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人生は陽炎のように

カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1: 人生は陽炎のように
投稿者: (無名)
毎日満員電車に揺られて通勤をし、数字を眺めて受話器を耳に当てる。外資系企業に勤めていた頃はそんなことにはなんの疑問も持たず、当たり前にそんな日々を過ごしていた。

ガギの頃は毎日バイクを乗り回すことに夢中になっていたが大して勉強もせずに大学へ進み、将来にやりたいことがなかった俺は、外資系企業へと潜り込んだのだ。理由は稼ぎが良いからというような至極、単純な動機にほかならない。

高級マンションに住んで高級外車に乗り、気ままに生きてきたが、そんな恵まれた日々にいつの頃からから疑問を感じるようになっていた。そんな暮らしに別れを告げたのは、つい3年前のことだ。

周囲は一体何があったのかと退職を思い止まらせようとしたが、俺は同僚たちに背中を向けて手を振りながらさっさと職場を後にした。上司などは退職願いを出され、口をあんぐりと開けていたが、引き止めようとする声を背中で聞いて振り切ってきた。

40にもなってあいつは馬鹿だと言う者もいただろうが、知ったこっちゃない。つい最近になって祖父母が相次いでこの世を去ったこともあるが、営んでいた小さなドライブインを俺に譲ると遺言書に残されては居ても立ってもいられなかったのだ。

遺言書にはそのまま続けるも良し、処分して金に変えるも良し、好きなようにしろと祖父らしい言葉が添えられていた。ガキの頃はバイクで乗り付けてよく入り浸り、年中アロハシャツ姿の祖父に可愛がられたものだった。

海沿いの崖っぷちに店は建ち、道路を挟んだ向かい側はすぐ緑が生い茂る小高い山がある。昭和の時代は賑わっていた記憶があるが、観光地としてすっかり寂れてしまったここバブル以降は、シーズンオフになると寂しいものだと祖父母はよく嘆いていたものだ。

それも数年前からメディアで古き良き昭和香りが残るこの観光地が取り上げられてからは、観光客が戻りつつある。祖父母ももう少し長生きしてくれていたらと思うが、こればかりはどうにもできない。

せめて店を受け継けば祖父母も喜んでくれるだろうと、退職金を注ぎ込んで店の模様替えをしたのだ。大きくは変えず店の雰囲気はそのままに留めながら、軽食を出せる喫茶店にしたかったのだ。

崖っぷちに建つ狭い土地だから店は上に押し上げた造りになっており、下は駐車場を確保している。その隅に無駄に大きい倉庫があり、その中には祖父から譲り受けたワンオーナー車が鎮座している。

シルバーのスカイラインGTR、それは今も現役で稼働が可能な状態にある。その横には東京から連れてきたバイク、旧いカワサキがいつエンジンに火を入れてくれるのかと待ち続けている。

暇な時に引っ張り出してホコリを拭い、エンジンをかけてやると不機嫌そうに目を覚ます。そんなことをしていると遠くから酷くエンジンの調子が悪そうな音が聞こえてくるではないか。

エンジンの回転が上がらず時おりバックファイヤーを起こす、情けない音を引き連れて若者がやって来た。まだ高校生だろうか、バイトで必死に稼いだ金で手に入れたらしい、400ccのバイクは大事そうに見かけだけは磨かれている。


……あっあのぅ、これマスターのバイクですか?


見てくれが強面だとよく言われるから、話しかけるのは勇気が必要だったのではなかろうか。俺は苦笑しながら、こう返答してやった。


……ああ、そうだよ、俺のプライベートマシン…


……すっげぇ〜……これ、カワサキのZ1000MK-ⅱですよね……?


……おっ!?…若いのによく知ってるな……



これが卓也との出会いだった。

 
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2026/08/10 16:58:42(h9hHi0Cb)
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