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1:熟年愛
投稿者:
タケイチ
私は、電気工事関係の仕事をしています。この会社に勤めて35年、気がつけば53歳にもなってしまいました。
30代の頃に一度結婚はしましたが、たった8ヶ月で終わった夫婦生活。女性のいない生活を忘れさせてくれるのは、やはり仕事でした。 その日、私は自分の担当外の客先に足を運んでいました。ここの担当者である先輩が『悪いっ!打合せだけでも頼むわ。』と頭を下げて来たからです。 駐車場に入ると、天井の高い工場が見え、大型トレーラーから小型の乗用車まで、いろんな車が並んでいます。ここは、自動車整備工場なのです。その隣に見える、小さな事務所へと足を運びました。 事務所のドアを開けると、中は窮屈そうに机が並び、机の上には書類が山のように重ねられていました。『少し片付けろよ。』とも言いたくなります。 事務所の中には、男性3人女性3人の計6人の方が仕事をされていました。女性3人は事務員のようで、やはり私の目は1番若い方へと向かってしまいます。 しかし、みなさん忙しそうで、突然訪れた私には中々気がついてはもらえません。そして、ようやく応対してくれたのは、残念ながら年配のおばさんでした。 『今度の照明の工事の件で参らせてもらったのですがぁ。』と告げると、『担当者を呼んで参ります。』と、この女性は工事内へと走ります。 背の低い、少しアゴが出たただのおばさん。しかし、私はその彼女に興味を持ったのです。私が興味をもったのは、彼女の胸。 その胸に刺繍をされた『山下』という文字に、私は興味を持ったのです。 担当者との打合せも終わり、私は2階の会議室から1階の事務所へと降りて来ます。 担当者が私を見送ろうとしているので、事務所内の従業員の方からも、『ありがとうごさいました。』と次々と挨拶の声が飛んでいます。 そんな中、私は担当者に『ちょっといいですか?』と声を掛け、『あのぉ~。』とさっきの事務員のおばさんに声を掛けるのです。 『あの~。間違ってたらすいません。南部小学校出られていますか?』 『南部ですけど…。』 『山下って、本名ですか?』 『本名ですが…。』 『僕、わかります?佐藤です。僕と同級生と違いますか?』 『佐藤くんっ~!?タック~?』 何十年ぶりに『タック』と呼ばれました。そのアダ名を知っているということは、この女性は小学生の時に同級生だった『山下典子』以外の考えられません。 『タックなん?ひさしぶりやねぇ~。元気にしてるのぉ~?』、この二人の会話に、黙々と仕事をしていた事務所が一瞬和みます。 みなさん、その辺は分かってくれているようです。それでも仕事仲間に気を使った彼女は、事務所の外へと私を連れ出すのです。 担当者も『知り合いなら。』と、私を彼女に任せて作業場へと戻ります。彼女は事務所から死角になる場所で、私の足を停めさせました。 『ひさしぶりやねぇ~。ずっとその仕事してるの?』 『高校卒業して、ずっとこれ。』 『すごいねぇ。元気にしてるんやぁ~。』 『山下、あれ?結婚は~?』 『私、バツ1なんよぉ~。』 『俺とおんなじかぁ~。子供は~?』 『二人いるわぁ~。25と23かなぁ?タックは~?』 『俺、子供いないわ。すぐ別れたから。』 『そうかぁ~。けど、タック変わらんなぁ~。そのまま大きくなった感じやねぇ~。』 『まさかぁ~。老けたわぁ~。ここ数年でガタッと来たわ。』 『わかるわかる~。私も年感じるわぁ~。けど、よく私やって分かったねぇ?』 そう質問して来た彼女だったが、正直あの特徴的なアゴがなければ私は気がつかなったと思う。『アゴの山下。』と、みんな彼女をそう呼んでいたのですから。 それにしても、女性は変わります。と言っても、私の中の山下の記憶など、小学生の彼女なのです。アゴ以外なら、『背は小さくて、細い。』その程度の記憶。 それは今でも守っているようですが、ちゃんと出るところは出ていて、しっかり女性の身体をしています。昔から老け顔だったので、あまり気にもなりません。 『小学生の同級生のだった山下典子が、40年経てばきっとこんなおばさん。』、そんなイメージ通りの姿がここにありました。
