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1:谷町X丁目の夜
投稿者:
匂男
◆AU/OjWxByc
それはまだ、春とは呼ぶにはまだ肌寒い3月初頭のことだった。
時刻は23時を過ぎている。 仕事絡みの所用で、かなり遅くなってしまった。 取引先の担当者と別れ、突き刺すような冷たい風の中、僕は薄暗い裏道を駅へと急いだ。 人通りのほとんどない夜道。 歩いているのは、前を歩く女性と僕だけだった。 丈の短い黒色のコートから伸びた細い脚。 そして、ボンテージをイメージさせるような、膝上丈のロングブーツ。 この寒空に生脚か?。 白く透き通った絶対領域が眩しい。 あんな脚に挟まれたい… アホなことを考えていると、いつの間にか、前を歩く彼女と歩調が合ってしまっていた。。。 人通りがほとんどない裏通りである。 僕の気配がやはり気になるのか、何度と振り返る彼女。 ん?。似ている。。。 見覚えのある横顔に、思わず声をあげそうになった。 しかし…。 僕の知っている彼女が、こんな時間にこんなところを歩いているはずがない…。 …はず。 大阪市内某所、谷町X丁目。 ここは大きな幹線道路が交差する賑やかな街ではあるが、 表通りから一本中に入ると、数多くの寺院や墓地が立ち並び、古い町並みの顔をも持ち合わせている。 それと、もうひとつの顔。それは、市内でも屈指の風俗街であることだ。。。 しかも。 僕のごく浅い知識では…、 このあたりの風俗店は、熟女系やSM系など、マニア向けの店がほとんどなのだ。 …らしい。 彼女は大学生で、昨年の夏まで僕のいる会社にバイトとして来てくれていた。 色白で綺麗な顔立ち。 どちらかと言えば、少しおっとりしており、清楚なお嬢様を絵に描いたようなタイプだった。 そんな彼女が、この時間にここを歩いているなんて…。 まさか風俗店で働いているのか? 不安なのか期待なのか。 胸を締め付けられそうな不思議な鼓動が僕を襲う。 確かめたい。。。 やがて大きな通りに出た。 コンビニに入っていく彼女。 コンビニの前にさしかかると、ウィンドウ越しに雑誌を探している彼女がいた。 間違いない。 彼女だった。 にしてもどうだ。 派手な化粧に金色に近いウィッグ。 これは間違いない。 クロだ。 一体、どうして。。。 何があった? 借金か? 聞いたところでどうなるものでもない、かも知れない。 そっと通り過ぎるのが、大人の振る舞いなのか…。 正直…。 どこの店か。。。 それが知りたい。。。 人妻系や熟女系ではなかろう。 やはり…、M女か? まさかの女王様もあり得る。。。 誘われたら客として行けるのか? 僕のドMな醜態をさらけ出せるのか? い、いくらなんだ? オプションプレイはどんな… 僕の思考回路は、既にエロモード暴走中であった。 ふと、ウィンドウの向こうで僕に手を振る彼女に気付いた。 変わることのない人懐っこい笑顔。 少し安堵を覚えた。 店から出てこようとしている彼女。 いったい何から話せば…。 『お久しぶりです!。今、帰りですか?』 と屈託のない笑顔。 近くで打ち合わせがあり、今から帰ることを伝えると、 『ホントですかぁ?。何かウソっぽいぃ。ヘンなお店行ってたんやないんですかぁ?』 小悪魔のような笑みを浮かべる彼女。 その目は完全に疑っている。 化粧のせいなのか、 小悪魔の笑みに、なのか。 上目遣いで覗き込まれ 風俗帰りたが、仕事だったと嘘をついている錯覚に陥るほど動揺した。 白く細い指と赤いグロスをひいた唇。 (この指と唇で…?) 鼓動が高まる。 まずい…、ドM覚醒モードに突入しそうだ。 『誰にも言いませんよ(笑)。よくこのへんに来るんですか?』 完全に風俗帰りだと思い込んでいる。。。 『だから、仕事だって…。』 『はいはい。そーゆーことにしときます(笑)。』 少したわいもない話をしたあと、やはり気になるあのことを切り出してみた。 『で、いつもこんなに遅いの?。バイトか何か?』 もしそうだったとしても、正直には答えないだろう。 やはり聞かない方が良かったのではないか。。。 己の私欲や好奇のために、彼女を傷付けてしまうことになるのでは。。。 少し後悔した。 『あっ。週2日だけバイトしてるんです。』 週2。。。 レギュラー(本職)ではないということか。 『ナニ系のお店?』 し、しまった。。。 思わず、ナニ系と聞いてしまった。 『めちゃわかりやすいですね(笑)。一度、お店に来てくださいよぉ。サービスしますよ。』 僕の頭の中を全て見透かしたかのように、小悪魔がまた笑みを浮かべた。 谷町X丁目。。。 これからこの街で、新たなストーリーが展開するのだろうか。 満月か輝く、 まだ春の遠い夜のとこだった。 ~エピローグ~ 『★★さんって、すぐ顔にでますよね(笑)』 もう3、4回同じセリフを聞いている。 『だから、オジサンやけどピュアなのっ』 翌週、僕は彼女が働いている店にいた。 『絶対、エッチな店でバイトしてると思ってましたよね(笑)。』 『もう言わんでよろしいっ!』 屈託のない笑顔。 彼女が風俗嬢だなんて思ってしまった自分が恥ずかしい。 Tシャツの袖を捲り上げ、活き活きと接客をこなしている。 炭火に燻された焼き鳥の煙が、目とココロに沁みた。
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2019/07/17 13:42:57(xMmEFXrm)
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