企画には大した構想も経費も必要ではなかった。
倉木麻衣が裸で胸を揉まれる、というシーンだけで売れるだろうと予測していたからだ。しかし成り行き上どうしてもジャンルはレイプになってしまう。後はレイプものと言っても、睡眠薬を使った昏睡系にするか、抵抗させる残虐系にするか、男優は？シチュエーションは？場所は？ロケハンは？などそういった事をその晩の内に粗方決めておいた。

数日後―。都内某ホテルのロビーに私はハンディカムをジャンパーに隠し、待機していた。時間は１３：００頃だったか、ロビーの人影はまばらで、私たちには都合にいい状況にあった。
しばらくして１人の少女が自動ドアを抜けロビーに入って来た。
帽子を深くかぶり、丸いサングラスをしている。白地にピンクの柄が入った、長袖シャツにジーンズと言うラフな格好。一見本人とは気づかなかった、おそらく髪を結んでいなかったせいであろう。
間違いない、倉木麻衣本人であった。
私は隠したハンディカムを録画にし彼女を追った。倉木は無表情で誰かを探している、そしてその対象を見つけても表情に変化はなかった。
ゆっくり対象に近づく、その対象とは山前五十洋、実の父親であった。
２人は向き合ってロビーのソファーに座った。
山前さんの顔は終始笑顔で何か話し掛けていた。私のところからは倉木麻衣の後ろ姿しか見えず、その表情と話の内容はわからない。
わからないと言えば、山前さんに対する倉木麻衣の心境と、この場所へ誘い出した口実だ。そこのところは山前さんに一任していたし、そうするしかなかった。
倉木麻衣はプロフィールで尊敬する人を両親としているが、山前さんが尊敬に値するかは私も疑問に思っていた。しかしそういった倉木麻衣の心情を利用してこの場所に誘い出したのであれば尚の事、鬼畜の所業だな、と思いつつも実の親子２人をカメラに収めていた。
２人は立ち上がり歩き出すまでを撮影し、わざと寄り道をして時間調整している２人を横目にエレベーターに乗り込み、設定場所とされた部屋をノックした。
「カチャッ」と中から男が顔を出した。私は何も言わず中に入った。
部屋の中には男が２人いる。その内の１人が「来たのですか？」と片言の日本語で話し掛けてきた。彼らは山前さんが用意した、中国人で１人が背の高い屈強な体躯の男、１人が小太りな７：３分けのいかにも、アイヤ―とかアルヨとか言いそうなタイプの男だった。この２人が今から倉木麻衣をレイプするのかと思うと私的には焦燥感にかられるものがあったが、後の事を考えると外国人の方が色々と都合がいいと言う事になり、顔も日本人に近い中国人のこの２人を選んだのだった。
私は「来ました。用意してください。」とゆっくりしゃべり、照明をベットにあて、撮影用のカメラをドアに向けて録画を開始した。中国人はドアの前に立って
「ドキドキしますね。」と話しながら、何も知らない主演女優を待ち構えた。
その時、私の携帯がワンコールで切れた。山前さんからの合図だ。
「来ますよ。」と中国人に言い、私は小心者らしくマスクとサングラスを装着した。
「カチャ」とカギを開ける音がし、ドアがゆっくりと開く。
予定通り、倉木麻衣が山前さんより先に部屋に入って来た、いや、入る前に倉木を確認した屈強な男が、倉木麻衣の腕を掴んで、凄い力で部屋に引き入れた。
倉木麻衣は状況が把握出来ず、何が何だか分からないまま２人の男に抱えられた、そこでようやく「何！何これ！ちょっと！！」と発し、その声は無視されてベッドに組み伏された。私はその様をカメラに押さえていた。
屈強な男はそのまま倉木に馬乗りになり、両腕を膝でがっちり拘束して自由を奪っていた。そして、帽子とサングラスを外し、倉木麻衣の素顔を晒させた。
私はカメラを手に持ち、テレビや雑誌でよく見るその顔を映した。
倉木は恐怖と言うより驚愕の表情で色々な物を１つ１つ確かめるように見ていた。
そして、１つの判断をしたようで「何よこれ！！どういう事！！話が違うじゃない！」と山前さんに叫んだ。
山前さんはタバコに火をつけながら、倉木の訴えを無視して背を向けていた。
屈強の男が、「ヤマさん、ホントにいいのですか？」と聞くと、山前さんは、こっちに向き直り、「・・好きにしていいぞ。」と顔色変えず答えた。
倉木は「！！」と信じられないと言った顔をし、何か言いかけたが言葉にならなかった。

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