![]() ![]() |
|
2006年6月。同窓会は都内のホテル宴会場で開かれた。
幹事を務めたのは横山トオルだった。 横山の家は裕福で、父親は輸入貿易会社を経営していた。 だから会費は妙に安かったし、料理もそこそこまともだった。 僕は地元の成人式には出なかったから、 ほとんどの同級生とは卒業以来、11年ぶりの再会だった。 ある友人は昔のままだったし、ある友人は見違えるほど太っていたし、 ある友人は驚くほど禿げ上がっていた。 時間の流れ方は人それぞれだった。 村瀬まいは、昔のままだった。 黒髪のロングストレート、落ち着いた雰囲気、どこか遠くを見ているような表情は、 中学3年生の彼女と何ひとつ変わらなかった。 当時の僕にとって彼女はただの「同じ部活の同級生」以上の存在ではなかった。 僕たちは同じ吹奏楽部だった。僕はサックスを吹いていた。彼女はフルートだった。 サックスパートの前にフルートパートが座っていたけれど、彼女と話した記憶は一度もない。 なので、彼女が同窓会で僕に話しかけてきたときは、本当に驚いた。 「久しぶり、元気してた?」 彼女はごく自然に言った。 僕は一瞬、誰かと間違えているんじゃないかと思った。 「人違いじゃないかな。僕は、…だよ?」 彼女は軽く首を振った。 「知ってるわよ、そんなこと」 彼女が微笑んだ。そのときの笑顔を、僕は今でも忘れられない。 --- 彼女は中学3年のころ、同級生と付き合っていた。 僕はその彼が嫌いだった。というか、一度殴ったことがある。 理由は単純だ。そいつが僕の親しい友人をいじめていたから。 だから僕は、そいつの後頭部を思いっきり殴ってやった。 次の日から彼はいじめをやめた。 だから、村瀬まいが僕に話しかけてきたとき、僕は彼女に殴られるんじゃないかと思った。でも彼女はただ微笑んで、 「元気してた?」と言っただけだった。 --- 「私ね、結婚して子供がいるの。3歳の娘が」 村瀬はそう言った。 僕の中では彼女は11年前のままの中学生で、記憶がそこで止まっている。 だから、彼女が結婚して、子供を産んで、母親になったという事実がすぐには飲み込めなかった。 「旦那さんは?」 「証券会社に勤めてるの。私より7歳年上」 「どこで知り合ったんだい?」 「楽団。私、今ヴァイオリンをやってるの」 「ヴァイオリン?」 彼女はうなずいた。 中学のころ、彼女は合唱コンクールでピアノ伴奏もしていた。 たしかに、彼女がヴァイオリンを弾いている姿を想像するのは、それほど難しくはなかった。 「今度、定期演奏会があるんだけど、よかったら来ない?」 「もちろん、行くよ」 「あとね、楽器をやってたなら、ぜひ読んでほしい漫画があるの」 「漫画?」 「のだめカンタービレって知ってる?」 「のだめ…なんだって?」 「のだめ・か・ん・たー・び・れ」 「聞いたことないな」 「吹奏楽出身なら、きっとハマると思うわ」 それで、次に会うときに貸してくれることになった。 「よかったら、メアド交換しない?」 彼女の提案で、僕たちは連絡先を交換した。 --- 同窓会が終わった夜、村瀬からメールが届いた。 「今日はありがとう。とても楽しかった」 「正直、驚いたよ。君とは中学時代、一度も話したことがなかったからね」 「私ね、友達が少なかったの。だから、今日誰と話せばいいのか、ホントは困っていたの」 「そんなことないだろ?君は昔から勉強もできたし、ピアノだって上手だったし、仲のいい友達くらいいただろ?彼氏だっていたじゃないか」 「そう、あなたが殴った彼ね(笑)」 「だから余計に驚いたんだよ。てっきり、僕のこと嫌ってると思ってた」 「今日ね、何人かの人に話しかけたんだけど、みんな困った顔してたわ」 「それはなんで?」 「今日、初めて話しかけたからよ。私、本当に友達がいなかったの」 彼女は控えめに言っても、かなりの美人だったし、 性格はよく分からないけれど、陰湿な嫌がらせをするタイプには見えなかった。 ただ、とても大人びていて、どこか近寄りがたい雰囲気があったのは確かだ。 まるで、僕たちとは違う世界の住人みたいに。 「私って、いつもそうなのよ。どこへ行っても、誰からも話しかけられないの。だから今日、あなたが普通に話してくれたことが、とても嬉しかったわ」 それから、僕たちはメールをやり取りするようになった。 