2018/11/19 10:43:55(V7yLSNPT)
投稿者:
タケイチ
日曜日の夕方なのに、そのファミレスは空席が目立っていました。夕食の時間には、もう少しだけ早いようです。
私は一番奥の席に座り、山下を待ちます。15分遅れて彼女が到着をします。僕は手を挙げて、彼女に知らせるのです。 席についた彼女は、『どうしたのよぉ~?彼氏の話~?』とやはり、そう聞いて来ます。電話である程度は飲み込めたようです。 『山下~?ちょっと聞いていいか~?』 『なによ~?』 『答えたくなかったら、いいから。お前さぁ、お前と三島くんが付き合ってるの、会社のみんなは知ってるんか?』 『たぶん、知らない。もしかしたら、知っている人もいるかもわからないけど。』 『どうして言わんの~?お前の彼氏だろがぁ~。』 『年、離れてるし…。彼、まだ一年目やし…。』 と、確かに言いづらいことはあるでしょう。 『ところで、お前、あいつに二股に掛けられてないか~?』と聞くと、『なないと思うよ…。』と答えました。 この一言で、ほとんど彼女には伝わったようにも思えますが、その後の言葉は私からは出ませんでした。 『彼女、やっばりいるん~…。?』 『悪い…。どうしても確認だけしたくて。悪い…。』 『いるわなぁ~。あんな子やもんなぁ~。』 『それで、伝えに来てくれたん?』 『悪い…。山下が、辛い目にあったらいかんと思って…。知ってたんか?』 『ちょっとはねぇ~…。アホちゃうし…。』 『悪い…。』 『メールでよかったんよ。』 『会って、直接言った方がいいと思ったから…。』 しかし、彼女は 『会って目の前で言われたら、もう信じるしかないやろ~。メールやったら、『嘘っ!』って思えるやろ…。』と悲しげに言うのです。 その日、私は間違いを犯していました。彼女を思うあまり、先走った行動をしてしまったのです。 彼氏に彼女がいようと付き合うのは、山下の自由。『彼女を助けよう。』などと正義を語り、私ははき違えた行動をしてしまったのでした。
18/11/19 13:48
(V7yLSNPT)
投稿者:
タケイチ
『タックさぁ~、いまどこぉ~?』、山下から電話があったのは、午後9時前でした。
もちろん私は家にいて、掛かってくるはずもない彼女の電話を待っていたのです。 『家~。』 『よかったぁ~。ちょっと迎えに来てくれん~?』 『どうしたぁ~。』 『故障~。』 『はあ?そこで治せばええやん。』 『重傷ぉ~。』 確かにこの時間です。整備員の方も帰ってしまっているかも知れません。『なら、待っとけ!』と電話を切った私も、どこか嬉しく迎えに行くのです。 彼女の会社に着きました。事務所の電気は消えていて、整備工場の電気が僅かについています。 そこに、山下を発見しました。しかし、その隣には三島くんが座っています。『身の危険』すら感じます。私は呼び出されたのです。 『おいっ!おっさん、お前か?典子にいらんでええこと言ったんは?』 『僕やけど…。』 『なんでそんなこと言うんや!お前、俺と典子の関係壊したいんかっ!』 『あのさぁ?キミ、彼女おるやろ?』 『おるよ?だから、なんやっ~!』 『それ、おかしいよぉ~。山下と付き合うんなら、向こうの女性と別れなよ。どっちも可哀想やろ~?』 『おっさんには関係ないでだろうがぁ~!俺はどっちも愛しとんやぁ~!ほっとけっ!』 とかなりのご立腹のようです。そして、僕は山下に言葉を掛けます。 『山下さぁ~、お前それてええんか?お前がええんなら、僕のしたことは謝るから…。』と聞いてみます。『それでもいいっ!』きっと彼女はそう答えます。 しかし、『別れるよ?彼女いるなら、この子とは別れるよっ!』と彼女は言うのです。 それを聞いた、三島くんの目が変わりました。彼も彼女がそんなことを言うとは思ってなかったのです。『典子~?何言うんやぁ!?』と聞いています。 そして、彼女は言います。『あなたと別れるつもりだったから、この人に迎えに来てもらったの~。私、別れるわぁ~!』と彼に告げたのです。 僕も知りませんでした。完全に、この二人に呼び出されたものだと思っていました。 しかし、彼女は電話で『迎えに来てくれん~?』、『故障~。』、『重傷ぉ~。』としか言っていません。 彼女の電話で私に伝えたこと、それは『今の二人の関係』のことを言っていたのです。
