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1:笑う影
投稿者:
マキ
「彩音ちゃん、ホントに今日で最後なの?」
「うん。もう借金終わったし」 「そっかぁ、長くいる業界でもないもんね?彩音ちゃんは、AV辞めて次何やるの?」 「国外逃亡w」 「海外にでるんだぁー!凄いなぁ」 「マキさんは?ずっとコレ?」 「あたしは、そうだねー。AVくらいしか使ってくれないもん」 「でも、この前、広告のコーデしたんでしょ?」 「ああ、単発だったからね。専属って訳でもないもん」 「そっかぁ。マキさんも大変だね」 「さっ、出来たよ彩音ちゃん。行ってらっしゃい。」 こうして私は、何人もセクシー女優を現場へ送り出す。 影を背負った女の子達。 彼女達は戦士だと思う。 毎日、戦ってる。 毎回、吐いたり、頬を赤く腫らして、涙で顔もぐちゃぐちゃになりながら。 成功すればするほど、悲しみの十字架は重くのしかかり、彼女達に悲しみの連鎖を産んでゆく。 どれだけ有名になっても、一度、外の世界に踏み出せば[AV女優]のレッテルは重くなる。 私は、こんな世界は無くなればいいと思う。 私はAVを見ても、女の子達の"可哀想"を知ってしまっている。 興奮なんて出来ない。 業界の人達はAVを作品なんて呼んでるけど、そんなのは誤魔化しだと思ってる。 あんなに女の子を泣かして、なにが作品なの? 正直に言うと、女の子が泣くようなハードなAVは、とにかく売れるらしい。 現実世界では許されない行為だから。 だから出演するとギャラも高いらしい。 AVに出演する女の子の殆どが、「お金が必要で」とか「親の負債」だとか、逃げ道の無い女の子達が、どこからか紹介されて業界に入ってくる。 撮影では「セックスが好きです」なんて、嘘までつかせて、まるで女の子達が好き好んで業界に飛び込んで来たように見せかける。 せっかく芸能界に入った子も、売れなくて「AVでもなんでも脚光を浴びれば再出発の道も開ける」なんて、騙されて。 結局私たち女を物や道具にして喜ぶ男達が巷に溢れているという事。 そんな物を世に送り出して、作品と言い張る薄汚い男達。 そして、何か素晴らしい技術を身につけ、世の中の師範代にでもなったつもりの奢った男優達。 偉そうにYouTubeかなんかで講釈を垂れ流して、みっともない。 女優の女の子達は言ってる。 「男優?別にセックスが上手い訳じゃないよ?あの人達は、カメラ映りしか頭にないもん。気持ちよさで言ったら素人と別に変わらないよ?むしろ、下手かもね」 また、ある子は 「こんなのよく買う人いるよね。頭おかしいよ」と笑う。 あ~ぁ、私も業界とお仕事するの辞めようかな。 だって、人にあんまり言えないもん。 「AVでコーディネートしてます」なんて。 多くの人が世をはばかってする仕事。 よくわかんないけどさ。 社会を操作している人達の1部の人達にとっては大切な収入源なんだって。 私にもオファーくるんだよね。 「ねぇ、マキさん?良かったらAV出てみない?稼げるよ?」 「出ません。」 ね? 「稼げるよ?」って。 業界の本心。 あーダメだ。 やっぱり辞めよう。 「え!?マキさん、辞めちゃうの?ショックー。マキさん、いつも励ましてくれたり、元気づけられてたから、辛いなぁ」 「ごめんね。もう、辛くて。もう笑ってみんなを送り出せなくなっちゃったから」 「そっかぁ。」 「あゆみちゃんも、辞められるようになったら、AVなんて続けてちゃダメよ?」 「うん。わかってる。私も業界なんて嫌いだもん」 「だよね。」 「はぁぁ。今日もSMかぁ・・・」 あゆみちゃんは、名目上、Mで売ってる。 ギャラの高いAVに出やすくなる為。 本来はちがうんだって。 衣装替えにあゆみちゃんが戻ってくる。 シャワーを浴びて、メイクとヘアを直して。 「マキさん、押してるんで巻いてお願いいたします。」 助監督があゆみちゃんを連れて入ってくる。 「あゆみちゃん!大丈夫??」 「へへへ、なんとか」 目は真っ赤に充血し、ほっぺも真っ赤に腫れて、内出血してた。 首にも痣が出来てて、メイクで隠されていたけど、腕や腿に縄の後が残っていた。 「あゆみちゃん・・・」思わず抱きしめていた。 「マキさん・・・メイク付いちゃいますよ。私は大丈夫だから。ありがとう」 「ごめん」 「うんん。もう、慰めてくれるお姉さんが1人居なくなるなぁ」 「ごめんね、それ言われると辛いよ・・・」 「どう?マキさん?可愛い?あたし、メイド服すきなんだぁ」 「出来た。行ってらっしゃい。」 「うん。いってきます」 女優さんを現場に送り出す。 控え室でメイクさんと昼食が一緒になった。 「マキさん、辞めるんですって?」 「あ、はい。」 「そうよね。みんな、続かない。女の子達は、あたしら見たいな裏方にしかこぼせない事、たくさんあるからね。受け止めてあげたいけど、辛すぎるよね」 私は、頷くことしか出来なかった。 「AVって、なんなんでしょうね・・・こんな負の産物を作品だなんてかこつけて。」 「でもさぁー。この業界がないと生きるのも苦しい女の子達もいるからねー。無くならないよ。」 「あたし、この業界に携わるようになって、なんて言うか男がダメになって来ちゃって」 「あーマキさんも?わかるー私もそう」とメイクさんは笑った。 あゆみちゃんの最後の撮影が終わり、返却さらた衣装をまとめ、部屋を出る。 監督が「マキちゃん、打ち上げあるけど出てよ」 「すいません、帰ってやる事があるので」と断る。 こんな女の子を仕事とは言え、平気で男優にビンタさせ、首を絞めて、泣かせて、作品なんてのたまう男達と混ざってお酒なんか飲む気になれない。まっぴらゴメンだ。 「え?なんで?来ないなんて有り得ないでしょ」 「・・・すいません」 「はぁあ!?何それ?断るの?」 ああ!もう!! 「あたし!もう辞めるんでっ!どうのこうの、うるさい!!」 「わ、悪かったよ、な?いいじゃん、打ち上げ。行こうよ。」 あたしは無視して、スタジオを出た。 違約金とかなんとか。 後日、色々と言われた。 これで手を切れるならと違約金を払って、東京も出た。 スマホも変えて、さっさと住所も変えた。 それでも、女の子達の事が、離れても心配になる。 今日もまた、どこかで同じ目にあってる女の子達がいる。 画面の中では笑って。 心では悲痛を叫んで。 恋愛には身体の関係はついてまわる。 AV業界を経て、私は男の人の浅ましすぎる欲望に直面した。 私は、恋愛は無理だと思う。 自分に沸き起こる性欲さえ、呪わしい。 もう私は男性の欲望は、一生、受け入れられないと思う。 もしかしたら、女同士で慰め合える仲になれるならば、それはいいのかもしれない。 もう男性は受け入れられないのだから。 お金の為に汚い大人の男達が笑う影で、沢山の女の子達がないている。 その大人の筈の男達は、女の子が泣けば泣くほど、喜んでいる。 フィクションです。 女の子の名前は実在しません。
2025/01/08 07:11:15(IHyrEtf1)
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