そして、そのうち僕は休みのたびに、 村瀬の家に遊びに行くようになった。 **村瀬のこと** 僕たちは、村瀬の家で三人で遊んだり、食事をしたりした。娘はまだ三歳だった。 食事のあとは、彼女の家でピアノやヴァイオリンを習った。 僕にとっては、そう悪くない時間だった。 村瀬の住むマンションには、同じ会社の人間しかいなかった。 でも彼女には、気の合う奥さんも、ファミレスでお茶をするようなママ友もいなかった。 この土地に特別な縁があるわけでもない。ただ、三歳の娘を育てるのに精一杯だった。 「本当は、子供なんて欲しくなかった」 ある晩、村瀬はそう言った。 彼女は授かり婚だった。 最初に彼と身体を重ねたとき、避妊はしなかった。 生理がこなかったけれど、彼女は気にしなかった。 そんなことは今までにも何度かあったし、 仕事が忙しくて病院に行く暇もなかった。 妊娠検査薬を買うことすらしなかった。 ある日、突然、多めの出血があった。 それでようやく病院に行った。妊娠が発覚したのは、そのときだった。 その日の帰り道、彼女は泣きながら歩いて帰った。 「母が厳しくてね、しつけが本当に厳しかったの。だから家にいるのがとても嫌だったの。今でも母のことは好きになれない。そんな家庭で育ったから、子供を持つなんて考えられなかったし、結婚もしようとは思わなかった」 妊娠中、彼女はうつ病を患った。 心療内科に通った。治療の一環で、気持ちを手紙に書くというプログラムがあった。 そのときの手紙を、彼女は僕に見せてくれた。書かれていたのは、断片的な言葉の羅列だった。 意味のわからない言葉が散乱していた。 読んでいると、こちらの頭がおかしくなりそうだった。 あれを書いたのが、目の前にいる村瀬と同じ人物だとは思えなかった。 彼女が今、笑って僕と話をしていることは、ある種の奇跡のように思えた。 でも、彼女は時々、三歳の娘に向かってひどく大きな声で怒鳴った。 おもちゃを片付けなかったり、決まった時間にピアノの練習をしなかったりすると、 爆発したように声を上げた。僕が目の前にいるときでさえ。 「何度言ったらわかるの?」 「もういい加減にしてよ!」 彼女がそう叫ぶたびに、僕は黙って見ているしかなかった。 そうかと思えば、しばらくすると何事もなかったかのように振る舞った。 ニコニコしながら、のだめカンタービレの話をした。 まるで、どこにでもいる普通の母親のように。 **映画の日** 相変わらず、僕は休日になると彼女の家に通った。 ある日、マンションの住人の中年女性が僕に話しかけた。 「今日はお休みですか?いつも三人一緒で楽しそうですね」 たぶん、彼女は僕を村瀬の夫だと思ったのだろう。 *********** 「ねぇ、あなた、映画監督になるのが夢だったわよね?」 「うん、確かにそんなことを言ってた。でも、もう僕は中学生じゃないよ」 「もう何年も映画を観ていないのよ。今度、一緒に行かない?」 「三人で?」 「子供は実家に預けられるわ」 こうして、僕たちは映画を観に行くことになった。 七月の休日、彼女の娘を実家に預け、僕たちは実家近くの駅で待ち合わせた。 村瀬は車をコインパーキングに停め、僕の車に乗り込んだ。 「車で男性と二人きりでどこかに行くのって、初めて」 「旦那さんとはドライブしないの?」 「あの人、免許を持っていないの」 村瀬の希望で、『デスノート』を観ることになった。 映画館には上映時間ギリギリに到着した。 ポップコーンをひとつ買って、慌ただしくスクリーンに向かう。 劇場の中は真っ暗だった。 進む前が見えない村瀬は声を出さずに、 両手を前に差し出しながら、僕に合図を送った。 僕は彼女の左手をそっと握った。 彼女の手は細く、柔らかく、少し汗ばんでいた。 席についたとき、ようやく僕は自分が大胆なことをしていることに気づいた。 気まずくなって、手を離した。でも、その瞬間、彼女が僕の耳元で小さく囁いた。 「ありがと」 映画の途中、村瀬はそっと僕の手の上に自分の手を重ねた。 僕は手の平を返し、彼女の手を握りしめた。 映画が終わるまで、僕たちはずっと手をつないでいた。 劇場を出ても、そのことには一切触れなかった。 