僕が最初に出会い系で女性と出会ったのは、
大学三年の二十歳のとき。

相手は、亀戸在住の都立高校に通う高校三年生の女の子だった。
2000年10月ある日の午後六時に、
新宿駅南口にあるGAP前で待ち合わせし、
近くの飲食店で食事をしながら会話を楽しんだ。
金銭のやり取りは一切なかった。

当時は、ケータイにカメラなど付いていなかったため、
お互い顔が分からないまま、待ち合わせするのが当たり前だった。

どんな女性が待ち合わせ場所に現れるのか、
その緊張感がとても刺激的で非日常だった。



　それから二十数年間、
僕は出会い系サイトやアプリを通じて何十人もの女性と関係を持った。
ある者とは長く続き、ある者とは一度きりだった。
しかし、どの関係も最終的には終わりを迎えた。

　僕は結婚に失敗している。妻とはマッチングアプリで知り合い、
出会って一週間でプロポーズ。
その後、五年半一緒にいたが、結局のところ僕たちはお互いを理解できなかった。

僕は彼女を傷つけ、彼女も僕を傷つけた。
そしてある日、僕は荷物をまとめて出ていった。

僕ら夫婦は協議離婚では折り合いがつかなかった。そもそも、ふたりだけの話し合いで解決するならば、多分離婚などしないはずだ。

こういう場合、人はたいてい家庭裁判所の調停という場所に足を運ぶことになる。
僕たちも例外ではなかった。

そこでは婚姻費用、財産分与、養育費、そして二人の子供の親権について話し合われた。
僕と元妻は価値観の違いから何一つ意見が合わなかったけれど、
不思議なことに、親権だけはすんなりと決まった。
長男は僕が引き取り、次男は元妻が育てることになった。
僕たちの間で初めて意見が一致した瞬間だった。

長男と元妻の面会交流は、
毎月第三土曜日の午前11時と決められた。場所は横浜駅。

僕が長男の手を引いて改札まで行き、元妻に引き渡す。
そして数時間後、同じ場所で長男を迎えに行く。
その間、僕はどこかで時間をつぶし、
たいていは駅近くの喫茶店でコーヒーを飲みながら、
どうでもいいような本を読んだりする。

元妻の今の住まいを僕は知らない。
知る必要もなかった。
まるで彼女の暮らしは横浜駅の向こう側でだけ存在していて、
それ以上の広がりを持たないかのようだった。

離婚してしばらくは誰とも関わる気になれず、
ただ仕事をこなす日々を送った。

だが、時間が経つにつれ、
人間というものはやはり何かしらのつながりを求めるものなのだと気がついた。
そうして僕はマッチングアプリを再び始めた。

　僕はこのアプリに恋愛や愛情を求めていたわけではなかった。
ただ、誰かと時間を共有することが必要だった。

そこに誠実さや深い感情が伴わなくてもよかった。
求めるものはシンプルなものだった。

食事をして、会話をし、時には身体を重ねる。
それだけでよかった。
そうすることで、自分が人間としての役割を果たしているような気がした。

　そんな僕が、最近になって三人の女性と立て続けに関係を持った。
彼女たちはそれぞれ異なる背景を持ち、
異なる動機で僕と出会った。
そして、僕はそれぞれ異なる理由で彼女たちとの関係を終えた。

　最初の女性は、箱根駅伝常連大学の就活生だった。
彼女は名門大学の法学部に通い、熊本の実家を離れ、多摩センターで一人暮らしをしていた。

彼女は背が高く、黒髪のロングストレートで、
まるで広告の中から抜け出してきたような美しさを持っていた。
どこか品があり、それでいて大胆な雰囲気を持ち合わせていた。

　僕たちは市ヶ谷のカラオケBOXで待ち合わせた。
僕たちの目的は明確だった。

　彼女はコロナでアルバイト収入を失い、生活費が必要だった。
そして僕の目的は、カラオケBOX内で服を着たままの“女子大生”と性行為をすること。

　行為をしている間、彼女はとてもいい香りがした。
その香りは、僕に昔の記憶を呼び起こさせて、
二十代の頃に付き合っていた女性のことを思い出したのだ。
だが、それはどうでもいいことだった。

