ 誰にも言わないのをいいことに、ずっとオマエのこと玩具にしてたんだぞ ・・・・・たった一人の妹だったのに。 友美と過ごした最後の夜。 「明日、お兄ちゃんにプレゼントあげる」 そう言って、部屋から出て行くときに見せた、少し寂しそうな表情。 それが、俺が見た友美の最後の姿だった。 今、俺の目の前には、水色のペーパーバックがある。 友美がくれた、最後のプレゼントだ。 中に入っていたのは、アイツが夢中になって編んでいた、手編みのマフラー 丁寧に編みこまれたイニシャルは、紛れも無く俺のモノだ。 『何を想って、アイツはこのマフラーを編み上げたのだろうか・・・』 これが出来上がるまでに、俺が友美にした事を考えると、心が壊れそうになる。 俺は、一緒に入っていた。三ヶ月遅れのクリスマスカードを開くと、 残されたメッセージを読んだ。 《 ずいぶん、遅くなったけどメリークリスマス。 あのね、お兄ちゃん・・・・ 私、お兄ちゃんの事、どうしても嫌いになれなかった。 それどころか、このまま、お兄ちゃんと結婚できたら良いなぁって思っ たけど。やっぱり、無理だよね・・・・ お母さん達、泣いちゃうよね・・・・ きっと、私が居たから。お兄ちゃんのこと好きになったから、こんな事 になったんだ。 だから、遠くに行くね・・・・ 最後に、お兄ちゃんの優しい顔が見れらて良かった。 バイバイ、お兄ちゃん・・・・大好きだよ 》 これが、友美の遺書だった。 友美は最後に、俺を好きだといってくれた。 独りで勝手に思い込んで、友美が誰かに盗られるのがイヤで、あんな 酷いことしていたのに 俺のこと、ずっと想っていてくれたのに、その気持ちに気づこうともしない で傷つけてばかりいたのに。 それでも、オマエは最後に俺の事を好きだと言ってくれたんだな・・・・・ 『俺も、好きだったぞ。友美のこと、ずっと好きだったんだぞ・・・』 何度も、何度も同じ言葉を繰り返すと、声をあげることも、涙を流す ことさえも出来ずに俺は泣いた。 風に流される雲が、青い空を駆けていく。 友美はこの場所で最後に何を想いながらあの空を見ていたのだろうか。 同じように空を目指して全身に風を感じれば、友美の痛みを教えて貰える だろうか。 意識が白く霞んでいくような感覚のなかで、足を踏み出してフェンスに手を架けた瞬間、もうどこにも居ないはずの友美の声が、たしかに聞こえた。 「お兄ちゃん、ヤメテッ」 とっさに、我に返ると、足元に広がる目も眩むような高さの景色に思わずしゃがみ込んでしまった。 深く息を吸い込み、心臓が激しく鼓動しているのを確かめると、低くなった眼線に飛び込んできた屋上の風景に、忘れていた記憶が鮮やかに甦って来る。 友美が飛び降りた、この場所。そこは、もう何年も前に二人で追いかけっこをして、よく遊んだ場所だった。 その時に、幼かった妹が眩しいくらいの笑顔で言っていた無邪気な言葉を思い出した・・・・・ 『友美ねっ、おにーちゃんのお嫁さんになるのぉ』 すでに立ち上がる力も、眼を開ける勇気さえも失ってしまった俺は、うつむいたまま唇を噛み締めると肩をふるわせた。 どんなに、こらえても涙が溢れ出してくる。 それは、いつしか嗚咽になると、俺は声をあげて子供のように泣いた。 今、顔を上げることが出来たなら。 友美が優しく微笑みながら目の前に立っていて きっと、その背中には白く大きな翼が見える・・・・ そんな気がした。
2003/11/29 00:32:56(6WurC57/)
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