先日私が経験した信じられないような体験の一部を紹介しよう。

私の所属する研究室ではタイムマシンの開発を行っている。
最近ようやく試作品が完成した。もしこれで別の時間にいけるなら、子どもの頃か
らの夢がかなうわけだ。
光の速さを越えて運動する必要があることから、生物が生きて別の時空間に移動で
きる見込みはない、しかし我々は核融合エネルギーの実用化と本体に用いる金属の
研究に明け暮れたその結果、摂氏４０度程度の温度まで内部を低温化する事に成功
した。

誰が実験台になるのか、慎重に検討されたが、私は自ら立候補した。失敗すればど
うなるのか見当もつかない。命がなくなるだけならいいのだが、あの米国でのフィ
ラデルフィア事件の様に別の物と一体化して分離できないような状況になるのだけ
はなんとも避けて欲しいところだ。

実験機に載って外からロックをしてもらう。このロックは外部の安全が確認される
と自動的に解除される。実験機の耐熱板の厚さは100cmもある。重さは一人乗りなの
に120ｔだ。室内は狭く照明も暗い。窓はもちろんついていない。軽量化のために絶
対必要なものしかついていないのだ。
側面の小さなスピーカーから室長のカウントダウンの声が聞こえる。
私がこのマシンで行こうとしているのは20年前、私が高校生のときだ。もし成功す
れば高校生の私に会えるのだ。
カウントがゼロになった途端、私は激しく体を揺さぶられた、そして室温が急激に
上昇して息苦しくなった。温度計は42度を指している。湿気がないのであまり苦痛
ではないが長時間続けば脱水症状になるだろう。
二分くらい経過して振動が収まった。室温は下がらない。

スピーカーからコンピューターの合成音が響く。
「外部環境確認、終了、ロック解除」
ガチリと重い金属音がした。私は中からドアを押し開いた。
そこは研究所の20年前の場所だ。まだ開発されていないので山の中だった。
私は山を降りてみた。広い広い農村風景、懐かしい光景だ。
急いで自分の実家の方に行ってみた。ここから5キロほどあるが苦にはならない。

実家に近づくに連れて、知った顔が見えてくる。まずい、私のことを知っている人
が今の私を見たらビックリするだろう。私は神社の陰で夜になるのを待った。

夜になって暗くなったところで私は実家のほうに向かった。飼っていた犬が私に向
かって駆け寄ってきた。匂いは変わってないようだ。
深夜まで庭の中で時間をつぶした。私が自ら実験台に志願したのには訳がある。
それは、当時好きだった同級生に告白したかったのだ。その為過去の自分に会って
説得するつもりだった。

深夜かぎのかからない窓から家の中に入った。私の部屋に静かに進み、ドアを開い
て中に入った。私が寝ている。不思議な光景だ。
「おい起きろ」少し揺さぶるがなかなか起きない。
「起きろ、俺だ」自分で言ってなんかおかしい。
昔の俺はようやく起きた。父親と間違えている。
「なんだよ・・・え？」
「俺は未来のお前だ」
「は？」　このあと事情を説明するのに30分くらいかかったが、なんとか理解でき
た様だ。
「俺がここにきたのは、お前が好きな由香さんに告白する様に勧めるためだ」
「なんでそれを知ってんだ」
「俺だから、だよ」まだわかってないようだ。
「とにかく告白しろ、俺はこの歳になっても今だに後悔してるんだ、いいな、絶対
しろよ」俺は昔の俺に厳しく言った。
「わかったよ、するよ、そんなこという為に20年後から来たなんて信じられない
ぜ」
「怒るな、後悔するよりはマシだ」
俺はそう言って家をあとにした。途中由香さんの家の前をとおった。この歳になれ
ばむしろ堂々と口説けるのに、なぜか高校時代には何も言えずに終わってしまっ
た。もし、彼女と付き合う事が出きれば20年後の俺にはなにか変化があるのだろう
か。不安と期待をいだいてマシンに戻った。
〔to　be　continued〕

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