行為中、彼女は何度か

「すごく硬くなっているわ」

「あなた、興奮しているの？」

と言って、僕を何度も奮い立たせた。

僕は彼女に２万円を渡し、彼女はそれを当然のように受け取った。
僕たちは行為を終えたあと、少し話をした。
彼女は唐突に、「今度ディズニーランド行こうよ」と言った。

僕はそれを真に受けた。
そして後日、「今度ディズニーランドに行こう」とメッセージを送った。
しかし、彼女からの返事はなかった。
それどころか、連絡は一切途絶えた。

僕はそこで初めて、自分が馬鹿だったことに気づいた。
彼女にとって、僕との関係はただの取引だった。

それなのに僕は、自分がその取引の枠を超えられると勘違いしていた。
二十歳以上年下の彼女と、何かしらの恋愛が成立するとでも思っていたのだろうか。
呆れるほどの勘違いだった。

　次に出会ったのは、元IT企業の社長秘書だった。
彼女は早稲田大学を卒業し、夢だったアパレルメーカーの商品企画部に転職した。

しかし、秘書時代の高賃金に慣れた生活はそう簡単に変えられるものではなく、
収入減に耐えられずカードローンでの借金を重ね、
マッチングアプリで男性からお金を得るようになっていた。

　彼女とは五反田のホテルで会った。
けれど、僕は彼女とそういう関係にならなかった。
ただ、話をしたかったのだ。

彼女もまた、それを望んでいた。
本当は自分の体をお金に換えたくはなかったのだ。

最初は一時間だけのつもりだったが、
話が盛り上がるたびに彼女は「あと一時間」と何度も延長し続け、
気がつけば六時間が経っていた。
僕は彼女に一万円を渡し、彼女はそれを自然に受け取った。

「ホテルで私とセックスをしなかった男性はあなたが初めて。
とても楽しかったわ」

別れ際、五反田駅改札前で、
人目を憚らず、僕たちはマスク越しにキスを交わした。

「また、会いましょうね」

　数日後、僕はもう一度彼女と会いたいと思った。
そして彼女もまた、僕との再会を楽しみにしているようだった。

しかし、約束の日の朝、彼女から

「職場でコロナ陽性者が出て、自分も濃厚接触者になったので今日は会えない」

と連絡が入った。

僕はそれが単なる断りの口実だと思った。
だから何も返信せず、彼女の連絡先をブロックした。
それで関係は終わった。

　最後に出会ったのは、体重四十キロの二年目の老人ホーム介護士だった。
彼女は介護の仕事にやりがいを感じながらも、低賃金のため生活が苦しく、
マッチングアプリを使ってお茶や食事の見返りにお金をもらっていた。
僕たちは池袋パルコ７階のカフェで会った。

　彼女はよく笑う女性だった。
そして体付きはとても華奢で、
ちょっと転んだだけで、骨折してしまうのではないか、
と思わせるほどだった。

これから遅番のため職場に向かうという彼女に
僕は一万円を渡した。

翌日、彼女から「次はいつ会える？」とメッセージが届いた。
そのメッセージの最後には、

「次は二万円もらえますか？」

という一文が添えられていた。

　僕は嫌気がさした。そして、彼女の連絡先を削除した。

　僕はこれらの経験を通じて、
マッチングアプリで出会う女性たちに失望した。

結局のところ、彼女たちは金銭を目的にしているのだ。

そう思うことで、僕は自分自身を納得させた。
しかし同時に、それが楽でもあった。
気を使わなくていい。深く関わらなくていい。

女性たちが僕を求めるのは、僕の人間性ではなく、

ただの金だった。

　それでいい。それが正しいのだ。

　そう思いながらも、

僕の心にはどこか、
小さな空洞が広がっていくのを感じていた。

そんな中で、僕はある女性と出会った。
初めて会った頃、彼女は大学４年の学生だった。

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