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1:真っ白な羽
投稿者:
(無名)
よく知らない人達が、上から下まで黒い衣装に身を包み、厳かに、そして粛々と手を合わせて、瞳を閉じで頭を下げて行く。
隣に立つ母が、事細やかに 「あれは、本家の誰々」だとか、 「お父さんの兄弟の誰々」だとか、 説明してくれているが、僕にはさっぱり頭に入って来なかった。 無事に三回忌法要も終わり、内々だけで、近くのお寿司屋さんに行った。 普段は、こんなお寿司屋さんなんて滅多に来れないもんだから、こればかりは楽しみにしていたつもりだったけど、思いの他、つまらない味に思えた。 お寿司やさんに集まった親戚の人達も同じ様な顔をして、別に会話をする風でもなく、何となく食べているように見えた。 たまに、母が気を利かせて 「お兄さん、お茶ありますか?頼みましょうか?」と声をかけるのだが、皆が 「うん」とか「あぁ」で終わって仕舞うものだから、会話も続かないのだ。 食べ終わって、父の兄に当たる、渉おじさんが 「なぁ、良介って幾つだったんだ?」 母が口の中のお寿司をお茶で流し込んでから 「34です」と今更ながらにも、思い出してしまうのだろう。 俯いてしまった。 渉おじさんは、ちょっと、しまったと言う顔をして、慌てて母に 「あっ、亜紀さん、すまんすまん、そんなつもりじゃなかったんだ、ごめんよ」 母は、さっと顔をあげて 「いえ、すいません。まだ、ちょっと….」と気張っている。 そんな重い空気の中、会食も終わって、解散する事になって、僕は母を家に送る為に車を回した。 帰りの道中、後部座席に座った母が 「ねぇ、良平。お兄ちゃん、どうして死んじゃったのかなぁ、ねぇ。」 最近、母と顔を合わせるといつも、この話題に行き着いてしまう。 そう、さっき済ませた法要は、僕の2つ上の兄さんの良介の法要なのだ。 死因は自殺。 兄は、とても優しくて家族や仲間、友達を優先する人間だった。 その為、兄を慕う人々も多く、僕が知らない人達も沢山いた。 兄が中学生の時、仲良しの友達が公園で高校生に絡まれ、幾つも殴られお金を取られたと言う話しを聞くや、その足で金属バットを担いで、1人で、その高校に乗り込んで、高校生4人をボコボコにした。 勿論、学校も警察もPTAも大騒ぎになった。 この時、家の両親も学校に呼び出されて行った。 警察や教師、PTAの面々が揃う面前で、生前の父は、こう言ったそうだ。 「子供どうしの行き過ぎた喧嘩とはいえ、事が過ぎてから、やんややんやと騒ぐのは、誰でも出来る!が、それを避ける様にきちんと子供を育てられている親が此処にいるのかっ!あなた方教師も同様、なぜ、事が起きる前に察して、先手を打てないのかっ!全ては、ここに居る大人、全員の責任だっ!」と。 父は、素晴らしい大人であったが、6年前に癌で他界した。 そんな、兄が自殺したのだ、母のショックと言えば、相当であるのだ。 家に着くと母は、しばらく台所の朝食を食べるテーブルに座って惚けていたが、お茶をのもう!と言って、法要で配った余りの引き出物から緑茶を出して、僕の分と2人分いれて、再び座ると、また惚けてしまった。 少し前から、母の事は心配でもあったし、胸に支えてる事を口に出してみた。 「かぁさん、良かったら、ここ、帰ってこようか?」すると、母は無言のまま、首を横に振り 「真由美さんに悪いから、いいわ」真由美とは、僕の妻だ。 「真由美だって、嫌なんて言わないよ?かぁさんだって煩い事を言った事なんかないじゃないか。」 実際、母と妻は、姉妹の様に仲がいいのだ。 「それは、別に暮らしてるからよ。一緒に住むとなると話しは別なんだから」 でも、と思い 「じゃ、もっと頻繁に顔を出すようにするよ」と言うと 母はただ首を縦に幾つも振り 「今日は、疲れたね。おかぁさんもう休む事にするよ、また、真由美さんと遊びに来てね」 こうして、僕も帰路に着いた。 僕は僕で、1人になると、やはり、兄の事を考えてしまう。 兄が自殺するには、それ相応の理由が必要なのだ。 そして、警察も言っていたのだが、兄は手帳を使っていたし、タブレットも使っていたしパソコンも達者だったのだが、兄が亡くなった時、ドラム缶に薪をくべ、それら1式を炎の中に投下していた。 