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淫獣達の艶かしき戯れ34
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:淫獣達の艶かしき戯れ34
投稿者: 彩未 ◆sPqX4xP/g6
徹と加奈子の娘や息子は、既にこの世の人ではなかった。
徹と加奈子も幸せの交わりの中で死んだ。
互いに肉親の死を知らずに世を去っていた。

人はいつか死ぬ。
事故死か病死か衰弱死かのいずれかを死因として。
自ら命を断つ者以外は死因を選べないが、いずれにせよ、人はいつかは死ぬ。
人生が長いか短いか、それは大した問題ではない。
宇宙の137億年の歴史から見れば、とるに足らない些事だ。
要は、生きている間にどれだけ本人が充実した生活を送れたかだ。
ここでいう、充実した生活とは……?
人に限らず、生命あるものは全て快楽原理によって動く。
人も例外ではない。
生きている限り、苦痛を回避し、快楽を求める。
そのために環境を変え、環境に順応する。
ある者が勉強し続けるのは、勉強という肉体的苦痛の先に名門大学合格という名誉や栄えある将来という精神的快楽を目指すからだ。
ある者が練習し続けるのは、練習という肉体的苦痛の先に大会での優勝という名誉や自身の肉体美や高度な芸能を称賛されるという精神的快楽を求めるからだ。
ある者が犯罪に手を染めないのは、警察に逮捕されて投獄されるという精神的苦痛を避けたいからだ。
ある者が溺れるわが子を助けるために海に飛び込むのは、わが子を失うという精神的苦痛を避けたいからだ。
犯罪に手を染めない理由が個人の正義感や倫理感に基づくものだとしても、それはその者がそのような精神的快楽を求めるからだと言える。
わが子を助ける理由がその子を可哀そうだ感じる心に基づくものだとしても、それはその者がそのような精神的快楽を求めるからだと言える。
そして精神的苦痛や精神的快楽の根底には肉体的快楽や肉体的苦痛がある。
全生物の中で最も高尚に精神を発達させたのが人類だ。
が、その高尚な精神も生物としての肉体的感覚には及ばない。
例えば、精神的苦痛と肉体的苦痛のいずれが耐え難いか。
強い正義感や倫理観をもつ者が、肉体的な拷問に掛けられ耐え難い肉体的苦痛を加えられる中でもその正義感や倫理観を貫けるか。
戦時中の思想犯に見られる正義感と彼らに加えられた拷問とを見よ。
多くの人間は正義感や倫理観の放棄という精神的苦痛よりもまず肉体的苦痛を回避する方を選ぶ。
また、例えば精神的快楽と肉体的快楽のいずれを強く求めるか。
高い社会的立場にあって高度な学問や倫理観を振り翳す者でも、美人局の被害を受け不倫に走っている様を見よ。
多くの人間は高尚な精神の保持という精神的快楽よりも肉体的快楽の方を求める。
人も全生物の中の一種に過ぎない。
人も本能では快楽原理に逆らえない。
高い社会的地位にある者や正義を守る筈の警察官や聖職者である筈の教員による淫行や痴漢が耐えないのもこの原理による。
「満足した豚よりは不満足な人間の方がよい、満足した馬鹿より不満足なソクラテスである方がよい」
という高尚な精神の保持を説いたJ.S.ミルの言葉は、多くの者にとっては「絵に描いた餅」だ。
淫行や痴漢は犯罪だ。
多くの者が実行に移す前に思い留まる。
が、これも快楽原理に従っている。
警察に逮捕され投獄される肉体的苦痛を回避しているのだ。
徹と加奈子、茜と純は、各々、好きなだけ快楽原理に従って生きた。
本人達にとって、これが充実した生活なのだった。
平均寿命からみれば4人の生涯は短かったかも知れない。
が、平均寿命など、個々の生涯にとっては何の意味ももたない。
4人は互いに家族の死を知らずに世を去った。
ある意味ではこれも4人にとって幸福な事態だった。
誰かが死ぬとその家族には精神的肉体的苦痛が生じる。
が、彼らの場合は各々、誰をも悲しませることなく世を去った。
長期的な精神的肉体的苦痛を味わうことなく急逝したのだった。
学生時にスタバで出逢って以降、性愛の快楽に溺れ続けた徹と加奈子の生涯は終焉した。
淫獣達の艶かしき戯れは終わりを告げたのだった。

(完)

 
2021/03/21 22:20:17(11BFyhtq)
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