６月は、わたしの誕生月。
子供たちの誕生日は、いまだに我が家の大事な家庭行事ではあるけれど、わ
たしの誕生日はすっかり忘れ去さられて、今では誰も祝ってはくれない。
毎年小じわが増えていくのを思い知らされるだけだから、別に祝ってもらい
たくもないけれど、やっぱり誰も覚えてくれていないのは寂しい。
観たいドラマもなくて、ワイングラスを傾けながら、ひとり寂しくお祝いを
していたら、ユウがキッチンに入ってきて、「はい、おめでとう」と、照れ
くさそうに手に持っていた包み紙をわたしにくれる。
綺麗な包装紙を丁寧に開けていくと、箱の中には、黒を基調にしたフリルの
ついた可愛いランジェリー。
少し驚いたけれど、これを彼がどんな顔で買いに行ったのか思うと、おかし
くて思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう・・・」
そこそこ名の通ったブランドの品だったから、お小遣いをけっこう使ったに
違いない。
「着てみようかな・・・」
しばらく眺めたあとで、ワインの酔いも手伝って、さらりと言っていた。
いつまでもキッチンから立ち去ろうとしない彼。
ユウの思惑なんて、とうにわかっていた。
塾へ通っている娘は、もうしばらく帰らず、夫はその娘の出迎えの時間に合
わせて、残業をしている。
時計を見たら、あの人たちが帰ってくるまでに、まだ２時間ほど余裕があっ
た。
「見てみたい？」
意地悪っぽく訊ねてみたら、いつもは全然素直じゃないくせに、こんなとき
ばかりは、素直にうなずいたりする。
ちょっぴり顔を赤くして、えさを欲しがる子犬のように立っている彼が、た
まらなく可愛くて、わたしは彼の手をとると、２階へと向かっていた。

さすがに、ユウの目の前で着替えるのは躊躇われて、自室で着替えた。
彼の買ってきてくれたのは、可愛らしいテディの３点セット。
ホルタータイプのテディは、バストの部分がアンダーまでしかなくて、思わ
ず頬が赤くなる。
こんなものを、どんな顔してレジに持って行ったのか。
あきれながらも、おかしくなって思わず顔がほころんでいた。
あまりに際どいデザインに、身につけるのをちょっぴり迷ったりもしたけれ
ど、きっと恥ずかしい思いをしながら、こんなわたしのために、一生けんめ
いあの子が選んで買ってきてくれたのかと思うと、恥ずかしさよりも、あの
子の喜ぶ顔をわたしは選んでいた。
ストッキングまで履いてしまってから、さっそく姿見の前へ。
鏡の前に立ちながら、ほとんど裸のようなふしだらな姿に、あらためて頬を
赤らめた。
乳房は飛び出すように絞り出され、きめの粗いレースの生地は、わたしの恥
ずかしい部分を、まったく隠してなんかいなかった。
これなら着ない方がまだましかも、なんて思ったりもしたけれど、予想外に
似合ってもいて、ほんの少しだけほっとした。
それだけユウが、私の身体を知っているということなのかもしれない。
箱の中にはまだ一枚残っていて、広げてみたら、小さなレースのエプロン。
ああ、これを腰に巻くのね、とようやく合点がいって、ためしに巻いてみた
ら、可愛らしさがいっそう増して、なぜか嬉しくなった。
これが、あの子の趣味なのかしら、などと考えながら、意外と可愛らしく映
っている自分の姿を、わたしは満足げに眺めていた。
それにしても、子供にこんな下着を売ったりするお店があることに、わたし
は、正直あきれていた。
人のことなどとても言えた身分ではないけれど、今の子供たちの性の乱れっ
て、こんな所からも来てるのかもしれない。
以前、ふたりでベッドの中でまどろんでいて、ユウがいやらしい雑誌を開き
ながら、「これ、欲しくない？」って、訊いてきたことある。
彼が指さしていたのは、通販で売っていた大きなバイブ。
思わず赤くなって、ユウの頭をコツンとやっていた。
そんなものが簡単に子供の手に入るのだから、子供たちがどんどん乱れてい
くのも、わかる気がする。
「あなただけで十分よ。」
言ってみたけれど、ユウはお尻に使う道具なんかも、すごく興味深げに眺め
てた。
日に日にエッチ度が増していく彼。
そのうち、記憶にない品物が家に届くようになったらどうしよう。
隠した方がいいのか、それとも正直に言うべきなのか。
鏡の中で、ふしだらな姿を喜んでいるような自分に気が付いて、だんだんと
彼色に染まろうとしているわたしが、ほんの少しだけ怖くなった。