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1:何気ない日
投稿者:
(無名)
K子は、市内の小さな会社で、派遣社員として事務の仕事をしていた。
朝、出社前に、まだ幼い娘のM美を幼稚園に預け、そのまま会社へと出社し、夕方、仕事が終わると迎えに行き、M美と一緒に帰宅していた。 今までも、安く古いアパートに住んでいたが、派遣先の会社が変わってしまった事もあり、別の安いアパートへ引っ越すことにした。 新しい派遣先の会社の近くには、他にも幾つか安いアパートがあったが、K子はある理由でそのアパートを選んだ。 それは、ある日に出会った男が、隣の部屋に住んでいたからだった。 男は30歳の独身であり、コウスケという名前だった。 コウスケはイケメンでは無いが、真面目で優しく、その雰囲気が亡くなった夫のT男に似ていたのだ。 或る雨の日、K子はコウスケと出会い、T男に似たコウスケに一目惚れしてしまった。 (コウスケさんは、T男とは違うから。) コウスケにアパートの部屋に誘われ、中に入った時、K子はそう自分に言い聞かせていた。 しかし、コウスケの部屋のバスルームでシャワーを浴び、鏡を見た時、気持ちを抑える事ができなくなった。 T男と死別して3年が過ぎており、K子は自分でも気付かないうちに、男を求める気持ちが強くなっていた。 K子は自分からコウスケを誘うと、そのまま体を許した。 しかし、後悔は無かった。 むしろ、誘いに応えてくれたコウスケに、感謝していた。 K子とコウスケは、お互いに惹かれ合い、自然と付き合うようになった。 付き合うと言っても、K子とM美とコウスケの3人で出かける事が殆どであった。 M美の大好きな公園へ出かけたり、児童図書館で一緒に本を読んだり、小さな遊園地へ遊びに行ったりした。 コウスケはそれらを嫌がったりせず、とても楽しそうに付き合ってくれた。 また、M美が寝静まった後には、必ずK子と2人だけの時間を作ってくれて、愛情を深め合う事ができた。 K子は、そんなコウスケを信頼し、いつしか、結婚して欲しいと思うようになっていた。 しかし、それをK子が口にする事は、無かった。 死別したとはいえ、K子はバツ1の子連れであり、未婚のコウスケに、引け目のようなものを感じていた。 そしてコウスケも、結婚したいといった言葉を、口にする事がなかった。 K子は何かと、コウスケの世話をする事があった。 時間に余裕がある時は、コウスケの朝食を用意したり、夕食に誘って3人で食べたり、洗濯や部屋の掃除をしたりした。 また、コウスケの依頼は、どんな事でも断らなかった。 夜、M美が眠りに就くと、コウスケが用意した、極端に生地が少なく、とてもイヤらしい服を着て出かけ、真夜中の公園を、お巡りさんに見つかれば間違いなく逮捕されるであろう姿で、散歩したりした。 いつしか、K子は、コウスケが喜ぶなら、どんな事でもする、都合の良い女になっていた。 (結婚は無理でも、せめて、一緒に暮らしたい。) K子はそう強く願っていたが、何故かコウスケはK子と一緒に暮らそうとはしなかった。 ある日、いつもより早く仕事が終わり、K子はM美を迎えに行くと、そのままアパートの近くのスーパーへ買い物に行った。 そのスーパーの近くで、K子は、コウスケが知らない女と楽しく話しながら、歩いている姿を見かけた。 女はスラリとした体形で、少し長い髪を靡かせ、クリっとした大きな目をしていた。 「あっ、おじちゃんだ。」 M美はコウスケを見つけると、嬉しそうに言った。 その顔は、また一緒にコウスケに遊んで欲しいと、訴えていた。 「M美、おじちゃん今日は忙しいみたいだから、また、今度一緒に遊んで貰おうね。」 K子は、少し悲しい顔で、M美を見ながら言った。 「うん。」 M美は、嬉しそうに返事をした。 その日から、あの女と楽しそうに話していたコウスケの姿が、K子の頭から離れなくなってしまった。 (あの女、誰かしら。 コウスケとあんなに親しく、楽しそうに話してたなんて。。。 コウスケの恋人、かしら。) そう思うと、胸がギュっと苦しくなり、とても不安になった。 そして、ある雨の日、傘を忘れたK子が、M美と手を繋ぎ、小走りにアパートまで帰ってくると、コウスケの部屋から、あの女が傘を持って出て来た。 