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1:夜にとけながら夢を見る
投稿者:
はるまき
ジブリ作品をちょこっとイメージした短編集です。
H要素少なめですけど、良かったらのぞいていってください(*^^) case1『魔女の宅急便』×明里 この作品を初めて見たとき、私の胸は大きく高鳴った。 女の子が箒に乗って飛んでいる。 なんて素敵なんだろうか! 次の日から私は家の箒にまたがり、庭のすみっこで何度もジャンプをしていた。 風が強い日には公園に行き、全速力で坂をかけおりた。 あの子がいたら飛べるはず、と黒猫を探し回ったこともあった。 そして私は一度も飛べることなく、しゃべる黒猫にも出会えないまま、大人になっていった。 ******** 「でさぁ、また取引先に色目使ってんの!」 「まじでぇ?あの人もう30も過ぎてんでしょ?大概イタイよね(笑)」 「何で男もひっかかるかなぁ?すぐヤラせてくれるけど、飽きたらポイ捨てするって噂だよ~」 「こわっ!もう魔女じゃん(笑)」 給湯室で20代の後輩たちが、私の悪口を言っている。 彼女たちの中では私は魔女みたいな女で、男を次から次へとたぶらかしているらしい。 「はぁ……」 冗談じゃない。 コンコンッ 「三田さんたち、休憩終わってるよ。もうすぐお客様いらっしゃるから、準備お願いね」 「あ~ごめんなさぁい」 「でもぉ、お客様のお相手は私たちよりも明里さんがした方が評判良いんですよ。やっぱ美人だからぁ(笑)」 可愛い笑顔のマスクをつけて、若い彼女たちはクスクスと給湯室を出ていく。 「ふぅ…傷つくなぁ…」 見た目だけは一人前に大人になっているが、私の心はまだまだ少女のままなのだ。 悪口を言われたら悲しいし、誤解されたらもどかしい。 たぶらかすどころか、好きになった人にはなかなか声もかけられないのに。 「おーい、誰かこれ営業1課に届けてきてくれない?」 部長の呼び掛けに誰も応えず、用事もないのにパソコンを開いている。 「…部長、私行ってまいります」 「あ~吉野くん助かるよ。いつも雑用までしてもらってありがとうね」 「いいえ、これくらい」 書類と分厚いファイルを受け取り部屋を出る。 「ぷっ出たよ(笑)」 「点数稼ぎ~」 耳を貸しちゃいけない。 胸がギュッとなるのを堪えながら、足早にエレベータに向かう。 廊下の窓には真っ青な空。 あの女の子のように、箒に乗ってずっと向こうまで飛んでいきたい。 「あの~すみません、お預かりしてた書類とファイルを持ってまいりました」 声をかけると、近くに座っていた男性が勢いよく立ち上がり駆け寄ってくる。 「吉野さん!これは…重いのに申し訳ないです」 「いいえ、よろしくお願いいたします。それでは」 「あっ、あの…えと、こないだのことですけど…俺、やっぱ…」 「仕事中なので。失礼します」 軽く会釈をして部屋を出る時、ちらりと彼に目をやる。 そんな哀しそうな顔をしないで。 彼、営業1課の橋元くんは、人当たりもよく仕事も真面目で女性たちにとても人気がある。 橋元くんによく話しかけられるようになったのは3ヶ月前の部署合同飲み会の後からだ。 何故か好意を持たれたようで、連絡先を聞かれたり食事に誘われた。 可愛い顔のハイエナたちがそれに気付かないわけもなく、あっという間に「みんなの人気者をたぶらかした女」というレッテルが貼られ、私は露骨に煙たがれるようになった。 そんな状況の中で、先週末橋元くんは私に告白をしてきた。 私は慌ててお断りし、走って逃げ出してしまったのだ。 怖かった。 誰にも見られていませんように。 誰にも聞かれていませんように。 どうせ飛んで逃げることはできなのだから、これ以上私の居場所を奪わないで。 ******** ザーーーッ 「やだぁ~雨すごい」 「早く帰ろ」 「あ、ファイル整理がまだ…」 「じゃあお先でーす」 私の声は雨音に溶けるように消えていき、彼女たちは可愛い色の傘をそれぞれ手にして出ていった。 「じゃあ…俺たちもそろそろ帰るけど、大丈夫?」 「はい、あとはやっておきます」 「…吉野さん、真面目でよくやってくれるから助かるけど、若い連中も育ててあげてね。いつまで経っても学生気分のやつもいるからなぁ(笑)」 「吉野さんも仕事多くなって大変でしょ?じゃあお疲れ~」 「はい、お疲れさまでした」 ひとりになったオフィスは静かで冷たい。 こんな無機質な場所だっけなぁ。 「育てるたって…こっちが教えても無視するんだってば…」 ボソッと呟くと、無性に悲しくなってくる。 いつの間にか時計は20時をまわり、雨は止むことなく降り続ける。 窓にぶつかる強い雨を見ながら、このまま会社も何もかも全部流されれば良いのに、とぼんやり考える。 コンコンッ 「あの~まだ残って…あ…吉野さん?」 「あ、橋元くん…」 「あの、警報出たの聞いてないんですか?電車止まってるみたいですよ。警備が早く帰れって…」 「あ、そうなんだ。えっと…まだファイル整理が…」 「えっ!この量をひとりでですか!?他の人は…」 黙って俯くしかできない自分が情けない。 「…もしかして、俺のせいですか?俺が吉野さんにいろいろ言ったから吉野さんに迷惑が…」 「や、やだなぁ、違うから。私、後輩の指導が下手だから…」 うん、本当のことだもの。 嫌われたくないから強く言えなくて、すぐ舐められて、些細なことで結局嫌われた。 「これ、今日中ですか?」 「あ、いや…週明けでもなんとか…」 「じゃあ今日のところは帰りましょう。雨、どんどんひどくなってるし。下にタクシー呼んでるんで」 彼に半ば強引に帰り支度をさせられ、一緒に職場を出る。 雨風は強く、タクシーに乗り込むだけでも濡れてしまう。 「あの…飲み会の時聞きましたけど、吉野さんちって遠いんですよね? えっと、もし良かったら…その」 あ、この人も私のことを「すぐヤラせる」女と思っているのか。 自分の体が冷たくなっていく感じがした。 「あの私」 「あの!良かったら…ご飯でも、食べませんか!?」 「え…」 「べ、別にうちに来て欲しいとか…失礼なことお願いするつもりないです! えっと…あーファミレスでも良いです! しばらくしたら雨も落ち着くかもしれないし… と、とにかく…俺、吉野さんともっと話したいていうか」 暗がりで分かりにくいが、橋元くんの顔は真っ赤になっている。 「ゴホンッ…あーお兄ちゃんたち、どこのファミレスにする?」 タクシーのおじさんが目を細めて嬉しそうに聞いてくる。 「あっ!と、とりあえず…駅前のサイゼリアまで…」 「はいはい」 川のようになりかけている水溜まりの上を、タクシーは走り出す。 「はい」とも「いいえ」とも言えないままで、私は橋元くんと同じように窓の外の雨を見つめていた。 つづく
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2018/01/23 16:04:09(6W9CyKbg)
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