これも、とても不審である。 だけど、兄を慕う者は多いが、恨みを持つ者なんて、いるのだろうか? 兄が死んだ時、僕は納得ごいかず、兄の友達を1件1件回って話しを聞いてみたりもしたが、みな、口を揃えて 「いや、俺にも分からないんだ。すまん」と。 しかし、僕の中で1つだけ心に引っ掛かっている事がある。 兄の離婚である。 兄は自殺する数ヶ月前に離婚を経験している。 兄は、離婚の経緯や細かい事は話してくれなかったが、仲が悪くなって離婚したんじゃない。それだけは信じろと言い聞かされていた。 でも、と思い、兄の元のお嫁さんにも会いに行ったが、兄が死んだ事を伝えると泣き崩れて、その場でひたすらに「ごめんなさい!ごめんなさい!」と連呼して、ちょっとしたパニックを起こした。 泣き止む様子もなく、話にはならなくて帰った。 どうしても、三回忌が終わった今日でも、まだ、我々、家族は納得いっていないのだ。 しかし、三回忌が終わり、10日程過ぎた頃、急に兄の元のお嫁さんから電話がきた。 「もしもし、わたし、明菜です。良平さん、少しお話しできますか?」と。 私は、なんだろう?と思いながらも 「もう少ししたら、仕事が終わりますから、それからでもよかったら」と伝えると、明菜さんは 「解りました。そちらの方に出かけますので、駅前のJinと言う喫茶店で」 「解りました。終わり次第向かいますので、暫くお待ちください」と、電話を切り、直ぐ、その手で妻に電話をし、明菜さんが話があると電話を貰ったので会って来ると伝え、電話を切った。 この時、少し頭の片隅で、兄の自殺の原因が少しわかるような気がしていた。 Jin ここは、兄に明菜さんを僕に紹介してくれた時に利用したお店だ。 ドアを開けると、店中に充満したコーヒーの匂いが全身を包む。 独特な、少し焦げたような、それでいて甘い香り。 明菜さんは、入って右側の窓際に座っていた。 入店の時にドアを開けるとチャイムがなるので、明菜さんは僕に気が付いて、手を振っている。 「すいません、ちょっと仕事が手間取ってしまって」実際、コピーの不調で約束してから、2時間近く経っていた。 「うんん、いいの。私こそ、急に呼び出してごめんなさい」 明菜さんは、変わりないようだ。 僕も家庭があるので、早速、ときりだした。 「で、お話っていうのは?」 明菜さんも、ハッとして 「実はね、私と良介さんが別れた理由なんだけど、多分、良ちゃんは聞いてないよね?」冷めたコーヒーをスプーンでまぜながら、少し、言いにくそうだった。 「うん、アニキからは、なにも」 すると、いかにもそうなんだろうなと言うように明菜さんは細かく首を縦にふり 「ごめんなさい、あたし、浮気しちゃったの、ホントごめん」それは、本当に申し訳無さそうに頭を下げた。 「それは、アニキが死んだって知って、僕に話す気になったと言う事ですか?」 明菜さんは、なにも言えずに 「うんうん」と項垂れて首を縦に振った。 そして、直ぐにこうも言った 「でも、でも、信じて!わたし、私、無理矢理だったの!嫌だったの!なのに…ごめんなさい」 コレは、思いも寄らない事だった。 アニキは、それに思い悩んで死ぬような男ではない。 明菜さんに非があるとも思えない。 「無理矢理って、それ、明菜さんだって被害者じゃないですかっ!そんな!アニキなら、ソレを思い悩んで死んだりはしない!明菜さんのせいじゃないんだよ」 ここまで、言っておいて、1つの不安が頭に浮かんだ。 明菜はんを無理矢理、犯した人物だ。 誰なんだろう? 「もしかして、明菜さんのその人って、アニキも知ってる人?」 明菜さんは、頬に涙を零しながらウンウンと頷いた。 これにほ、正直、かなりのショックだった。 アニキと明菜はんの周りで何かが起きていた。 それに僕を初め、母も知らなかった。 ん!? 母は、知らなかったのか? 本当にそうだろうか? 明菜さんを駅まで見送り、僕も家に向かった。 <つづく>
2023/02/24 23:18:14(5C5WdqhL)
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