その姿を見た時、雨の中、K子は立ち止まった。 「それじゃ、借りて行くわね。」 女が言った。 「ああ、気をつけてな。」 コウスケが片手を上げながら、笑顔で言った。 「ありがとう、また来るわね。」 女はそう言うと、アパートから出て行った。 K子は部屋に入ると、M美の濡れた体をタオルで拭き、新しい服に着替えさせた。 「あーあ、お母さん、もう、疲れたな。」 K子がそう言うと、 「じゃあ、おじちゃんに、よしよし して貰おう。」 M美が笑顔で、K子に言った。 「えっ、どうして?」 「だって、お母さん、おじちゃんに、よしよし して貰うと、とても嬉しそうに笑うんだもの。」 M美がとても嬉しそうに、言った。 K子はM美をギュっと抱きしめると、大粒の涙を流した。 次の日、K子がM美を連れて部屋に帰ってくると、それを待ちかねていたかのように、コウスケが部屋に入って来た。 「K子、ちょっとぼくの部屋まで来てくれるかな?」 コウスケがK子を見ながら言った。 「えっ、でも。。。」 「M美ちゃんも、一緒に来てくれるかな?」 「うん、良いよ。」 M美はとても嬉しそうに言うと、コウスケに駆け寄り、コウスケの手を握った。 「さあ、K子さんも。」 そう言うと、M美の手を握ったまま、コウスケはK子に手を出した。 「うっ、うん。」 そして、力なく返事をしたK子の手を、ギュっと握った。 コウスケの部屋に入ると、入口に女物の靴があった。 部屋の中に、あの女が居た。 「それじゃ、K子はそこに座って。 M美ちゃんは、お母さんの隣に座るんだよ。」 コウスケは赤い顔をしてそう言うと、K子とM美を台所のテーブルの椅子に座らせた。 K子とM美が座るとその前に、コウスケと女が並んで座った。 「えっと、それじゃ、まず紹介するね。 こっちは、ぼくの姉のナルミです。」 「えっ?」 それを聞いて、今まで少し俯いていたK子は顔を上げると、驚いてナルミの顔を見た。 「姉ちゃん、こっちがK子さんで、その隣が娘のM美ちゃん。」 コウスケが、赤い顔をして、ナルミを見ながら言った。 すると、 「はい、M美です。 よろしくね。」 と、元気よくM美が言った。 それを聞いて、コウスケとナルミが、笑い出した。 「ナルミです。 よろしくお願いします。」 ナルミが、笑顔でK子と、M美を見ながら言った。 「お姉さんなの?」 K子が、コウスケを見ながら聞いた。 「ああ。 K子より、3つも年上だけど。」 コウスケが嬉しそうに、K子を見ながら言った。 「ちょっと、『3つも』って何よ、『も』って。 たったの3つでしょ。 それより、ほら、早く。」 ナルミが、少しコウスケを睨みながら言った。 「うっ、うん。」 コウスケは返事をすると、背筋を伸ばし、緊張した顔で言った。 「K子、ぼくと結婚して下さい。」 コウスケはそう言うと真っ赤な顔をして、頭を下げた。 しかし、K子の返事は無かった。 K子は俯き、大粒の涙を流して、泣いていた。 そのK子を見て、コウスケは、どうすれば良いか解らず、オロオロしていた。 すると、 「おじちゃん、お母さんを、よしよし して。 そしたら、お母さん、笑顔になるんだ。」 M美が、笑顔でコウスケを見ながら言った。 コウスケは立ち上がると、K子に近づき、優しく背中を摩った。 しばらくして、K子は涙を拭いながら、顔を上げた。 そして、笑顔でコウスケに言った。 「わたしで、良かったら。。。 お願いします。」 コウスケは、ギュっとK子を抱きしめた。 「ほらね、言った通りでしょ。」 M美は、その2人を見て、得意そうに言った。 K子とコウスケは結婚し、コウスケの部屋で3人一緒に生活を始めた。 真夜中の公園の散歩は無くなったが、K子は時々、コウスケの好きな、とてもイヤらしい服を着せられたりした。 しかし、K子にとって、それはとても嬉しい事だった。 1年後、コウスケが 「折角、いろいろ集めたコスチュームが、しばらく着せられないな。」 と、K子のお腹を摩りながら言った。 「ええ、そうね。 コウスケの大好きな、イヤらしい服が着られないけど、着られるようになったら、また着せてね。」 そう言うと、K子はコウスケに抱き付き、深くキスをした。
2022/03/05 21:03:32(m3x81Its)
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