どうでもいいが、痴漢ってのはどんな場合でも言われた側が大抵負ける
って知ってたか？

触って無くても、相手に「触られた」って言われた時点でアウト。こっ
ちの負けはほぼ決定だ。その瞬間を縁も所縁も無い奴が「やってません」
って言ってくれなければ駄目なンだよ。

逆に痴漢の冤罪を作り出す為にはある手段を使えば確実になる。

2人組で行動するンだよ。一人が訴え、一人が見たって訴える。ほら、コレ
で殆ど完璧。正に四面楚歌って奴だよ。この時、触ってる部分をあえて友達
が隠せば尚完璧。

以上、経験から知った痴漢の冤罪の作り方。………ムナクソ悪ィ。

電車の中は暑苦しい。当然っちゃ、当然だけど、それは人がたくさんい
るからだ。無駄と言いたくなる程に人が乗り込んだ鉄の箱が暑くない訳
がない。

だが、今回はこの暑苦しさの元の奴等を使うんだから我慢しなくちゃい
けねェ。いつも？いつもは俺の傍には誰もいねェよ。両端によってもら
ってるから。

俺が立ってるすぐ近くにあの忌々しい女共がいる。さっきは気づかなか
ったが愛の傍にいる女は俺が「お尻さわってたんですぅ」とかぬかしや
がった奴だ。二人とも格好まで前回と同じ制服で話してやがる。

あァ、全く。良いねェ、最高だねェ。

きっちり、かっちり、完ッ璧に舞台が整ってやがる。後は───


パチン


乾いた音が電車内に鳴るが、走行音に掻き消されてしまって聞いた奴は
俺の隣の男共くらいだろう。だが、もう何とも思ってないだろう。この
暑さも、人から発せられる熱気も、俺が言った一言さえ気にしない。

俺は男共に小さく命令し、機会を待つ。そして、電車がカーブに差し掛
かり車内が揺れる。それが、合図だった。

「え？」

「な、何？」

近くにいた二人の間に『偶然にも』揺れたせいでバランスを崩した男が
数人割り込む。直ぐに合流しようとする二人だが、男達は動かない。

「ちょっと、邪魔なんですけど！」

キレやすい女───愛の方だ。が、足を踏みつぶしたが男は全く動じな
いでその場に立ち続ける。愛の方を見ようともせずにただ、ただ。

「何コイツ、キモッ………ねぇ、志穂、ちょっと助けてくんない？」

自分では動けないと判断したのだろう。友人──志穂と言うらしいが、
そいつに助けを求め始めた。あァ、全くもって───無駄な行為だ。

「駄目、こっちは変なおっさんが蹴っても、股間抓っても動いてくん
ないの！」

………凶暴性は志穂って奴のが上だったんだな。

まぁ、「無駄、無駄、無駄、無駄ァ！」って奴だな。そいつ等は決し
て動かねェよ。俺の支配下だからな。さて

「お久しぶりでございます、糞女」

狭い車内で少しだけ空間を作って、右手を胸に当てて恭しく話しかけ
る。イメージは英国紳士の挨拶みたいな感じで。ただ、口元の笑みだ
けは紳士のしの字もなかっただろうけどな。

「あ、アンタ、あん時の変………」
「お口を閉じましょうか、うるさくされては困るのですよ」

胸に当てていた右腕を愛の目の前に突き出し指を鳴らす。体中の血が
沸騰する様な感覚を覚えるが、それも一瞬。

「さて、前回はお世話になりましたね。ですが、私には心残りがある
のです。………お分かりになりますか？」

雄弁に話しかける俺の言葉を聞こうともせず、急に声が出なくなった
咽に触れ続ける愛。実に面白い、楽しくてしかたない。俺は愛の顎を
持ち上げ無理やり此方を向かせ

「答えは簡単ですよ。冤罪なんかじゃない、本物を教えてあげようか
と思いましてね。………覚悟しろよ、糞女」

酷く歪な笑みを浮かべながらそう言ってやる。

さぁ、楽しもうぜ。お前が始めたゲームだろう？

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