18/11/19 14:19
(V7yLSNPT)
投稿者:
タケイチ
山下は腰を上げると、『タック、帰ろ~?』と私に近づいて来ます。そして、『三島くん、戸締まりしてかえってなぁ~。』と彼に伝えるのです。
山下は、私の車に乗りました。『自分の車は~?壊れてないんやろ~?』と聞くと、『私が壊れてる…。』と言うのです。 『まあ、ええわ。明日の朝、送ってやるわぁ。』と言って、車を走らせました。すぐに『あんな子よねぇ…。』と彼女の口から、彼のことが出るのでした。 『なんで俺に電話してきた~?』 『暇そうだったし~。』 『そうか、ありがとなっ!』 『うーそ!タックなら、何とかしてくれると思ったからぁ~。』 『そうか。』 『何とかしてくれたやん…。』 『まあ、お前のこと好きやしなぁ~。』 『だったら、合ってたわ~。』 『なにがぁ~?』 『タック、絶対に私のこと好きだから、助けてくれるって。』 『そうか…。』 『好き。』と伝えたのに、彼女のふさけた会話でどこか掻き消されてしまいましたが、お互いもう子供ではありません。こんなものなのでしょう。 山下の家に向かいます。同じ南部小学校の校区なので、そう遠くはありません。それでも、彼女の家など知らない私は、『こんなに遠くか?』と感じます。 山道を上り、ようやく彼女の家へついたのです。 私は、降りる彼女に、『山下~?元気出せよ~?』と声を掛けます。『うん。ありがとー。』と言って、車を降りた彼女。 しかし、『あれ?携帯落ちてない?ないわ?』と言うのです。私は身を乗り出し、彼女の座っていた助手席に手を延ばして探します。 暗くて手探りで探しますが、どこにもありません。仕方なく、ルームライトのボタンに手を掛けます。 その時でした。助手席に置いた私の手に、彼女の手が乗ったのです。気がつけば、山下の身体は助手席に乗り込んで来ていて、私の頭に手を回しています。 『タック~っ!』と彼女に呼ばれたかと思うと、僕の視界は消え、変わりに彼女の唇が私の唇に触れました。それはほんの一瞬の出来事。 車の外に出た彼女は『ああ、こっちに携帯あったわぁ~。』と言って、ごまかすのでした。 『アゴの山下。』、そう呼ばれていた彼女。残念ですが、可愛さなどない女の子でした。それがどうでしょう。 ちゃんと女性を経験したアゴの山下は、この年になってでも、男心をくすぐることの出来る女性となっていたのです。
18/11/19 14:53
(V7yLSNPT)
投稿者:
タケイチ
翌朝。彼女を迎えに来た私は、『おはよー。』と声を掛けました。『おはよー。ありがとー。』という彼女も、すでに事務服を着ていて万全です。
また、彼女からのキスが頭を離れない私は、どこか無口になり、運転を続けていました。しかし、気になるのはもう一つ。会社にいる三島くんのことでした。 『三島くん、おるよねぇ~?』 『着てるやろうねぇ~。』 『大丈夫~?』 『私~?心配なら、タックずっとおってよ~。』 『なんでや~!心配はしてないわぁ~。』 『また、口説いてくるかもよ~。』 『そやねぇ~。』 『そんな強い子違うよぉ~。あの子…。』 『そうなん?』 『普通の子。人付き合いが下手なだけ~。』 『そうかぁ。』 『うん。中身は弱い子。不器用なだけ。』 やはり、母親をやっていただけのことはあります。山下は、そこまで三島くんのことを冷静に分析をしていたのです。 『ちょっと、止めてよ~。』、突然の彼女の言葉に、『忘れ物か?』と思います。しかし、『こっちも、なんか弱そうねぇ~。』と彼女が言うのです。 昨日の再現でした。また頭を持たれて、唇を奪われたのです。『よし、行こうっ~!元気に行こう~!』