会話こそが、互いの意思疎通には一番の手段ではあります。しかし、残念な
がら私と主人の間には、次第にその会話が途絶えて行きました。
反対に、それが契機となり、卓也と会話する機会が次第に増えて来る様にな
ったのは皮肉な結果でした。初めは頑なに口を閉ざしていた事件の事も、少
しずつではありますが、私に語る様になりました。
そして、私は彼の隠された内面の苦しみを知る事に・・・。
主人の言った事は、それほど的外れの事では無かったのです。父親だからこ
そ知る何かがあったのかもしれません。母親の私には、察する事の出来なか
った男女間の微妙な心の動き、私は卓也を、大切な息子と言う目でしか見て
おりませんでした。しかし、息子の胸の中には、私が考えていたものとは違
う、別の感情が湧き上がっていた等とは考えもしない事でした。
ポッリ、ポッリと語り始めた彼の言葉の中に、私に対する思慕の思いが、彼
を内面的に追い込んでいたのを知りました。
だからと言って、私にはどうする事も出来ない事と、その時はそんな風に考
えておりました。私が卓也に注ぐ愛情と、卓也が私に注ぐ愛情は、異質なも
のだったのです。
「卓也・・・。」
それを聞かされた瞬間、私は息子に何も言えませんでした。
「ごめんなさい・・。」
それは、その事を告白した時の息子の言葉でした。
父親なら、それなりのアドバイスも言えるのかもしれませんが、女の私に
は、想像もつかない男の生理です。母親の口から、風俗で遊べとか、オナニ
ーで発散させろ等と言える訳もありません。
私の事を、「一人の女性として好きになった・」・と面と向かって言われて
も、どう返事をすれば良いのでしょう？
自分の事もそうですが、それ以上卓也が不憫でなりませんでした。
やはり、腹を痛めた子供です。自分の事以上に、息子の苦しみが、自分の苦
しみの様に感じておりました。