わざわざ話すようなことではなかったし、村瀬の旦那に対して後ろめたい気持ちもなかった。 夕食は近くのレストランでとった。 中学の部活の話、初恋のこと、卒業式の思い出、彼女の大学時代、 そして旦那さんが初めての相手だったこと——そんな話を二時間くらい続けた。 彼女の車がある駐車場まで送ったとき、村瀬が言った。 「もう少し、あなたと話がしたい」 「来週、主人が神戸から帰ってくるの」 「そうか。もう遊びに行けなくなるね」 「結婚なんてしたくなかった。私は子供も家庭も持つべきじゃなかったのよ」 僕は何も言えなかった。 「今日は、妊娠がわかった日以来、初めて楽しいと思えた日だったわ」 「実は、僕は女性と映画を二人きりで観るのは、今日が初めてだった」 「それじゃあ、私はあなたにとっての“初めての女”ね」 そう言って彼女は笑った。 ************** 村瀬が亡くなったという知らせを受け取ったのは、 それからちょうど一か月後のことだった。 中学の吹奏楽部で一緒だった友人から電話があり、 彼女の死を知らされた。 けれど、それが現実のことだとはどうしても思えなかった。 ついこないだ、僕たちは手をつないで映画を観たばかりだったのだ。 そんなふうに簡単に人が死ぬなんて、どうしても信じられなかった。 お通夜には、中学時代の友人たちと一緒に参列した。 そこで初めて、村瀬の旦那の顔を見た。 何も感じなかった。ただそこにいるだけの、知らない男だった。 彼のそばには、小さな女の子が立っていた。 遺影の中の村瀬は、 僕の知っている村瀬とは少し違う顔をしていた。 棺の中の彼女は、まるで人間用に作られていないみたいに窮屈そうに見えた。 でもその顔は、まだ生きているみたいに穏やかだった。 お通夜のあと、自宅に戻って、押し入れの奥から中学時代のアルバムを取り出した。 3年4組のページを開くと、さっき見たのと同じ顔の少女が、そこにいた。 ほんの数秒間、その写真を見つめた。そしてふと思った。 人の死というのは、特別なものではなく、 ただそこにあるものなのかもしれない、と。 僕は他にも村瀬が写っている写真を探した。 でも、どういうわけか、どこにも見つからなかった。 夜が更けていく中、 僕は村瀬から借りたままになっていた『のだめカンタービレ』を手に取った。 パラパラとページをめくると、 彼女が指で折った跡がいくつか残っていた。 僕はそのページを開いたまま、 しばらくじっと見つめていた。
2025/02/26 21:45:59(z9j34kqH)
コメントを投稿
投稿前に利用規定をお読みください。 |
官能小説 掲示板
近親相姦 /
強姦輪姦 /
人妻熟女 /
ロリータ /
痴漢
SM・調教 / ノンジャンル / シナリオ / マミーポルノ 空想・幻想 / 透明人間体験告白 / 魔法使い体験告白 超能力・超常現象等体験告白 / 変身体験・願望告白 官能小説 月間人気
1位戦国 落城の母息子 投稿:(無名) 13808view 2位学生時代に仲良... 投稿:Kira 6888view 3位私の大切なお友達… 投稿:風来坊 4556view 4位淫欲が溢れて、... 投稿:ぐっぴぃ 3933view 5位コンビニの横に... 投稿:(無名) 3367view 官能小説 最近の人気
1位ショッピングモール 投稿:純也 370937view 2位他人妻の下着拝... 投稿:PJ 652664view 3位母子婚 投稿:秋吉静子 113887view 4位戦国 落城の母息子 投稿:(無名) 13807view 5位レズビアン女医... 投稿: 17962view 動画掲示板
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
画像で見せたい女
その他の新着投稿
伯母に抱いた烈女-近親相姦 願望・苦悩 03:20 AV種付け特化孕ませ中出しのピストンに合... 02:48 これが脳イキ??- 女の子のオナニー報告 02:17 寝取られ夫婦-寝取られ体験談 01:22 熟妻の女回帰②-寝取られ体験談 00:06 人気の話題・ネタ
ナンネット人気カテゴリ
information
ご支援ありがとうございます。ナンネットはプレミアム会員様のご支援に支えられております。 |