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1:姉への想い(26)
投稿者:
弟
恵美は、少し荒く挽いてもらった好みのキリマンジャロを飲みながら、職場の友人からもらったマルチーズとパピヨンのミックス犬を横に置き、長男がはじめての給料でプレゼントしてくれたソファーのようなオレンジ色の座椅子に座ってテレビを見ていた
恵美は、この時間が一日の中で最も好きな時間である 子供達が独立し妙に静かになった家で、一人でいる時間、子供達は寂しいのではないかと心配するが、恵美にはやっとできた落ち着ける時間であり、この暮らしをとても気に入っている ピンポーン チャイムが鳴った 恵美:はいはいはいはい 恵美は誰も聞いていない中、訪問者に応えるようにつぶやきながら玄関に飛んでいき、ドアの鍵を開けた 恵美:はい、いらっしゃい あら、春菜は? 優美:ちょっと預けてきた ママと話がしたくて 恵美:あ、そう・・・ 今日の恵美の静かな時間を遮ったのは、自分と同じくシングルマザーとして生活している長女の優美子 仕事から帰り、恵美的に優雅だと思っている時間を楽しんでいると、優美子から「話したいことがあるので、家に行っていいか」と電話があった これまでも優美子はイヤなことがあると、恵美の家に訪れ、その不満を恵美に話し、恵美の意見を聞いてはストレスを発散し、帰っていっていた しかし、今日は何か違う 母の勘が、優美子の違和感を感じていた 優美:あー、パピ丸―、元気だったぁ? パピ丸と名付けられたミックス犬が優美子の訪問に喜び、優美子の足にジャレついていた 恵美:どうしたの今日は? 優美:うん・・・ちょっと話したいことがあって・・・ 恵美:それは何度も聞いたわよ で、何なの? コーヒーでいい? 優美:あ、うん・・・ 恵美はコーヒーを入れ、優美子の前に置き、座椅子に座った 優美子のただならぬ雰囲気が恵美をも緊張させていた 優美:あの・・・えっと・・・ 恵美:どうしたの・・何かあったの? 優美:・・・・・・ ・・・・・・あの・・・・・ 恵美:うん? 優美:わたし・・わたし・・・ おにいちゃんが好きなのっ! 恵美:えっ? 何言っている? おにいちゃんって・・・ゆうちゃんのこと? 優美:・・・うん 優美子は俯いたまま、パピ丸を膝に置き撫でている 恵美:好きって・・・優美子・・・ 何を言ってるの? ゆうちゃんは優美子の叔父・・・ 優美:わたし、おにいちゃんに抱いてもらったっ! 優美子は恵美の言葉を遮ぎり、大きな声で叫ぶ 恵美は想像の範疇を超える言葉に驚き、口を開け呆然と二の句が告げなくなっていた 優美:おにいちゃんと一緒にいたい、おにいちゃんと結婚したいっ! ・・・でも・・・でも・・・ そんなことしたら、春菜が変な目で見られるし・・・ママ達だって・・・ 恵美:・・・・ ・・・・ゆうちゃんは・・・ゆうちゃんは、どう言ってるの? 優美:私と結婚したいって・・・言ってくれてる 恵美はすっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲み、心臓の動悸を落ち着かせようとした その中で、ある疑念がよぎり、優美子を恐恐と見つめた 恵美:優美子・・・まさか、あなた・・・ゆうちゃんの子供を? 優美:ううん、それはないと思う まだ時間もたってなくて、分からないけど・・・たぶん・・・ 恵美:たぶんって・・・・優美子・・・ ゆうちゃんも、ゆうちゃんだわ、自分の姪に何を・・・ 優美:ううん、ママ聞いてっ! そうじゃないの 私が・・・私がお願いしたの・・・おにいちゃんは、はじめダメだって言ってたの 恵美:でも、結果的には・・・なんでしょう? 優美:そうだけど・・・でも、私からなの・・・ 恵美:聞きたくなかった ママそんなこと聞きたくなかった そんなこと言いに今日はきたの? それならずっと言って欲しくなかった ワンッ! 背中に優美子の涙がポタポタと落ちたパピ丸が驚いて吠えたので、優美子は自分の顔も拭かず、黙ったままパピ丸の背中の涙を手で拭っていた 部屋の中には時計の秒針の音だけがカチカチと音をたて時を刻んでいた その沈黙を先に破ったのは優美子だった 優美:もしもね・・・もしも、おにいちゃんがママを好きで・・・ ママもおにいちゃんが好きだったら・・・ ママならどうする・・・? 恵美:そんなこと・・・考えたこともないわ・・・・ 優美:だから、もしもだってば 恵美:優美子・・・大丈夫・・・? 何か疲れてるの? 恵美は優美子があまりにも突飛な言動をするので、おかしくなってしまったのではないかと心配し、優美子の頭を撫でた だが、優美子はその手を振り払いのけた 優美:私、どうしていいか分からないの こんなこと・・しちゃいけないことだって分かってる 誰も喜んでくれないし、ちゃんとした生活もできるか分かんない でも、私、ずっとおにいちゃんのことが好きだった やっと、やっと・・・想いを伝えれたの・・・ だから・・・どうしていいか分からないの ママだって、ホントは気づいてたんでしょ? 恵美:・・・・・・・はぁ・・・・・ 恵美は立ち上がり、引き出しの中からタバコを出した 禁煙をはじめて3ヶ月がたち、やっと吸いたいという気持ちがなくなってきていたのだが、今日ばかりは吸わずにいられなかった 箱から1本出し、火をつけ、勢いよく一口目を吸うと、3ヶ月も前に開封していたものであったので、ひどく不味く感じたが、恵美はそれよりもまず落ち着きたかった 恵美:・・・そうね あなたは、小さなころからゆうちゃんに懐いていたものね・・・ 一度だけだけど、バレンタインにケーキを焼いていたこともあったわね・・・ 優美:うん・・・わたせなかったけど・・・ 恵美:高校生の・・・文化祭のよるだったかしら・・・ 優美はドキッとした 恵美:ゆうちゃんに無理を言って、車でどこかに連れていってもらったときも、あなたは 帰ってきても、すごく興奮してて・・・ ああ、優美子はゆうちゃんに恋しているんだって思ってたわ・・・ ゆうちゃんの話をするときはいつも目を輝かせて話してもいたし・・・ 優美:やっぱり、分かってたんだ・・・ 恵美:そりゃそうよ 一応、母親なのよ 優美子は予想していたとはいえ、何年も、母親に自分の想いを見透かされていたことに恥ずかしさを覚えるとともに、母親の子供を見る目に感嘆した 恵美:私からの結論を言うわ 優美子は瞬間的に背筋を伸ばし、恵美の発する言葉に耳を傾けた こころなしか背中が汗ばんでいるように感じ、自分の体が熱をもっていることに気付いた 恵美は優美子の目をまっすぐと見据え、ゆっくりと口を開いた 恵美:結婚は許さない これは、あなたのためでもあるけど、何よりも春菜のためよ いえ、ゆうちゃんのためでもあるわ 優美:・・・どうして? 恵美:あなたは覚えてないのかもしれないけれど・・・ 私に、あなた達を育てていくという決意をもたせてくれたのは・・・ 優美子、あなたなの 優美:えっ?
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2011/12/01 00:09:18(Vjr3tpVI)
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