、私の元気な言葉に、彼女も笑っていました。 その夜、『タック~?暇ぁ~?』と、山下からのいつものメール開始の合図です。『ひまぁ~!』と返して、彼女の返信を待ちます。 しかし、すぐに電話が掛かって来ました。『どうした?』と聞くと、『電話ぁ~!』と甘えたようにしゃべって来ます。 すぐに、『なぁ~。どっか行かない~?』と言われ、『ええよ。じゃあ、迎えに行くわぁ~。』と電話を切ります。 これは、山下との初めてのデートです。『ファミレスか?』『居酒屋か?』『ラウンジか?』といろいろと考えを張り巡らせるのです。 彼女の家の前につき、電話を入れます。『着いたよぉ~。』と言うと、『ちょっと入って来なよ~。』と言われました。 もちろん山下の家に入るなど、初めてのことです。『準備が遅れている。』と思っていたので、私は玄関で待たせてもらいます。 廊下に彼女が現れます。『入ってええよ…。』と言われ、『おじゃましますっ!』と靴を脱いであがりました。 私は、まだまだ子供だったのかも知れません。女性に家に招き入れられたのです。 その意味も理解せず、『山下、どこ行くー?』と言いながら上がり込んだ私は、まるで子供でした。
18/11/19 15:20
(V7yLSNPT)
投稿者:
タケイチ
居間には、すでにこたつが出されていました。テーブルにはビールが並べられ、お菓子とちょっとした料理も並んでいます。
彼女の対面に座り、私もこたつへと足を入れさせてもらいます。『なんか飲む?』と言われ、取り合えず缶ビールをもらいます。 一口飲んで分かるのです。『あっ!俺、もう運転出来んやん。』と。彼女もビールに口をつけ、手元にあったあるものをこたつの上に上げて来ます。 それは緑色のハードカバー。小学校の卒業アルバムでした。『俺、それもうないわぁ~。』と言うと、彼女は嬉しそうに開き始めるのです。 『6年2組。』、私と山下のクラスです。男ともかく、女は忘れている子が数名います。彼女は、私に見易いように更に差し出しました。 しかし、こたつの中心にあるため、どちらも不便です。そこで、『山下~?そっち行ってええかぁ~?』と聞いてみます。 彼女も躊躇はします。私も同じです。もうキスも済ませた、いい大人です。その二人が並んで座れば、どうなってもおかしくはありません。 山下は左にずれ、そこに私の入るスペースを作ります。そして、並んでアルバムを見るのです。『これ私~!』『これ俺~!』と言って、懐かしみます。 先生もいて、親友の香川もいて、私の好きだった牧野さんもそこにはいます。 私は、『俺、牧野さんが好きやったんよぉ~。』と白状をし、『山下は~?』と意地悪な質問をしてみます。 もう、40年も前の話です。恥ずかしさなどありません。『私はこの人っ!この人がずっと好きやった~。』と言って、ある人物を指をさします。 私は思わず、『はぁ~?』と言い、『そんなんええからほんとは誰やったん?』と聞き直します。 山下は『だから、この人やってぇ~!私、タックがずっと好きやったんよぉ~。』とまさかの私だったのです。 『うそやろ?』、『ほんと。』、『ほんとにほんと?』、『ほんと。』とそれが何度も繰り返されるのでした。 最初は冗談だと思っていましたが、山下の真剣さを見たら、どうも本当のようです。山下は、『タックのこと、好きやったんやから~。』と何度も言います。 私は山下の写真に指をさし、『ほんとはこの子が好きやった!』と言いますが、『違うやろ~!牧野さんやろ~。』と言われてしまいます。 私は初めての山下の肩に手を触れました。私よりも20センチ近く身長の低い彼女の両肩に手を置き、『そうや~。牧野さんが好きやったよ~。』と伝えます。 しかし、『けど、今は絶対にこっち~!こっちが好き~!』と言って、小さな彼女に頬を寄せます。 彼女が振り向くと、自然に唇が重なりました。彼女の身体は重い僕に押されて、絨毯の床へと倒れて行くのでした。
18/11/19 15:53
(V7yLSNPT)
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