母親の玲子に紗羅羅の状態を連絡したのですが、彼女の驚きようは大変な
ものでした。
　すぐ病院へ駆けつけてきたのですが、私と話しをしようともしないので
す。
　それはそうですよね、東京での彼女の娘の保護者を引き受けてておきなが
ら、娘の重大事を隠していたのですから。
　知らせなかった私を責めたいのでしょうが、病院ではそれも出来ません。
　その場では耐えていてのでしょう、何も言わないのです。
　玲子は娘に話しかけるのですが、紗羅羅はあまり応じようとはしないので
す。
　目で私だけを追いかけ、手を伸ばして握って貰おうとするのです。
　それを目の前にして、玲子がどのような気持ちであったかは、痛いほどに
分かるのです。
　
　玲子が来た日は、比較的安定していましたが、翌日は違いました。
　その日は朝から、覚醒と混濁を繰り返すのです。
　夕方には、症状が悪化してきました。
　ついにその時がきたのだと思いました。
　紗羅羅はうつろな目で私を見て、苦しい中で、途切れ途切れに話すので
す。
　《あなた～　お父さんの妻にして貰って　幸せだった～　たくさんの愛を
貰い　女の幸せもいっぱい貰って　いっぱいオマンコして貰らい　可愛がっ
て貰った～　お父さ～ん　少しでいいから私の帰るとこ空けておいてね～》
　《もうお別れなのぅ～　時々でいいから思い出してね～》
　《お父さ～ん　まだまだオマンコ可愛がって欲しかった～》
　《お父さん　母からあなたを奪ってしまった～　母に謝っておいてね》
　《あなた一人を残して心配～　食事には気をつけてね　野菜を摂るのよ》
　《あなた～　何て言えばいいのぅ～？　言葉が見つからないの～》
　《いや～っつ　死にたくないっつ　あなた側にいて》
　《お父さ～ん　ありがとう　さよな・・・・・・・》
　《紗羅羅　忘れる事はないからね　ゆっくり眠って　また帰ってきなさい
ね》
　　
　紗羅羅は母親と私の仲を知っているので、最後まで彼女を避けていたので
す。
　
　私の愛としい娘、そして恋人、妻でもあった紗羅羅は、短い年月に溢れる
ほどの思い出を残し、一人彼岸へ旅立ち、帰らぬ人となったのです。

佳人薄命という言葉がありますが、愛して病まない掌中の玉を失ってしまい
ました。
　念願の妻になれたと思っていた紗羅羅が、哀れでならないのです。
　
　密葬が終わりホテルで二人っきりになった母親玲子は、これまでに見た事
もないような恐ろしげな顔で怒りまくるのです。
　《娘をお願いしたのはオマンコして貰うためではなかったのよ　何て事を
したのっつ！！　事もあろうに絶対あってはならない事をして　あなたなん
て嫌い！！　いや～っつ　もういや～っつ　嫌い～っつ》
　そして絶縁を宣告されました。
　１００％私の責任なので、何も返す言葉がないのです。
　家での葬儀にも出席させて貰えませんでした。
　私は１週間仕事を休んで、紗羅羅の喪に服しました。
　心は、空々漠々の状態でした。
　
　玲子が帰ってから、１０日目くらいに電話があったのです。
　《お願いっつ　会って欲しいの　あなたにお詫びとお願いがあるの》
　拒む理由もないので、日を決めて会おうと思いましたが、明日来ると言う
のです。
　悪いのは一方的に私なのです。
　その私に対して何を詫びると言うのか、見当もつきませんでした。
　
　待ち合わせのシティホテルには彼女が先にチェックインしていて、私が部
屋へ入るなり、抱き付いてきて、泣きながら言うのです。
　《御免なさい　わたしあなたに酷い事を言ってしまったわ　取り乱したと
はいえ　言ってはならない事まで言ってしまった》
　《娘の残した日記を読んだの　驚いた～　あなたには紗羅羅とだけは絶対
にそうなって欲しくなかった～》
　《そこに書かれてあった事は　全てあなたとの幸せな事ばかりだったの　
短い命だったけどあなたが可愛がってくれなかったら　間違いなく自分で命
を絶っていたわ　日記にもそう書いてあったの》
　《そうとも知らずに　酷い言葉でなじってしまい　何とお詫びして好いの
か・・・・》　　　　　　　　　　　　　　次に続く